大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ

NECがIR Dayを開催、2025中期経営計画の肝を解説
3つの成長事業の収益成長が重要な鍵、体質改善も新たなフェーズに

 日本電気株式会社(以下、NEC)は9月15日・16日の2日間に渡り、アナリストなどを対象にしたNEC IR Day 2021を開催。その中で、森田隆之社長兼CEOや藤川修執行役員常務兼CFOのほか、各事業を担当する7人の役員が直接説明を行った。

 森田社長兼CEOは、「2020年度までの中期経営計画で、調整後営業利益率6%を実現したが、5月に発表した2025中期経営計画では、長期利益の最大化、短期利益の最適化の方針のもと、2025年度の調整後営業利益率で8.6%、EBITDAの年平均成長率は9%を計画している」と前置き。

 「今回のIR Dayでは、ビジネスユニットの責任者とともに、2025中期経営計画における3つの成長事業(デジタルガバメント/デジタルファイナンス、グローバル5G、コアDX)のリーダーからも、具体的な戦略や取り組みを説明する」とコメントした。

森田隆之社長兼CEO

 また藤川執行役員常務兼CFOは、「2025中期経営計画においては、3つの成長事業の収益成長が重要な鍵を担うことになり、各事業では責任を明確にして取り組んでいる。また、ベース事業は減収ながらも増益を計画しており、低収益事業の改善が鍵になる。ここには私自身がハンズオンで取り組んでいる」とした。

成長事業/ベース事業の両輪で収益成長を実現
藤川修執行役員常務兼CFO

 NECの2025中期経営計画では、営業利益率7%をハードルレートに設定し、全事業の状況をもとに高・中収益事業、低収益事業に分類。藤川CFOは6月から、すべての事業責任者とヒアリングを実施してきた。

 「低収益事業については、2022年度以降の改善に向けた具体的なプランを事業部長と共有し、2021年度のマイルストーンを設定。その進捗については細部まで入り込んで確認し、次のステップに進めるべきかどうかを判断していくことになる。その過程でターンアラウンドが難しいと判断した事業については、構造改革や人員の配置転換を含め、より高収益な事業へのシフトを図る」と述べた。

ベース事業の収益性改善

 なおIR Dayにおいて時間を割いて説明したのが、デジタルガバメント/デジタルファイナンス(DG/DF)、グローバル5G、コアDXの3つの成長事業分野への取り組みだ。本稿では、この3つの取り組みについて取り上げてみる。

デジタルガバメント/デジタルファイナンス事業

 DG/DFでは、2025年度に売上収益3000億円、調整後営業利益率は360億円、調整後営業利益率は12%を目指す。2020年度実績は売上収益が2404億円、調整後営業利益率は111億円、調整後営業利益率は5%となっている。

 NEC 執行役員常務の山品正勝氏は、「事業成長性と収益性の拡大に向けて、シナジーの活用促進によるグローバル展開の加速、ビジネスモデル変革の継続、開発およびオペレーションの効率化の3点に取り組む。買収3社をはじめとするNECグループ各社との連携強化と、ターゲット地域への集中投資により、グローバル展開を加速する一方、投資の継続と自社IP資産を組み込んだビジネスモデルの変革により事業成長と収益性改善を実現。低収益事業の撤退や、事業ポートフォリオ入れ替えの推進も進める。さらに、NECグループ全体でのコストシナジーの追求により収益性を改善。投資の選択と集中、資産の相互活用によりソフトウェアの競争力を強化する」と述べた。

NEC 執行役員常務の山品正勝氏
DG/DF事業の中期経営計画の実現に向けた戦略

 DG/DF事業の歴史は、バイオメトリクスを起点として、警察や空港、国民ID向けソリューションで展開していたパブリックセーフティ事業を、2016年に現在のデジタルID/DX事業として国内外の体制を再編。600億円の事業に拡大する一方、2018年には、英Northgate Public Services(現NEC Software Solutions UK=SWS-UK)を買収したり、2019年にはデンマークのKMDを買収したりするなど、パブリックセーフティを包含する形で、行政機関や公営住宅向けの業種ノウハウをソフトウェア化する、デジタルガバメント事業を本格化した。

 さらに、2020年にはスイスのAvaloqを買収し、デジタルガバメント事業とのシナジーが考えられるデジタルファイナンスに展開。「DXの潮流をとらえ、日本を含むグローバルに事業を拡大し、同時にSaaS型モデルへの転換を図っている」とする。

 またDG/DF事業では、水平展開可能な共通業務機能である共通業務プラットフォーム、データの解析や将来の予測を行う分析プラットフォーム、データの収集、統合を行うデータプラットフォームの3つのプラットフォームを起点とした事業拡大に取り組んできたほか、AIアナリティクスのNEC the WISE、生体認証のBio-IDiom、ブロックチェーンといった高度なソリューション領域でも、商材強化とグローバル展開、M&Aの継続による新たな事業基盤の獲得を進める姿勢をみせる。

DG/DF事業の拡大

 SWS-UKでは、ジャマイカ警察で警察向け事案管理プラットフォームを導入。KMDでは、新型コロナウイルスのリモート検査ソリューションにより、SaaS事業を拡大。Avaloqは、買収後初のSaaS案件を、すでにアジアで獲得したという。また、ハワイ空港ではデジタルIDの活用による新型コロナウイルス対策ソリューションを導入。ローマ国際空港など5つの空港では、SITAとの連携により、顔認証技術を活用したタッチレス搭乗プロセスを導入。デジタルID/DXでは、50以上の商談が進行中だという。「SITAとの契約では、全世界470空港にNECの顔認証システムを導入することになる」という。

 SWS-UK、KMD、AvaloqのSaaS事業比率は69%に達しており、「SaaS事業の比率はさらに高めていく」としている。また買収3社合計で約9000人の人員がおり、そのうち開発要員は3800人。さらにそのなかで、オフショアおよびニアショアの人員が40%であるが、これを2025年度までに55%に拡大。これだけで50~60億円の利益改善ができると見込んでいる。

 NECによると、買収3社のコア事業は、2018年度には売上収益1364億円、調整後営業利益は88億円の赤字であったが(NEC買収前の数字から試算)、2020年度には売上収益が1445億円、調整後営業利益が113億円と黒字に転換した。また、買収した企業とのシナジー効果は、2020年度実績で売上収益100億円、営業利益で13億円の貢献があるという。

 「買収によるシナジーは、狭義にはSWS-UKやKMDの商材を、NECの海外現地法人が売ることだが、広義のシナジーは、NECのブランドやキャッシュ、信頼度を含めたマネジメント全体に及ぶものと考えている。NECのマネジメント力によって、赤字の企業であっても、V字回復できる会社を買収し、シナジーを出している」とした。

会社・事業別 中期計画<売上収益>
会社・事業別 中期計画<調整後営業利益>

 なおSWS-UKでは、NEC傘下に入って以降、6件の買収を完了。KMDも3件の買収を行っており、企業価値を高めている。「ボルトオンM&Aによる事業領域および顧客基盤の拡大を進める」とした。

グローバル5G事業

 グローバル5Gでは、2025年度の売上収益1900億円、調整後営業利益率は10%を目指す。売上収益の年平均成長率は35%となる。また、2025年度にはOpen RANの市場規模が全世界で1兆円が想定されており、約2割のシェアを獲得する考えだ。

グローバル5G 中期経営計画の実現に向けて

 NEC 執行役員常務 ネットワークサービスBU担当の河村厚男氏は、「Open RAN市場は2025年までの年平均成長率が35%以上であり、多くの主要な通信事業者がOpen RANに積極的に取り組んでいる。新規参入によるイノベーションの促進、ベンダーロックインからの脱却、TCO削減への期待が導入へのドライバーとなっている。NECが得意とする無線技術や仮想化技術を用いた自社製品と、パートナー製品との組み合わせによるOpen RANのエコシステムを強みに、エンドトゥエンドでキャリアグレードのソリューションを提供していく。顧客、プロダクト、実行体制の3つを柱として、高い目標を達成したい」とした。

NEC 執行役員常務 ネットワークサービスBU担当の河村厚男氏

 Open RANへの先行導入に意欲的な顧客との共創を推進。まずは基地局からスタートして、ソフトウェア領域にポートフォリオを拡大するとともに、リカーリングビジネスモデルを展開する製品戦略を推進する。さらに、欧州、米国、インドで先行し、実績を蓄積した上で、グローバル展開を進める考えを示した。

 現在、日本では、NTTドコモと楽天モバイルが採用。欧州でもボーダフォンUKが商用案件として採用しており、欧米や中近東では12社で実証実験がスタートした。現在では、20社以上と商談を進めているという。

 「実証実験のみならず、商用案件でも、Tier1オペレータからベンダー選定を受けている。さらに、テレフォニカと商用導入に向けたOpen RANプレ商用実証に合意し、スペイン、ドイツ、英国、ブラジルの4カ国で、800サイトの商用導入を見据えたパイロットプロジェクトを推進する」。

グローバルでの顧客獲得

 オープン化市場の形成やグローバルでの競争優位性創出などに関して、戦略的パートナーシップを結んでいるNTTドコモとは、RAN Intelligent Controller(RIC)による基地局のインテリジェント化に向けた共同開発を開始。NTTデータとも、グローバルでの5G活用による企業向け共創活動をスタートさせている。

 楽天モバイルとのパートナーシップでは、完全仮想化クラウドネイティブモバイルネットワークをプラットフォーム化し、海外展開することで合意。5GコアのUPF(User Plane Function)性能で、世界最高水準のデータスループットを達成したほか、完全仮想化 クラウドネイティブモバイルネットワークプラットフォームであるRCP(Rakuten Communications Platform)の顧客開拓を推進しているところだ。

 またテレフォニカでは、2025年までに、モバイルネットワーク全体の50%をOpen RANにすることを発表しており、NECにとって重要なパートナーの1社となりそうだ。

戦略的パートナーシップの進捗

 一方、グローバル5Gの製品戦略においては、幅広い5Gポートフォリオをそろえるほか、ハードウェアビジネスから、ソフトウェアライセンスおよびSIサービスに事業を拡大し、高利益率を達成することを目指す。

 2022年までは、市場全体がOpen RANの導入とネットワークの構築フェーズであることから、NECでは積極投資期とし、O-RU(Open Radio Unit)を中心としたハードウェアビジネスで市場に参入して、顧客ベースを拡大すると同時に、ソフトウェアプロダクトを市場に投入する。

 また2023年~2025年には、Open RANのエリア拡大による運用効率化、自動化の重要性が高まるのにあわせ、NECでは投資回収期と位置づけて、O-RUベンダーとしてのハードウェアビジネスに、CU/DU(Central Unit/ Distributed Unit)、5GC(5th Generation Core network)、SMO(Service Management and Orchestration)といったソフトウェア、SIによるサービスを重畳。同時に、自動化や運用効率化、ネットワークリソースの最適化などの高付加価値ソリューションによる収益向上、ソフトウェアライセンスおよびリカーリングビジネスの拡大に取り組む。

ポートフォリオの拡充・拡大
ビジネスモデルの転換

 そして、グローバル5Gの事業推進体制では、開発センターやラボは日本、米国、英国、インドに設置するが、AIなどの先端技術やハードウェアを含めた自社製品の開発、生産は、日本とインドを中心に展開。顧客の対応体制は、Open RAN市場が活性化する欧米に集中し、そこからグローバルに展開していくという。

グローバル5Gの推進体制確立

 NECの河村執行役員常務は、「グローバル5Gは、国内商用実績に裏打ちされた高い製品力など、NECの強みが評価され、受注活動が順調に進捗している。市場の5G本格化の波をとらえ、グローバル体制の強化と、ソフトウェアビジネスの伸長により、2025年度の調整後営業利益率10%の達成を目指す」とする。

2025年度数値目標と、その達成に向けた基本方針

 一方、グローバル5Gを含むネットワーク事業全体では、2020年度実績で売上収益5388億円、調整後営業利益率8%であったものを、2025年度に向けて、売上収益は年平均成長率3~8%を計画。調整後営業利益は10%を目指す。「海外市場への拡大により、売上収益は1.3倍に拡大。収益性向上の鍵は、高付加価事業の拡大とグローバル5Gになる」とした。

 NECのネットワーク事業は、グローバル5G事業のほか、国内キャリア向け事業、NEC Smart Connectivity事業で構成される。「2018年度は構造改革、2019年度は効果の刈り取り、2020年度は5Gを中心とした成長に転じた。2021年度はグローバル5Gの海外展開に向けた戦略投資を実行するため、調整後営業利益率は下がるが、戦略投資を除けば9%を維持することになる」と説明した。

ネットワークサービス事業全体の中期経営計画実現に向けた戦略

 国内キャリア向け事業では、蓄積してきた顧客事業基盤や知見により、顧客エンゲージメントの強化、サステナブルな事業の創出、堅実な実行とイノベーションによる顧客のモダナイゼーションや経営効率化に貢献。「ネットワークからコンサルティングまでのエンドトゥエンドのケイパビリティ、通信インフラベンダーとしての技術と知見、高品質サポートを提供できる強みを組み合わせて、国内キャリアの経営課題にアプローチしていく」とした。

 NEC Smart Connectivity事業では、これまでは実証実験のフェーズであったが、現代版の「C&C」ともいえる「通信×IT」を武器に、社会変化をとらえた産業向けエンドトゥエンドのコネクティビティを提供。ローカルネットワークとデータ流通を軸に、NECの総合力で事業拡大に取り組むという。「NEC Smart Connectivityでは、ローカル5Gやデータ流通サービスによって、あらゆるものを賢くつなぎ、新たな価値を生み出し、産業DXや社会DX、IoT時代を牽引するコネクティビティサービス事業者を目指す」と宣言した。

 データ流通サービスでは、2021年度には、商業施設などの個別経済圏での案件を獲得。2025年度には、事業者や顧客に価値を提供するクロスインダストリーでのサービス提供を実現する考えだ。

国内キャリア向け事業の中計戦略
NEC Smart Connectivity事業

コアDX事業

 コアDX事業では、2020年度に1400億円だった売上収益を、2025年度には4倍強となる5700億円に大きく成長させ、調整後営業利益率をマイナス3%から、13%へと一気に高める計画を掲げている。

コアDX事業目標

 今回のIR Dayでは、その成長戦略の内訳を3つの事業にわけて、初めて公表した。

 これによると、ひとつめのクラウド、AI、生体、サイバーセキュリティなどのDXを支える「共通基盤(ハイブリッドIT)」は、2020年度の460億円の売上収益を、2025年度には2800億円に拡大する。

 2つめのアビームコンサルティングとの連携によるコンサルティング、SIサービス、BPOのサービス企画、開発、デジタル化とデータドリブン型価値創出に取り組む「コンサル起点ビジネス」では、2020年度の950億円を、2025年度に2000億円に拡大。

 3つめの都市交通高度化によるモビリティサービス基盤提供、スーパーシティ事業への拡大などに取り組む「新事業機会」では、2020年度にはゼロだったものを、2025年度には900億円にまで引き上げる。

コアDXの4つの領域

 NECの堺和宏執行役員副社長兼CDOは、「新たな収益源となる3領域で4倍強の成長を目指す。コンサルからデリバリーまでの一貫したアプローチで提供価値を拡大し、ICT共通基盤技術とオファリングによる売上総利益の改善と価格戦略の推進のほか、クラウドやデータセンター、オンプレミスによるハイブリッドITにおいては、アライアンスや自社製品の最適化により競争力を強化。技術の強みや政策との連動、エンド・トゥ・エンドの実装力を生かして、新たな事業機会を創出。社会改革や企業改革などによるDX領域の拡大に取り組む」とした。

堺和宏執行役員副社長兼CDO

 共通基盤では、これまで業種ごとの個別最適で展開してきたビジネスを、共通基盤であるNEC Digital Platformをベースとして全体最適のビジネスに転換。顧客に対する価値提供を、スピード感を持って実施することになる。

 具体的には、ITとネットワークのコアアセットを、グローバル共通デジタルプラットフォームに集約および拡張。インフラだけでなくアプリケーションについても、共通プラットフォームの活用やサービス化の推進によりオファリングを提供していく。

 NEC Digital Platformを活用し、Transformation Officeによる社内の取り組みをリファレンスとしたオフィス領域のオファリング「NEC Digital Workplace」や、SAPで運用していたNEC社内の基幹システムを、5月にSAP S/4HANA on AWSへと移行完了した実績のほか、2年前にNECの営業部門に導入したSalesforceを、データドリブン経営を実現するIT基盤として整備に取り組んでいるノウハウも提案していくという

NEC Digital Platform

 さらにハイブリッドITの競争力強化では、2020年11月に米AWSと日本初のコーポレートレベルの戦略的協業を締結。2021年9月には、グローバル5Gやデジタルガバメント領域での協業拡大を発表したほか、米Microsoftとは2021年7月に、Azureに関する戦略的パートナーシップを発表。オフィス領域でのプラットフォーム活用を強化していくという。

 「この2社以外にも、グローバルなクラウドサービスをNECがITシステムとして積極的に活用するとともに、NECの独自技術との組み合わせで、競争力があるハイブリッドITプラットフォームとして強化していく」とした。

ハイブリッドITの競争力強化

 コンサルティング起点ビジネスについては、2021年4月に、デジタルサービス&エンジニアリングユニットを新設し、アビームコンサルティングの会長を兼務する石井力執行役員常務が新組織のBU長に就任。アビームコンサルティングやNECソリューションイノベータ、日本電気通信システムなどを統括し、コンサルティングを起点としたITサービス事業に変革する体制を構築した。

 「アビームが持つデジタル変革の上流アセットと、NECグループ各社の技術力、大規模SI力、保守やBPOの力を組み合わせて、事業を拡大する。これまでに十分にリーチできていなかった市場に対して積極的に取り組む」という。

 アビームコンサルティングでは、国内約5000人、海外約1000人のリソースを持ち、NECグループでは約2万人のSEおよびITコンサルタント、約2万5000人の国内パートナーのSE、NECフィールディングを中心とした約2600人のCEリソースを持つ。さらに、約200人のDX戦略コンサルタントを有しており、前年に比べて2倍規模に拡大したところだ。なお、NECグループにおけるAWSの認定資格保有者は約2000人、Azureの技術者は数100人規模。SAPの認定エンジニアは4400人に達している。

 「こうしたリソースを活用して、基幹システムの刷新および領域拡大を、ERP領域の刷新、LOB/Edge領域の刷新、BPOなどの周辺領域の刷新という3つのステップで取り組む。旺盛な需要があるERPの刷新では、アビームとNECの連携強化で対応する領域を増やすことになる。鍵になるのがDigital Process Innovationであり、業務プロセスの改革による人の動きの最適化、デジタル活用によるモノの動きや状態の最適化、データ活用による発生したデータに基づく新たな最適化によって、価値を提供していくことになる。戦略コンサルティングから入り、ライフサイクル全体のプロセス支援を行うことになる」と述べた。

コンサル起点ビジネスのケイパビリティ

 非連続な成長となる新たな事業機会については、スーパーシティ構想に向けた取り組みが中心となり、「効果検証に基づく都市経営サービス」、「住民を中心とした共創プロセス」、「暮らしに寄り添う分野間データ利活用」の3つの施策を推進。すでにスマートシティで13自治体、スーパーシティで17自治体を支援しているという。

スーパーシティ構想に向けた取り組み

国内IT事業全体における取り組み

 一方、国内IT事業全体において、コアDX事業の推進を梃にベース事業を変革。国内IT事業の営業利益率を、2020年度の8%から13%に改善する考えもあらためて強調した。

 2020年度実績では、NECの全社売上収益2兆9400億円のうち、1兆3300億円が国内IT事業であり、調整後営業利益は8%となっている。

 「国内IT事業は緩やかだが増収傾向にあり、利益率も改善している。ビジネスユニット別では、社会公共/社会基盤、エンタープライズがそれぞれ約4割、その他が2割を占める。機種別ではSI、製品がそれぞれ4割弱、保守を含めたサービス関連事業が約3割となっている。個別最適から全体最適へとコアDX事業をシフトし、成長させることで、これが、国内IT事業の成長と収益率の改善を目指すことになる」とする。

国内IT事業の売上収益・利益率(現状)

 2025年度の国内IT事業の売上収益目標は1兆6000億円、調整後営業利益率は12.5%に拡大。「ベース事業は、ハードウェアおよびソフトウェア製品、保守事業が減少する。これをクラウドなどの共通基盤でカバーする。だが、ベース事業の調整後営業利益率は2020年度には9.7%だったものを、2025年度には12%に改善する」とした。

国内IT事業トランスフォーム目標

 ベース事業の収益改善では、SIモデルの変革が鍵になる。

 「現在、SIの主流となっている工数提供型のビジネスを変えていくことになる。プロジェクトに要するSEリソースを積み上げて、人月当たりの費用で対価をもらう仕組みは安定的であるが、SEリソースの数に事業規模が縛られ、収益性についても大きな改善が難しい。そこで2つのビジネスモデル変革を行い、SE一人あたりの価値収入を高めていく。SEリソースが現状のままであっても、売り上げを増やして、収益性を高めることができる」とする。

SIモデル変革の方向性

 ひとつめは、工数ではなく価値による値付けでSIサービスを提供する「価値提供型SI」である。テンプレートやツールなどにより、SIノウハウを形式知化し、それを組み合わせるモデル化SIにより、実績があるインテグレーションをスピード感を持って提供し、価値の観点から価格設定を行うほか、業種や領域ごとにSaaSやパッケージを用意したアプリケーションプラットフォームによって、課金(サブスクリプション)方式で提供する。「モデル化SIでは、繰り返し利用による効率化で、コストが削減できるため、価格低減の成果を顧客に還元。のこりを利益に回して収益性の改善につなげる」という。

 もうひとつは、付加価値の高いスキルによってユーザーITを支援する「高付加価値支援SI」である。ここでは、コンサルティングの提供やアジャイル開発、データ分析、セキュリティといった専門領域における支援を提供。データサイエンティストなどの人材を育成・獲得し、活用することになる。

 「要件が固まらないなかで、ITを戦略的に活用する場面が増えており、ユーザー企業によるITの内製化などの取り組みが強いられている。NECのようなITベンダーに求められるのは、製品、サービス、SIの提供だけでなく、DXを支えるために、コンサルティングをはじめとした付加価値の高い領域の支援をすることである。共創案件においては、高度な人材も提供していくことになる」とした。

 こうしたニーズに対応するため、NECでは同社が持つSEリソースを、事業にあわせて適切にスキルチェンジを行っていくほか、外部からの積極的な人材獲得にも取り組むという。

 さらに、共通基盤の上にモデル化SIやアプリケーションプラットフォームを積み上げて実現するDXオファリングの強化によって、コンサルティングを起点とした課題解決を、ペストプラクティスで提案する。これにより、価値提供や高付加価値支援の割合を増やし、SIモデルの変革を進めているという。

DXオファリングとSIモデル変革の関係
DXオファリングメニュー

 DX人材の育成については、2017年度から開始したDX人材育成プログラムにおいて、クラウド、AI、セキュリティ、生体認証、アジャイル、OSS、デザイン思考といったテクノロジースキルを強化し、2021年度には、NECグループで1万8000人の受講を目標にする一方、2020年度からは、思考/行動様式の強化にも人材育成プログラムの対象を拡大。戦略コンサルタントなどを対象にしたDX Organizer Programを開始。これらの取り組みは、顧客に対しても提供する。

 またDX事業の拡大に合わせて、コンサルタント、データサイエンティスト、サイバーセキュリティ人材などのスキルアップ施策を継続強化。2020年度時点で5000人のデジタル人材を、2025年度には1万人へと倍増させる。「2017年度からの3年間で5000人の育成を行った。この数年は、NECの豊富なIT人材のスキルシフトに加えて、中途採用も積極化しているが、ジョブ型人事制度の適用により、さらに多くの人材を獲得したい」とした。

DX人材育成プログラム
DX人材育成・獲得の継続強化

 一方NECでは、コアDX、社内DX、社会DXを経営の中核に設定し、2021年4月にDX推進体制を強化。CDO(Chief Digital Officer)である堺副社長が、ICT事業トランスフォーメーション統括として、コアDXおよび社内DXに取り組む。

 「製品・サービス部門のDXに関する重要事項を統括し、全社最適の共通プラットフォームを強化。アカウント部門による展開も推進。国内IT事業全体を変革する。また、社内のDXを担当するCIOやCISOと密接に連携し、NECのTransformation Officeが実践するベストプラクティスを顧客に展開する」と述べた。

 NECが打ち出した「2025中期経営計画」では、デジタルガバメント/デジタルファイナンス、グローバル5G、コアDXの3つの成長事業に対する成長を加速する一方、低収益事業については、調整後営業利益率7%を最低ラインとする高いハードルを設けて、その進捗を管理。厳しい姿勢で対応を図る考えを示している。メリハリが利いた経営戦略は、NECの体質改善が新たなフェーズに進んでいることを感じさせる。

NEC 2025中期経営計画を踏まえた体制