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AWS、Amazon.comの物流ネットワークの経験を基に作られた「AWS Supply Chain」など、多数の新サービスを発表
re:Invent 2022 セリプスキーCEO基調講演レポート
2022年11月30日 13:32
Amazon.comの子会社でCSP(クラウド・サービス・プロバイダー)最大手の米Amazon Web Services(AWS)は、11月28日~12月1日(現地時間、日本時間11月29日~12月2日)の4日間にわたって、同社の年次イベント「AWS re:Invent 2022」を、米国ネバダ州ラスベガス市にある「The Venetian Convention and Expo Center」を中心とした会場において開催している。
会期2日目になった11月29日午前(日本時間11月30日未明)には、4つある同社幹部による基調講演でも一番メインになる、同社 CEO アダム・セリプスキー氏による基調講演が行われた。この中でセリプスキーCEOは、今回AWSが発表する新しいインスタンスやサービスなどを紹介したほか、同社の新しいサステナビリティ戦略としてウォーターポジティブ(水の利用量と供給量のバランスが取れていること、CO2のカーボンニュートラルと同じような目標)を2030年までに実現すると強調した。
2025年までに再生エネルギー利用100%、2030年までにウォーターポジティブを実現
AWS CEO アダム・セリプスキー氏は「多くの皆さまとまたこの会場に戻ってきたことがとてもうれしい。この会場には1万5000社の顧客の皆さま、そしてバーチャルを入れれば延べ30万人と予想される参加者の皆さまをお迎えして、re:Inventを再び開催できることを喜んでいる。このイベントは11回目となり、何度も参加されている方も、初回の方も、たくさんの学びを見つけていただけるイベントになると確信している。2300を超えるセッションと、当社のパートナーとつながることができる展示会の会場などが用意されている」と述べ、対面のイベントを行うことが可能になり、基調講演、ブレークアウトセッション、展示会など、以前と同じような規模のre:Inventに戻って開催できた喜びを明らかにした。
また同社が目標として掲げている、2025年までに再生エネルギー利用100%という目標達成に関しては「既に83%まで到達している」と述べたほか、2030年までにウォーターポジティブを実現することも発表した。
AWSは既に、前日(現地時間11月28日)に行われたMonday Night Liveの中で、いくつかのハードウェア関連の発表を行っており、DPU/IPUに相当するCPUの仮想マシン管理のタスクをオフロードするNitroの最新版「Nitro v5」、昨年AWSが発表したGraviton3のHPC特価版となる「Graviton3E」などの新チップを発表。それらを採用したAmazon EC2 C7gnインスタンス、Amazon EC2 HPC7gインスタンスなども発表している。
AWS、データセンターの軽量化を実現する「Nitro v5」、HPC特化版の「Graviton3E」などの新チップをre:Inventで発表
「Monday Night Live」講演レポート
https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/event/1459689.html
セリプスキー氏の講演ではそれらに加えて、Amazon EC2 Inf2インスタンス、Amazon EC2 HPC6idインスタンスという2つの新しいインスタンスが発表された。
このうちAmazon EC2 Inf2インスタンスは、AWS Inferentia2という、AWSが自社開発した推論アクセラレータを搭載したもので、最大2.3PFLOPSの性能を発揮し、メモリ帯域は9.8TB/秒となっている。また、インスタンス間(つまり物理サーバー間)を専用のインターコネクトとなるNeuronLinkで接続しており、スケールアウト、スケールダウンを自在に行うことができる。GPUベースのEC2インスタンスと比較して、電力当たりの性能が50%改善されるとAWSは説明している。
また、PyTorchやTensorFlowなどの一般的なフレームワークと統合された開発キット「AWS Neuron」を利用してプログラムを作成することが可能で、現在プレビューの申し込みが行われている。
一方のAmazon EC2 HPC6idインスタンスは、oneAPI、MKL(Math Kernel Library)などのIntelのHPC開発キットや、AVX-512などのIntelのベクトル系拡張命令を利用してHPCの演算を行っているユーザー向けのインスタンス。第3世代Xeon Scalable Processor(最大3.5GHz)、約1TBメモリ、15.2TBのSSDを搭載している。米国東部(オハイオ)とAWS GovCloud(米国西部)の一部リージョンで一般利用が開始された。
特定用途向けのサービスを多数発表、Amazon.comの経験を生かしたサプライチェーン最適化のサービスも提供
今回のセリプスキー氏の講演では、AWSがパーパスビルドと呼ぶ、特定用途向けのサービスが多数紹介されている。
例えば今回は、サプライチェーンの構築に特化した「AWS Supply Chain」、セキュリティ関連のデータをまとめて保存しておくデータレイク(さまざまな形のデータをAIで利用する形に成形して保存しておくストレージのこと)「Amazon Security Lake」、インダストリー 4.0やソサエティ 5.0の空間シミュレーションに特化した「AWS SimSpace Weaver」などが、相次いで紹介された。
セリプスキー氏は「目標を達成するには正しいツールを利用しなければならない」と強調し、AWSがそうしたツールを特定用途向けサービスとして提供していくと強調した。
これらのサービスはいずれも、AIアナリティクス、データレイク、シミュレータなど、いずれもAWSにも別のより一般的なサービスとして提供されているが、今回はそれをサプライチェーン、インダストリー4.0/ソサエティ5.0に特化した形で、特定用途向けのサービスとして提供される。
AWSも、2006年3月に正式に創業してから既に16年以上が経過しており、創業当初のオンプレミスのハードウェアをクラウドに置きかえる、オンプレミスのソフトウェアをクラウドに置きかえるという段階から、クラウド上にあるハードウェア、プラットホームを活用して、新しい使い方をユーザー企業に提案していく形になりつつあるということを象徴していると言えるだろう。
そうした発表の中でも最も注目されたのはAWS Supply Chainだ。簡単に言うと、AI/アナリティクスの手法を利用して、サプライチェーンの状況を可視化し、より効率の良い運用を目指すというものになる。
しかも、AI/アナリティクスはAmazon.comの約30年に及ぶビジネス上の経験が反映されており、言ってみれば、Amazon.comの経験を利用してサプライチェーンの監視が可能になる。このため、決して物流に特化というわけではない(運用次第でほかの用途にも転用は可能)が、EC事業者などが活用すると、Amazon.comの経験を生かしてサプライチェーンの監視、運用が可能になると言え、こうしたITインフラを自前で構築するのが難しい中小のEC事業者にとっては、魅力的なサービスになる可能性が高い。
AWS Supply Chainは米国、欧州などのリージョンでプレビューが開始されており、顧客のニーズがあれば日本などのほかのリージョンでのサービスインも検討される計画だ。
一方のAmazon Security Lakeは、セキュリティ情報に特化したデータレイクサービスとなる。企業は、例えばネットワーク機器のログ、従業員のPCのログ――など、多くのセキュリティ関連のデータを自社のストレージなどに保存しているだろう。何か事故があった時には、ログを人間がたどっていくというのは、割とあるシーンだ。
このAmazon Security Lakeでは、データレイクにそうしたセキュリティデータを保存していく。保存できるセキュリティデータは、AWS上で生成されたものだけではなく、OCSFという業界標準の形式もサポートしており、オンプレミスのデータも保存していける。保存されたデータは分析ツールからAPI経由などでアクセスすることが可能で、使い慣れた分析ツールを使って、社内ネットワークの監視を行うことが可能になる。
AI/アナリティクスの手法を利用することで、人間なら発見できないような小さな異常(そして実は最初の侵入の第一歩だったりする)を動的に発見できるのが、Amazon Security Lakeのメリットといえるだろう。
Amazon Security Lakeは、東京リージョンなども含めてプレビュー提供が既に開始されており、サービス自体の利用は無料だが、EC2インスタンスを利用した料金は別途発生する形になる。
ソサエティ 5.0向けシミュレーションや効率の良いデータ管理ツールも提供
AWS SimSpace Weaverは、空間シミュレーションを可能にするマネージドサービス。数百万の存在がリアルタイムに相互作用を行う空間をシミュレーションする。例えば、工場での作業員の動き、都市における車や人の流れなどをシミュレーションして、都市設計や事象観測などを行うことができる。こちらも利用料金は無料だが、EC2インスタンスなどの利用料金は別途かかる形となる。米国や欧州などの一部リージョンで既に一般提供が開始されている。
Amazon DataZoneは、データを管理する側にとっては容易に作業できるような管理ツールを提供し、一方で、データを利用する側には必要なデータを容易に見つけられるという、相反するそれぞれのメリットを実現するデータ管理ツール。AWSのアナリティクスサービスと統合されているだけでなく、DataBricksやSnowflakeのようなサードパーティツールとの連携も可能にするAPIがサポートされている。現在は、プレビューの申し込みを受け付け中という段階になっている。
AWS Clean Roomsは、複数の企業が協業してAI/アナリティクスを利用する場合に、お互い相手の会社にデータを渡さなくてもAWSでAI学習などを行うことができるサービスとなる。
このほかにも、ゲノム解析などに向けたデータを効率よく保存・利用可能にするAmazon Omics、AuroraとRedshiftのZero ETL統合、Amazon RedshiftのApache Spark統合、Amazon QuickSightの機能向上、Amazon Connectの機能向上などが発表されている。
講演の最後にセリプスキー氏は「われわれはクラウドのパワーを信じている。それぞれの会社はさまざまな課題を抱えており、それを乗り越えていくのは簡単な話ではない。しかし創造性を駆使すれば、そうした領域であっても乗り越えていくことが可能であり、われわれはそうした可能性を提供している。それがクラウドのパワーであり、それぞれの会社を、社会を、政府をクラウドでデータを利活用することで変えていってほしい。それこそAWSが実現していきたいことだ」と述べ、今回の基調講演で紹介したような各種のサービスで、引き続き自社や世の中の変革を実現してほしいと呼びかけた。