大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ

NECが2024年度のIR Dayを開催 2025中期経営計画の進捗状況や最終年度に向けた取り組みを説明

 日本電気株式会社(以下、NEC)は7日、機関投資家および証券アナリストを対象にした「NEC IR Day 2024」を開催。各事業の責任者が2025中期経営計画の進捗状況などについて説明したほか、最終年度に向けた取り組みについても明らかにした。

 また、同社が打ち出した価値創造モデルであるBluStellar(ブルーステラ)に関しても時間を割いて説明。2022年度には2376億円だったBluStellarの売上収益を、2025年度には4935億円に伸ばし、営業利益率を11.4%に拡大する計画を初めて明らかにした。

 NECでは、2025中期経営計画として、2025年度に売上収益で3兆5000億円(2023年度実績は3兆4773億円)、調整後営業利益で3000億円(同2236億円)、Non-GAAP営業利益が3000億円(同2276億円)、Non-GAAP当期利益が1850億円(同1778億円)、EBITDAで4250億円(同3795億円)、ROICでは6.5%(同5.0%)を目標にしている。

 NEC 取締役 代表執行役 Corporate EVP兼CFOの藤川修氏は、「2025中期経営計画は、順調に進捗している。収益性改善を加速し、引き続き計画達成を確実なものにしていく」と述べた。

NEC 取締役 代表執行役 Corporate EVP兼CFOの藤川修氏

 NECでは、2024年5月に、新たな価値創造モデル「BluStellar」を発表。これを中期経営計画達成に向けたキードライバーと位置づけ、DX事業をさらに加速する姿勢を示している。

 BluStellarでは、企業の経営変革の目標を実現するために、構想策定からシステム構築、運用まで、エンドトゥエンドのサービスを提供。NEC自らの変革の知見や、アセットをモデル化し、それを支える技術を標準化および共通化することで、オファリングとして提供。NECが持つ人材によって顧客を支援する体制を敷いている。

 BluStellarは、2025年度の売上収益で4935億円(2023年度実績が3758億円)を計画。そのうち、NEC Digital Platformと呼んでいた「BluStellar商材」が3285億円(同2261億円)、アビームコンサルティングを中心とした「コンサルティング起点ビジネス」では1650億円(同1269億円)を計画。BluStellar全体の調整後営業利益率は11.4%を目指すことになる。

 また、国内ITサービス事業におけるBluStellarの売上収益は2025年度に4288億円(同3357億円)を計画しており、国内ITサービス事業の25%を占めることになる。

BluStellarは、全社の中期経営計画達成に向けたキードライバー
BluStellar事業サマリ

 パブリックビジネスユニットの売上収益におけるBluStellar比率は、2022年度には6.4%だったものを、2025年度には13.5%に、エンタープライズビジネスユニットでは11.3%だったものを25.7%に拡大する計画も明らかにした。いずれのビジネスユニットにおいても全体の年平均成長率は5%強であるが、BluStellarだけを見ると、それぞれのビジネスユニットにおいて34.3%、38.4%と高い成長を見込んでいる。

 NEC 執行役 Corporate SEVP兼CDOの吉崎敏文氏は、「BluStellarの事業領域は、2021年度までは赤字だったが、2022年度からは黒字化し、2023年度もプラス成長を続けている。国内IT市場の伸びと、NECのトランスフォーメーションの推進により、BluStellar事業全体で、中期経営計画で当初掲げた目標を上回る成長となっている。軌道にはしっかりと乗っている」と、これまでの取り組みを総括。

 「BluStellarの調整後営業利益率は2025年度に11.4%を目指すが、この目標は途中経過にすぎない。ITサービス全体の調整後営業利益率は12%であり、いまはそれよりも低い水準だが、BluStellarには、まだ投資コストがかかっている。これを除けば利益率は高い。高収益化やオファリング化、プラットフォームの標準化によって利益率はまだ伸ばせる」と述べた。なお、BluStellarには、これまでに3桁(数百億円)の投資を行ってきたという。

NEC 執行役 Corporate SEVP兼CDOの吉崎敏文氏

 また、「BluStellar商材は、2024年度第1四半期の受注額が前年同期比75%増、売上収益が同17%増となり、順調である。2025年度に向け、市況やマーケット、ビジネス全体の状況を踏まえて、受注残の積み上げを加速していく。BluStellar商材の高収益化も着実に進めていきたい」と語った。

BluStellar商材の業績推移

 BluStellar商材では、金融や製造、公共、テレコムといった各業種におけるDX化の加速とオファリングの適用拡大による「売上増」、AIやコンサルティング、セキュリティなどでBluStellar商材全体の5割以上を目指す「高収益商材へのシフト」、システムフレームワークへの生成AIや自動化ツールの活用などにより、個別SIを極小化。SIモデルの変革や費用低減による「収益改善施策」を通じて、利益率向上を図る考えだ。

売上増による収益拡大
高収益商材へのシフト

 さらにセキュリティについては、多様な情報源から網羅的に収集し、構築した独自の脅威データベースを活用。ここに生成AIを組み合わせることで、サイバーインテリジェンスの生成時間を約50%短縮し、信頼性の高いインテリジェンスを迅速に得ることができると発言。この成果を、BluStellar商材によるセキュリティ提案に生かしているという。

 一方で、コンサルティング起点ビジネスは、アビームコンサルティングの成長に加えて、グループシナジーによるビジネスを増加させることで売上収益の拡大を目指す。

 「アビームでは、大規模なSAP導入や金融向けシステム導入サービスを中心に、業務改革やテクノロジー改革領域で順調な推移をみせている。また、デジタル技術の活用により、データドリブン経営やオペレーションの高度化、顧客接点や製造現場といった変革領域への拡大も進めている。社会価値と経済価値を追求する価値創出サイクルにも取り組んでおり、価値創出力、変革実現力、共創力の強化に対する投資を拡大しているところだ。アビームが持つビジネス変革における強みと、NECの先進テクノロジーを活用する強みを掛け合わせて、新しい価値の創造と既存提供価値の強化を図る」とした。

NECグループの強みを活用した新たな価値創出

 アビームとNECによる価値創出活動においては、12社の戦略顧客に対して、連携しながら価値を提供。BluStellarによるシナリオをともに作り出し、テクノロジードリブン変革を推進するとともに、役割を分担しながら、将来に渡って新たな価値を提供し続けるという。

 「コンサルティング起点ビジネスは、NECグループの強みを活用した新たな価値創出のフェーズへと進んでおり、これによってビジネスを拡大していくことができる」と強調した。

Tサービス事業セグメント

 続いて、事業セグメントの観点から、2025中期経営計画の進捗を見てみよう。

 ITサービス事業セグメントは、2025年度に売上収益で2兆円(2023年度実績は1兆9140億円)、調整後営業利益は2200億円(同1841億円)、調整後営業利益率は11.0%(同9.6%)を目標にしている。そのうち、国内ITサービスの売上収益は1兆6900億円(同1兆6125億円)、調整後営業利益は1840億円(同1651億円)、調整後営業利益率は10.9%(同10.2%)。また、海外ITサービスの売上収益は3100億円(同3015億円)、調整後営業利益は360億円(同190億円)、調整後営業利益率は11.6%(同6.3%)を目指す。

業績推移と中計目標(ITサービス全体)

 NEC 執行役 Corporate SEVP兼Co-COOの堺和宏氏は、「2023年度は当初想定を大きく上回る実績となり、営業利益率も大きく改善した。国内の旺盛なIT需要をとらえた事業成長と収益性改善が貢献している。2025年度の調整後営業利益は、当初計画に比べて約100億円上積みし、営業利益率は0.5ポイントのプラスとした。これは、国内ITサービス事業での上方修正が影響したものであり、モダナイゼーションを中心とした需要拡大に加えて、成長事業であるBluStellarがSIを含めて大きく貢献。採算性の向上も寄与している。今後もこの流れを継続していく」と自信をみせた。

 調整後営業利益では2025年度までに189億円の増益を見込んでいるが、ベース事業では94億円減となるのに対して、BluStellarによる売上増加と収益性の改善で283億円増を見込んでいる。

NEC 執行役 Corporate SEVP兼Co-COOの堺和宏氏

 国内ITサービス事業については、パブリック、エンタープライズ、クロスインダストリーの3つの領域から成長戦略を示した。

 パブリックでは、行政サービスにおけるモダナイゼーションの動きが本格化しており、ガバメントクラウド移行や自治体情報システム標準化への準備が進んでいることを指摘。「エンタープライズ市場で先行して蓄積したノウハウや人材を投入することで機会を着実にとらえる」と語った。

 エンタープライズでは、本格化しているモダナイゼーション案件が継続し、大型案件が増加。さらに、DX案件も増加しつつあり、今後はBluStellarを中核としたコンサルティングの強化と、デリバリー体制の強化を推進。DXを進める顧客との共創活動にも取り組む。

 クロスインダストリーにおいては、消防防災関連システムの更改特需などのベース事業が増加。だが、スマートシティやインフラ協調モビリティといった新事業では社会実装が遅れ、2024年度以降の目標を見直している。

国内IT市場の環境と成長戦略

 今後の国内ITサービス事業の取り組みとしては、成長投資とリソースをBluStellarに集中し、売上成長と利益率改善を推進。また、これまで取り組んできたSIモデル化の進展が、BluStellarのシナリオやオファリングとして整備された成果も示した。さらに、プロジェクトのリスク管理を強化。その結果、不採算案件が減少したほか、今後は、生成AIの適用によるSIプロセスの改善効果も見込むという。

 加えて、DX人材の目標として掲げていた1万人の育成を前倒しで達成。2025年度までに1万2000人を育成する計画を打ち出した。2023年度のキャリア採用は643人となり、エンジニアの採用は前年比26%増となっている。ジョブ型人事制度の導入とリファーラル採用、ダイレクトソーシングによって、最適な人材の獲得および配置を実現。事業に対する人材アサインの最適化では、タレントマネジメントシステムの整備を進めていることも明らかにした。

国内IT事業 施策の成果と今後の対応

 海外ITサービスは、英国のNECソフトウェアソリューションズUK(SWS)、デンマークのKMD、スイスのAvaloqの欧州3社と、デジタルID/DXを推進する海外法人12社により、各種ソフトウェアやサービスによる事業を展開。2023年度実績では、利益が予算に対して若干の未達だったが、成長領域における受注が堅調に進んだという。また、ノンコア事業の見直しにより、2025年度には収益性の改善が想定通り進むと予測している。

 NEC 執行役 Corporate SVPの久保知樹氏は、「2024年度の海外ITサービスは順調に進んでいる。第1四半期末の有効受注残カバー率は84%となり、ここからも2025年度の目標は達成できる見通しである。2025年度の売上収益3100億円のうち、欧州3社で2360億円を占めることになる」などと述べた。

NEC 執行役 Corporate SVPの久保知樹氏

 SWSは、買収事業を活用したクロスセルの拡大や、コモンウェルス地域への海外拡販を推進。KMDは中央政府事業の再強化および金融リースソフトウェア事業の拡大に取り組む。また、AvaloqはSaaS事業のさらなる拡大と、グローバルセールス体制の強化、BlackRockとの提携効果の実現を模索する。「欧州3社では、これまでに10社のボルトオンM&Aを行ったが、今後もM&A戦略の継続により、商材の強化や市場の拡大に取り組む」としている。

 さらに、欧州3社のソフトウェア/SaaSの売上比率は2025年度に83%(2023年度は79%)、ソフトウェア開発人員におけるオフショアの比率は40%(同32%)を目指す方針も示した。

海外ITの中期経営計画

 一方、デジタルガバメントでは、買収事業を活用したクロスセルが進展。ノンコア事業の整理にめどをつけた段階だという。また、インボイス制度に対応するため、KMDのソリューションを日本国内に展開したほか、NEC SWS Indiaの活用によるオフショアの強化も進めた。今後は、高収益商材の販売を強化するとともに、コモンウェルス地域へのさらなる拡販を進める考えだ。

 デジタルファイナンスでは、AvaloqによるAPAC市場の開拓や、BlackRockとの戦略的アライアンスによる協業が貢献。SaaSの収益性改善による利益成長や、グローバルセールス体制の強化に取り組む。

 デジタルID/DXでは、低収益事業の構造改革を進めており、Aviation事業の強化を進めるという。

海外IT 施策の成果と今後の対応

社会インフラ事業セグメント

 一方、もうひとつのセグメントである社会インフラ事業セグメントは、通信システムや海底ケーブルシステムなどによるテレコムサービスと、航空、宇宙、防衛によるANS(Aerospace and National Security)で構成。2025年度の売上収益は1兆2400億円(2023年度実績は1兆773億円)、調整後営業利益率は10.5%(同5.1%)を目標としている。そのうち、テレコムサービスの売上収益は8400億円(同8013億円)、ANSは4000億円(同2761億円)を目指す。

社会インフラの業績推移と中期計画

 NEC 執行役 Corporate SEVP兼Co-COOの山品正勝氏は、「2023年度は増収増益を実現した。2025年度の目標にも変更はなく、これからも利益にこだわっていく。ANSのさらなる売上伸長と、テレコムサービスのビジネスモデル変革を進捗させることになる」との基本方針を示した。

NEC 執行役 Corporate SEVP兼Co-COOの山品正勝氏

 テレコムサービスは、市場全体でネットワークインフラの投資が低調であり、Open RAN市場の立ち上がりの遅れが課題となっているが、ソフトウェア市場が拡大傾向にある点に着目。NECでは、5G事業の確実な黒字化、ソフトウェア比率の向上、AI活用サービスの強化などによる高付加価値事業への転換により、収益拡大を目指すという。

 「テレコムサービスは、2025年度には、期初受注残の増加がベースとなり、売上収益の伸びを牽引することになる。さらに費用構造変革により、収益性も改善することになる」と、今後の事業成長に自信をみせた。

 課題となっているグローバル5G事業については、投資の先行と不採算案件などにより、2023年度までは赤字が残ったが、2023年度は構造改革や投資コントロール、ハードウェアの原価低減の取り組みなどによって、マイナス108億円と、当初計画の範囲内の赤字にとどまったことを自己評価。2024年度はグローバル5G事業を黒字転換させ、20億円の黒字を計上する計画であるほか、2025年度には、国内5G事業に続き、海外5G事業も黒字化し、160億円の黒字を目指す。2025年度の調整後営業利益率は14%を見込んでいる。

テレコムサービス グローバル5G事業の確実な黒字化の進展

 「海外5G事業では、当初、RU(Radio Unit)を海外に直接販売する仕組みとしていたが、これでは粗利が少ないため、NECが持つMassive MIMOなどの優れた技術を、アジアを中心に専業メーカーにライセンス供与するビジネスモデルに転換した。これによって収益性が大きく改善した」という。

 さらに、ソフトウェアシフトを推進し、2025年度にはソフトウェアによる売上収益比率を67%にまで上昇。これも収益性の改善につながるという。また、NTTドコモから、vRANソフトウェアを受注するなど、vRAN導入によるモバイルインフラの仮想化と運用管理の高度化により、顧客のDXに貢献するビジネスにおいても実績が出ているという。

テレコムサービス ソフトウェアシフトの進展

 今回の説明では、テレコムサービスにおけるIT領域の業績について初めて公開した。

 2025年度の売上収益は2230億円(2023年度実績は2029億円)、調整後営業利益は300億円(同230億円)、調整後営業利益率は13.5%(同11.3%)を目指す。「売上収益の半分がNetcrackerであり、残り半分が国内顧客に対する売り上げとなる。Netcrackerは、生成AIを活用したBSS(ビジネスサポートシステム)で実績を持ち、営業サポートやカスタマケアに利用でき、業務効率化を50%改善するといった成果などが出ている。複数の企業から大規模な受注がある」と手応えを示した。

テレコムサービス IT領域の事業成長への貢献

 ANSでは、国内の防衛予算が2027年度までに倍増するなか、NECはICT領域のトップ企業として契約額が増大。契約額は三菱重工、川崎重工に続いて3位になっているという。日本政府の防衛生産、技術基盤を維持および強化するための施策により、防衛産業利益率が改善している点も見逃せない。

 「2020年度から2022年度までの売上収益の年平均成長率は6.5%であったが、2023年度から2025年度は22.4%という高い成長を見込んでいる。防衛費予算増大を踏まえた受注額のさらなる伸長と、リソース強化やフロア確保といった事業基盤の強化を進める」と述べた。

 先にも触れたように、ANSの2025年度の売上収益は4000億円としているが、今回の説明では、「防衛における受注がさらに上振れする」とし、4000億円以上と表現を変えたほか、調整後営業利益も370億円(これまでは350億円以上)へと上方修正した。調整後営業利益率は9.3%を計画している。

ANS 計数計画

 国内で半分以上のシェアを持つ航空管制システムや、自衛隊の指揮統制システムの受注のほか、センサーでは地球観測衛星の大型受注を獲得。宇宙光通信システムをコア事業に位置づけるための技術開発を進めていることも示した。先進レーダー衛星である「だいち4号」(ALOS-4)に搭載した光衛星間通信機器(光ターミナル)により、4万km離れた低軌道と静止軌道間での衛星間光通信を実現したほか、Skyloom Globalとの協業により、100Gbpsの宇宙光通信技術の共同開発を進め、グローバルでのインターネット接続の革新を目指しているといる。

ANS トピックス

 また、ANSでは、2023年度に約750人を増員したのに続き、2024年度には約250人を増員。2025年度までの累計で約1200人を増員する計画だという。これにあわせて東京・府中の同社拠点内に新棟を建設するという。従来の計画から1万平方メートル増やし、2025年度までに約5万平方メートルの増床を図ることになり、さらなる増床も視野に入れていることも明らかにした。

 ANS領域における旺盛な需要に対して、積極的なリソース投入が今後の鍵になっている。

ANS リソース強化