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NECがIR Dayで営業利益1650億円達成に強い意欲 エンタープライズ事業はVCIに注力

 日本電気株式会社(以下、NEC)は14日、アナリストを対象にした「NEC IR Day 2020」を開催。各セグメントのビジネスユニット長やDX事業推進責任者が戦略説明を行い、「2020中期経営計画」の達成に向けた各事業の方針を示した。

 NECの新野隆社長兼CEOは、「2020年度は、中期経営計画の最終年度となっている。今年のIR Dayでは、各事業戦略とともに、R&D戦略、DX戦略についても公表する。各事業における運営上の課題、改善すべき点を認識し、今後の事業計画に生かすとともに、経営品質の向上につなげたい」とあいさつした。

NECの新野隆社長兼CEO(2020年6月のオンライン記者会見より)

 また、森田隆之副社長兼CFOは、2020年度業績見通しで掲げている重要指標のひとつ、調整後営業損益1650億円について説明。「2020年度業績見通しでは、新型コロナウイルスに起因する市況悪化の影響は織り込んでいないが、市況悪化として、調整後営業利益ではマイナス500億円を見ている。これは、経費節減およびニューノーマルに向けた新たなビジネスの成長でリカバリーしていくことになる。経費節減は、第1四半期において約70億円を節減。年間を通じて市況リスクの約半分をリカバリーできる。残りの半分は、新たな需要を創造すべく新規ビジネス獲得に取り組んでいく」とした。

2020年度 調整後営業損益1650億円について
森田隆之副社長兼CFO(2020年1月の記者会見より)

 また「今期の計画やリカバリー対策については、事業遂行上のリスクとして、不測の事態も想定している。第1四半期に実施したようなノンコア事業の資産の売却など、コンテンジェンシー(Contingency)施策を含めて、調整後営業利益で1650億円の計画は確実に実現したい」と述べた

 なお同社では、2020年度業績見通しとして、売上収益は前年比2.1%減の3兆300億円、営業利益は同17.5%増の1500億円、調整後営業利益は同13.2%増の1650億円、当期純利益は同10.0%減の900億円を掲げている。

エンタープライズ事業も期初計画達成を目指す

 エンタープライズ事業については、エンタープライズビジネスユニット担当の堺和宏執行役員常務が説明した。

エンタープライズビジネスユニット担当の堺和宏執行役員常務

 エンタープライズセグメントの2020年度の業績見通しは、売上収益が前年比1.9%増の5600億円、調整後営業利益は前年から79億円増の600億円としている。

 堺執行役員常務は、「2018年度から2020年度の売上収益は、年平均0.9%増とほぼ横ばいだが、調整後営業利益率は改善傾向にあり、2019年度は9.5%の実績、2020年度は10.7%を計画している」とした。

2018年度から2020年度の業績推移

 2019年度の調整後営業利益は、プラットフォーム領域およびグループ会社の構造改革で31億円のプラス効果、開発投資の減少によりプラス50億円、GP(売上総利益)の改善で20億円のプラス効果となる一方、不採算案件およびグローバル事業のマイナスとして43億円が影響。「不採算案件として2つの特定プロジェクトがあったが、すべて対策済みである。2019年度の一過性の悪化だ」と説明した。

 また「2019年度の売上収益は、ITサービス領域で期初の予定に加えて、プラスαをキープ。モダナイゼーションやVCI(NEC Value Chain Innovation)などによるDX事業領域での進展が成果となっている。また、課題は不採算案件顕在化とグローバル事業の悪化である。そしてDX事業に関しては、市場拡大にスピードにあわせた、さらなる対応の加速が必要になる」と述べた。

2019年度の総括

 2020年度の業績見通しについては、「PC特需の反動や、一部大型案件の減少はあるが、2019年度の不採算案件による損失の解消と、事業改善、ITサービスおよびプラットフォームの売り上げ拡大、経費削減、原価低減の効果によって76億円の増益を見込んでいる。新型コロナウイルスの影響があり、売り上げの面では厳しい状況になると想定をしているが、利益については、期初計画を想定している」と述べた。

 このほか、エンタープライズ事業に対する新型コロナウイルスの影響についても説明した。

 「第1四半期は、プロジェクトの中断や延期が少なからず発生し、製造、交通、サービスを中心に大きく影響を受けている。第2四半期も第1四半期の状況が継続するが、下期から徐々に緩和されると見ている。製造業のように設備投資を抑える業種がある一方で、ニューノーマルに積極的に対応していくという流れもあり、全体的には維持されていく」とした。

 さらに、「対応策として、ニューノーマル時代に向けた商材の拡販、ウィズコロナに向けた費用削減と原価改善を見込めており、それ以外の経費削減努力も含めて利益の上積みを図る。下期に向けた不透明感はあるが、経済活動が維持されていくとの前提のもと、エンタープライズ事業は、全社損益の年間目標の達成に貢献できる」との自信を見せた。

COVID-19の影響について

業種別オファリングのVCIが重点施策に

 2020年度におけるエンタープライズ事業の基本戦略は、「ITサービス投資のデジタルシフトへの対応」とし、「従来型のSI事業は徐々に減少しつつあるものの、主力事業となっており、これを堅持しつつ、IT投資の急速なデジタルシフトにあわせた事業を強化する。そのための重点施策は、業種別のDXオファリングとしてVCIを整備すること、そして、デジタルビジネスプラットフォームユニットを中心に進めている全社DX施策との連携を強化することになる」とした。

 現時点で、オンプレ環境や従来型SIの「ベース事業」は、過半数を占めているが、クラウドやAI、リフト&シフト、共創などの「モダナイゼーション」と、デジタルネイティブな領域で顧客価値を最大化する「VCI事業」で構成される「DX事業」は、将来的には過半数を占めると予測。「ベース事業で培った顧客ベースを大切にしながら、顧客のDXによる変化にあわせて事業をシフトしていくことになる」とした。

事業構造(ベース事業+DX事業)

 構築中のSIサービスの案件を見ると、2019年3月時点では、クラウド/AIプラットフォーム上の案件は26%だったものが、2020年3月にはこれが44%に拡大。2020年6月時点では46%に拡大しているという。

 ここでは、IDC Japanの第3のプラットフォームの構成比が、2018年に26%、2019年に31%、2020年に38%となっていることと比較しながら、「NECは数年前から、クラウド、AI、セキュリティといったデジタル時代へのスキルシフトとプラットフォームの強化を図ってきた。IDC Japanのデータと比較すると、2018年度はビハインドだったものが、2019年度にはキャッチアップし、現在は、それよりも速いペースで流れをとらえている」と述べる。

 また、「NECのクラウドサービスに加えて、AWS(Amazon Web Services)やAzureなどのパブリッククラウドを活用したハイブリッドクラウドの提案を行い、その上で、AIやセキュリティを強め、案件を獲得していくといった施策が成果につながっている。今後はデジタルネイティブの案件が増える。従来型SIが減少していくことはリスクでもあるが、いままでのような顧客の案件を聞いて対応することから、NECがアセットを用意してベストプラクティスを提供するところにシフトしていく。これによって市場シェアをキープし、さらにシェアを拡大していく」などとした。

デジタルシフトの状況

VCI関連で17件の事例などを発表

 デジタル戦略の中心なるVCIについては、時間を割いて説明した。

 「NECは、企業と産業のDXとしてVCIを位置づけ、製造、流通、金融の顧客に対して、DXソリューションを展開している。2020年7月7日に、全社デジタル戦略としてDXオファリング体系を発表。顧客がDXを進める上で目的としている価値を、イノベーション創出、顧客接点改革、業務変革に分類し、オファリングとして提供できるようにした。その体系のなかで、各業種に提案するVCIオファリングを定義している」と説明。

 VCIオファリングでは、製造業向けの「Connected Manufacturing」、交通、物流事業者向けの「Intelligent Logistics Mobility」、小売業向けの「Smart Retail CX」、サービス業向けの「Smart Venue CX」、金融サービス向けの「Digital Finance」を用意していることを示しながら、「各業種の顧客に対して、デジタルによる新たな顧客価値を提供するものになっている」とした。

VCIオファリングの強化
NECのDXオファリング体系
VCIオファリング体系

 2020年度上期において、VCIオファリングを活用した具体的な事例も紹介した。

 JR東日本では、運行管理の高度化に向けて、クラウドおよびAI技術を活用した運行管理業務支援システムを構築。輸送障害発生時の情報共有や判断支援のほか、平常時には技術継承、教育支援などに活用するという。

 高輪ゲートウェイ駅前の特設会場で開催された期間限定イベント「Takanawa Gateway Fest」においては、顔認証技術によるタッチレスゲートや、MaaSによる予約、乗車体験などを提供。生体認証による共通のIDを通じて、さまざまなサービスを利用できる未来の世界を表現したという。

JR東日本の事例

 また、横浜銀行では、AI不正リスク検知サービスを構築。マネーロンダリングなどの不正利用口座をAIでモニタリングし、審査業務の省人化とリスク軽減を実現するもので、一次調査をAIが行い、取引のリスク度合いをスコアリング。金融犯罪や不正を効率的かつ精緻に検知・審査することに貢献しているという。

 東レでは、製品の品質検査情報を、サプライチェーンで共有する品質データ基盤を確立。完成品および原料、委託品の検査情報をデジタル化し、取引先などと検査データを共有、 分析することで、 サプライチェーンを通じた品質向上に貢献しているとのこと。

横浜銀行の事例
東レの事例

 そして三井不動産グループのホテルである「sequence」においては、顔認証技術を用いて、非対面でのホテルチェックインおよびチェックアウトを行えるようにし、スピーディーなチェックインで人の滞留を回避。ニューノーマル時代の安心、安全なホテル利用の実現に貢献しているとした。

三井不動産の事例

 「VCI関連のニュースリリースは、2020年8月までで17件になっている。VCIオファリングの整備とともに、DX事業の拡大を推進する」と述べた。

アセットベースのDXオファリングを推進

 さらに、DXオファリングにおける収益モデルの変革についても言及した。

 「NECは、先に触れたVCIオファリングを含めてDXオファリングを強化しているが、DXオファリングで重要なのは、アセットベースの考え方である。NECが得意としてきた従来型のSIは、顧客の明確な要件を把握し、One to Oneによるきめ細かい対応で価値を提供するものである」と前置き。

 「これに対してアセットベースによるオファリングは、NECが持つアセットを利用する製品、サービスのみならず、SIを含めたデリバリーノウハウまで含めた標準化、形式知化することで、あらかじめ準備し、顧客に対して、より速いスピードで、ベストプラクティスを提供することを目指す。工数提供型でプライシングされているSIサービスを、オファリングごとにモデル化することで、バリューによるプライシングに変革する」との違いを説明した。

 そして、「これにより、自動化やノウハウの再利用も含めた効率化によって得られるコストダウンが、顧客に対する価格の低減に反映され、NECの利益にも貢献する。アセットベースオファリングでは、サービスに対するサブスクリプション型事業を増やすとともに、バリュープライシングによるモデル型SI事業を増やすことで、ITサービス事業の収益モデルを変えていくことも目指したい」と話した。

 オファリング型の売上比率を増やすことで、工数によって頭打ちになってきたSIの売り上げ全体を増やすことができると期待。収益面においては、当初は、アセット整備のためにコストがかさむが、徐々に収益性を上げることができると見ており、2023年には、オファリング型事業が、既存SI事業の利益率を上回ることになるとした。

 「今後、従来型SI事業と、アセットベースオファリング型事業の比率を変えていくなかで、ITサービス事業全体の成長と利益率向上を図る」。

DXオファリングによる収益モデルの変革

 さらに、DXオファリングの推進体制を強化する。2019年4月に、全社横断型組織のデジタルビジネスプラットフォームユニットを設置し、クラウド、AI、セキュリティ、生体認証といったアセットのほか、保有しているコンサルティング、共通SI、オファリング統括機能といった体制を強化しているのに加えて、エンタープライズビジネスユニット内に、デジタルインテグレーション、デジタルビジネス基盤、業種対応コンサルティングといった業種横断型のデジタル組織を編成した。

 「2020年度はDXオファリングの整備とともに、全社およびエンタープライズビジネスユニットの連携体制をさらに強化する。また、DX重点プロジェクトの遂行にあたっては、金融、製造、流通の各業種の営業、SE部隊が、業種横断組織および全社横断組織とともに対応する体制を敷くことになる。この体制により、DX専門人材の強化とフロント事業部門のスキルシフトをあわせて推進し、DX事業の拡大を進める」としている。

DXオファリング推進体制の強化

 エンタープライズビジネスユニットにおける中長期的な課題としては、国内ITサービス市場において、デジタルシフトによる構造変化がさらに加速することへの対応を挙げ、「2021年度から始まる次期中期経営計画においては、デジタルビジネスが過半になると想定した上で、DX施策を加速する」と述べた。

 また収益構造の改革では、「エンタープライズビジネスユニットでは、営業利益率が10%を達成する状況にあるが、次期中期経営計画期間内にはアセットベースオファリングによる事業拡大などにより、さらなる利益率向上を図る」と述べた。

 そして、インオーガニックを含めたグローバル事業の成長を挙げ、「国内SIサービス市場は成長性では厳しい。成長のためには、グローバル事業を開拓していく必要がある」とした。