ニュース

NECがグローバル5G事業の動向や戦略を解説、2022年度は顧客エンゲージメント強化や体制強化など3本の軸で事業を展開

 日本電気株式会社(以下、NEC)は22日、グローバル5G事業の動向や戦略に関する記者説明会を開催した。基地局などの無線アクセスネットワーク(RAN)の仕様をオープンな標準とすることでマルチベンダーの相互運用を可能にする「Open RAN」を中心に、5G事業の見通しや戦略について、NEC 執行役員常務の河村厚男氏が説明した。

NEC 執行役員常務 河村厚男氏

ソフトウェアやサービスに軸足を置いたビジネスを展開

 河村氏は、まず2021年からの2025年度中期計画についてあらためて解説した。

 2021~2022年度は市場立ち上がり期にあり、O-RAN Alliance仕様に準拠したOpen RANのO-RU(無線装置)を中心に顧客を獲得していること、ソフトウェアやSIのポートフォリオを拡充していることを説明した。

 また、2023~2025年度の5Gの本格展開においては、CU/DU(基地局の制御装置)や、インテリジェントな運用を可能にするオーケストレータ、NECハードウェアやソフトウェア、それらを組み上げるSI力によって、必要なソリューションをNECが統合的に提供すると説明。「ソフトウェアやサービスに軸足を置いたビジネスの展開をはかる。それにより高い利益率をはかる」と語った。

2025年度中期計画

市場動向:85%の通信事業者がOpen RANの導入意向

 続いてグローバルな市場動向について、河村氏は、主要な通信事業者85%がOpen RANを導入する意向を示しているという調査結果を取り上げた。すでに商用稼働中・購入段階の事業者が13%。加えてラボを所有したりトライアル中の事業者が35%あり、今後1~2年で購買や商用稼働に進む可能性が大きいという。

 また、2025年度にはOpen RANのシェアが約30%まで拡大することが予想されているという調査結果も紹介。2025年度の基地局市場全体の市場規模が3.5~4000兆円前後で、そのうちOpen RANが約1兆円を超えると予想しているという。「そのOpen RAN市場の中でNECは15~20%のシェア獲得を目指している」と河村氏は語った。

市場動向

 グローバルの各地域の動向としては、Open RANのトライアル実績が36事業者の37件に拡大していることを紹介。先行する日本の2件に加えて、欧州、米国、オーストラリア、インドでも、政府による推進と事業者による取り組みが活性化していると説明した。

 欧州では、英国政府が2030年までに35%をOpen RAN化するとし、ドイツ政府がOpen RANの検証開発のためのファンドを設立している。VodafoneやTelefonicaも、2030までに20~30%をOpen RAN化すると表明しているという。

 米国では、FCCが機器の移行を進める“Rip and Replace”のプログラムを開始。また、Greenfield事業者(新規事業者)であるDisk Networkが今年5月からOpen RANのvRAN(RAN仮想化)での商用サービスを開始しているとのこと。

 オーストラリアでも、大手事業者でOpen RANの技術検証を進めていると河村氏は説明。インドでも、ようやく周波数オークションが実施され5Gの本格化し、インド通産省がOpen RANラボを開設するなど政府で推進していると説明した。

グローバルの各地域の動向

NECの事業動向:2022年度の売上は下方修正も、2025年の数字は見直しせず

 NECの5G事業動向については、「中期計画の1年目である2021年度に、確実に商機をつかんで実績を上げ、Open RANベンダーとしてのポジションを確立している」と河村氏は語った。

 主な状況としては、国内の売上が2020年度からプラス250億と大きく伸長。海外では特に欧州顧客とのエンゲージメントの強化・拡大と、製品機能やパートナーを強化によるポートフォリオの強化により、高い市場評価を得たという。

 それに対して2022年度は、売上前年比倍増を計画していたが、「一部顧客の投資が慎重であることをふまえて下方修正している」(河村氏)。ただし、「期ずれはあるものの、欧州での受注が好調に進んでおり、全体としての顧客投資意欲は変化ない」(河村氏)として、2025年度に売上1900億円・利益率10%という数字については見直しはせず、計画どおり進めていると語った。

NECの5G事業における2025年度の目標および成果

 この2022年度の見直しについて、河村氏は国内と海外に分けて詳細を説明した。

 国内においてOpen RAN市場は、NTTドコモと楽天モバイルが牽引するとともに、デジタル田園都市構想に向けた5G推進税制などの政策の後押しもあり、前年度比で需要増となっているという。一方、2022年度第1四半期決算は、部材逼迫や、一部顧客の投資シフトのため、計画を見直したと説明。「NECは戦略的な部材確保や受注確保はできており、第2四半期以降は業績が回復する見込み」と河村氏は語った。

 海外市場については、Open RANのトライアルが広がっており、事業者のOpen RANへの関心は高いと河村氏は説明した。ただし、一部Brownfield事業者(既存事業者)のOpen RAN検証の遅れがあったことにより投資シフトがあり、計画を見直したという。「5Gの投資は、少し慎重になっていて、4Gよりもゆるやかな立ち上がりとなっている」(河村氏)としながら、今後、Brownfield顧客の商用・トライアル実績を積んでOpen RANの実効性を市場に証明していくと語った。

2022年度の計画見直しの背景と対応方針

 顧客のパイプライン拡大については、Open RANを積極的に進めている事業者についての事例を河村氏は紹介した。

 国内では、NTTドコモと楽天モバイルで、すでにOpen RANの製品展開をしている。NECも製品提供だけでなく海外展開など戦略的なパートナーシップを進めていると河村氏は説明した。

 海外については、Telefonicaにおいては、4か国でのプレ商用トライアルを共同で推進し、2021年にドイツでマルチベンダーの導入に成功したことを紹介した。

 また、イギリスのVirgin Media O2でもOpen RANを商用ネットワークに構築したことを紹介。NECはSIとしてシステム全体を設計し、楽天シンフォニーなどのエコシステムの製品を活用して、マルチベンダーでのOpen RANを推進したと河村氏は語った。

 そのほか、VodafoneにおいてはUKで5Gの Massive MIMOのアーリーベンダーに選定されたこと、Orangeにおいては欧州初となるMassive MIMEによる5G SA通信に成功したこと、Deutsche TelecomにおいてもOpen RAN商用展開を継続していることを河村氏は紹介した。

パイプライン拡大

2022年度の重点領域

 これらをふまえた2022年度の重点領域としては、「欧州を中心とした商用システム構築による市場形成と提供価値のさらなる拡大」「顧客エンゲージメントの進化」「それを達成するための体制強化」の3つを河村氏は挙げた。

グローバルで装用ネットワークの実績を積んで市場を拡大

 1つめは「欧州を中心とした商用システム構築による市場形成と提供価値のさらなる拡大」。

 まず、製品の提供価値に加えて、SI体制により、グローバルな商用ネットワークの構築の実績を積み上げる。これはGreenfield事業者だけでなく、Brownfield事業者でもOpen RANが使えることを証明していくという。

 また、Open RANのO-RU(無線装置)のポートフォリオを、ローバンドも含めて拡充することで市場ニーズに応えながら、新たな市場の拡充を進める。

 さらに国際情勢において、日米豪印QUADでセキュアなネットワークを推進する枠組みが進んでいることから、「オープン化によるセキュリティが非常に重要な要件になる」と河村氏は語った。

 そして、「継続して高品質の維持、部材コントロール、トータルでのシステムソリューションを継続して進めて、事業をさらに拡大していく」と河村氏は述べた。

2022年度の重点施策①:欧州を中心とした商用システム構築による市場形成と提供価値のさらなる拡大

RUからCU/DU、SIまで、各領域とも強化

 2つめは「顧客エンゲージメントの進化」。これについては、顧客の声を聞きながら、ポートフォリオの各領域を強化していくという。

 まずO-RU(無線装置)については、「欧州での実績を積み重ねるとともに、各国の周波数に合わせて、ローバンドを含めて、機種の拡大を進めることで、顧客のニーズの多様化に対応を進める」(河村氏)という。

 CU/DU(基地局の制御装置)については、NTTドコモのOREC(Open RAN Ecosystem)におけるvRANベースのCU/DUの検証や、IntelやQualcommなどチップベンダーとの連携を強化について説明。「競争力のあるvRANを今年度末に市場投入して、グローバルの本格拡販を進める」(河村氏)とし、それによりネットワークの上位領域に参入するための足がかりとすると語った。

 RANのSIについては、マルチベンダー製品をSIして商用品質を保証した組み合わせを提供し、その実績をほかの市場に展開すると説明。「これがメガベンダー(旧来の海外大手通信機器会社)と対抗するひとつの対抗作だと考えている」と河村氏は語った。

 5Gコアネットワークについては、国内の楽天やNTTドコモでの大規模実績や、パブリッククラウド活用の連携を武器に、海外顧客の開拓を進めているという。

 オーケストレーションのSMOについては、通信事業者と協業を進めながら、AI/MLを活用した電力削減やMassive MIMOの最適化などを実現して、運転の高度化やインテリジェント化をサポートすると河村氏は説明した。

2022年度の重点施策②:顧客エンゲージメントの強化

企業買収などでグローバルなリソースを拡充

 3つめは「体制強化」。欧州・北米を中心に、5G技術を兼ね備えたリソースをグローバルで拡充し、さらなる体制強化を実施する。

 1月には、アメリカのBlue Danube Systemsを買収した。「無線機の設計や開発リソースを取り込むことで、5G基地局の開発体制や顧客サポート体制を強化してきた」(河村氏)。また7月にはアイルランドのAspire Technologyを買収した。「SI、特にOpen RANのSIのリソースを確保することができた」(河村氏)。

 今後、さらに体制を強化して、欧州、北米、インドを中心に、さらなるビジネス拡大を実現すると河村氏は語った。

2022年度の重点施策③:体制強化