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NECの提案したAI技術、CEPIの次世代ワクチン開発プロジェクトに採択 日本企業で初
ベータコロナウイルス属を広く予防するワクチンの開発に取り組む
2022年4月11日 06:00
日本電気株式会社(以下、NEC)は8日、同社のAI技術を使った創薬開発が、ワクチンの開発・製造を担う国際的な枠組み「CEPI(感染症流行対策イノベーション連合)」が公募した、「ベータコロナウイルス属を広く予防する候補ワクチンの開発」に採択されたと発表した。
NECは、ノルウェーに本拠を置く子会社NEC OncoImmunity(NECオンコイミュニティ)を通じて、欧州ワクチンイニシアチブやオスロ大学病院などの研究コンソーシアムを主導し、広範なベータコロナウイルス属に対するmRNAワクチンの設計、およびコンセプト実証を行うプロジェクトを開始する。なおNECは、日本企業で初めてCEPIからパートナーに選ばれ、CEPIはシードファンド(初期段階の投資)として最大480万ドルを拠出するという。
AIによる創薬は、AIを開発する世界中の企業が取り組んでいるが、NEC 取締役会長の遠藤信博氏は、「当社では、20年以上前からAIによる創薬に取り組み、粛々と研究開発を続けてきた。その結果、創薬を事業にできそうだというめどが立ったことから、2019年に定款を変更し、創薬を事業として取り組む決意をした。実際に薬品が誕生するまでには時間がかかるため、薬として提供されるのはこれからのことになるが、創薬事業は人間社会への貢献であり、今後重要な柱に仕立てていきたい」と、NECが創薬事業に積極的に取り組む姿勢を強調した。
ベータコロナウイルス属を広く予防するワクチンの開発に取り組む
今回、同社の技術が採択されたのは、SARS-CoV-2(COVID-19)を含む、ベータコロナウイルス属に分類されるすべてのコロナウイルスを対象とした、ベータコロナウイルス属を広く予防するワクチンの開発だ。
「今回の公募は、今後、どんなベータコロナウイルスが流行しても、それを予防できるワクチンを今から開発してしまおうという壮大な計画」(NEC AI創薬統括部長 NECオンコイコミュニティ会長の北村哲氏)となる。
現在、日本でも接種されているファイザー社、モデルナ社が提供している新型コロナウイルスワクチンは、新型コロナウイルスが細胞に感染するために必要なタンパク質、「スパイクタンパク質」の設計図となる遺伝子情報を搭載したmRNAワクチンで、接種することで体内に免疫機構が活性化され、スパイクタンパク質に対する抗体が作られる。
この抗体によって、新型コロナウイルスが体内に侵入した場合も不活性化され、感染を予防するというメカニズム。この抗体反応は半年程度しか効果が持続しないことがデータから明らかになってきた。すでにワクチンを接種している人でも、追加でワクチン接種が必要となっている要因だ。
それに対しNECが提案したのは、ウイルスに感染した細胞を、免疫細胞の一種である細胞傷害性T細胞が攻撃するmRNAワクチン。抗体による感染予防とは異なる、免疫応答を活用したもので、免疫応答は10年以上にわたって効果が持続するという報告があり、ワクチン効果が長期持続する可能性があるという。
ワクチンを設計する場合、スパイクタンパク質を含むすべてのウイルスのタンパク質の遺伝子データを分析し、その中から最も有効と思われる組み合わせを見つけ出していくことが必要になる。膨大な遺伝子データから、最適な組み合わせを人手で発見するのは困難なため、AIが活用されている。
NECでは独自のAIと数理最適化技術を活用し、すでに公表されている多数の新型コロナウイルスの遺伝子データから、「免疫機構を最大限に活性化し」「ウイルスの変異に強く」「世界中の人々に高いワクチン予防効果がある」という3つの指標から、最適な組み合わせを導き出し、mRNAワクチンに搭載することを目指している。
「AI創薬はものすごく幅広い研究活動が行われているが、その中でNECのAI創薬の強みは免疫反応を予測する部分。抗原を選択する予測アルゴリズムでは世界で最も優れていると自負している」(北村氏)
この予測アルゴリズムは、2019年7月に買収を発表したノルウェーのバイオテクノロジー企業、OncoImmunity AS(オンコイミュニティ)が持っていた技術をベースとしている。現在はNECオンコイミュニティとして、今回のワクチン開発にも大きな役割を果たしている。
「当社が買収した当時、オンコイミュニティは世界で最も優れた抗原を選択する技術に長けたベンチャーだった。同じ技術をNEC自身も持っていて、現在では両社の技術を統合し、世界でトップクラスのものとなっている。中で使われているAI技術は、1種類ではなく、何種類ものAI技術を組み合わせている。体内のプロセスなど、いろいろなものをモジュール化し、それぞれに対し最適なAIモデルを用意している。こうした合わせ技を評価してもらったと思っている」(北村氏)。
実はNECでは、新型コロナウイルス対策となる候補ワクチン開発についても2020年3月に完了していた。これには、現行のワクチンがスパイクタンパク質の遺伝子情報のみを搭載しているのに対し、全タンパク質を搭載している強みはあった。しかし、すでにファイザー、モデルナなどのワクチンは開発済み。NECの開発は、2020年3月から製薬メーカー、大学などと共に実際のワクチン作りを始めることとなるため、圧倒的にタイミングが遅かった。この反省を生かして、今回は早期に開発に取り組む。
現在の予定では、これから18カ月かけてベータコロナウイルス属共通の抗原探索を行い、その後6カ月かけ、非臨床試験として免疫反応試験を行う。その後、数年かけて製薬会社などとのパートナリングによって安全性や有効性の試験などに取り組むことになる。
CEPIのCEOであるリチャード・ハチェット氏は、ビデオメッセージで、「CEPIがNECグループと連携し、彼らのAIによる革新的なワクチンデザインのアプローチを用いて包括的なコロナウイルスワクチンの初期開発を実施するということに、私は期待に胸を弾ませています。この技術はまだ早期の段階ではありますが、大きな可能性を秘めています。この技術が実用的であることが示せれば、将来のコロナウイルスや、今後出現する他の病原体の脅威を減らし、世界を救えるはずです」とコメントした。
また厚生労働省 総括審議官の達谷窟庸野(たがやのぶなお)氏は、「今回、NECの最先端技術を使った創薬開発が、日本企業で初めて採択されたことにお喜びを申し上げるとともに、次世代ワクチン開発に貢献いただくことに期待している。今後、NECに続き、CEPIに採択される日本企業の登場にも期待したい」と話した。
記者会見にオンラインで参加した東京大学の医科学研究所 石井健教授は、「日本からCEPIに採択される企業がなかなか出なかった中で、NECが選ばれたのは本当に喜ばしいことだと思っている。もう一点、NECには以前から注目していた。2020年3月、新型コロナウイルスが何かわからない、怖いと多くの人が考えていた中で、対策ワクチン開発をしていることにNECが名乗りを上げたのは、大きな驚きだった」と、NECの開発を評価した。