大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ

NECが2022年度のIR Dayを開催、2025中期経営計画の進捗状況などを事業別に解説

“2021年度は中計の方向性に間違いがないことを確認した1年”

 日本電気株式会社(以下、NEC)は、機関投資家や証券アナリストを対象にした「NEC IR Day」を9月7・8日の2日間に渡って開催し、2025中期経営計画の進捗状況や、各事業における取り組みなどについて説明した。IR Dayの開催は今年で4回目になる。

 NEC 代表取締役執行役員常務兼CFOの藤川修氏は、「2021年度は、部材不足をはじめ、マクロ環境の激しい変化が業績にマイナスの影響を与えた。だが、NECが持つ危機への対応力を証明した1年でもあった。2021年度の業績目標を過達し、中期経営計画の1年目として順調なスタートを切った。行うべき施策もほぼ計画通りに実行し、中計の方向性に間違いがないことを確認した1年であった」と総括。

 「2022年度は部材不足が依然として解消せず、地政学リスクやFRBの利上げに伴う円安など、事業環境への大きな影響は継続し、社会公共やネットワークサービスといった一部の事業では、市場回復や立ち上がりの遅れがあり、当初計画を下方修正している。だが、2025中期経営計画の目標は揺るぎないコミットメントであり、旺盛なDX事業の取り込みや情勢変化への対応力を駆使し、確実に事業を遂行していく」と述べた。

NEC 代表取締役執行役員常務兼CFOの藤川修氏

 一方、低収益対象事業への取り組みでは、赤字事業であったディスプレイ事業およびエネルギー事業を2021年度までに非連結化。残る低収益事業は収益改善に向けて個別のターンアラウンド計画を策定し、進捗を確認して、高収益事業への転換の可能性を見極めているという。「これらのモニタリングを通じ、低収益事業の利益率について、前年度比で1%超の改善を図るとともに、事業売却やパートナーリングなど、ストラテジックな施策を必要とする事業を選別し、2025年度に向けた改善成果の刈り取りとポートフォリオの見直しを加速させる」と述べた。

 本稿では、これらの説明が行われたNEC IR Dayの内容を詳細に紹介する。

欧州3社が牽引するDG/DF事業

 NECでは、「DG/DF(デジタル・ガバメント/デジタル・ファイナンス)」、「グローバル5G」、「コアDX」を、成長3事業に位置づけている。

 ひとつめのDG/DF事業は、2025年度の売上収益が3000億円(2021年度実績は2528億円)、調整後営業利益は360億円(同160億円)、調整後営業利益率は12%(同6%)を目指す。

売上収益計画
営業利益計画

 NEC 執行役員の吉田直樹氏は、「過去3年間は売上収益、調整後営業利益ともに大きく改善し、Northgate(現NEC Software Solutions UK)、KMD、Avaloqの欧州3社を買収した成果も上がっている。欧州3社は、2018年度にNEC内にあったと仮定した場合には合計で91億円の赤字だったが、2021年度には156億円の黒字となり、営業利益率は10%に達している。DG/DF全体では、2022年度はノンコア事業を収束させることから売上収益は一時的に減少するが、営業利益は増加する計画である」と述べた。

業績推移
NEC 執行役員の吉田直樹氏

 2025年度に向けた成長戦略として、売上拡大に向けて、欧州3社のコア事業と、NECが持つ生体認証などのコア技術を活用することで成長性を確保し、これをグローバル展開することを目指す。ここでは、ボルトオンM&Aの継続によるバリューチェーンの拡大も視野に入れている。また、収益性改善では、SaaSおよびソフトウェア事業の拡大によるビジネスモデルの変革と、オフショアによる開発およびオペレーションの効率化、コストダウンを図る。

 DGでは、NEC Software Solutions UKが持つ公共住宅向けシステムやヘルスケア事業により、英国およびコモンウェルズでのアップセルやクロスセルを拡大。KMDが持つデータ管理やリース金融などのソフトウェア事業を強化し、北欧やAPAC、日本にも展開する。「日本では、電子インボイスの領域でKMDと連携しながら市場開拓を計画している」という。

 また、Microsoftとのグローバル協業の拡大、SaaSやソフトウェア事業の拡大による利益率の向上、オフショア比率の拡大による競争力強化も進める。非成長事業の早期収束にも取り組む考えだ。

主要指標の状況

 DFでは、Avaloqによる英国およびドイツでの販売体制の強化、グループ連携の拡大などにより、日本やAPACでのセールスおよびデリバリー体制の構築、新市場開拓に向けたM&Aの検討を進める。また、パブリッククラウドへのシフトを促進するとともに、SaaSオペレーションの効率化、オフショアの拡大、パートナー連携の拡大による収益力の改善にも取り組む。

 さらに、デジタルIDやDX事業の推進においては、NECが持つ生体認証を活用した航空(Aviation)分野や、国家安全保障や国民の安全、安心に対する各種ソリューションを提供するナショナルセキュリティやセーファーシティ事業に注力するという。

 欧州3社におけるSaaS・ソフトウェア事業の売上比率は、2020年度には69%であったが、2022年度には77%に拡大。オフショア開発の人員は、2020年度には26%であったものを、2022年度には29%に拡大する。

 「NEC Software Solutions UKでは、SaaS・ソフトウェア事業の比率はすでに8割を超えている。KMDやAvaloqも8割以上を目指す。一方、オフショアでは、インドの開発拠点を活用する。最終的には4割程度にまで高めるとともに、ポーランドなどでのニアショアの活用も進め、あわせて50%以上を実現したい」と述べた。

海底光ケーブルで1000億円の受注にめど

 DG/DFを含むグローバル事業は、そのほかに、DG/DFとともに成長領域に位置づける海洋システム、基盤領域とするワイヤレスソリューション、サービスプロバイダーソリューションで構成。収束領域とするエネルギー、ディスプレイは2021年度までに売却を完了している。

 2025年度には売上収益が5500億円、調整後営業利益は550~600億円を計画。営業利益率は10~11%を目指す。

グローバル事業の業績推移と中計目標

 NEC 執行役員副社長 グローバルBU担当の熊谷昭彦氏は、「これまでは収束事業による再編を進めてきたこともあり、売上収益は横ばいだったが、今後は成長を目指すことになる。また、営業利益は2021年度までの3年間で約500億円の損益ターンアラウンド実現。2025年度の4年間で約300億円の増益を目指す。ITソリューションと通信に集中し、真のグローバルカンパニーになる」と意欲をみせた。基本方針は、「成長事業への積極投資」、「基盤事業の収益性向上」、「グローバル経営の推進」の3点になる。

NEC 執行役員副社長 グローバルBU担当の熊谷昭彦氏

 DG/DFとともに、グローバル事業の成長を牽引するのが、海洋システムである。

 2021年度には、Facebook向けの大西洋横断海底ケーブル案件を受注。ここには世界初となる24ファイバーペア大容量海底ケーブルを採用。これが、APAC域外への展開に向けた足掛かりになると見ている。「2022年度内受注として1000億円を目指している。上期には日米間最大通信容量JUNO案件を受注するなど、すでに1000億円に近いところまできている。多心SDM技術によって大容量化ニーズに対応するなど、技術を差異化要因として事業を推進していく」と述べた。

海洋システム事業戦略

 また、サービスプロバイダーソリューションでは、Netcrackerのクラウド型ビジネスへの移行推進による収益性向上、光/IPではサービス型ビジネスへの移行推進を進めるほか、ワイヤレスソリューションでは、収益性重視の受注や生産コストの低減、サプライチェーンの見直しによる効率化に着手。パートナーシップ戦略の模索も進める。

 NECの熊谷副社長は、「グローバル事業は2万9000人の社員のうち、98%が外国人である。またGM職以上の外国人比率は31%となっている。グローバル社内公募の仕組みも構築を進めている。グローバルの人材をフル活用し、国にこだわらないグローバルチームとしてプロジェクトが遂行できる体制を敷くことで、事業の成長を目指す」と語った。
グローバル事業では「Profitable Growth & Globalization」を事業テーマに掲げている。

23年度以降に向けて準備を整えるグローバル5G

 成長事業の2つめであるグローバル5G事業は、2021年度の売上収益が前年比253億円増の670億円の実績となったが、2022年度は、1100億円の計画値を見直し、820億円へと下方修正。だが、2025年度の見通しは当初計画からは変更なく、売上収益1900億円、調整後営業利益率10%を目指す。

 説明を行ったNEC執行役員常務 ネットワークサービスBU担当の河村厚男氏は、「2022年度第1四半期に、国内5G需要の一部が2023年度にシフトしたこと、海外では上期に見込んでいた受注の期ずれがあった。だが欧州での受注が好調に推移しており、全体としての投資意欲に変化はないため、2025年度の計画は変更しない。パイプラインは計画通りであり、新たに2つの商用顧客を獲得した。Open RANの導入に意欲が高い顧客に、経営資源を集中していく。1顧客あたりのビジネスは毎年数十億円~数百億円規模を見込んでいる。2025年度まで10~15件の顧客を獲得し、中期経営計画を達成したい」と意気込んだ。

2025年度の目標および成果
NEC執行役員常務 ネットワークサービスBU担当の河村厚男氏

 商用案件としては、NTTドコモ、楽天モバイル、Telefonica、Vodafone、ドイツテレコムの5件を獲得。また、Orangeは、9月8日に、5Gスタンドアローン検証ネットワークとして、Open RANを構築したことを新たに発表。トライアル案件はこれを含めて23件に達している。また、プロスペクト(見込み)案件は30件に達している。

パイプライン拡大

 河村執行役員常務は、「Open RANのリーディングベンダーとして市場を牽引するため、2022年度までは積極的な投資を行い、2023年度からは投資回収による利益成長を実現させる。現在、国内で実績があるO-RU(基地局)を中心に顧客を獲得し、並行してソフトウェアプロダクトを拡充するための積極的な投資を実施している。5Gの本格展開は2023年度以降と見ており、基地局を制御するCU/DUや、インテリジェントな運用を可能にするSMO、ハードウェアとソフトウェアを組み上げるSIを含めて、5Gネットワークを構成するために必要なソリューションをNECが統合的に提供することで、ソフトウェアやサービス領域に軸足を置いたビジネスを実現し、高い利益率を達成する計画である」と述べた。

戦略概要

 現在、通信事業者の85%がOpen RANを導入する意向を示しているほか、商用稼働や購買段階の通信事業者が13%に達し、ラボ所有やトライアル中の通信事業者は35%を占め、今後1~2年で商用化が急速に進展する可能性がある。Open RAN基地局のグローバルでの需要は2025年まで年平均成長率30%以上で拡大すると見られ、Open RANの市場構成比も30%に達するという。すでに、日本をはじめ、欧州、米国、中国、オーストラリア、インドなど、20カ国以上で、36事業者が37件のトライアルおよび商用構築を実施している。楽天モバイルやDish Networkなどの新規参入事業であるGreenfield顧客の導入も目立つ。

 NECは、グローバル5G事業において、「オープン化による産業構造変革をとらえた5G事業のグローバル展開」を推進。Open RAN市場において、15~20%のシェアを獲得することが、NECが継続的に事業を進める前提になると見ている。

 それに向けて、2022年度は、3つの重点施策に取り組む考えを示した。

 ひとつめは、「Open RANの商用システムの構築により、さらなる市場形成を牽引しつつ、ポートフォリオの強化により提供価値の拡大を推進」することである。SI体制を拡充するとともに、市場ニーズに合わせた製品ポートフォリオを拡充。欧州市場での展開強化に加えて、高品質維持と安定供給により、日本市場での事業拡大を図る。

 2点目は、「顧客エンゲージメントにより、それぞれの領域を強化」することだ。製品ポートフォリオの拡充として、O-RUでは、各国の周波数に合わせて18機種を用意。それぞれのニーズに対応するほか、CU/DUではインテルやクアルコムとの連携を強化し、2022年度末には仮想化RANの本格的な拡販を開始する考えなどを示した。

顧客エンゲージメントにより、それぞれの領域を強化する

 そして、3点目は、「5G技術を兼ね備えたリソースをグローバルで拡充し、さらなる体制強化を実施」することだ。2022年1月には米Blue Danube Systemsを買収し、5G基地局の設計、開発素リースを獲得。2022年7月にはアイルランドのAspire Technologyを買収し、SIリソースを獲得している。

5G技術を兼ね備えたリソースをグローバルで拡充し、さらなる体制強化を実施

通信キャリアや企業のDXを支えるネットワークサービス

 NECのネットワークサービス事業は、グローバル5G事業とともに、国内キャリア向け事業、NEC Smart Connectivity事業で構成する。

 ネットワークサービス事業全体では、2025年度に売上収益7000億円(2021年度実績は5115億円)、調整後営業利益率10%(同7%)を目指す。そのうち、国内キャリア向け事業およびNEC Smart Connectivity事業は、2025年度に売上収益で5100億円を目指している。

 「ネットワークサービス事業全体では、グローバル5G事業の拡大に向けた戦略的費用の増加により、2021年度および2022年度は、一時的に営業利益率が低下するが、2023年度以降は回収フェーズに入り、10%の営業利益率を目指す」という。

5G技術を兼ね備えたリソースをグローバルで拡充し、さらなる体制強化を実施

 2022年度は当初計画に比べて売上収益で450億円減、調整後営業利益では150億円減としたが、「国内外の5G事業およびIT事業において、一部顧客の投資動向が慎重であることを踏まえて、リスクを考慮した。海外では2Gや3Gなどのレガシーインフラを持つBrownfield顧客でのOpen RAN検証の遅れがあり、5Gの立ち上がりは4Gよりも緩やかである。だが、堅調な投資が予想される国内通信事業者を主軸に、戦略的部材の確保により、確実なデリバリーを行い、業績の巻き返しを図っている。政府の5G導入促進税の延長などの後押しも期待できるほか、欧州顧客での商用、トライアルの実績、構築や検証支援による市場停滞の解消および需要喚起を進める」と述べた。

 国内DXの実現、通信の価値拡大、海外の市場拡大により、売上収益は年平均3~8%増で成長させ、高付加価値事業の拡大、グローバル5G事業の収益性向上により、利益率10%を目指すという。

中期経営計画の実現に向けて

 ネットワークサービス事業の収益基盤となっている国内キャリア向け事業では、顧客事業基盤の知見を生かして顧客エンゲージメントを強化するとともに、モダナイゼーションによる提供価値の拡大により、経営効率化に貢献することを目指す。

 「基幹ネットワークの提供や業務システムの構築、運用サポートを継続的に提供する一方で、顧客のDX実現のための基幹系システムプラットフォームに注力したい。DXに対する投資は10%近い成長率であり、同等以上の成長を目指し、2025年度には全体の2割の売上構成比を目指す。また、Beyond 5GやIOWNなどの将来ネットワークの実現に向けた新たな通信技術やカーボンニュートラルの実現にも取り組む」とした。

国内キャリア向け事業

 また、キャリア向け事業で培ったアセットとノウハウを生かして、産業DXの実現に向けて展開するNEC Smart Connectivity事業では、ローカル5Gの商用サービスの本格化に向けた実証実験を拡大。製造、建設業を中心に、ローカル5Gによるバーティカルメニューや製品ポートフォリオを拡充。通信とITの融合による実績を武器に、OTまでを含めた産業DXを支えるエンドトゥエンドの提案を通じて、NECの強みを訴求していくという。ここではリカーリングモデルの拡充にも取り組む考えだ。

NEC Smart Connectivity事業

想定通りの進捗をみせるコアDX事業

 一方、コアDX事業については、NEC 執行役員副社長兼CDOの堺和宏氏が説明した。

 コアDX事業は、2021年度の売上収益1802億円、営業利益率マイナス2%を、2025年度に売上収益5700億円、営業利益率13%を目指す成長事業であり、コアDXをテコに、NEC全体のベース事業を変革し、国内IT事業の利益率改善を目指している。

 「2022年度は売上収益2200億円を目指す。当初計画の目標で活動しており、想定通りでの進捗である」と述べた。

事業概要
コアDXの業績推移
NEC 執行役員副社長兼CDOの堺和宏氏

 コアDX事業を構成しているのは、コンサルティング起点ビジネス、共通基盤、新事業機会である。

 コンサルティング起点ビジネスでは、アビームコンサルティングを中心とした事業であり、NECとのシナジーにも取り組んでいる。2021年度の売上収益はアビームコンサルティングが992億円、NECグループとのシナジーは12億円となり、合計で1004億円となっている。これを2025年度までに1650億円に拡大。調整後営業利益率は12.9%を目指す。「2021年度は、経営アジェンダにフォーカスしてアプローチする顧客を7社、具体的案件をベースにアプローチする顧客として7社を選定した。シナジービジネスの拡大も図っていく」という。

コンサルティング起点ビジネスの業績推移

 共通基盤では、2021年度の売上収益625億円、調整後営業利益率マイナス17%を、2025年度には売上収益2300億円、調整後営業利益率13%にまで引き上げる。

 「共通基盤は、2021年度に発表したNEC Digital Platformに位置づけられる製品、サービス群と、それに付随するプロフェッショナルサービスやアウトソーシングサービスで構成。生体認証やAIといったNECの独自技術で展開する領域と、クラウドプロバイダーとのアライアンスを中心に製品、サービスを提供する領域があり、ハイブリッドITとしての品ぞろえを引き続き強化していく。また、これらのアセットを組み合わせたオファリングスイートにより、より高い価値を提供していく」と述べた。

共通基盤の業績推移

 共通基盤の売上収益のうち、NEC Digital Platformが74%を占め、残りの26%がNEC Digital Platform関連やプロフェッショナルサービスやアウトソーシングサービスが占める。また、NEC Digital Platformの内訳ではIaaSが36%、PaaSが19%、セキュリティが19%、SaaSが17%となっており、「現状では、リフト&シフトの案件が多いことが影響している」と述べた。

 一方、DX分類別の構成比率では、DXの初期段階であるデジタイゼーションが81%、デジタライゼーションが15%、デジタルトランスフォーメーションは4%にとどまっており、「市場の実態に合っていると見ている。今後は、デジタライゼーションやデジタルトランスフォーメーションへの投資が増加することになる。これらの領域を強化、拡大していく」と述べた。

共通基盤の内訳

 さらに共通基盤では、マルチクラウド戦略におけるアライアンスを強化していることに触れ、AWS関連では、2020年11月に掲げた3年で3000人の認定資格取得を1年前倒しで達成。Microsoft Azureについては、NECの印西データセンターにおける専用プライベートネットワークファイバー接続を開始。SCSKとはデータセンターに関わる協業を強化し、SCSK NECデータセンターマネジメントを設立した。

 「AWSは基幹領域のクラウドとして活用し、AzureはOA領域のクラウドと位置づけ、NEC自らもOpenStackベースのクラウドサービスを提供している。政府系のクラウドビジネスに対しては、国産クラウドの強化によって差別化しつつ、AWSやAzureが導入されることを想定した準備も進めている」とした。さらに、「グローバル視点で、先進的なクラウドサービスベンダーとのアライアンスを積極的に進めていくことも考えている」と述べた。

 新事業機会では、これまで共通基盤のなかに含めていたDigital IDと、コンサルティング起点ビジネスに含めていたDigital Process Innovationを統合。これに、スマートシティとインフラ協調モビリティを含めた4つの事業で新事業機会を構成している。新事業機会全体では、2021年度には173億円であった売上収益を、2025年度には1750億円にまで拡大させる。

 Digital IDは生体認証技術を活用したID管理を軸に展開。各種サービスへのアクセス、業種ソリューション展開、蓄積されたデータをAIで分析し、新たなサービスを創出することに取り組んでいる。「生体認証による『顔パス』の利用提案が進んでおり、2021年度は空港やビル、ホテル向けにビジネスが立ち上がっている。売上収益は前年比倍増の83億円を計上した。今後は、さまざまな業種に対して新たな顧客価値を提案し、ビジネスを拡大する」と述べた。

 Digital Process Innovationでは、さまざまな業種サービスで利用される設備に着目し、これらをデジタル化。高度なBPOサービスを提供するという。流通分野では、店舗の冷蔵庫や空調、コピー機などの設備、製造業では工場の生産ラインやファシリティ、通信事業者では基地局やネットワーク装置などを対象に、設備の調達、設置、撤去、メンテナンス、稼働管理、パワーマネジメントなどをデジタルで把握して、効率的なアウトソーシングサービスを提供することを目指している。2021年度の売上収益は、前年比倍増の84億円となっており、今後も継続的な事業拡大を目指す。

 スマートシティでは、政府が掲げるデジタル田園都市国家構想により、スマートシティへの注目が高まるなか、NECが推進するFIWAREをベースとした都市OSを提供するなど、これまでにも多くの自治体支援の実績を持つノウハウを生かす。2022年5月に設立した官民連携のスマートシティ社会実装コンソーシアムにはNECが発起人として参画し、社会実装に向けた地盤づくりにも貢献している。「スマートシティは、徐々に売り上げを積み上げていける段階にあるが、本格的なビジネス拡大は2024年ごろと考えている」とした。2025年度には、スマートシティビジネスにおいて、200自治体への展開を目指す。

 インフラ協調モビリティでは、官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)のひとつである「令和3年度交通信号機を活用した第5世代移動通信システムネットワークの整備に向けた調査検討」にNECが参画。2022年8月には、「交通インフラDX推進コンソーシアム」の設立に、発起人の1社として参画した実績を強調。「技術面、ビジネス面から、社会実装の準備を進めている。2024年度から事業の本格化を想定している」と述べた。

新事業機会の業績推移

 また、DX人材の育成についても説明した。

 NECでは、2025年度に1万人のDX人材の育成および獲得を推進しているところだ。対象としているのは、コンサルタント、アーキテクト、アジャイルエンジニア、データサイエンティスト、クラウド系人材、生体認証・映像分析人材、サイバーセキュリティ人材の7つの領域となる。

 2022年3月末時点で5874人のDX人材がNECに在籍。そのうち50%がクラウド系人材、16%がデータサイエンティスト、11%が生体認証・映像分析人材となっている。今後、年間15%増でDX人材を増やし、「事業領域の拡大とともに、コンサルタント、サイバーセキュリティ、アジャイルエンジニアを積極的に拡大、育成を進めていく」と述べた。
なお、1万人の計画のなかにはアビームコンサルティングのDX人材は含まれていない。

DX人材の育成状況

国内IT事業は成長基調へと好転

 一方、国内IT事業は、2025年度に売上収益1兆6000億円(2021年度実績は1兆2800億円)、営業利益率12.5%(同8.5%)を目指している。

 「2021年度はGIGAスクールの反動や、部材不足や材料費高騰の影響があり、パブリック分野や中小企業および地域ビジネスが厳しい内容になった。だが、SIサービスやエンタープライズ領域は好調に推移した。2022年度については減収要因の多くが解消すると見ており、再び成長基調に戻る。2022年度は増収増益の目標とし、2025年の計画にも変更はない」とした。

 ベース事業については、2021年度に低収益事業への対策やSI・サービス事業の利益率が好転したことにより、調整後営業利益率が向上。2022年度もSI・サービス事業の好調が継続すると見ている。

 国内IT事業のうち、金融業、製造業、流通・サービス業などの民需向けにITソリューションを提供するエンタープライズ事業は、2025年度に売上収益で6000億円(2021年度実績は5747億円)を目指すことを新たに公表。調整後営業利益率は当初計画通りに13%(同10.0%)を目指す。

エンタープライズ事業の目標数値

 NEC 執行役員常務 エンタープライズBU担当の松原文明氏は、「2021年度は、売上収益、調整後営業利益ともに、期初計画を大きく上回った。好調な足元の業績を踏まえ、2025年度は売上収益6000億円を目指す。エンタープライズBUは、NECの収益の柱を担っている」とした。2022年度は収益改善にフォーカスする計画であり、2022年度第1四半期は、売上収益、調整後営業利益ともに当初計画を上回る実績になっている。

NEC 執行役員常務 エンタープライズBU担当の松原文明氏

 エンタープライズ事業では、従来型のシステム開発、運用による「トラディショナルIT」、企業ITのアップグレードサービスの「モダナイゼーション」、革新的デジタルビジネスを支える「デジタルサービス」の3つに分類。「NECが注力していくのは、トラディショナルIT主体から、モダナイゼーション主体の事業構造へとトランスフォーメーションすることである。将来的には、これがデジタルサービスの拡大にもつながる。2025中期経営計画では、先々の成長につながる事業構造変革が戦略の骨子になる」と位置づけた。

戦略方針を達成するための施策

 その一方で、低収益事業のターンアラウンド、SIモデル変革、経営課題起点の案件創出、人材投資と最適配置の4点を戦略方針達成のための施策とし、「営業利益率7%に満たない低収益事業が存在し、改善が難しい事業は縮小、撤退を含めて断行し、高収益事業への選択と集中を実行する。また、SIの高度化とオファリングでのビジネス展開を加速する。さらに、業界リーディング企業との戦略パートナープログラム(SPP)を通じて、モダナイゼーション案件を創出し、デジタルサービスの拡大にもつなげる。国内最大規模のクラウド人材と、ハイパースケーラーをはじめとした幅広いパートナーシップ、業界トップ企業を中心とした顧客基盤、NECが持つプロジェクト管理力を生かし、競争優位性を最大限に高めたい」と述べた。

経営課題起点の案件創出

不採算事業の改善に取り組む社会公共と社会基盤

 社会公共事業は、国内の地方公共団体、医療機関、交通機関、エネルギー事業者、中堅企業を対象にビジネスを展開。2022年度からは、新たに放送メディア事業者向けビジネスを社会基盤事業から移管した。それに伴い、2025年度の売上収益は5000億円(2021年度実績は4426億円)、調整後営業利益率は10%(同8%)を目指す。

経営課題起点の案件創出

 2021年度は都市インフラや中堅企業向け事業の売上収益が減少して悪化。2022年度も大型案件の商談時期のずれが生じたことにより、調整後営業利益では、期初計画から100億円減の370億円に下方修正した。

 NEC 執行役員常務 社会公共BU担当の雨宮邦和氏は、「不採算事業の改善、品質改善活動の継続、SGA(販売費および一般管理費)の削減による収益性のさらなる向上、営業改革や都市インフラ事業の構造改革、組織間の連携強化による抜本的な事業構造改革に取り組む。自治体向けでは市場成長を上回る伸びを計画。消防や防災、空港、鉄道、道路、エネルギー、放送メディアによる都市インフラ事業領域も今後の成長を牽引する役割を担うことになる」とした。消防指令システムの共同化や広域化に向けた案件、放送メディアの大型案件などの獲得が見込まれているという。

市場環境と成長の方向性
NEC 執行役員常務 社会公共BU担当の雨宮邦和氏

 「NECが持つ強固な顧客基盤を生かし、これらの顧客に対して新たな提案を推進。パッケージを中心にしたカスタマイズの最小化や、必要な業務システムを組み合わせる先進的なシステムアーキテクチャーによる提案、個別対応の極小化やSIレスによる業務改革を推進するモデル化SIによってオファリングメニューを整備し、自治体、医療、中小企業を対象にした事業拡大を図る」という。

 特にDXオファリングでは、「業務を熟知したコンサルティング、既存システムを含めたDX化、圧倒的なコスト競争力を核にして、高収益事業化を図る」とした。

行政DXオファリングメニュー

 社会基盤事業は、官公庁や航空宇宙防衛などの国家機関や関連機関向けのプロダクトとSI・サービス事業を担当。入国管理システムや運転免許システム、日本郵政向けシステム、税および社会保障関連システムのほか、航空管制システム、艦艇ネットワーク、自衛隊の通信ネットワーク、衛星通信・地球観測、サイバーセキュリティなどで実績を持つ。事業構成比は約4割が官公領域、約6割が航空宇宙防衛領域となっている。

 NEC 社会基盤事業 執行役員常務 社会基盤BU担当の山品正勝氏は、「NECの社会基盤事業は、日本の国民が安全、安心で、快適に暮らせる社会インフラを安定的に供給する役割を担っている。2025年度に向けては横ばいの事業計画であったが、これを見直すとともに、成長への意識改革を推進し、成長する事業体へと変化させていく」と述べた。

NEC 社会基盤事業 執行役員常務 社会基盤BU担当の山品正勝氏

 新たな計画では、2025年度の売上収益は4750億円とし、2022年度からの年平均成長率は6%、調整後営業利益率は2021年度実績の10%から、2025年度には12%へと引き上げ、調整後営業利益は560億円を目指す。また2022年度は、航空防衛システムなどの大型案件を中心にした売上拡大と不採算案件の減少により増収増益を見込み、あわせて当初見通しを上回る実績になるという。

社会基盤事業の業績推移と中計目標

 「2022年度は、官公庁向けには成長分野への投資、上流コンサルの強化、DX人材の増強を図り、航空宇宙防衛では3つの事業部門と1つの営業本部を束ねた骨太の事業戦略を策定するとともに、将来事業への投資を加速。ドローンや水中通信などのゲームチェンジャー技術にも取り組む。また、プロマネ有識者による特別プロジェクトチームを発足し、リスク回避を強化。初物案件の不採算化を阻止する活動にも取り組む」とした。

 不採算額は、2022年度計画で、2019年度から半減する30億円にとどめる。「2021年度の不採算額は63億円となり、売上高比では1.6%と大きな規模に達した。要注意プロジェクトは受注段階からマネジメントを強化し、状況悪化プロジェクトはプロジェクト状況の早期検知と改善促進を図る。2025年度には不採算額の売上高比を0.6%にしていく」と述べた。

不採算案件の抑制への取り組み

 その一方で、官公の領域では行政のデジタル化の加速が見られるほか、航空宇宙防衛領域では、ウクライナ情勢の影響もあり、安全保障や経済安全保障に対する重要性の向上から、社会基盤事業にとっては追い風が吹く状況となっている。

 「官公領域は新規事業比率が増加し、航空宇宙防衛領域はリプレースおよび新規案件比率が確実に伸長している。官公領域では、モダナイゼーションやアプリケーションサービス、データ基盤による行政DXの受注が拡大。市場全体の18%のシェア獲得を目指す。航空宇宙防衛領域では、ウサデン(宇宙、サイバー、電磁波)やハイブリッド防衛にNECはいち早く取り組んでおり、セキュリティ技術やSI技術の強みを生かすことができる。新たな時代の防空システムを実現するのはNECである。中期経営計画のなかでは、航空宇宙防衛領域における新たな戦略も検討している」などとした。

 官公領域では、介護情報を収集、蓄積し、AIを用いて分析するためのデジタルデータ基盤をもとに、科学的裏づけに基づいた介護により、利用者の要介護状態などを軽減し悪化防止を行う「科学的介護情報システム」の開発実績について説明。また、航空宇宙防衛領域では、40機以上の衛星を打ち上げ、自社衛星も運用している実績や、地上防空システムでは国内ナンバーワンのシェアを持つほか、人工衛星間の超高速光通信を実現し、宇宙空間における次世代通信インフラの構築に貢献していく考えも示した。

官公領域の強化
航空宇宙防衛領域の強化

クラウド化でも収益、粗利を維持する姿勢を打ち出す

 NECでは、収益改善に向けて、SIモデル変革に取り組んでいる。

 NECのベース事業において、柱となってきたスクラッチ開発による「工数SI」を見直し、「SIモデル化活動」と、「バリュープライシング活動」の軸から改革を推進しているところだ。

 SIモデル化活動では、クラウド、AI、セキュリティなどのプラットフォーム領域と、業種ノウハウ領域において、パターン化、自動化、プラットフォーム化の検討を進めている。また、バリュープライシング活動ではアウトプットに対する値づけ、アウトプットから得られるビジネスバリューによる値づけの取り組みも検討しているという。

 NECの堺副社長は、「SIモデル化活動は、プロジェクト全体の1割程度で進んでいる。バリュープライシング活動はまだこれからであるが、SIモデル化のうちの2割程度では活動の成果が出ている。今後、この2つの取り組みの成果となるオファリングを強化することに力を注ぐ。モニタリングを強化しながら改善を進める」と述べた。

収益性改善に向けたSIモデル変革の取り組み

 また堺副社長は、アナリストの質問に答える形で次のようにも述べた。

 「オンプレミスからクラウドに移行しても、ビジネス規模は維持されるだろう。メインフレームは利益率がいいと言われるが、エンタープライズ領域では、オンプレミスから移行した場合に、機器だけでなく、周辺のプロフェッショナルサービス、アウトソーシングサービスが必要になり、サービス事業の拡大が可能になる。売上収益だけでなく、利益率もキープできる。メインフレームなどの製品開発にはコストがかかる。サービス化したほうがオペレーションコストで見て利益率がキープでき、もしかしたら好転することもできる」とした。

 NECではメインフレーム事業の継続を明らかにしているが、中期経営計画のなかでは、オンプレミスからクラウドへの移行を促進しても、売上収益、利益率ともに維持できるとの考えを示した。