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発明、再発明のすべてのステップをAWSは支援をしていく――、AWS アンディ・ジェシーCEO
AWS re:Invent基調講演レポート、27個の新サービスを発表
2020年12月3日 11:14
Amazon Web Services(AWS)の年次イベント「AWS re:Invent」が、2020年11月30日~12月18日、2021年1月12日~1月14日まで、オンラインで開催されている。
会期中には、AWSのアンディ・ジェシーCEOによる基調講演をはじめ、同社エグゼクティブによる講演、AWSの専門家による解説や顧客事例の紹介、500以上のテクニカルセッションなどをオンデマンド配信している。
re:Inventでは、毎年、数多くの新機能や新サービスなどが発表されているが、オンライン開催でもそれは変わらず、日本時間の12月2日に行われたジェシーCEOの3時間にわたる基調講演では、新機能や新サービスの紹介の際に、「ゲームチェンジャーになる」という言葉を何度も使いながら、27個の新サービスを発表。この日だけで、43個の新機能および新サービスが発表されたという。
AWSのアンディ・ジェシーCEOは基調講演の冒頭に、「9回目の開催となる今年のre:Inventには、40万人が事前登録し、今週中には50万人が登録することになる。ラスベガスに集まることはできなかったが、開催期間は1週間ではなく、3週間となり、オンデマンド配信により、セッションの時間が重なって参加できないといったことがなくなる。教育と学びの場であることは変わらない」と語った。
AWSの2020年第3四半期までの売上ランレートは460億ドルとなる一方、第3四半期の売上高は前年同期比29%増になっていることを示しながら、「成長率は、ベースとなる数字が大きければ低くなる。だがAWSは、ランレートで見れば年間100億ドルも伸ばすことになる。クラウド業界でこれだけの規模の成長はない。AWSはそれだけの成長を遂げている」と、成長率で上回るMicrosoftを牽制。
「AWSは、123カ月かけて100億ドルの企業になったが、そこから23カ月かけて200億ドルの企業になり、13カ月で300億ドルの企業に、12カ月で400億ドルの企業になった」と述べた。
また、「AWSは、エンタープライズIT企業としては5位の売上高を誇り、SAPやOracleよりも上位にいる。PaaSの市場シェアでは45%であり、2位に2倍以上の差をつけている。現在、企業のIT支出に占めるクラウドの割合は4%しかないが、コンピューティングの大半は、今後10年、20年でクラウドに移行することになる。AWSにはそれだけ成長の余地がある。コロナ禍でクラウドへの移行を決意する企業も増え、クラウドへの移行速度は数年加速した」との現状を説明。
「成功しながら長年継続するためには、再発明(reInvent)が必要である。業績が悪化してからの再発明は賭けでしかない。その状況ではいい条件で融資を受けることもできない。再発明は常に行わないといけない。大切なのは再発明のための文化を社内に持つことであり、そこには8つのポイントがある」とした。
ここでは、「リーダーシップの意思」、「重力とは戦えないという認識」、「発明に対してハングリーな人材」、「開発者とともに顧客の課題を解決すること」、「最も幅広く、最も密度の高いツールセットを備えたプラットフォームを使用する」といったことを掲げた。
「新たな製品やサービスを作り出し、既存の概念を考え直すことが再発明だと思っている人が多いがそれは違う。製品に対して、顧客は何を求めているのか、何を感じているのか、何がうまくいって、何がうまくいっていないのかといった真実を求めることが再発明である。顧客のために再発明をするために一歩踏み込める人材、社内の対抗勢力に戦える人材が必要である。顧客の課題を解決することにフォーカスすることが大切である。スピードが必要であり、そのためには危機感を持つことができる。そして、スピードの敵は複雑性であり、複雑性を排除する必要がある。さらには、大胆なトップダウンのゴール設定によって、再発明を推進することが組織には大切だ。再発明の文化を定着させるのに重要なのは、テクノロジーではなくリーダーシップである」などとした。
コンピュートの“再発明”
ジェシーCEOは、今回の基調講演で、27個の新サービスや新機能を発表したが、最初に触れたのは「コンピュートの再発明」という観点からだった。
「コンピュートでは、これまで提供してきたインスタンスに加えて、マイクロサービスによって移植性が高いコンテナ、そしてサーバーレスをあわせた3つのモードが存在することになるだろう」とし、ここでは、Amazon EC2の新たなサービスとして、D2インスタンスと比較して、最大2.5倍のネットワーク速度と、45%高いディスクスループットを提供する「Amazon EC2 D3」、同じく最大7.5倍のネットワーク速度と100%高いディスクスループット、7倍のストレージ容量、テラバイトあたりコストを80%削減する「Amazon EC2 D3enインスタンス」を発表。分散およびクラスター化されたファイルシステムや、ビッグデータ分析、大容量のデータレイクなどのワークロードに最適だとした。
また、以下のインスタンスを発表した。
・最大60GbpsのEBS(Elastic Block Store)帯域幅と、260KのIOPSをサポートし、大規模なリレーショナルデータベースワークロードにも利用できる、次世代のAWS Nitro Systemに基づいたインスタンスの「Amazon EC2 R5bインスタンス」
・ゲームストリーミングやアニメーション、ビデオレンダリングなどの高性能のグラフィックワークロードを使用するユーザーのうち、NVIDIAのライブラリに依存しない場合に、価格とパフォーマンスの向上を享受できる「Amazon EC2 G4adインスタンス」
・ArmをベースとしたAWS Graviton 2プロセッサを搭載し、x86ベース比で40%のコストパフォーマンスが向上できる「Amazon EC2 C6gnインスタンス」
・Cascade Lake世代のIntel Xeon Scalable Processorを搭載し、Turbo boostによって最大4.5GHzの動作を実現。さまざまな用途に最適化できる「Amazon EC2 M5znインスタンス」
なお基調講演の前日には、Amazon EC2向けの「Macインスタンス」を発表したことにも触れ、AWS環境内でmacOSをネイティブに実行可能にすることで、数百万人のアップル開発者に、従量課金制によるクラウドの柔軟性と拡張性を提供することができるとした。
特に、AWS Graviton 2プロセッサについては、「IntelやAMDとは深い関係があり、今後もそれは変わらない」としながらも、「コストパフォーマンスを高めることが顧客の要望であれば、自分たちでプロセッサを開発しなくてはならない。そこで、イスラエルのAnnapurna Labsを買収し、経験豊かな開発者を迎え入れ、顧客のビジネスに貢献するプロセッサを開発した。それがArmをベースとしたAWS Gravitonである。これを活用したA1インスタンスは、ウェブティアのようなスケールアウトワークロード向けであった。だが、これは想定以上に活用され、もっと強力なものが欲しいという要望が生まれていた。AWS Graviton 2では、40%のコスト低減ができる」とした。
そして、「プロセッサの開発チームに言っているのは、顧客の課題を解決してほしいということである。Gravitonには今後も投資をし、より多くの発明を行っていく」とした。
さらに、2021年に提供を予定している新サービスとして、ディープラーニング(深層学習)モデルのトレーニング用に設計されたHabanaLabsのGaudiアクセラレータを搭載した「Habana Gaudi-based Amazon EC2」、AWSによってカスタム設計された高性能な機械学習トレーニングチップ「AWS Trainium」を発表している。
AWS Trainiumは、画像分類やセマンティック検索、翻訳、音声認識、自然言語処理、ディープラーニングトレーニングワークロード向けに最適化しており、AmazonEC2インスタンスとAWS Deep Learning AMI、およびAmazon SageMaker、Amazon ECS、EKS、AWS Batchなどのマネージドサービスを通じて利用できるという。
そのほか、Amazon Elastic Container Service(ECS)やAmazon Elastic Kubernetes Service(EKS)を、自らのデータセンターで稼働させることが可能になる「Amazon ECS Anywhere」および「Amazon EKS Anywhere」を、2021年前半に提供する。
またAmazon EKSで使用されるオープンソースのKubernetesディストリビューション「Amazon EKS Distro」、Amazon Elastic Container Registry(ECR)で、コンテナレジストリをパブリックに公開した「Amazon Elastic Container Registry Public」も発表した。
「AWSと同じようなデプロイ、同じような管理を、オンプレミスでも行いたいというユーザーが多い。ECSやEKSが、自社のデータセンターで活用できるようになる」。
Lambda関数を最大10GBのサイズのコンテナイメージとしてパッケージ化してデプロイできるようにする「AWS Lambda Container Support」では、ZIPアーカイブとしてパッケージ化された関数と同様に、同じ操作で自動スケーリングや高可用性など、多くのサービスとのネイティブ統合が図れるとのこと。
それ以外では、コンテナおよびサーバーレスデプロイの自動管理を行う「AWS Proton」、最大10GBメモリと6 vCPUsをサポートするほか、課金単位を100msから1ms単位に変更し、実行時間が短い場合は多くのコスト削減が可能になる「AWS Lambda」、gp2インスタンスの4倍の最大スループットを提供し、ストレージ容量とは独立してIOPSとスループットが確保できる「gp3 volumes for Amazon EBS」、io1ボリュームよりも、100倍高い耐久性と10倍の高性能を実現するIo2ボリュームをさらに高いパフォーマンスで提供する「io2 Block Express」も紹介した。
さらにサーバーレスについては、数十万のトランザクションに対して、数秒でキャパシティを拡張する「Amazon Aurora Serverless v2」を紹介したほか、SQL ServerアプリケーションをAurora PostgreSQLで簡単に動作させる新たなトランスレーション機能「Babelfish for Aurora PostgreSQL」、2021年にGitHubを通じて公開するオープンソースプロジェクト「Babelfish for PostgreSQL」、使い慣れたSQLを使用して、複数の異なるソースデータストアから仮想テーブルをすばやく作成できる「AWS Glue Elastic Views」などにも言及している。
データストアの“再発明”
もうひとつの観点として挙げたのが「データストアの再発明」だ。
「データストアでは、どんな再発明ができるのかと言われていたが、ブロックストアやリレーショナルデータベースなど、データストアにおける再発明の答えはたくさんある。そして、そこには機械学習が、今後大きな意味を持つことになる」と語る。
迅速で、容易に機械学習に必要なデータを準備することができる「Amazon SageMaker Data Wrangler」、機械学習(ML)のFeatureを保存、更新、取得、共有するために完全に管理された専用リポジトリの「Amazon SageMaker Feature Store」、機械学習ワークロードにおいてCI/CDを実現する「Amazon SageMaker Pipelines」、機械学習技術によりアプリケーションの運用上の問題点や改善ポイントを予測し、可用性の向上を容易にするためのサービス「Amazon DevOps Guru」を発表。
また「Amazon CodeGuru」には、新たにPythonのサポートと、リアルタイムでのセキュリティディテクターの機能を追加したことを発表した。さらに自然言語でビジネスデータに関する質問を入力すると、それに対して高精度な回答を数秒で応答することができる「Amazon QuickSight Q」も紹介している。
「機械学習では、適切なツールがエキスパート向けに欲しい、開発者やデータサイエンティストが毎日使えるツールが欲しい、モデルを作らなくてもいい機械学習になってほしい、機械学習を学ぶことなく、自然な形で仕事ができるようにしたいといった要望がある。AWSは、機械学習の分野においても、こうした顧客の声に耳を傾け、新たなサービスを提供することになる」と述べた。
コールセンター業界や自動車業界などの事例を紹介
続けて、さまざまな業界における再発明として、コールセンターの事例を挙げた。
同社では2017年から、Amazon.comのコールセンターでの運用ノウハウを活用したクラウドソリューション「Amazon Connect」の提供を開始しているが、これは、AWSの歴史上、最速で使われているサービスだという。「コロナ禍においては、5000社以上の企業が、Amazon Connectを新たに採用した。コンサルタントの費用もなく、使った費用だけを支払うだけで、迅速に、リモートでのコールセンターを実現することができる」という。
そうしたなかで、「いかに簡単に、製品やサービスに関する正しい情報を顧客に届けられる体制を構築するか」、「エージェントの時間をより効率化するにはどうしたらいいか」、「リアルタイムで顧客の課題を特定して、対応したい」といった、コールセンター現場のニーズがあることを示す。
新しいソリューションとしては、
・オペレーターに対してリアルタイムで課題を解決するために必要な情報を提供する「Amazon Connect Wisdom」
・顧客に関する詳細な情報をオペレーターに提供することでパーソナライズされたサービスの提供を支援する「Amazon Connect Customer Profiles」
・顧客のエクスペリエンス向上のために、顧客と通話中でもプロアクティブなアクションを起こすことができる「Real-time Contact Lens for Amazon Connect」
・オペレーターが終話後に行うCRMへの入力や、フォローアップ作業などを支援し、顧客との対話に多くの時間を割けるようにする「Amazon Connect Task」
・機械学習のテクノロジーを利用した音声解析により、電話をかけてきた顧客を認識する「Amazon Connect Voice ID」
を発表してみせた。
また、自動車業界やヘルスケア業界、メディア/エンターテインメント業界、製造業界の事例を示しながら、「あらゆる業界で再発明が行われている。自動車業界では電動化や環境対応、自動運転などの新たな動きがあり、そこにAWSが使われている。インダストリーでは、機械学習を活用して工場の操業を大きく変えるニーズがあるが、それに対応した装置が導入されていなかったり、人材がいなかったりするために、変革に踏み出せない企業が多い。こうした課題を解決するものを提供したい」と述べる。
そして、この分野では、以下の5つのサービスや機能で、こうしたニーズに対応することができるとした。
・センサーやゲートウェイ、機械学習サービスで構成されるエンドトゥエンドの機械モニタリングソリューションを提供する「Amazon Monitron」
・既存の機器センサーに、AWSの 機械学習モデルを組み合わせることで、異常な機器の動作を検出して予測メンテナンスを可能にする「Amazon Lookout for Equipment」
・生産現場にある既存のカメラを活用し、コンピュータビジョンを使用した品質管理と職場の安全性を向上させることができる「AWS Panorama Appliance」
・産業用カメラメーカーが、カメラにコンピュータビジョン機能を埋め込むことができる「AWS Panorama ソフトウェア開発キット(SDK)」
・AWSで学習させたコンピュータビジョンモデルをもとに、画像とビデオストリームで使用して、製品やプロセスの異常や欠陥を検出する「Amazon Lookout for Vision」
何がハイブリッドといえるのか?
最後に、ジェシーCEOは、「何が、ハイブリッドといえるのか」と問いかけた。
「ハイブリッドといえば、多くの人が、クラウドとオンプレミスの掛け合わせと答えるだろう。これは、オンプレミスの製品プロバイダーが、クラウドの波に乗りたいと思って、ハイブリッドという言葉を使ったのが原因だ。もしかしたら、AWSもこの混乱に貢献してしまったかもしれない」と語る。
また、「本当のハイブリッドとは何か。オンプレミスとは何か。例えば、レストランや農地といったエッジはオンプレミスになるのか。顧客からは、独自のデータセンターを持たないこと、持ったとしても小さなフットプリントで持つことが求められている。エッジノードでも、AWSのリージョンで使っているものと同じAPI、同じコントロールプレーン、同じツール、同じハードウェアを使いたいというニーズが出ている。ユーザーのニーズは、エッジにおいても、AWSのサービスを展開してほしいということである。これは、オンプレミスの選択肢が広がることにつながる」とした。
まずは、現在提供しているVMware Cloud on AWSについて触れながら、「これは、ある意味、不思議なコラボレーションである。両社が緊密に連携することで、多くの企業がVMware Cloud on AWSを活用している。IDCの調査では、これを活用することで、5年で479%のROIの向上が想定されるとしており、オンプレミスのインフラをクラウドに移行する流れを作っている」と話す。
そして、「ワークロードをオンプレミスに残しながら、AWSを使いたい場合にはどうしたらいいか。そこで、われわれは考え方を変えて、オンプレミスの場所までAWSを持っていくことが大切だと判断した。これがAWS Outpostsである。すでに数千社が利用している」と述べた。
AWS Outpostsにおいては、新たに1U(64vCPU、128GiBのメモリ、4TBのNVMeストレージ)と、2U(128vCPU、512GiBのメモリ、8TBのNVMeストレージを搭載。AWS InferentiaまたはGPUをアクセラレータとして搭載可能)の2つのモデルを、2021年に提供することを発表。
また、農場や油田、戦闘地域などの過酷な場所で利用するためのAWS Snow Familyを用意していることも紹介し、「オフィスや工場、病院や店舗など空間に制約がある場所で利用できる小型のAWS Outpostsであり、1Uはピザボックスとほぼ同じサイズで済む。2Uでもピザボックス2箱分だ。ネットワークに接続されると、AWSがリモートで管理し、ユーザーはほかのサービスと同様に、同じ運用モデルでの利用が可能になる」とする。
さらに、現在AWSリージョンが存在しない地域などに、AWSのコンピューティング、ストレージ、データベースなどのサービスをデプロイするための「AWS Local Zones」を、ロサンゼルスに続き、ボストン、ヒューストン、マイアミにも開設。2021年には全米12カ所に新たに設置する計画を明らかにした。日本でも、大阪に開設する予定だという。
加えて、エッジ環境において5Gが重要な役割を果たすことを示し、AWS Wavelengthを通じて、AWSのインフラを、5Gを活用してエッジで運用。米国8カ所で利用できるほか、東京ではKDDIとの連携によって、これを利用できる環境が整うことになる。韓国のSKテレコムや英国ボーダフォンとも連携する予定だ。
「AWSのエクスペリエンスをどんなところでも使ってもらえるようになる」と述べ、「ハイブリッドという意味は、単なるクラウドとオンプレミスの組み合わせだけでなく、さまざまなエッジノードに対応したものでなくてはいけない。AWSをエッジノードに分散させることで、同じAPI、同じコントロールプレーン、同じツール、同じハードウェアを使える。これがハイブリッドの行き先である」と定義した。
AWS re:Inventでは、恒例となっている生演奏は行われなかったが、ジャシーCEOは歌詞の一部を引用しながら、「これから何が起こるのかわからない、どんな未来が来るのかという不安は、若者だけでなく、企業も同じである。すべての変化をコントロールすることは無理だが、どれだけのキャパシティを持ち、自らが必要な変化を起こせるのかといったことはコントロールできる。フォーカスを絞って大事なことに集中し、スピードが必要なところでは速く進まなくてはならない。周りで何が起こっているのか、そこで何が使えるのかを知り、顧客の体験を変えるために、再発明をしなくてはならない。企業自らが再発明をしていかなくては立ちいかなくなる。発明、再発明のすべてのステップにおいてAWSは支援をしていく」と語り、基調講演を締めくくった。