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NECが社内DX推進体制を発表、CEO直下のTransformation Officeを立ち上げ

最先端のノウハウをユースケースとして顧客に提供へ

 日本電気株式会社(以下、NEC)は14日、コーポレート・トランスフォーメーションの取り組みについて説明。CEO直下のTransformation Officeを新たに立ち上げ、社内DXを推進していく姿勢を示した。

 NECは5月12日に発表した「2025中期経営計画」において、コアDX、社内DX、社会DXを経営改革の中核に設定。今回発表したコーポレート・トランスフォーメーションは、社内DXの取り組みに位置づけられる。NECでは、この取り組みに500億円超の投資を行い、コーポレートインフラを再構築。経営基盤と人材の高度化を進め、ビジネスアウトカムの創出につなげるという。

コアDX・社内DX・社会DXを経営の中核に設定

 NECの森田隆之社長兼CEOは、「NECが、最先端のDX(デジタル・トランスフォーメーション)、CX(コーポレート・トランスフォーメーション)のリファレンスとなり続けるためにプロジェクトを立ち上げた。これを牽引するための役割を担うのが新設したTransformation Officeである。コーポレートと事業の双方のトランスフォーメーションを推進するためのコックピットとなり、『IT』だけでなく、『プロセス・組織』、『データ・人』を加えた三位一体の改革に挑む」とした。

 また「NECがDXを推進することで、最先端のノウハウをユースケースとして顧客に提供していく」とし、「これについては近いうちにあらためて発表する」と述べた。

NEC 代表取締役 執行役員社長兼CEOの森田隆之氏(提供:NEC)

Transformation Officeで約150のサブプロジェクトも遂行

 Transformation Officeでは、約150のサブプロジェクトも遂行する考えを示した。

 Transformation Office長に就任したNEC 執行役員常務兼CIO兼CISOの小玉浩氏は、「Transformation Officeが目指すのは、今後の100年を作る変革のDNAをコーポレートインフラに組み込む『DNA for the Next Generation』である」と前置き。「コーポレートインフラの再構築を行い、事業、経営、社員の高度化を進め、KPIを設定し、ビジネスアウトカムの創出につなげていく」と、今回打ち出したコーポレート・トランスフォーメーションの狙いについて述べた。

Transformation Officeの立ち上げ
NEC 執行役員常務兼CIO兼CISOの小玉浩氏

 同社のコーポレート・トランスフォーメーションの基本コンセプトは、「Resilience ×Agility(レジリエントとアジリティの両立)」とし、「Corporate Transformationと Customer Experienceの2つのCXを目指す。標準化できる領域は徹底的に標準化し、データが持つ価値を高めるために企業ベースレジストリを構築する。外部環境の変化や経営の柔軟性、事業間シナジー、社員の多様性を尊重し、社内外のコラボレーションによる創造性促進の仕組みもあわせて持つ。これをコーポレートインフラに標準化し、横展開することで、経営、事業、社員が進化するValue Good Cycleをまわす」などと話している。

Resilience×Agility

 また、この取り組みを、「人」に例えて説明。「心臓が企業ベースレジストリ、データが血液、頭脳が働き方改革、骨格やボディが組織機能、強さを作る筋肉がIT、すべてに共通するDNAがコーポレートインフラになる」と表現した。

 心臓と表現した企業ベースレジストリについては、「大量のデータを、整理、整頓するものであり、すべてのデータの基本思想になる」とし、「財務、非財務の関係性を整備し、同じ思想でつなぎあわせ、各機能を事業横断で使える環境を整理した上で、AIと組み合わせ、標準化、高度化されたインフラと、事業、社員の力を引き出し、競争優位性の構築につなげる」という。

 さらに「迷ったときに立ち戻り、データ価値を最大化するための基本原則(プリンシプル)を設定。人を中心にとらえるとともに、データを統制するために、One Data、One Fact、Once Only、データリネージュなどを定めている」とした。

社内DXの推進に向け5つの改善施策を推進

 また社内DXの推進に向けて、「E2E(エンド・トゥ・エンド)データドリブン経営」、「コーポレート機能改革リデザイン」、「SmartWork2.0」、「次世代デジタル基盤改革」、「グローバルパートナーとの連携強化」という5つの改善施策を推進する考えも明らかにした。

5つの改善施策

 このうちE2Eデータドリブン経営では、これまで営業、経理・財務、調達、人事ごとに分かれていた制度、プロセス、機能、ITをデータレイクによって一元化してきたが、データ本来のポテンシャルが引き出せていないと反省。One Dataのプラットフォーム上に、財務、非財務のデータを統一して利用できる新たなアーキテクチャを採用した。またリアルタイム性やデータの相関性、未来予測、リスクのアラートなどによる経営基盤の高度化を実現し、経営人材の高度にもつなげるという。

E2Eデータドリブン経営

 次のコーポレート機能改革リデザインでは、コーポレート機能を「経営戦略機能」、「ビジネスパートナー機能」、「本社SSC(シェアサービスセンター)機能」、「事業SSC機能」に分類して、機能を分けることでAgilityによるしなやかさと、Resilienceによる強さを実現する。さらに貢献利益制度の導入により、コーポレートガバナンスも再構築した。これにより、データドリブン経営の加速と人材の高度化を進めるという。

 このほか、データ統制の強化のために、新設したTransformation Officeがマスターオーナーとなり、これまでの機能別プロセスで進めてきた標準化、横断的立場から統制するという。ここでは、構造的課題解決が必要な主要横断テーマについては、担当役員を設定し、グループ一体で進めていくとした。

コーポレート機能改革リデザイン

 3つ目のSmart Work2.0では、2018年から進めているカルチャー変革のひとつである働き方改革(Smart Work)によって、オフィス改革、制度改革、IT革命を行い、テレワーク達成率が85%、1人あたりウェブ会議数が3万1000回、スマートな働き方実践度が64%、業務効率化の進捗実感が41%に高まったことに触れながら、「働きやすい環境は整ったが、今後は、次のステージとして、働きがいの向上に取り組む。信頼、挑戦、成長、誇りの4つの経験をサポートする『働きがい創造モデル』を策定して、社員の自律的なキャリアデザインを可能にし、『NECで働きたい』と思われる環境を醸成する」と述べた。

 ロケーションフリーやコミュニケーションハブ、共創空間などにより、最適な時間に、最適な場所で、最高のパフォーマンスが出せる環境を整備する考えを示したほか、「働きがい創造モデル」については、Well-being by DesignとSecurity by Designの2つのデザイン手法を採用。「安心、安全に、生き生きと働ける要素を常に意識し、それをデザインに組み込んでいく。このワークプレイスを利用すると自然に社員が自律化する環境を、テクノロジーの力で作る」などとした

Smart Work2.0の進化

 4つ目、次世代デジタル基盤改革では、2019年度に策定した「NEC DX Agenda」により、12種類のコンポーネントに体系化し、それぞれを有機的につなぎ、DXサイクルを実行していることを紹介。そのなかから、「デジタルコアプロセス」と「データマネジメント&インサイト」について説明した。

 データを中心に据え、全体最適なビジネスを実現するシームレスな基盤である「デジタルコアプロセス」では、SAP ERPをグローバルに社内展開し、1400システムあったものを700システム強に半減。コスト削減とグローバルガバナンスの強化を実現した。今後は、データを中心とした経営戦略へと移行する次世代基幹システムに変革すると述べた。

次世代デジタル基盤改革――企業価値を高めるエンタープライズアーキテクチャ

 次世代基幹システムは、Core、Side By Side、Experience、One Dataの4つのコンポーネントで構成される。「Fit to Standardにより、ベストプラクティスにあわせるCoreと、付加価値を組み込みアジャイルに競争力を強化するSide By Sideによって、制度や業務プロセスの変更に柔軟に対応。ユーザーの思考と連動したExperience、データの価値を引き出すOne Dataにより、デジタルレイバーやデジタルワークフローなどを通じて、創造性を発揮しやすく、思考と連動した使いやすいUIを実現。システムの能力を最大限に引き出せるようにする。標準化と高度化、データ活用で時間を創出し、社員が、人ならではの付加価値を出せる仕事にフォーカスできるようになる」とした。

 また、社内外のあらゆるデータから自動で付加価値やインサイトを提供できる統合データ基盤「データマネジメント&インサイト」では、One Data化したプラットフォームにより、AIを活用し、意思決定と生産性向上のためのインサイトを提供する。

 「これまでのデータ活用は、蓄積と可視化、人による加工と意味解釈が必要であり、結果として、人の能力や予見に左右される部分があった。今後は、ワンスオンリー、ワンソースで、必要な時に必要なデータにアクセスでき、データクレンジングにかかる時間とオペレーション時間を圧倒的に削減できるようになる。データプラットフォームのゲームチェンジを実現する」と述べた。

 モダナイゼーション分野での取り組みも進んでいる。NEC DX Agendaに基づき、基幹システムのSAP S/4HANA化が進み、クラウドへのリフトが完了。700超の社内システムの19%がモダナイゼーション済みであり、基幹システムのTCOを30%削減したという。今後は、モダナイゼーション実行のためのフレームワークと、先進のエンジニアリング手法の採用、新たな技術や概念をアジャイルに取り組むこむことで、2025年までに、700超の社内システムをモダナイゼーションする。

 最後の5つ目、グローバルパートナーとの連携強化においては、コーポレートインフラ改革でAmazon Web Services(AWS)、SAP、ServiceNowと連携。働き方改革ではMicrosoftと連携していることを示した。

 米Microsoft マイクロソフトソリューションズ コーポレートバイスプレジデントのCorey Sanders氏は、「NECとは、日本市場において、長年に渡って変革に取り組む企業を支援してきた。働き方改革と日本におけるDXを、ともに促進することを楽しみに思っている」とコメント。

 AWS パートナー開発部門長のDoug Yeum氏は、「NECとは戦略的パートナーシップを構築してきた。NECにおけるAWSへのSAP移行は、両社の戦略的関係を強調する重要な機会であった。この価値を顧客にも届けることができる」と話す。

 SAPのCFOであるLuka Mucic氏は、「定期的な対話が、トランスフォーメーションの成功につながっている。プロセスや組織を変えて実現した価値を、顧客のために作りあげることができた」と発言。ServiceNowのCEOであるBill McDermott氏は、「NECの新たな歴史のタイミングでパートナーになれたことがうれしい。ビジネス価値を増大させ、カスタマーエクスペリエンスを進歩させるために、NECのDXを支援する」と述べた。

グローバルパートナーとの連携強化

 一方、NECでは、こうした取り組みの成果を、顧客に対するオファリングとして提供する考えも示している。

 具体的には、NECのモダナイゼーション実施経験をコンサルメソドロジーへと応用。上流コンサルティングから、構築、運用、保守までを提供する。また、NECグループ社員10万人が実践してきた働き方改革である「NECデジタルワークプレイス」を、as a Serviceとして提供する。

 「デジタルHUBにインテリジェンスを集め、NECの社内実践による、生きたナレッジを、オファリングとしてパッケージ化し、顧客に提供する。市場からのフィードバックをオファリングに取り込み、常に進化する好循環エコシステムを形成する。変革のDNAを、徹底的に作り込んだコーポレートインフラの高度化を通じて、顧客、社会のDXを牽引していく」と述べた。

社内のリファレンスから、顧客のビジネスの進化につながるオファリングを提供

 なお会見のなかで森田社長兼CEOは、平井卓也デジタル改革担当大臣による東京オリンピック/パラリンピック向けアプリの開発委託を巡る発言について、記者の質問に答える形でコメントした。

 「発言は、直接聞いたものではない。発言はあるところで切り取られたり、状況がわからなかったりするなかで、言葉がひとり歩きすることもある。前後の文脈を承知していないなかでコメントすることは適切ではない」とする。

 一方、「今回の案件は、特殊な状況にある。海外から一般来場者が来られなくなるなかで、われわれが想定したものとはかなり違う状況になった。政府も対応に苦慮したといえる。共同事業体として相談を受け、どんな対応策が取れるかといった点で協議を行った。その結果、今回の契約変更が関係者全員にとっていいということになった。NECは、中央政府や地方自治体のシステムについても、安心、安全を提供していくことを使命としており、顔認証技術は世界一の技術として使ってもらえるものである。技術力と運用における信頼をしっかりと提供していく。NECは、政府にも使ってもらえるように努力するだけである」と語った。