ニュース

AWSジャパン、事業フェーズごとにスタートアップを支援する最新開発ツールを紹介

 アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社(AWSジャパン)は14日、米ラスベガスで開催された年次カンファレンス「AWS re:Invent 2021」(11月29日~12月3日)で発表されたアップデートの中から、スタートアップの開発支援に関連するサービスを紹介する説明会を報道関係者向けに行った。

説明会ではreInventで発表されたアップデートから、スタートアップのそれぞれの成長フェーズを支援するサービスを紹介

 説明を行ったAWSジャパン スタートアップ事業本部 部長/シニアソリューションアーキテクト 塚田朗弘氏は「今回のアップデートにおけるポイントは大きく2つ。ひとつはAWSやクラウドの知識/経験がなくてもサービスの開発/構築を可能にすることで、初期から中期フェーズのスタートアップに必要なスピードをさらに速めていること、もうひとつは拡張性/柔軟性の向上によりグロースフェーズにあるスタートアップのビジネス成長を加速していること」と語り、スタートアップの事業フェーズに応じた支援メニューがさらに拡充したとしている。

AWSジャパン スタートアップ事業本部 部長/シニアソリューションアーキテクト 塚田朗弘氏

 アップデートの紹介の前に塚田氏は、スタートアップにおける開発に必要な支援は、そのスタートアップがどの事業フェーズにあるかで変わってくると説明する。スタートアップの事業フェーズは、ビジネスモデルやコンセプトは存在するが製品やサービスはまだ形になっていない「シード(seed stage)」、事業を立ち上げたばかりで知名度が低く資金も少ない「アーリー(early stage)」、事業による利益が生まれ、企業としての成長が始まる「ミドル(middle stage)」、ビジネスモデルが確立し、経営が安定する「レイター(later stage)」の4段階で示されることが多い。当然、それぞれのフェーズにおいて必要な開発アプローチも異なっており、AWSでは大きく以下の3つに分類している。

・シードからアーリー(MVP: Minimum Variable Product / PSF: Problem Solution) … 最小限のプロダクトでアイデアと実現方法をすばやく評価し、仮説を検証するトライ&エラーのフェーズ。CEO自身やデザイナー、あるいは最初のエンジニア、大学の研究チームなどが開発にあたる

・アーリーからミドル(PMF: Product Market Fit) … 顧客のニーズは確認済みで、その後のスケールをはかるフェーズ。すばやくデータドリブンなフィードバックサイクルを構築してプロダクトを改善することが求められる。CTOを中心に少人数の開発チームが開発を回していく

・ミドルからレイター(Growth) … 指数関数的に成長が進み、ユーザーの要求の多様化に応え、上場やイグジットを見据えるフェーズ。スケーラビリティ、柔軟性、セキュリティなどが機能的にも組織的にも求められる。CTOの統括のもと、数十人規模の開発チームが存在する

スタートアップは事業フェーズごとに必要な開発リソースが異なる。AWSは各フェーズを支援するサービスを毎年、拡充している

 AWSは今回のre:Invent 2021でも数多くの新製品/新機能を発表したが、塚田氏はその中から4つのアップデートを取り上げ、スタートアップのフェーズに応じて以下のようにアラインしている。

・MVP/PSF … Amazon SageMaker Studio Lab、AWS Amplify Studio
・PMF … Amazon Redshift Serverless
・Growth … AWS AmplifyとAWS CDKの統合

 以下、塚田氏の説明をもとにそれぞれのサービスについて概要を紹介する。

Amazon SageMaker Studio Lab(プレビュー) … スタートアップの第一歩を強力に支援するデータサイエンスプラットフォーム

 機械学習を事業のコアテクノロジとするスタートアップの数は年々増加しているが、シードからアーリーステージのスタートアップにとっては何よりも開発スピードが重要であることから、機械学習サービスにおいては、すばやく、簡単に、事業のアイデアとなる機械学習モデルを構築/検証できるツールが求められる。

 「Amazon SageMaker Studio Lab」は既存のSageMakerラインアップと比較しても、極めて簡単に機械学習をスタートできるプラットフォームで、メールアドレスさえあれば誰でも無料で始めることができるサービスだ。AWSアカウントもクレジットカードも必要なく、クラウド設定や機械学習などの知識も一切求められない。

 Amazon SageMakerのフリーティア(無償版)という位置づけで、ユーザーには15GBの永続ストレージと、最大12時間のCPU(T3.XL)または4時間のGPU(G4D.XL)が提供される(ユーザーセッションごとにCPUかGPUを選択可能、利用可能なセッションの数は無制限)。

 また、Amazon SageMaker Studio Labで作成したプロトタイプは、有償版のAmazon SageMaker上で本格的に構築/デプロイすることが可能であるため、事業フェーズが変わってからもスケールすることが容易だ。

 すでにユーザー事例も発表されており、東京工業大学情報理工学院では機械学習の講義にAmazon SageMaker Studio Labを活用している

誰でもすぐに機械学習を無償で始められるデータサイエンスプラットフォーム「Amazon SageMaker Studio」は、機械学習をコアテクノロジとするプロダクトの迅速な開発を支援する
東京工業大学情報理工学院では学生の指導にAmazon SageMaker Studioを活用しており、機械学習人材の育成プラットフォームとしても期待される

AWS Amplify Studio(パブリックプレビュー) … プロトタイプからのフルスタック開発を実現するローコードツール

 誰でも簡単にブラウザ上からプロトタイプを作成できる「Figma」は、スタートアップにとっても人気の高いツールだ。特に創業から間もないフェーズのスタートアップはCEO自身やデザイナーが開発を兼任するケースが多いため、Figmaのようにエンジニアリングの専門知識がなくても使えるデザインツールはアイデアの迅速な検証に欠かせない。

 このFigmaで作成されたプロトタイプをReactUIコンポーネントコードに自動で変換し、フロントエンドからバックエンドまでを含むフルスタックアプリケーションをローコードで開発できる開発環境が「AWS Amplify Studio」だ。開発チームはCEOやデザイナーから引き継いだFigmaベースのプロトタイプをAmplify Studioに読み込ませ、出力されたReactUIコードをもとに、各コンポーネントとデータソースをGUIで直感的にひも付けながら最小限のコーディングで開発を行うことができる。また、Amplify Studioにはバックエンド構築/管理機能も含まれるため、クラウドやインフラの知識がないフロントエンド開発者でも短期間でのアプリ構築が可能だ。

 「開発に必要なコードが必要なタイミングで手元に現れるのがAmplify Studioの良いところ。ローカルの開発環境にコードをもってくることなども容易で、最小限のコーディングでプロトタイプをフルスタックアプリケーションに実装できる」(塚田氏)

 なお、2020年にリリースされた「AWS Amplify Admin UI」の既存の機能(データ、認証、ストレージなど)は今後、Amplify Studioの一部となり、より統一されたインターフェースのもとでのフルスタック開発が実現することになる。

CEOやデザイナーがFigmaで作成したプロトタイプを、フルスタックアプリへと進化させるローコードツール「AWS Amplify Studio」
Amplyify Studioにはチュートリアルアプリが含まれており、すぐにローコード開発に取り組むことができる

Amazon Redshift Serverless(パブリックプレビュー) … PMFに欠かせない“分析”のスモールスタートを可能にするRedshiftのサーバーレスオプション

 AWSは今回のre:Inventで複数の主要なマネージドサービスのサーバーレス/オンデマンドオプションを発表したが、「Amazon Redshift Serverless」もそのひとつだ。ユーザー側がデータウェアハウスのセットアップや管理などを行う必要は一切なく、数秒で分析の実行およびスケーリングが可能で、徹底した従量課金はもちろん、ベースRPU(Redshift Processing Unit)と最大RPUの設定によるきめ細かい予算コントロールが実現できる。

 プロダクトの提供を始めたばかりのスタートアップは、顧客からのフィードバックを早急に反映させるデータドリブンなサイクルを確立する必要がある。こうしたニーズに対し、Redshift Servelessは、サーバーやクラスタを立てることなく数秒で分析を始められる手軽さ、低コストでの利用ときめ細かな予算管理、容易なデータインポート/エクスポートといった特徴でもって、専門のデータエンジニアがいない小規模な開発チームでも、分析というスタートアップの成長に欠かせないプロセスのスモールスタートを実現する。「データエンジニアでなくても容易に扱うことができるため、立ち上がったばかりの小さな開発チームには特に貢献するサービス」(塚田氏)。

アダム・セリプスキーCEOがキーノートで発表した、AWSの人気データサービスのサーバレスおよびオンデマンドサービスオプション。コストパフォーマンスや生産性でデータサービス導入の敷居を下げる
Redshift Serverlessの画面。秒単位でRPUをコントロールできるため予算管理がしやすく、S3からのインポートやエクスポートも容易

AWS AmplifyとAWS CDKの統合 … 急速な成長と拡大を支えるInfrastructure as Code

 スタートアップが事業の成長を一気に加速させるグロースフェーズに入ると、プロダクトに対するさまざまな追加要件が発生する。前述のAWS Amplifyなどで作成してきたシステムにも、機能拡張やほかのシステムとの連携などが求められ、開発チームの規模も大きくなり、運用の自動化や監視、セキュリティなど、ローンチのころとは異なる課題に悩まされることも増えてくる。このフェーズに入ったスタートアップは、事業の拡大とともに、事業を支えるクラウドインフラもこれまでよりレベルアップさせる必要がある。

 このニーズに応えるツールが「AWS CDK(Cloud Development Kit)」で、PythonやTypescript、Java、Goなど開発者が使い慣れた言語でクラウドインフラを定義できる“Infrastructure as Code(IaC)”なフレームワークである。re:Invent 2021ではAWS CDKのバージョン2が発表され、開発者の生産性を大幅に上げる機能が追加された。

 一方、AWS AmplifyにおけるAWS CDKとの連携機能も強化されており、今回、新たに3つのコマンドが追加されている。

・amplify add custom … Amplifyにデフォルトで組み込まれていないリソースであっても、AWS CDKに記述することで対応可能に
・amplify override project … プロジェクトの権限/認証/ストレージ設定をAWS CloudFormationまたはAWS CDKで上書き可能に
・amplify export --out dist-patch … コマンドラインツールのAmplify CLIで設定したプロジェクトをエクスポートし、ほかのAWS CDKプロジェクトでの利用が可能に

 この中でもスタートアップにとって特に重要なアップデートがadd customコマンドで、塚田氏は「これまでもカスタムリソースの追加定義は可能だったが、開発者が自身でCloudFormationのテンプレートを記述して配置し、設定ファイルを編して、作成したファイルを別に読み込む手順を踏む必要があった。今回のアップデートで、追加要件が発生するたびに、より簡単かつ柔軟に対応できるようになったので、スタートアップの成長にあわせたインフラの拡張がしやすくなった」とそのメリットを強調する。

AWS Amplifyに追加されたコマンド群により、AWS CDKとの連携が強化された。なかでも150以上のAWSサービスをリソースとして追加できるadd customコマンドは、スタートアップの成長に応じて必要なリソースの追加を可能にする

*****

 説明会の最後、塚田氏はあらためて今回のre:Inventのアップデートが、以下の2つの点でスタートアップの成長を支援するとしている。

・初期から中期フェーズ … AWSやクラウドの知識/経験がなくてもすぐにサービスを開発/構築できる
・グロースフェーズ … 拡張性/柔軟性の向上によってビジネスの成長を加速

 資金、人材、開発環境、そして時間 - スタートアップは基本的にあらゆるリソースが足りないが、実際には事業フェーズごとに足りないもの=必要なものは少しずつ違ってくる。成長の節目節目で、それぞれが必要なリソースを必要なだけ、それも年々多様化するラインアップから低コストで選択できれば、次のフェーズへの飛躍が容易になる。AWSが国内外の多くのスタートアップから選ばれる大きな理由はそうしたきめ細やかなサポート体制にあるといえる。