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AWSはこれからも先駆者を目指す――、re:Invent 2021で多くの新サービスを発表
プライベート5Gやデジタルツインの構築サービス、専門知識不要の機械学習サービスなど
2021年12月2日 06:15
11月29日(米国時間)、米Amazon Web Services(AWS)のグローバルカンファレンス「AWS re:Invent」が開幕した。10回目となる今年のAWS re:Inventは12月3日までの会期で、米国ラスベガスでのリアル開催とともにオンラインでも開催されており、会場参加は有料、オンライン参加は無料というハイブリッド形式となった。
会期中には、新たにCEOに就任したアダム・セリプスキー(Adam Selipsky)氏のものをはじめとした5つの基調講演、22のリーダーシップセッション、各種ブレークアウトセッションなどが行われているほか、データベースや機械学習、ネットワーク教育などソリューション別の日本語セッションや、日本のエバンジェリストが解説するDaily re:Capセッションなども用意されており、AWSの最新情報が入手できる。
最も幅広く、最も深いサービスと機能を提供するための革新を続けていく
日本時間の12月1日に行われた、AWS セリプスキーCEOの基調講演では、冒頭に「re:Inventの10周年、AWSの15周年の節目にここに戻ってくることができ、とてもうれしい。どこから参加しているのかは問わない。数千人がライブ会場に集まり、数十万人がバーチャルで参加している。re:Inventは学びのイベントである。参加者にフルスロットルの体験を提供し、グローバルコミュニティのすべてにつながることに最善を尽くす」と切り出した。
節目のイベントとなったことを象徴するように、セリプスキーCEOが登壇する前には、AWSやre:Inventの歴史に関する映像が流れ、登壇したセリプスキーCEOは、「AWSは15年間の長い道のりを歩んできた。当時は、クラウドコンピューティングという概念がほとんど存在しなかった。コストもかかり、時間もかかり、遅く、柔軟性もなく、イノベーションを阻害する旧来のベンダーに支配されていたが、もっと良い道があるはずだと考えていた」と前置き。
「2006年に、最初のサービスとなるAmazon S3を、1GBあたり15セントの従量課金制で開始し、本格的なスタートを切った。これにより、開発者は高価なデータストレージシステムを自前で構築する必要がなくなった。その数カ月後には、Amazon EC2が登場し、ストレージ、コンピュート、データベースのすべてがクラウドで利用できるようになった」と振り返る。
また、「当時、AWSやクラウドを説明すると、多くの人が困惑していた。本を売ることと何の関係があるのかと何度も聞かれた。だが、本を売るために使っている技術が、AWSを構築し、世の中を動かした。クラウドは本物ではない、絶対に普及しないという指摘があり、スタートアップ企業だけのものだとも言われた。次に、企業が本格的にクラウドを使い始めると、ミッションクリティカルなワークロードには向かないと言われた」と、当初はクラウドが否定的にとらえられていたことを指摘。
その上で、「これらの言葉は、すべてが間違っていた。S3では、現在1100兆個以上のオブジェクトが格納され、EC2では毎日6000万件以上の新しいインスタンスが生成され、コンピュート、ストレージ、データベース、機械学習、アナリティクス、AIなど、200以上のサービスを提供している。そして数百万の人たちが、AWSでミッションクリティカルなアプリケーションを実行している。また、10万社以上のパートナーがある。今後も、最も幅広く、最も深いサービスと機能を提供するための革新を続けていく」と述べた。
ここでは、NTTドコモが、数PB規模の巨大なデータウェアハウスをAmazon Redshift上に構築し、分析に活用。オンプレミスに比べて、10倍の高速化を実現したことを紹介した。
またNASDAQが、長年に渡りAWSを活用してきた実績に触れながら、AWS Outpostsを活用してローカルゾーンを構築し、超低遅延の金融サービスを提供すること、AWSを活用して、100%クラウド化された最初の金融市場のソリューションプロバイダーになる方針などが示された。
その一方で、「クラウドは、まだ始まったばかりであり、今後数年間で多くのワークロードがクラウドに移行していくことになる。これは大きなチャンスである。AWSでは、これまで以上に機能を構築し、5GやIoTなどによって、エッジを新たな場所へと押し広げていく。また、データ分析と機械学習のシームレスな統合も目指したい」などとした。
独自プロセッサGraviton 3と、それを利用した新EC2インスタンス
毎年、数多くの新サービスが発表されるAWS re:Inventであるが、今年も数多くの新サービスが発表された。
セリプスキーCEOが最初に触れたのがGraviton 3である。
Amazon EC2では、現在、475種類以上のインスタンスタイプを用意していることを示しながら、「あらゆるワークロードに対して、価格性能を向上させるためにGravitonをリリースした。これをさらに進化させるのがGraviton 3だ。次世代のArmチップであり、Graviton 2の一般的なワークロードに比べて平均25%の高速化を実現し、暗号化ワークロードでは2倍、機械学習のワークロードでは3倍の浮動小数点演算性能を発揮する。さらに、同等の性能を持つインスタンスに比べて、最大60%の電力消費量で動作する」と述べた。
Graviton 3を採用したAmazon EC2 C7gインスタンスを新たに発表。HPCやゲーム、ビデオエンコーディング、CPUベースの機械学習推論などのワークロードに対して、EC2において最高の価格性能を発揮するという。また、AWS Trainiumを採用したAmazon EC2インスタンスとして、Amazon EC2 Trn1インスタンスを発表。「画像認識や自然言語処理、不正検知、予測といったアプリケーションにおける機械学習モデルのトレーニングに使用できる」とした。
さらに、SAPと共同で、SAP HANAクラウドに、AWSのGravitonプロセッサを搭載する取り組みを行っていることも明らかにされた。
メインフレームのワークロードの移行、モダナイズ、実行を迅速化
続いて発表したのが、メインフレームのワークロードの移行、モダナイズ、実行を迅速化するサービスであるAWS Mainframe Modernizationだ。
「メインフレームから脱却し、クラウドの俊敏性と弾力性を手に入れるために、リフト&シフト方式でアプリケーションを移行したり、リファクタリングしてアプリケーションをクラウド上のマイクロサービスに分解したり、といった取り組みが行われているが、どちらの方法でも、移行には数カ月から数年かかる。AWS Mainframe Modernizationでは、開発、テスト、デプロイメントツールの完全なセットと、メインフレーム互換のランタイム環境を使用して、メインフレームのワークロードを、クラウドに移行するのにかかる時間を3分の2にまで短縮できる」とした。
AWS Mainframe Modernizationにおいては、Amazon EC2やコンテナ、AWS Lambdaでの実行可能なように、COBOLコードをJavaに変換。JCLやCICSなどのさまざまなレガシーシステムのリプラットフォームやリファクタリングのサポートを提供するという。
「AWSでは、将来的には大多数のアプリケーションとワークロードが、クラウドで実行されると考えている。数年前から、さまざまなサービスによってデータセンターとの橋渡しを行い、AWSをシームレスに使えるようにしてきた。AWS Mainframe Modernizationは、それをより加速するものになる」と述べた。
簡単にプライベート5G環境を構築できる「AWS Private 5G」
また、AWS Private 5Gも発表した。
アンテナを含めたハードウェアのほか、ソフトウェア、SIMカードをAWSから出荷し、簡単にプライベート5Gを構築できるソリューションで、使用した分だけ料金を支払えばいいという仕組みなっている。オフィスや工場、倉庫などにプライベートネットワークを構築するとともに、AWS OutpostsやAWS Snowconeを使用し、容量の追加注文、追加デバイスのプロビジョニング、アクセス権限の管理なども行うことができる。現在は米国だけで利用できる。
「AWS Private 5Gは、わずか数日でプライベートモバイルネットワークを立ち上げ、拡張できる。電源を入れれば、あとは自動的に設定が行われ、オフィスや大規模なキャンパス、工場や倉庫など、あらゆる場所で利用できるモバイルネットワークの構築が行える」とした。
また、「エッジ環境は工場や病院などの施設、石油採掘場や農地などの遠隔地に広がり、ここで、5Gネットワークへの接続が期待されている。AWSのコンピュートおよびストレージサービスを5Gネットワーク内に設置し、超低遅延アプリケーションを実現するモバイルエッジコンピューティングインフラを提供することで、あらゆるものに対して、信頼性が高い接続が実現できる」と述べた。
またここでは、KDDIとの提携により、5Gネットワークエッジで超低遅延を実現する「AWS Wavelength」を日本で提供していることにも触れた。
基調講演では、DISH Networkから説明が行われ、「AWSとのコラボレーションでは、情報の解放と情報の保護が同時にできること、大規模な自動化の推進に貢献できること、エッジとクラウドの接続を簡素化することの3つが実現できる」などとした。
データの重要性を強調
次に触れたのが、データの重要性だ。
2024年までの3年間に生成されるデータ量は、過去30年間に生成されたすべてのデータ量を上回ると言われていること、データの多様化が進んでいること、それぞれのデータごとに、使われ方や流れ方が異なることを指揮する一方、すべてのデータに共通する重要な要素として、アプリケーションを動かすデータを保存し、処理するためには、データベースが必要なこと、データやアプリケーションにインテリジェンスを付加するためのツールが必要になること、これらの作業を行うためには、適切なセキュリティとガバナンスを確保する必要があることを示した。
また、アプリケーションのニーズに合わせてデータベースを選択する動きが出ており、AWSは最も幅広いデータベースの選択できるように、6つの異なるリレーショナルエンジンをサポートするAmazon RDSと、高いパフォーマンスを実現するAmazon Auroraを提供。ハイパフォーマンスなアプリケーションをあらゆる規模で実行するAmazon DynamoDBや、フルマネージドデータベースサービスのAmazon Neptune、新しいインメモリデータベースのAmazon memory DB for Redisも提供しており、「適切な目的ごとにデータベースを選択し、利用できる」とした。
ここでは、Salesforce.comとの提携拡大により、データの活用の範囲が広がったことや、ほとんどのAWSサービスに暗号化機能を組み込んでいること、データガバナンスを強化していることなどにも触れ、「AWSは、データがどこに置かれているのかを厳密に管理することができる。ドイツに置いたデータはドイツに、日本に置いたデータは日本にとどまる。誰がどのデータにアクセスして使用する許可を持っているかも管理できる」とした。
さらに、データレイクを構築するためのサービスであるAWS Lake Formationについて説明。「データをAmazon S3のデータレイクに移動させ、機械学習アルゴリズムを用いてデータを分類し、機密データへのアクセス制御も確保することができる。データを大規模に確実に取り込み、管理できるほか、列、行、セルへのアクセスを制限し、個人情報などの機密データを保護。リアルタイム監視と統合監査を行えるようになる」という。
また、AWS Lake Formationでは、ACID(不可分性、一貫性、独立性、永続性)トランザクションをサポートするAmazon S3上の新しいテーブルタイプである「Governed Tables」を構築できるようになり、データが追加・変更されると、コンフリクトやエラーが自動的に管理され、すべてのユーザーが信頼性と一貫性を持った形でデータを見ることが可能になるとしている。
さらにAWS Analytics Servicesとして、新たにServerless and on-demand Analyticsを発表。Amazon Redshift Serverless、Amazon EMR Serverless、Amazon MSK Serverless、Amazon Kinesis Serverlessの4つのサーバーレスオプションを提供するとした。
「これらのオプションを利用すれば、クラスターやサーバーを管理したり、スケールを設定したりする必要はなく、容量のプロビジョニングも心配しなくてすむ。ビジー状態のときにはサービスが自動的に秒単位でスケールアップする。予測不可能な成長を遂げるアプリケーションなどにも適している」とした。
また機械学習については、専門家不要で利用できるAmazon SageMaker Canvasを発表した。視覚的なインターフェイスを利用して、ビジネスアナリストがコードを記述したり、機械学習の専門知識を必要とせずにMLモデルを構築したりでき、正確な予測の生成を行えるサービスである。Amazon S3やRedshift、RDS、独自のローカルファイルなど、クラウドとオンプレミスのデータソースからペタバイトクラスのデータを参照し、強力な自動機械学習技術をもとに高品質の予測モデルを生成できるという。
Amazon SageMakerは、2017年に発表して以来。150の新機能を追加し、機械学習の民主化に貢献していることや、機械学習を統合した従量課金制のサーバーレスビジネスインテリジェンスのAmazon QuickSightを提供していることなどにも触れた。
ここでは、ユナイテッド航空が、機械学習を利用してビジネス成果を高めたり、顧客満足度を向上させた事例を紹介。また、ゴールドマン・サックスでは、AWSのデータ分析ソリューションを活用したGoldman Sachs Financial Cloud for Dataを、世界中の投資会社に提供し、高度な分析が可能になることを発表。また、スリーエムでは、レガシー環境で稼働していた2000以上のアプリケーション、9000台の仮想マシン、グローバルSAPインスタンス、45PBのデータを、AWSへ移行。1年で主要アプリの61%が移行し、サプライチェーンを再構築した例などが示された。
そのほか、コンタクトセンター向けソリューションのAmazon Connectについては、AWSの歴史のなかで最も急成長しているサービスのひとつと位置づけ、毎日1000万人以上の顧客と、1000万回以上のコンタクトセンターでのやり取りが行われていることを示した。
産業分野でもAWSの採用が進展
一方、産業分野において、AWSの活用が進んでいることも強調した。
AWSでは、昨年、AWS for industrialを立ち上げ、目的に応じて構築された5つのAWSのサービスと、産業界のあらゆる分野に精通した何100社ものAWSパートナーとのソリューションを組み合わせて提案。機械学習を使って産業機器の異常を検知するAmazon Monitronなどを発表していた。今回のAWS re:Inventでも産業分野向けのいくつかの新サービスを発表した。
ひとつは、AWS IoT TwinMakerであり、デジタルツインを素早く簡単に構築し、運用を改善するサービスだ。デジタルツインを構築するためのデータと洞察を3Dで視覚化して表示。データを取り込むためのData Connectors、デジタルツイングラフを作成するModel Builder、インタラクティブな3D環境を実現するScene composer、デジタルツインを3Dアプリケーションに統合するApp Toolkitで構成するという。
「デジタルツインをできるだけ多くの企業に提供したいと考えた。AWS IoT TwinMakerによって、開発者がリアルタイムシステムのデジタルツインを簡単に構築できるようになる」という。
2つ目は、複数の車両データの収集、変換、クラウドへの転送を簡単に行えるマネージドサービスであるAWS IoT FleetWiseである。転送されたデータを使用して、個々の車両の問題をリモートで診断するアプリケーションを構築し、車両の状態を分析して保証請求やリコールから保護。分析と機械学習を使用して自動運転と先進運転支援システムの改善にもつなげられるという。
「高度な車両センサーは、1時間に最大2TBのデータを生成する。増え続けるクルマから、ほぼリアルタイムで車両データを収集し、変換し、クラウドに転送することを、より簡単に、よりコストを抑えて実現する新サービスになる」という。
このように基調講演ではさまざまな新サービスが発表されたが、これ以外にも数多くの新サービスが発表されている。
さらに、AWSでは、2025年までに2900万人にクラウドに関するスキル教育を無償で提供することや、AWS Skill Builderプログラムを通じて、16言語で、500以上の無料オンデマンドコースを提供。AWSリスタートプログラムでは、12週間の無料集中プログラムにより、テクノロジーの経験がない人でも、クラウドコンピューティングに関わる仕事に就くための準備ができるようになるとも語った。
今回の基調講演で印象的だったのは、セリプスキーCEOは、何度も「パスファインダー」(先駆者)という言葉を使ったことだ。
「AWSが提供するクラウドは、真の変革をもたらす機会になる。多くのCEOは、クラウドへの移行によって企業文化が生まれ変わったと語る。新しい方法でデータを活用し、より良い意思決定を行うことができたともいう。また、イノベーションがより早く、より簡単に、よりよく行えるようになったという。しかし、変革はまだ始まったばかりである。クラウドによって、さらに多くの人々がイノベーションを起こし、新しいビジネスを展開し、世界中の課題を解決したい。AWSの機能をより強力にし、より使いやすいものにし、クラウドを使いたい人が、誰でも使えるようにしたい。クラウドはあらゆるものを再構築する機会であり、真の変革への道筋を提供してくれるものになる」と語り、約2時間の基調講演を締めくくった。