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KDDIが法人事業戦略を説明、モバイルやIoTを含めた顧客接点の多さ、一気通貫でのDX支援などを強みに成長を目指す
2023年9月6日 06:15
KDDI株式会社は5日、法人事業戦略について説明。中でも、NEXTコア事業が前年比20%以上の成長を遂げていることを示しながら、「KDDIの法人事業は、NEXTコア事業をベースに成長している。モバイルやIoTを含めた顧客接点の多さと、企業のDXを一気通貫で支援できる点、モバイルのサービスモデルをアドオンできる点が、他社にはない強みである。顧客のビジネスを支えるデータセンターや、企業を支援するコールセンタービジネスも拡大していく」(KDDI 取締役 執行役員専務 ソリューション事業本部長兼グループ戦略本部長の桑原康明氏)との考えを明らかにした。
KDDIの法人事業は、5Gを中心した各種通信サービスで構成する「コア事業」と、コーポレートDXやビジネスDX、事業基盤サービスによる「NEXTコア事業」を両輪に事業を展開している。
「法人事業全体が増収増益を維持しながら、NEXTコア事業の構成比が年率2~3%で増加し、現在、38%の構成比を占めるようになった。一方で、コア事業は62%の構成比となっている」とし、「非デジタルのデジタル化、IoTデータの活用(+IoT)、データとデータを掛け合わせた企業間データの融合(データ×データ)の3つのフェーズで提案を進めており、今後も、これらの取り組みを加速することになる。KDDIは、お客さまのデータドリブン経営を支援し、DXを加速していくためのソリューションやプラットフォームを提供していく」などと述べた。
また新たな取り組みとして、2024年春を目標に、法人向け「次世代プラットフォーム」を提供する考えを明らかにした。
業界ごとに異なるデジタルプラットフォームが構築される一方で、ネットワークやクラウド、生成AI、認証機能といった協調領域については、個社が投資するのではなく、サービスとして共通に利用できるプラットフォームを提案することで、企業は事業活動のスピード向上とコスト削減を行え、競争部分に投資を集中できるようになるとする。
「次世代プラットフォームは、さまざまなベンダーと連携したり、生成AIを活用したりといったことで、業界ごとの共通領域機能を提供していきたい」と述べた。
法人事業で取り組む3つのフェーズ
説明では、法人事業で取り組む3つのフェーズに時間を割いた。
ひとつめの「非デジタルのデジタル化」では、特に、音声データのデジタル化が進んでいないことを指摘。「ここでは、コンタクトセンターのデジタル化が重要になる。アナログ化している顧客接点をデジタル化し、AIの活用も進めていきたい」と述べる。
2023年9月1日に設立したアルティウスリンクは、KDDIエボルバと、三井物産グループのりらいあコミュニケーションズが経営統合した企業で、6万人のオペレーターが、年間5億コールに対応している。「ここに蓄積した応対音声データをデジタル化して分析を行い、CXの向上につなげていく」と、一例を挙げた。
2つめの「+IoT」では、多くの企業にとって、自社のサービスにIoTを組み込むことが重要であり、これにより、状態を監視し、迅速な対応やサービスの高度化ができ、CXの向上につなげられる点を指摘。LPガス会社である東洋計器では、家庭に設置するIoTを活用したスマートメーターと、気象データおよび交通データなどを組み合わせるとともに、これをAIで分析。LPガスを、最適なタイミングで、最適な配送ルートで届けることができるようになったという。
また、コネクテッドカーでの採用が相次いでいることについても触れ、「KDDIでは、IoT回線の約半分となる2000万回線が海外であり、その多くがコネクテッドカーによるものとなっている。トヨタやマツダ、スバルといった日本の自動車メーカーだけでなく、海外自動車メーカーに対しても採用を働きかけており、2023年6月には、海外第1号メーカーとしてBMWの採用が決定した。KDDIのグローバル通信プラットフォームが、データ量の拡大に対応できる基盤として評価されたと考えている。その後、欧州の自動車メーカーからの問い合わせも増加している。さらに、マリンスポーツやホームセキュリティ、介護ベッド、スマートメーターなどへのIoTの活用が促進されている」と語った。
3つめの「データ×データ」においては、自社データと他社データとの掛け合わせが重要になることを指摘。デジタルツインの活用が、社会や企業の課題解決につながることを示した。
「auが持つ位置情報や決済情報などの各種データを統計データとして提供し、データ同士を掛け合わせたプロジェクトが複数走っている。また、デジタルツインは、これからが本番だが、すでに事例が出ている。例えば、JR東日本とは、TAKANAWA GATEWAY CITYにおけるデジタルツインの取り組みを通じて、電車の混雑状況の把握や商業施設への送客、ロボットを活用した各種サービスなどを提供。顧客に対する価値を高めている」と述べた。
また、デジタルツインの推進に関して、2023年4月に発表したフライウィールとの協業についても説明。同社のConataを活用し、企業が持つデータとauビッグデータの連携を行い、短時間で何度も高速にシミュレーションを実施したり、デジタルツインの高度化により、ビジネスモデルの変革を支援したりしていることを示した。
フライウィールの横山直人社長は、「日本では、データを活用して、十分な成果を得ている企業は2.2%にすぎない。フライウィールは、データを使うことで、企業のビジネス目標を最速に達成することに貢献したいと考えている。データ活用プラットフォームであるConataにより、データで組織をつなぎ、安心、安全に、データを活用する環境を実現していく」と語った。
日本生活協同組合連合会(コープ)では、Conataを導入してデジタルツインを実現。デジタルツインでの予測をもとにして、カタログやチラシの配布部数を半減しながら売り上げを維持できたという。また、蔦屋書店などを運営しているカルチュア・コンビニエンス・クラブでは、7000万人の会員、800店舗の売り場、450万冊の書籍タイトルで構成するビッグデータをオントロジー化し、デジタル空間に再現。それをもとに、需要予測とAI選書による自動発注により、実売率を20ポイント向上させたとした。
さらに、KDDI 物流センターでは、倉庫価値の可視化や分析から、データドリブンによる成果達成や安定運用を行う最適化システムを構築。ファクトベースのデータをもとに、倉庫への投資を検証することができているという。
生成AIへの取り組み
KDDIが取り組んでいる生成AIについても言及した。
KDDI社内では、2023年5月24日から「KDDI AI Chat」を利用。ルータのスクリプト作成では、7.5時間かかっていたものが、2時間に短縮した例が出ているという。
KDDI ソリューション事業本部ソリューション推進本部ソリューション企画部長の宇佐美竜吾氏は、「5月時点での社内利用率は20~30%であったが、7月以降は50%以上に高まった。まずは、使うこと、慣れることが大切である」と述べた。
今後は、社内ユースケースを検証し、この成果をもとに、KDDIサービスに生成AIをアドオンする計画だ。
「KDDIは、お客さまに対する生成AIの導入支援をしっかりとやっていく考えである。そのためには、さまざまな生成AIを提供することが大切であり、9月1日に発表したAmazon Bedrockの提供に続き、9月5日には、新たにMicrosoft Azure OpenAI Serviceも提供することを発表した。今後、Google Cloud Vertex AIの活用も支援したい」(KDDIの桑原取締役執行役員専務)と語った。
積極的に業務提携や出資を進める
一方で、法人事業においては、積極的な業務提携や出資を進めていることを強調。2023年度においては、すでに2000億円の投資を実施したという。ここでは、インターネットイニシアティブ(IIJ)との資本業務提携、カナダのデータセンター事業拡大に向けた事業譲渡契約を締結したほか、アルティウスリンクを9月1日に発足したことなどに触れた。
さらに、データセンターにおいては、コンテンツプロバイダーやクラウド事業者や通信事業者などと接続するコネクティビティDCを拡大。英ロンドンおよび仏パリへの設置に続き、2023年5月にはタイ・バンコクに設置して、AWSとの接続を開始した。2023年6月には、カナダ・トロントでコネクティビティDCの買収を行い、KDDI Canadaを設立して、北米での事業展開を加速する体制を整えた。「コネクティビティDCは、欧州、アジア、北米の3極体制で強化していくことになる」という。
なお2023年10月31日から、企業のカーボンニュートラル実現をワンストップで支援する「KDDI Green Digital Solution」を提供することも発表した。
アスエネが提供するCO2見える化、削減、報告クラウドサービス「アスエネ」のほか、KPMGコンサルティングとグロービングとの連携により、顧客ニーズに合わせたコンサルティングを提供。「大量のデータ活用が始まると、それに伴って、大量の電力を使用することになる。KDDI Green Digital Solutionは、CO2排出量の可視化から削減までを実現するソリューションであり、KDDIのサービスを利用することで、お客さまのカーボンニュートラルを支援できる」と位置づけた。
法人事業を取り巻く状況を説明
このほか、KDDIの桑原取締役 執行役員専務は、同社の法人事業を取り巻く状況についても触れた。「すべてに通信が溶け込むのが、超デジタル社会であり、さまざまな顧客接点からあらゆるデータが生まれ続ける世界がやってくる。一方で、DXの動きは、デジタル化をする段階から、データを使ってデジタルビジネスをやる時代に入ろうとしているが、DXの取り組みを進めている企業は半分にとどまり、日本は遅れている面がある。KDDIは、お客さまが、非デジタルをデジタル化し、データを活用していくことをDXととらえている。日本では2024年問題などの社会課題が深刻化しているが、ここに対する打ち手としてもDXは有効である。KDDIは、各種ソリューションの提供により、企業のデータドリブン経営やビジネスモデル変革へのシフトを支援していくことになる」との基本姿勢を示した。
KDDIの法人事業の強みは、3000万回線のモバイルID、40万社の法人顧客基盤、世界7カ国、4000万回線のIoTによる顧客接点にあるとする。
「これらは、データの入出力の起点になる。また、DX戦略の策定から、システム構築やサービスの提供、運用までを一気通貫でカバーし、通信事業で培ってきた月額サービスモデルを活用できる。さらに、データの収集、蓄積、分析および価値創造、活用までをグループ会社で対応できる点も強みになる。必要な機能はそろっている。今後は、社内体制の強化、人材のDXスキルの向上に力を注ぐ」と語った。