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NECが研究開発の最新状況を公開、生体認証やデジタルツイン、疑似量子アニーリングなど

研究開発の最新状況について公開するイベント「NEC Innovation Day」を開催

 日本電気株式会社(以下、NEC)は11月30日、研究開発の最新状況についてメディアに公開するイベント「NEC Innovation Day」を開催した。

 本記事では、NECのCTOの西原基夫氏(取締役 執行役員常務 兼 CTO)による講演に、デモ展示の内容をまじえてレポートする。

NEC Innovation Day
NECの西原基夫氏(取締役 執行役員常務 兼 CTO)

 西原氏はまずNECのグローバルイノベーションユニットを紹介した。2年前に作られた、研究開発および新事業のインキュベーションの部門と、知財部門がいっしょになった組織で、約1200名が働いている。活動はグローバルで、研究拠点が7カ所、ビジネス拠点が4カ所ある。

 技術イノベーションと事業イノベーションがあいまって社会で生かすための軸として、西原氏は「グローバルNo.1技術の創出」「先端的な事業イノベーション」「ハイポテンシャル人材」「イノベーション環境の整備」の4つを挙げた。

グローバルイノベーションユニットの研究拠点とビジネス拠点
4つの軸

 実際の取り組みについて西原氏は「グローバルNo.1技術」「先端的な事業イノベーションによる新規事業の創出」「新たな成長に向けた人づくり・場づくり」の3つのカテゴリーに分けて説明した。

技術イノベーション:あらゆるものがデジタルツインでイノベーションを起こす

 まず「グローバルNo.1技術」について。西原氏は、人工知能の分野で、機械学習の難関国際学会の論文採択数がずっとトップ10に入っていることをアピール。そのほか、映像・画像処理や、セキュリティ、通信などでの研究の数を紹介した。

 また、研究の事業化についても、基礎研究から応用研究、開発、事業家と進展する速度が20%アップ、実用件数も18%アップしていると西原氏は述べた。

NECの研究論文採択数など
研究の事業化の速度が20%アップ

自然に歩いて通過する多人数を顔認証する「ゲートレス生体認証」

 そうした研究の中でも、西原氏が「いろいろなところで世界No.1と言われている」と誇るのが、顔認証や虹彩認証、指紋認証などの生体認証技術だ。成田空港や羽田空港の搭乗手続きでもNECの技術が使われている。

 NECでは、用途に応じて、顔認証と虹彩認証を組み合わせるなど、精度を追求する方向と同時に、ストレスフリーの方向でも研究を進めている。立ち止まって認識するストップ&ゴー型から、そのまま歩いていくだけで認証するウォークスルー型へという方向だ。

NECの生体認証技術の評価
NECの生体認証技術と2つの方向性
顔認証と虹彩認証を組み合わせたマルチモーダル生体認証の展示

 この分野で、会見と同じ11月30日に「ゲートレス生体認証」の技術が発表された(本誌記事)。1人ずつ入るゲートなしに、多人数が自然に歩いて通過しても個々人を認証できる。2024年度の実用化を目指す。

 仕組みとしては、服装や動きから人物を追跡する技術と、顔認証を併用。追跡した人物の顔が見えたところで顔認証により登録した人物かどうかを判定する。1台のカメラで1分間に100人以上を認証できるという。

 展示では、多数の人が思い思いに通過するところをデモ。カメラ画像の中で、登録されている人の顔が緑、登録されていない人の顔が赤の枠で囲われて表示され、上部のパネルにも緑と赤のマークで示された。

ゲートレス生体認証
ゲートレス生体認証のデモ。多数の人が同時に通過しても認証できる。奥のカメラ画像で、登録されている人の顔が緑、登録されていない人の顔が赤の枠で囲われている。上部のパネルにも緑と赤のマークで示されている

生体認証技術をヘルスケアに応用

 生体認証の応用としては、ヘルスケアが参考出展されていた。スマートフォンで撮影した画像から、AIにより骨格推定して姿勢状態を認識し、関節などの不調を検知する。さらに問診票とも合わせて原因を推定し、さらに運動メニュー提案にまでつなげるというものだ。

生体認証を応用したヘルスケア。状態認識だけでなく原因推定や提案までを、どこでもできるようにする
スマートフォンで撮影した画像からAIにより骨格推定し不調を検知
問診票と合わせる
原因を推定
運動を提案

SAR衛星による橋の点検や、製造業での手指の動きの把握

 技術カテゴリーで西原氏が次に取り上げたのが、デジタルツインだ。「あらゆるものがデジタルツインの上に乗ってイノベーションを起こす」と氏は言う。

 デジタルツインの技術要素として西原氏は、実世界のものをデジタルに吸い上げる「モデル化」、それをデジタル上でシミュレーションして最適解を求める「最適化」、結果を実世界に戻す「対処・制御」、それらを効率やセキュリティを高く運用する「プラットフォーム」の4つを挙げ、それぞれに対する、NECの技術の強みを紹介した。

あらゆるものがデジタルツインの上に
4つの要素とNECの技術の強み

 デジタルツインのモデル化については、SAR衛星×AIによる橋の点検、製造業による手指の動きをとらえた作業行動のリアルタイムな把握、作業現場での複数人の多様な行動内容のデジタル化の3つが紹介された。これに加えて、先に紹介した生体認証技術を応用したヘルスケアもデジタルツインのモデル化に含まれる。

 橋の点検では、SAR衛星の映像とAIを組み合わせることで、橋の変化をmm単位で常時監視し、特に高度経済成長期に建てられた橋の、崩落寸前の異変を直感的に把握できるようにする。

 製造業でのリアルタイム把握では、手指の動きと経過時間をデジタル化しリアルタイムに把握することで、異常を早期発見する。

 複数人物の行動のデジタル化では、1つの映像の中で動いている人や機械、人が持っているもの、その場所の周辺物などの環境を把握し、それらの関係をとらえて行動を判別する。これにより、リモートでも品質維持と安全確認を可能にするという。

デジタルツインのモデル化の例
SAR衛星×AIによる橋の点検
変異から異常を発見したデモの動画の様子
手指の動きをとらえた作業行動識別
複数人物の作業内容を認識
手指の動きをリアルタイム把握するデモ
複数人物の作業内容を認識するデモの動画の様子

疑似量子アニーリングや最適化支援コンパイラによるデジタルツイン最適化

 デジタルツインの最適化としては、計算する問題が科学技術計算からAIや社会に変わる中でリアルタイムに最適解を求める、ベストな手法の自動統合の2つの方向を説明。そして、問題を高速に解くための疑似量子アニーリングサービスをクラウド型とオンプレミス型で提供する「NEC Vector Annealingサービス」と、最適化ツールの性質ごとにふさわしい条件式に自動変換する「最適化支援コンパイラ」を紹介した。

 NEC Vector Annealingサービスの事例としては、NECフィールディングでの配送計画に導入した例が展示で紹介された。ベテラン社員が2時間かけていた業務を12分に短縮したという。

 最適化支援コンパイラは、従来は数式を数カ月かけて変換していたのを自動最適化するものだという。「来年度には実用化したい」とのことで、将来は最適化問題解決の共通基盤ミドルウェアにしたいとの話だった。

最適化問題解決技術。NEC Vector Annealingサービスと最適化支援コンパイラ
NEC Vector Annealingサービスの事例
最適化支援コンパイラの説明
NEC Vector Annealingサービスを構成するNEC SX Aurora TSUBASA Vector Engine

 デジタルツインの対処・制御としては、人と協働するロボット制御や、人が理解できる説明性付与、AI同士の交渉が研究テーマとして挙げられた。

 人と協働するロボット制御については、2023年度に実用化し、2023~24年の実稼働を目指す。AI同士の交渉については、2023年に自律調整SCMコンソーシアムの活動を通じて事業化していく。

対処・制御の技術

量子暗号化通信の製品を2023年に出荷、遮蔽物でのモバイル通信の遮断をAI予測で避ける技術も展示

 デジタルツインのプラットフォームとしては、西原氏は「大事なのは信頼性」として、オープンなICTシステムの安全性・信頼性担保に向けてNTTグループと組んでオープンコンソーシアムを2023年に設立予定であると説明した。

 また、量子暗号通信への取り組みについては「これをやっている会社はまだ少ない」と西原氏。その中でNECの、NICT、京都大学、慶応大学との、内閣府が主導する戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)におけるフィールド実証を紹介。さらに、「来年度(2023年度)、無事に製品を出荷するはこびになったことをここで公表したい」と明らかにした。

 そのほか、Beyond 5G分散MIMOに関するNTTとの実証実験や、マルチコアファイバによる大容量海底光伝送、アプリアウェアIT/ネットワーク制御を西原氏は紹介した。

デジタルツインを支えるプラットフォーム技術

 このうち、分散MIMOとアプリアウェアIT/ネットワーク制御が展示でも紹介された。

 アプリアウェアIT/ネットワーク制御は、ICTプラットフォームを自律的にリアルタイム制御し、いつでも安定的な運用が可能にするという研究だ。

 展示では、30カ所のカメラからの画像認識において、通常はいくつかのカメラについて負荷が高くてエラーになるところを、最適化によって正常動作する様子をデモしていた。要素技術としては例えば、エッジでとクラウドで画像認識処理を分担するにあたって、処理の負荷に応じて分担を変化させるといったことが使われているとの説明だった。

 また分散MIMOは、モバイル通信のアンテナを切り替えるハンドオーバーにおける技術。ビルや構造物などの遮蔽物が多い場所で、通信の遮断や品質低下が起きることをAIが位置情報を元に予測し、最適なアンテナに自動切り替えする。

プラットフォームの展示2件
アプリアウェアIT/ネットワーク制御
分散MIMO
アプリアウェアIT/ネットワーク制御のデモ。下の画面が最適化適用なしの場合で、黄色のコマは負荷が高くてエラーになった部分を示す
分散アンテナの展示

事業イノベーション:協業によるライフサイエンスや農業、シリコンバレーでのスタートアップ立ち上げ

 技術イノベーションの次に、「先端的な事業イノベーション」を西原氏は説明した。

 NECの事業の考え方として、新事業創出プロセスを体系化して社内共通化し、シナジーによりアイデアを集結と事業への出口を拡大するものと西原氏は説明。それをさらに広げるために、新事業創出の部分でも6社でコンサル事業のBIRD INITIATIVE社を2020年に設立した。

 西原氏は出口戦略の形態を、自社の技術/他社の技術と、オープンイノベーション/内製可能なイノベーションのマトリックスで分類した。

NECの事業イノベーションの考え方
出口戦略の形態のマトリックス

ワクチンの100日以内での開発などヘルスケア/ライフサイエンス事業を紹介

 このマトリックスのうちまず、いままでNECがやっていなかった分野について自社と他社で取り組むドメイン型新規事業を取り上げ、それぞれライフサイエンスと農業を紹介した。

 ライフサイエンスについては、NECでは1998年から技術を蓄積してきて、それをパートナーにおけるドメイン知識やデータと組み合わせることで、創薬につなげる。

 AIを使った創薬への取り組みの例としては、Transgene SAとのネオアンチゲン個別化がんワクチンの臨床試験、CEPI国際基金での将来のパンデミック防止に向けた次世代ワクチン開発、塩野義製薬とのB型肝炎治療ワクチン共同研究の3つを西原氏は紹介した。

 CEPIの事例は、日本企業グループとして初めてプロジェクトが採択されたという。新しいウイルス疾病に対して安全で効果的なワクチンを100日で開発するというもので、ワクチン開発の45%の期間を占める研究・設計段階において、NECの先端AI技術に新開発のコード最適化技術を適用し、モデリング1回の試行時間を1/15に短縮したという。

 さらに、同分野においてBostonGene社とジョイントベンチャーを設立し、日本ではPMDA承認を目指す

 展示では、NECがヘルスケア/ライフサイエンス事業において注力する領域として「Medical Care(医療)」、「Lifestyle Support(健康)」、「Life Science(創薬)」の3つを挙げ、2030年に事業価値5,000億円を目指すと説明していた。

 例として「フォーネスビジュアス」サービスを紹介。7000種類のたんぱく質を解析する検査サービスと、生活習慣改善サービスの2つを合わせて提供している。

出口戦略:ドメイン型新規事業
AI創薬への取り組みの事例
安全で効果的なワクチンを100日で開発するCEPIでのプロジェクト
BostonGene社とのジョイントベンチャー設立
BostonGene社とのジョイントベンチャーの事業
ヘルスケア/ライフサイエンス事業の展示

肥料とかんがい量を削減しつつ収穫量を増やす営農支援サービス

 農業については、カゴメとのジョイントベンチャーとしてDXAS社をポルトガルで2022年9月に設立したことを西原氏は紹介した。農業デジタルツインによって、窒素肥料を20%削減しかんがい量を15%削減しつつ、収穫量の20%増に成功したことが10月に発表されている。

 こうしたトマト栽培でのノウハウを他作物へ応用すべく、営農支援サービスCropScopeが11カ国で14種類の作物に対して展開している。展示では、生育状態や土壌水分などを可視化する画面をデモしていた。

 NECではこうした農業分野で2025年に連結売上50億円ビジネスを目指すという。

 そのほか農業関連の分野では、カーボンニュートラルについても西原氏は触れた。CO2排出量のうち、森林泥炭火災によるものが約6~9%、水害による再建によるものが約1%あり、これらの防災によって削減されるCO2排出量をクレジット化する。また、森林業者や商社の自然資本(森林)もクレジット化する。

カゴメとのジョイントベンチャーDXAS(ポルトガル)
営農支援サービスCropScope
カーボンニュートラルの取り組み
CropScopeの画面
CropScopeで使う気象および土壌センサー

シリコンバレーで、2年で7つのスタートアップ事業を立ち上げ

 出口戦略のマトリックスから、次にスタートアップ連携型を西原氏は取り上げた。

 NECから独立したデータ分析ソリューションのdotData社は、2022年春にシリーズB資金調達を受け、堅調に拡大していると西原氏は報告。2025年にユニコーンの事業価値を目指すと語った。

 また、シリコンバレーに2018年設立したNEC Xは、NECの技術を核にオープンイノベーションによる事業家を推進する会社だ。このNEC Xでは、2021~2022年の2年で7つのスタートアップ事業立ち上げに成功したと西原氏は報告した。

 展示では7社のうち、Beagle Techによるワイン農園の剪定(せんてい)自動化ソリューションが紹介された。

 さらに、NECとBIRD INITIATIVEによる新事業創出コンサルティング事業や、エコシステム型CVCファンド「NEC Orchestrating Future Fund」の1年目の成果についてプレスリリースを出したことも西原氏は紹介した。

出口戦略:スタートアップ連携型
dotData社の事業状況
NEC X
NEC Xのスタートアップ事業立ち上げ
NEC Xの展示とBeagle Techの紹介

人づくり・場づくり:ハイポテンシャル人材育成や、研究拠点のハブとなる新棟

 3つ目のカテゴリー「新たな成長に向けた人づくり・場づくり」については、イノベーションを可能とする、ハイポテンシャル人材の育成の必要性を西原氏は語った。

 そのうえで「そのためにもAIのプラットフォームが大事」として、AI研究用スーパーコンピューターで、580PFLOPSで国内企業トップになったと西原氏は取り上げた。

 また、2025年にグローバルなオープンイノベーション拠点として、NECイノベーション新棟(仮称)が2025年に竣工することも紹介(本誌記事)。世界7カ所の研究拠点のハブとすると語った。

ハイポテンシャル人材の育成
AI研究用スーパーコンピュータ
NECイノベーション新棟(仮称)
NECイノベーション新棟(仮称)と周囲の模型
NECイノベーション新棟(仮称)の模型