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コアビジネスと成長事業、2つのビジネスで事業を推進する―― 米Dell Technologies ホイッテン共同COO

 米Dell Technologiesの共同最高執行責任者(Co-COO)であるチャック・ホイッテン(Chuck Whitten)氏が初めて来日し、共同インタビューに応じた。

 ホイッテンCo-COOは、2021年にDell Technologiesに入社。Jeff Clarke副会長とともに、Co-COO(共同最高執行責任者)として、マイケル・デル会長兼CEOの経営を支える役割を担う。今回の来日では、5日間で15社の顧客やパートナーを訪問。「日本でのビジネスをさらに成長させるにはどうするか、そのためにはどんな支援ができるのかを理解することができた」と語る。

 インタビューには、デル・テクノロジーズ日本法人の大塚俊彦社長も同席し、日本の取り組みについても触れた。ホイッテンCo-COOと大塚社長に、Dell Technologiesの取り組みと、日本での事業戦略などについて聞いた。

左:米Dell Technologies 共同最高執行責任者(Co-COO)のチャック・ホイッテン氏、右:デル・テクノロジーズ株式会社 代表取締役社長の大塚俊彦氏

いまの時代こそ、デルが求められていると感じている

 ホイッテンCo-COOは、サーバーやストレージなどのインフラストラクチャーソリューショングループ(ISG)と、PCをはじめとしたクライアントソリューショングループを指揮し、製造や調達、サプライチェーンを含む世界規模の運用を管理している。また、企業の戦略的アジェンダの形成、エグゼクティブリーダーシップチーム全体の優先事項の設定を担当している。さらに、長期的な戦略の策定を担当し、クラウドやエッジ、通信、as a Serviceなどの先端テクノロジー分野の事業計画も指揮している。

 Dell Technologiesの入社前は、Bain and Companyに22年間在籍。Bain Southwestの業務執行社員や、Bainの取締役会のメンバーを務めた。最後の10年間は、テクノロジーセクターに専念し、Dell Technologiesの長期的な戦略の形成にも深く関与した経緯がある。

 「Dell Technologiesの目の前には、ワクワクするオポチュニティがたくさん広がっている。データやテクノロジーの時代において中心に存在する企業であり、人類の進歩を促進するテクノロジーを創造することを、ビジョンに掲げて取り組んでいる。いまの時代こそ、Dellが求められていると感じている」と、同社に入社した理由を語る。

米Dell Technologies 共同最高執行責任者(Co-COO)のチャック・ホイッテン氏

 ホイッテンCo-COOは、Dell Technologiesに入社してからは、今回が初めての来日だ。5日間で15社を訪問し、積極的な意見交換をしたほか、社内向けイベントにも参加し、日本法人の社員とも交流を図った。

 実は、ホイッテンCo-COOは2022年6月に一度来日する予定だったが、残念ながらそれが延期になった経緯がある。日本には早い段階に訪れたいという意思を感じていたこともあって、まずはざっくばらんにその点を聞いてみた。

 ホイッテンCo-COOは、「日本のエンタープライズIT市場は世界で2番目に大きい。また、世界3番目の経済大国である。デルにとって、日本はプライオリティが高い国である。コロナ禍で渡航が規制されていたが、6月時点ではそれが緩和されたので、優先して日本に来て、お客さまやパートナー、社員に会いたいと考えていた。だが、残念ながら、コロナの陽性反応が出てしまい、来ることができなかった。今回、来日して、日本のビジネスをさらに成長させるにはどうするか、そのためにはどんな支援ができるのかを理解することができた」と語る。

日本の企業は、いま何をすべきなのか?

 だが、ホイッテンCo-COOが指摘するように、日本はエンタープライズIT市場では世界2位ではあっても、デジタル化やDXでの遅れは否めない。先ごろ発表されたデジタル競争力ランキングでは、日本はさらに順位を落として29位となった。DXを推進している企業は1割に満たないという調査結果もある。日本の企業は、いま何をすべきなのか。

 ホイッテンCo-COOは、「今回、訪問した日本のお客さまやパートナーに話を聞くと、すべての企業が戦略の中心にDXを置いている。日本の企業でもDXが加速していることを感じた」と前置き。

 「ITはもはやコストセンターではなく、企業戦略の中核である。テクノロジーを活用して、競争優位性を発揮しなくてはならない。そうしなければ企業は陳腐化するという意識を持つ必要がある」と指摘した。

 また、「企業はインフレや経済の低迷、製品供給の逼迫などの課題がある。これらの課題をしっかりと理解し、克服することが求められている。テクノロジーへの投資が適切に行われるならば、コストが削減でき、インフレへの対応や人員不足などの課題も解決できる」とも語った。

 その上で、「Dell Technologiesでは、5Gやエッジ、自動走行、政府のデジタル化、ハイブリッドワーク、モダナイゼーションへの取り組みなど、あらゆるデジタル化における支援ができる。日本の経済が変革するなかで、その変革を支援するという点で、最もふさわしい企業がDell Technologiesである」と自信をみせた。

 また、デル・テクノロジーズ日本法人の大塚俊彦社長は、「社内のグローバル調査でも、日本はデジタルに対して慎重に取り組んでいるという傾向が現れている。欧米に比べてDXが遅れているのは確かである。日本の企業は、新しいことに着手する前にさまざまな検証を行い、地盤を作るのに時間をかける。だが、コロナ禍を経て、企業経営者や政府関係者のDXに対する意識が大きく変わり、経営の中核に据えようという動きが一気に進んでいる。これから、日本のデジタル変革が大きく進展することになる。それに対して、デル・テクノロジーズは、実践的なソリューションを用意し、お客さまがステップ・バイ・ステップで前進できるように支援し、DXをリアルなものにしていく。『実践的』という点が重要なキーワードになる」と語った。

デル・テクノロジーズ株式会社 代表取締役社長の大塚俊彦氏

好調な業績は「デルの戦略がDXを推進するためのパートナーとして認められていることの証し」

 Dell Technologiesの最新四半期となる同社2023年度第2四半期(2022年5月~7月)の業績は、売上高は前年同期比9%増の264億ドルとなり、第2四半期としては過去最高を記録。営業利益は前年同期比25%増の12億7000万ドルとなった。また、上半期(2022年2月~7月)の売上高は前年同期比12%増の535億ドル、営業利益は同41%増の28億2000万ドルとなっている。

 ISGおよびCSGともに高い成長を遂げ、PC、サーバー、ストレージもシェアを拡大しているという。

2023年度第2四半期の業績概要

 ホイッテンCo-COOは、「多くの企業にとってDXは最優先事項であり、DXが成功の燃料になっている。第2四半期の業績は、デルの戦略がDXを推進するためのパートナーとして認められていることの証しである。競争優位性を持ち、永続性のある成長を遂げることができている」と自信をみせる。

 また、デル・テクノロジーズ日本法人の大塚社長は、「日本の業績も堅調である。日本の企業の変革に貢献する、最も信頼されるパートナーになることを目指して、事業を推進しており、マルチクラウドの提案を含めた既存ITのモダナイゼーション、生産性と創造性を発揮するための働き方改革に加えて、DXの中核となるデータを新たな収益源にすることを支援し、セキュリティを提供することにも力を注いでいる。この4つをビジネスアジェンダとして取り組んでいる。また、マルチクラウドをはじめとした新たな事業領域においても、いくつかのプロジェクトをスタートすることができた。営業、プリセールス、サービス体制の強化、パートナーとの協業も強化している。2021年9月に移転した大手町の新本社を活用した顧客との共創も推進している」と、日本での状況について語った。

2つの観点から事業戦略を推進

 Dell Technologiesでは、2つの観点から事業戦略を推進している。

 ひとつは、PC、コンピュート&ネットワーキング、ストレージで構成するコアビジネスである。「この分野はまだ開拓できる。全世界の市場規模は約7200億ドルであり、デルはこの分野のリーダーであっても1050億ドルの事業規模である。ここからも成長の余地があることがわかる」と、今後の成長に向けて強気の姿勢をみせる。

 「いまは、サーバーの導入には慎重になっているお客さまもいるが、DXの流れは止まらない。DXには多くのサーバーが必要になる。サーバーは長期的には成長事業であると見ている」とも語る。

 もうひとつが、新たな成長事業領域の構築である。ここでは、エッジ、テレコム、マルチクラウド、データマネジメント、セキュリティ、AI/ML(機械学習)の6つの領域を挙げた。

Dell Technologiesの戦略

 「コアビジネスで持っている優位性を生かすことができる領域であり、勝算を持って成長に挑んでいるところだ。こちらも約7200億ドルの市場規模があり、Dell Technologiesは、この市場にアグレッシブに取り組んでいく」と述べた。

 例えば、エッジソリューションにおいては、過酷な環境でも安定稼働する耐久性に優れたサーバーやノートPC、ゲートウェイ製品を用意しており、スマートファクトリーやスマートホスピタル、スマートファームといった新たな取り組みを支援。導入してすぐに利用できる環境や、リモートで管理できる機能を提供していることを紹介した。

 またマルチクラウドでは、「もっとも力を入れている領域であり、コアビジネスとも直結している」とし、「オンプレミスか、クラウドかという議論はすでに終わっている。複数のクラウドを活用することが、お客さまにとっては重要な選択になる。パブリッククラウドのイノベーションを享受する一方で、遅延や制御、コストの観点からはオンプレミスを活用することも必要であり、国のなかでデータをしっかり守ることができるソブリンクラウドも大切である。これらをしっかりとサポートする能力を持っているのがデルの強みである」と語った。

 Dell Technologiesでは、主要なパブリッククラウドプロバイダーと連携することでマルチクラウドを推進する土壌を確立。さらにProject Alpineでは、デルのストレージソフトウェアを、AWSやMicrosoft Azure、Google Cloudで稼働させ、オンプレミスで利用しているストレージともシームレスな接続と、一貫した管理性を提供し、マルチクラウド環境を支援している。

 一方、セキュリティについては、ゼロトラストの考え方に基づいた製品提供を推進し、すべての製品にセキュリティを内蔵させ、セキュアなインフラを提供したいと述べた。「Dell Technologiesは、データ保護の領域でもリーダーであり、幅広くセキュリティをカバーできるユニークな存在として、シンプルなセキュリティソリューションを提供できる」と述べた。大塚社長は、「日本の企業は、サイバー攻撃への対応が整ってきたが、有事があった際にデータをリカバリーする体制が整っていないと感じる。具体的なところまで議論を行い、リカバリーソリューションを提供していきたい」とした。

 なお、世界的な半導体不足の影響については、「多くの企業と同様の影響は受けているが、Dell TechnologiesはIT分野において最大級の調達を行っていること、サプライチェーン各社と深いレベルの関係を持っていること、製品チームが俊敏に動き、入手できるパーツを検証し、実装することができる体制を敷いていること、営業組織が提供できる商品を提案する活動を行っていることで、影響の最小化を図り、他社よりもいい状況でビジネスができている。いまは、PCは通常の供給状況に戻っている。サーバーなどはまだ課題が残っている」と語る。

 さらに、「気候変動や地政学的リスクなどにより、サプライチェーンの回復力を維持するのは大変である。コストはかかるが、複数の調達先を確保し、さまざまな地域に分散させることが、サプライチェーンの維持には大切になっている。デルはそこに取り組んでいる。財務能力がある企業は、複数の調達手段を用い、スポットマーケットを活用するなど、これまでとは違う柔軟な対応を行うことがいいだろう。テクノロジーを活用したデジタルサプライチェーンにより、シミュレーションをもとにしてシナリオモデルを作成し、不測の事態に対応できるようにすることも必要だ。デルでは、サプライチェーンの自動化やデジタル化を進めており、機械学習を活用した先進的な分析も行っている」とも述べた。