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レッドハットが「Red Hat Forum 2021」を開催、岡社長らによる基調講演をレポート
企業のDXを支援する姿勢をあらためて表明、顧客・パートナーの表彰も
2021年10月22日 06:30
レッドハット株式会社の年次イベント「Red Hat Forum 2021」が、10月20日にオンラインで開催された。テーマは「Open Your Perspective(視点をオープンに)」。
基調講演は、レッドハット株式会社 代表取締役社長の岡玄樹氏と、Red HatのGeneral Manager and Vice President for Asia PacificのMarjet Andriesse氏が登場。いずれも企業のDXと、そこにおけるRed Hatの役割について語った。
DXに対するRed Hatの取り組み
レッドハットの岡社長は、「今年は今年東京オリンピック・パラリンピックの年だったが、それと同じぐらい目にしたのが『Digital Transformation』という言葉だ」と話を向け、「お客さまと話をしても、自前のアプリケーション開発のスピードを速くしたい、会社の中でのデータ活用を徹底させたい、IT人材・デジタル人材の採用を加速したい、という話が非常に多くなってきた」と語った。
続いて岡氏は、そうした動きに対するRed Hatの取り組みを紹介した。
コンテナ分野では、OpenShiftのマネージドサービスに力を入れたことを挙げた。「AWS、Microsoft、Google、IBM、国内7社のデータセンターからマネージドサービスを提供していて、実際に利用も増えている」(岡氏)。
自動化分野では、Ansible Automation Platformを挙げ、予測分析ツールとの関係を深めたと語った。
Red Hat Enterprise Linux(RHEL)については、企業の開発向け無償化プログラムを挙げた。「おかげさまで多くの企業に会社の中のプロジェクトに組み込んでいただいている」(岡氏)。
さらに、「このような取り組みもパートナーの協力なくしては実現しない」とパートナーを重視していると語った。その例として、今年発表したものとして、デロイトトーマツとHPEとレッドハットのDXについての3社協業と、NECが5GソリューションをOpenShift上に構築した事例を紹介した。
岡氏は最後に、今回のRed Hat Forumのテーマ「Open Your Perspective」を掲げて、「みなさんの視野が広がるような取り組み、材料をいろいろ紹介したい」と語った。
DXをオープンコラボレーションで支援
Red HatのMarjet Andriesse氏(General Manager and Vice President for Asia Pacific)は、まず今回のテーマ「Open Your Perspective」について、「Red Hatは共有から成功が始まると確信している。周囲の貢献をベースに構築する人や、ひらめきを得る人、新たな知識を授けてくれる人が必ずいるから」と語った。
Andriesse氏は、「顧客に、DXのサポートとして、オープンソースの技術市場や需要の変化に適応するために利用していただいている」として、サイロ化された環境からの移行や、銀行のデジタルサービス開発、政府のITインフラのモダナイズ化といった例を挙げた。
具体例としては、2020年のAPACイノベーションアワード受賞企業から、Standard Chartered Bank(SCB)が紹介された。オンラインバンキングとモバイルバンキングを強化するために、RHEL、OpenShift、JBossを採用し、マイクロサービス化。インフラコストを削減し、トラフィックが増え、アプリのデプロイやローンチが高速化したという。
また日本のNTTドコモの例では、5Gにともなうサービスの拡大を目指してRed Hat Ansible Automationを展開。共通サービス基盤上に1万台以上のデバイスを統合・自動化し、2022年までに開発時間、運用コスト、工数の半減が期待されているという。
「Red Hatは数十年にわたりLinuxのイノベーション推進力を示してきた。現在はクラウドがエンタープライズITに不可欠になり、コンテナとKubernetesがより新しくより速いサービスを支えている」(Andriesse氏)。
さらに「私はAPAC(アジア太平洋地域)の将来は明るいと考えている」とAndriesse氏。マッキンゼーによればアジアは2040年までに世界GDPの50%を占め、世界消費の40%を占める勢いであるほか、IDCによると、APACのICT支出は4.9%以上増大し、今年中に9240億ドル、2024年には1兆ドルに達する見込みだという。
また東南アジアの6つの大型経済圏では、2020年中に4000万人が新たにインターネットを使い始め、ネットユーザー数は2015年の2億5000万人から4億人に成長していることに触れ、その論拠とした。
最後に、パンデミックを機に人々や企業の考え方が変わり成長は勢いを増していることについて、「オープンコラボレーション(Collaborating in the Open)というRed Hatが得意とする方法で支援していく」とAndriesse氏は語り、再び「共有することで単独では不可能なことを実現し成功へ導く」と締めくくった。
Red Hat APAC Innovation Awards 2021が発表
基調講演では、顧客事例を表彰するRed Hat APAC Innovation Awards 2021の日本の受賞団体が発表された。今回は4社が受賞した。
・日立製作所:ハイブリッドクラウド基盤とクラウドネイティブ基盤の2部門
・三越伊勢丹ホールディングス:デジタル・トランスフォーメーション部門
・NTT東日本:デジタル・トランスフォーメーションとハイブリッドクラウド基盤の2部門
・東京海上日動システムズ/東京海上日動:デジタル・トランスフォーメーション部門
発表を受けて、各企業との特別対談の動画が放映された。
日立製作所からは加藤晋弘氏(IoT・クラウドサービス事業部 事業主管)が登場。Lumada事業の基盤にOpenShiftを採用し、例えばCMOSアニーリングを活用したプラットフォームに利用していて、「Red Hatは心強いパートナー」と加藤氏は答えた。また、もともとはミッションクリティカルな技術を扱っていた、コンサルタントの業務に近いところの人が、いままでの知見をベースに新たなDXを推進したと語った。
三越伊勢丹ホールディングスからは、三部智英氏(執行役員 情報システム統括部長)が登場。接客をコアに、デジタル化による質の高い経験を提供していると語った。具体例としては、3Dスキャナーを使って足を計測して靴をマッチングする「YourFIT365」や、スタイリストとチャットで会話しながら買い物できる「MIRS」を紹介。その基盤にRed Hat Integrationの3scale API Managementや、Red Hat Decision Managerを採用している。さらに、DXのためのアジャイルチームとして、スタイリストとエンジニアをチーム化したことが成功につながったと三部氏は語った。
NTT東日本からは、中村浩氏(常務執行役員 ビジネス開発本部長)が登場。対象となったものとして、ネットワークカメラから接続するだけでAI解析をSaaS型で使える映像AI解析サービスを紹介した。具体的な技術としては、GPUサーバーを複数のユーザーでシェアするために、OpenShiftでコンテナのオーケストレーション基盤を構築。これを、NTT東日本が構築している地域エッジのコンピューティングネットワークに置いて、安定的なサービスを可能にしているという。
東京海上日動火災保険からは、原田晋氏(常務取締役)が登場。Red Hat Open Innovation Labsに参加してDXを推進したことを紹介した。仮説検証型のアジャイル開発が根付いたことにより、年単位だった商品開発が大きく短縮して、最短4か月程度のビジネス創出を10件実現。来年は20件を目指すとともに、例えば被害を未然に防ぐロスプリベンションサービスなどビジネスモデルの根本的変換を目指すという。そのために人材教育に力を入れ、営業第一線の300名を超えるマネージャーにもアジャイル研修を受けさせていることも語られた。
Red Hat Japan Partner Awards 2021も発表
パートナー企業を表彰するRed Hat Japan Partner Awards 2021も発表された。
Japan Partner of the Yearは、2020年に続いて、NECが受賞した。理由としては、昨年度パートナー最大の売上達成や、大型公共案件、OpenShift Dedicatedを採用した生体認証のBio~Idiom Servicesなどが挙げられた。
部門別では、Strategic Alliance Partner of the Yearを日立製作所が受賞した。その理由として、複数の大手金融機関でOpenShiftやRed Hatのミドルウェアを採用したことや、LumadaソリューションへのOpenShift活用が挙げられた。
Innovation Partner of the Yearはネットワンシステムズが受賞した。Ansibleとネットワーク技術の相性を生かしたRed Hat Automation Adoption Programによる自動化ノウハウ集約でのサービス立ち上げや、新規顧客開拓が挙げられた。
OpenShift Partner of the Yearは、日本ヒューレット・パッカード(HPE)が受賞。HPEのコンサルティング力とコンテナナレッジをRed Hatのメソッドと融合した、DX支援とOpenShiftの大規模商談導入が、理由として挙げられている。
OEM Partner of the Yearは、NECが受賞した。昨年度部門最大の売上達成や、Global Learning Services認定技術者育成へのグループ全体での積極的投資が挙げられた。
Distribution Partner of the Yearは、サイオステクノロジーが受賞した。Distributor最大の売上と特にRBP領域での高い成長率達成、Ansible拡販推進とOpenShiftでのOperator Project賛同が挙げられた。
System Integrator Partner of the Yearは、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)が受賞した。OpenShiftを、クラウドネイティブ技術を提供するサービスC-Nativeに採用し、大手製造業や大手金融業のDX基盤として稼働したことが挙げられた。
Cloud Partner of the Yearは、アマゾンウェブサービスジャパン(AWS)が受賞した。長年にわたる連携と、Red Hat OpenShift Service on AWS-ROSA提供開始が挙げられた。
ISV Partner of the Yearは、富士通が受賞した。FUJITSU Software Enterprise Postgresをいち早くKubernetes Operatorに対応し、世界初のマルチアーキテクチャ対応でRed Hatの認証を取得したことが挙げられた。