大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ
追う立場から追われる立場へ――、国内x86サーバー市場でトップシェアに立ったデル・テクノロジーズが狙う“次の一手”
2022年6月6日 06:00
デル・テクノロジーズが、2021年度の国内x86サーバー市場においてトップシェアを獲得した。IDC Japanの調べによると、出荷台数では18.0%、出荷金額では18.1%となり、それぞれ前年度の4位、3位から一気に首位に駆け上がった。
デル・テクノロジーズ 執行役員 データソリューションズ事業統括 製品本部長の上原宏氏は、「当社が得意とする顧客でのIT投資が増えたことや、部品調達の遅れによるデリバリーの課題に対して、グローバルサプライチェーンの強みを生かせたことが背景にある」と自己分析。
「ハイブリッドクラウドやAI/ML、HPCによるアクセラレーテッドコンピューティング、エッジコンピューティングなどを注力領域にとらえ、今後は、2位との差を広げ、圧倒的ともいえるポジションを獲得したい」と意気込む。
上原氏に、デルのサーバー事業について聞いた。
国内x86サーバー市場の構図は?
国内x86サーバーは、デル・テクノロジーズ、富士通、NEC、日本ヒューレット・パッカード(HPE)の4社が激しく争っている。
長年、富士通およびNECが上位を占めていたが、徐々に両社のシェアが低下。一方でHPEはほぼ横ばいで推移したことで、3社の競合が激化し、そこに大きな差をつけられていたデル・テクノロジーズが徐々に距離を縮めるという構図が見られていた。この数年は、上位ベンダーのなかで唯一シェアを引き上げていたのが、デル・テクノロジーズであった。
そして、2020年度には台数で4位、金額ではほぼ同率で3位だったデル・テクノロジーズが、2021年度には一気に首位に躍り出たのだ。
台数ベースでは2016年度には10.4%だったものが5年間で7.6ポイント増加し、18.0%のシェアを獲得。金額ベースでは8.6%だったものが、5年間で9.5ポイント増加し、18.1%へと倍増以上の伸びを見せた。
とはいえ、台数ベースでの4社のシェアは僅差であり、今後、市場の勢力図がどう変化するのかが注目されるところだ。
グローバルでのサプライチェーンの強みが生きた
では、なぜデル・テクノロジーズは、2021年度に、一気にトップシェアに躍り出ることができたのだろうか。
デル・テクノロジーズの上原氏は、「2021年度は、国内大手企業がクライアントPCへの投資を拡大する一方で、サーバーへの投資は抑える傾向が出ていた。それに対して、デジタルネイティブと言われる企業のサーバー投資が旺盛であった。これは、当社が不得意とする領域での投資が減少し、デルが得意とする領域での投資が増えたともいえる。さらに2021年度下期からは、部品調達の遅れでデリバリーの課題がより深刻化した。そこに、グローバルサプライチェーンの強みを生かせる当社の優位性が発揮できた」と自己分析する。
デル・テクノロジーズが社内で重視している指標のひとつに、顧客数がある。その指標は、既存顧客数の維持と、新たな顧客獲得の獲得をそれぞれ重視しているのが特徴だ。2021年度にはおいて、どちらの指標も成果をあげることに成功したようだ。
「新規顧客の獲得という点では、納期の問題で、デルを選んだ顧客数が増加している。一般的に、新規顧客を獲得するのは難しく、さらにコロナ禍では、非接触の営業活動に制限されるため、新規顧客獲得はさらに困難になる。だが、納期の強みを生かすことで、新規顧客数が増加している」とする。
グローバルでのサプライチェーンの強みを生かして、競合他社に比べて安定した納期を実現できたことが、既存顧客の維持だけでなく、新規顧客の獲得にもつながっているというのだ。
値下げにより販売台数が増加、さらには販売単価も向上
注目したいのは、2020年12月にデル・テクノロジーズが発表した、国内市場向けの5つの基本施策の成果である。ここでは、「製品ポートフォリオの拡充」、「消費モデルの導入」、「新たな価格戦略」、「顧客サポート力の強化」、「販売エコシステムの強化」の5つの新施策を打ち出した。
そのなかでも大きな注目を集めたのが、「新たな価格戦略」として、PowerEdgeサーバーの標準価格を平均25%引き下げたことであった。これは、PowerEdgeサーバーだけでなく、PowerEdgeがベースとなっているHCIやストレージ製品についても、7~25%の範囲での価格引き下げを実施したという。
価格引き下げの背景には理由があった。もともと日本市場はグローバルと比較してもサーバーの価格設定が高く、大幅な値引きを前提とした商習慣が一般化していた。妥当な市場価格がわかりにくい状況にあることを是正するため、実勢価格に近づけた価格設定を行うとともに、顧客企業における導入の意思決定スピードも上げることを狙ったものでもあった。
上原氏は、「一括導入の商談では都度見積もりになるため、価格引き下げは直接影響しないが、中堅中小企業などがウェブを通じて購入する場合などには大きな効果があった。価格に敏感な顧客が反応し、それによって出荷台数が増加した」という。
だが、この効果は「値下げをしたことによって販売台数が増加した」という単純な成果にとどまらなかった。
というのも、IDC Japanの調査でも示されているように、販売台数以上に販売金額のシェア拡大の方が大きいのだ。
実は販売現場では、25%の値下げによって新たな動きが生まれていた。
上原氏は、次のように語る。
「価格が25%引き下げられた分、よりパフォーマンスが高い製品を購入するという動きが顕著に見られた。同じ価格で、より良いものが購入できるという点が評価された」という。
そして、「同じ予算でワンランク上の製品を購入する動きが急増。『てんこ盛り』の提案が受け入れられることが増えた」と、ジョークを交えながら語る。
平均25%の価格引き下げの中身を見ると、メモリの価格引き下げ幅が最も大きく、メモリ搭載量の多いモデルほど、値下げ幅が大きくなっていた。メモリをより多く搭載したり、ひとつ上のランクのCPUを選択したりといった動きが加速した結果、顧客あたりの販売単価がむしろ上昇するという、値下げとは逆の効果が生まれる結果となった。だからこそ、販売台数シェアよりも販売金額シェアの拡大の方が大きいのだ。
デル・テクノロジーズのサーバー製品の単価が上昇している裏づけとして、もうひとつの理由がある。それは、タワー型サーバーのシェアは低いものの、拡張に向けた提案がしやすいラックサーバーでのシェアが高く、「中でも、日本の企業が積極的に導入している2Uラックサーバーでは、デルは33%のという圧倒的なシェアを持っている」という点だ。
2Uラックサーバーは、国内x86サーバー市場全体の約6割を占めるというが、これはグローバルで異例のこと。この市場において圧倒的なシェアを持っていることが、単価上昇とシェア上昇の両方に貢献している。
2020年12月の5つの基本施策のなかで注目されたもうひとつの取り組みが、新たなコンサンプションモデルの導入である。
このときには、「Pre-approved Flex on Demand Pricing for PowerEdge」を発表。70~80%のCPU利用率をベースラインに設定して、その部分を月額固定料金とし、超過した利用分は従量課金を適用するという仕組みとした。
その後デル・テクノロジーズでは、APEXの名称でas-a-Serviceによる仕組みを発表しており、現在では、より柔軟性を持ったサブスクリプションモデルとして、サーバー事業の新たな販売プログラムとしても適用されている。
「Pre-approved Flex on Demand Pricing for PowerEdgeの採用によって、ここでもサーバー製品の価格の透明性を打ち出すことができた。ただしAPEXは、米国では、すでにユーザー企業が導入する動きが見られているが、日本での利用は限定的であり、2021年度のシェア上昇に直接結びつくものにはなっていない」としながらも、「APEXは、ITシステム部門の管理性を高めることもできる仕組みである。x86サーバーのシェアを拡大していく上での、次の武器のひとつになる」と位置づける。
まだ、販売台数増加に直結する成果は少ないが、今後の武器として、市場導入という形で布石を打った1年だったといえそうだ。
AIの活用を促進するための活動を積極化
デル・テクノロジーズでは、x86サーバーの提案活動のひとつとして、AIの活用を促進するための活動を積極化している。
そのひとつが、「Dell de AI(デル邂逅=であい)プログラム」だ。
AIビジネスを展開している企業と、AIをビジネスに活用していきたい企業とのマッチングを行うプログラムで、2021年5月から徐々に活動を開始。2021年11月に1回目のセミナーを開催した。今後、コミュニティを通じた意見交換の場も増やすという。
現在、16社のAIパートナー企業が参画し、約60社の企業との間で話し合いが進められており、「中堅中小企業だけでなく、地方自治体も、AIに対して高い関心を寄せていることがわかった。AIの広がりについては、助走期間が少し長いと感じる部分はあるが、大きな波がやってくるという手応えはある。AIに関するさまざまな活動は、継続的に実施する」と語る。
また、2021年8月に東京・大手町に本社を移転したのにあわせて、「AI Experience Zone」を新設した。
AIの活用促進に向けたコミュニティハブ機能を提供する場に位置づけ、PowerEdgeサーバー製品群だけでなく、AIおよびデータアナリティクスに関する各種ポートフォリオの紹介、具体的な運用イメージの提案、検証および評価作業の支援環境、エコパートナーとの連携による多様なニーズへの対応を行うという。
具体的には、AI Experience Zoneでは、VMware BitfusionやNVIDIA MIGが利用できるほか、米本社のHPC & AI Innovation Labとつないで、大規模クラスターをリモート利用できる環境も用意している。さらに、GRAPHCOREが開発したIPUを4基搭載したM-2000と、Power Edge R6525の組み合わせ提案も行っているという。
「例えば、AIを活用した外観検査には、多くの企業から高い関心が集まっている。また、自然言語処理に関しても注目が高まっている。百聞は一見に如かずというように、多くの方々に、最新のAI環境を体験してもらえる場として活用したい」とする。
次世代ハイブリッド環境を体験できる施設「DEJIMA」を展開
デル・テクノロジーズが、日本で展開している施設として、もうひとつユニークなものがある。
それは、次世代ハイブリッド環境を体験できる「DEJIMA」である。
東京・品川の日本マイクロソフト本社内のMicrosoft Technology Centerに設置した「DEJIMA」は、「Dell Japan Intel Microsoft Azure」の頭文字を取ったもので、2021年11月から稼働している。
96コア/4ノードのAzure Stack HCIを設置し、日本マイクロソフトが持つスキルを共有しながら、両社の顧客に対するハイブリッド環境を提案しているというが、この施設を活用した商談は、すでに成果につながっているという。
上原氏は、「現在、約30社の顧客からDEJIMAを活用したいという意向をもらっている。今後も積極的に活用していきたい」と語る。
ハイブリッド環境に対する関心は日々高まっており、デル・テクノロジーズが、2022年5月に発表したスノーフレイクとの協業も、この動きを加速することになりそうだと期待する。
ちなみにDEJIMAでは、特別な社内用語を用いている。例えば、DEJIMAの利用の際には「通行証」を発行。実際に利用したり、商談が進んだりすると、「通商記録」や「貿易設立」といった言葉を用いながら、顧客への対話や支援を進めているという。
その一方で、注目が高まるエッジコンピューティングにも力を注ぐ姿勢を見せる。
上原氏は、エッジコンピューティングを、今後のデル・テクノロジーズの重点領域のひとつに位置づけ、小売業向けアプリケーションに対応する低レイテンシーの薄型エッジサーバーや、工場や建設現場、移動車両といった過酷な環境においても利用できるように設計した産業用途向けサーバーを用意していると説明。
「エッジコンピューティングに最適化した製品展開に加えて、5GやAIといった新たなテクノロジーとの連携も必要である。さらには、ユーザー企業とより密接な環境を築く必要があると考えている」としたほか、「エッジコンピューティングは、これまでのITシステムとは異なり、IT部門だけでなく、OT部門との連携が不可避なケースが多い。デル・コンピュータが顧客のIT部門とOT部門の橋渡し役を果たしながら、エッジコンピューティングの提案を進めたい」と述べた。
“地球環境にやさしいサーバー”を提供
またサステナビリティという観点からも、デル・テクノロジーズが選択されることが増えていることも指摘する。
上原氏は、「大手企業を中心に、グリーンに配慮した調達を意識するケースが増えている。価格や性能とともに、サステナブルが選択の条件にあがりはじめている」とする。
PowerEdgeシリーズでは、カーボンフットプリントに関するCO2排出量を機種ごとに提示。さらに、設計から開発、製造、流通、設置、運用、廃棄まで、製品ライフサイクル全体での環境負荷削減に取り組んだり、海洋プラスチックを回収し、緩衝材に使用したり、といった取り組みも開始している。
上原氏は、「地球環境にやさしいサーバーであることをもっと訴求していきたい」と述べる。
デル・テクノロジーズの2022年度のサーバービジネスの注力領域について、上原氏は、「ハイブリッドクラウド」、「AIやML、HPCによるアクセラレーテッドコンピューティング」、「エッジコンピューティング」、「セキュリティ対策強化」、「APEXによるAs-a-Serviceの提供」、「地球環境にやさしいサーバー訴求」の6点を挙げる。
そして、デル・テクノロジーズが重点投資項目とする「エッジ・5G」、「データ分析」、「AI/ML」、「サイバーレジリエンス」、「As-a-Service」においても、「これらの重点投資分野を支えるベッドロック(岩盤)になるのがサーバー製品群である」と位置づける。
その一方で、上原氏は、「部品価格の上昇によって、コストが上昇し、サーバー製品の一部では値上げをしている。だが、コストが下がれば、タイムリーに価格を下げたい。デル・テクノロジーズの特徴は、在庫を持ったビジネスをしていない点にある。価格改定にも柔軟に対応できる」とする。
その上で、「ストレージといえばEMCといわれたように、サーバーといえばデルと想起されるようになりたい。トップシェアとなったが、サーバービジネスは、まだそこまでの認知度には到達していない。製品、価格、サポートなどのあらゆる点で、デルが持つ優位性を発揮し、トップシェアを維持したい。デルのシェアを伸ばすことに力を注ぐよりも、2位との差を広げることに力を注ぎ、圧倒的ともいえるポジションを獲得したい」と意気込む。
これまでは追う立場だったデル・テクノロジーズが、トップシェアの立場となったことで、今後は、どんな手の打ち方をしてくるのか。そして、2位を圧倒的に引き離すために、どんな施策を繰り広げるのか。これからの一手が注目される。