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リコー・山下社長が第20次中期経営計画の進捗を説明、デジタルサービスの売上比率を60%以上に拡大へ

 株式会社リコーは3日、第20次中期経営計画の進捗状況について説明した。

 リコーの山下良則社長兼CEOは、「この1年で確信したのは、中期経営計画の目指すべき方向の正しさである。OAメーカーから脱却し、デジタルサービスの会社への変革を着実に実行しながら、第20次中期経営計画の達成に取り組む。やり切る覚悟である」と意欲をみせた。

リコー 代表取締役 社長執行役員 CEOの山下良則氏

 また、2021年度には39%だったデジタルサービスの売上比率を、2025年度に60%以上に拡大する計画を明らかにした。さらに中小企業向けのスクラムパッケージは、2022年度の販売計画を下方修正したが、中堅・大手企業向けのスクラムアセットの売上計画は上方修正した。

 同社では、2022年度を最終年度とする2カ年の第20次中期経営計画を推進しており、「“はたらく”の生産性を革新する『デジタルサービスの会社』への変革」を掲げ、経営目標として、売上高2兆円、営業利益1000億円、ROE9%以上を目指している。

 山下社長兼CEOは、「ウィズコロナがノーマルとなり、さまざまな分野でのデジタル化の加速。新しい働き方が浸透する一方で、リコーには外的要因による五重苦が生まれている」とし、「販売活動の阻害」、「ノンハード(プリントストック)の落ち込み」、「生産活動の遅延、停止」、「品不足による機会損失、原価アップ」、「物流費高騰」を挙げながら、「コロナ影響が長引き、多くの課題と戦っている。想定を超える外的要因により、五重苦があるが、これらの要因をしっかりと区分して、影響額を把握している。最善の策をピンポイントで打つことができている。また、各BU(ビジネスユニット)による追加施策の実行により目標を達成していくことになる」と手応えを示した。

 2022年度にはコロナ回復では営業利益で150億円の影響を見込み、体質強化で330億円増、事業成長で240億円増とし、1000億円の達成を目指す。

環境認識とリコーの方向性

 リコーでは、第20次中期経営計画をスタートした2021年4月に社内カンパニー制を導入。「各BUに権限を委譲し、自律的に対応し、難局を乗り越えることができている。カンパニー制を急いで進めてきたが、その成果が出ている。今後は各BU内の一気通貫体制の強化と、本社機能のさらなる先鋭化を進め、PDCA活動による課題の潰し込みを進める。組織を変えるのが仕事ではなく、変えてからがスターである。狙いを達成できるまで、粘り強く取り組んでいく」と語った。

 同社は、リコーデジタルサービス(RDS)、リコーデジタルプロダクツ(RDP)、リコーグラフィックコミュニケーションズ(RGC)、リコーインダストリアルソリューションズ(RIS)、リコーフューチャーズ(RFS)の5つのBUを設置。それぞれの事業に関しては、「収益性」、「市場性」に加えて、「デジタルサービス親和性」という新たな評価基準を設定し、これをもとに事業を4つのカテゴリー(事業ラベル)に分類した。

 具体的には、リコーの成長を牽引する「成長加速」には、RDSのオフィスサービス、RGCの商用印刷が、原資となるキャッシュを安定創出する「収益最大化」には、RDPおよびRDSのオフィスプリンティングが、戦略転換で価値を最大化する「戦略転換」には、RISのサーマル、RGGCの企業印刷が、価値貢献に向けたさまざまな方針を検討する「事業再生」にはRSIの産業プロダクツ、グループ本部が管轄しているカメラが、それぞれ位置づけられている。

社内カンパニー制導入に伴う効果と課題
リコーらしい事業ポートフォリオマネジメントの開始

 なお事業再生においては、すでにコンシューマ領域の再検討を進めており、360°カメラのRICOH THETAやそれに関わるクラウドサービスはリコー本体の事業として継続する一方、一眼レフカメラやコンパクトデジタルカメラ事業をリコーイメージングに集約し、デジタル手法を駆使しながら事業を再出発。360°カメラ「IQUI」を提供していたベクノス事業は終息することを発表している。

 同じく事業再生にある産業プロダクツ事業では、「たくさんの技術やコンポーネントがある。世の中のトレンド、自社の強みを見ながら、事業の選択と集中を実行していく過程にある」と位置づけた。

事業ポートフォリオマネジメント:新陳代謝加速の進捗

 また成長投資については、2025年度までに5000億円を実行する方針を掲げており、これに変更がないことを強調。「事業成長のためのM&A投資、経営基盤の強化、新事業ドメイン創出への投資を行う。海外では、新たにAxon Ivyを買収したほか、印刷、物流、製造現場に絞り込み、現場のDXを加速する成長投資を検討している。オフィスサービスと現場のデジタル化で合計3000億円の枠で考えており、経営基盤の強化では、人的資本の転換のためのデジタル人材育成、基幹システム刷新などに1000億円を投資。これは計画通りに進捗している。そして、先端技術開発と社会課題解決型事業創出に1000億円を考えている」とした。

事業ポートフォリオマネジメント:成長投資の実行

オフィスサービス事業の成長加速を図る

 今回の説明会では、RDS、RDP、RGCのそれぞれのプレジデントが説明を行った。

 RDSでは、オフィスサービス事業において、第20次中期経営計画において、営業利益で270億円増を目指している。

 山下社長兼CEOは、「日本では思いのほかスクラムパッケージの拡大に苦しんだ。リコーのオフィスサービスの特徴は、ハードウェアとソフトウェアを組み合わせたソリューションパッケージを提供することであるが、半導体不足の影響でPCがなかったり、ネットワーク機器が入手困難になったりといったことが影響している。だが、中堅・大手顧客向けにカスタマイズして提供するスクラムアセットは、入手可能なハードウェアをうまく組み合わせられ、伸ばすことができた。また欧州では、買収した企業において、CEをSEにシフトし、マルチスキル化を推進。提案力が向上している」と述べた。

 このほか、「この2年間はコロナ禍での買い控え傾向が強く、需要がたまっている。生産量が確保できた段階で一気に届けられるようにしたい。調達コストの上昇や物流コストの上昇を丁寧に説明し、価格転嫁を行い、提供している価値にふさわしい取引価格を実現したい」とも話している。

 また、リコー 取締役コーポレート専務執行役員 リコーデジタルサービスビジネスユニット プレジデントの大山晃氏は、「2021年度の営業利益は、価値提供拡大で37億円増、顧客拡大で66億円増の合計103億円増となり、進捗率は38%となっている。ICTの商材不足が進捗に影響している。2022年度の計画については、日本では40億円減の100億円に修正したが、欧州は40億円増の100億円にしている」と説明した。

リコー 取締役コーポレート専務執行役員 リコーデジタルサービスビジネスユニット プレジデントの大山晃氏

 スクラムパッケージについて、「想定以上にICT商材の不足が影響。PC、サーバー、ネットワーク機器が不足し、2021年度後半は苦戦している。スクラムパッケージの業務パッケージでは、本数の多いリモートワークは成長が鈍化。セキュリティは成長が加速した。業種パッケージは建設、福祉介護、製造業といった重点業種を中心に好調」としたが、2022年度はICT商材の不足が多少残ると予測。スクラムパッケージの2022年度目標を下方修正し、顧客比率20%、販売本数13万本の計画を、それぞれ15%、10万本に見直した。

 スクラムアセットについては、商品不足の影響が受けにくいことに加えて、セキュリティ強化やクラウド化のニーズが高いこと、SEによるSI化などにより案件の高収益化といったプラス要素があるほか、「2022年度は中堅企業により注力した施策展開を行う」という新たな方針も示した。2022年度の売上目標は350億円から、450億円に上方修正する。

スクラムパッケージとスクラムアセット

 欧州では、オフィスサービス領域において、新たに買収したオランダAvantageや、ポルトガルPamafeの事業が順調に推移。「若干、半導体不足の影響は受けているが、既存事業も好調であり、売上高は前年比17%増と想定以上に事業拡大が進んでいる。2022年度も成長を継続することができる」と述べた。

 欧州でのWTA(Work Together Anywhere)キャンペーンは2022年1月末累計で前年比75%増の111億円を受注。技術者のリスキルによるSEの育成も順調で、2022年度には300人のSE育成を完了させる予定だ。

 また、2019年に買収したDocuWareの進捗についても説明。46販社での販売、サポート体制を構築しており、2021年度は、クラウド版で前年比49%増、全体でも22%増という高い成長率を維持しているという。「日本語版は遅れて発売となったが、電子帳簿保存法対応ニーズが急速に高まっている。今後は、RSI(RICOH Smart Integration)プラットフォームとの連携を進め、お客さまの業務プロセス改革に貢献したい」と述べた。

欧州でのオフィスサービス事業の成長
DocuWareも好調を維持

 各種エッジデバイスとクラウド上のアプリケーションを融合するビジネス基盤であるRSI(RICOH Smart Integration)プラットフォームは、これまではMFPとの接続により、紙のデジタル化が中心だったが、業務プロセスの自動化や、業務改革プラットフォームへの進化により、事業展開を加速していくという。

 このほか、2022年1月に買収したスイスAxon Ivyについても触れ、「中堅、大手企業におけるデジタルプロセスオートメーション領域において、ローコード開発アプリケーションを保有している。リコーが、ドキュメントに依存しない業務プロセス改革提案を、RSIプラットフォーム上で実現するためには不可欠なピースであった。DocuWareが紙の電子保管や検索、管理を行う役割を担ってきたが、Axon Ivyによって、ドキュメントに限らず、業務プロセス全体の自動化が可能になる」と述べた。

RICOH Smart Integrationを業務改革プラットフォームへと進化させ、さらに事業展開を加速
スイスAxon Ivy買収の狙い

印刷現場のデジタル化を推進

 印刷現場のデジタル化を推進するRGCでは、第20次中期経営計画において、営業利益で170億円の増加を目指している。2021年度見込みでは、123億円増となっており、進捗率は72%に達している。そのうち事業成長では44億円増、体質強化では79億円増となっている。事業成長では、オフセット to デジタルの加速、印刷現場のワークフローソリューションの展開、産業印刷の拡大がポイントになり、体質強化では、設計業務デジタル化、サービス体制再編がポイントになっている。

 リコー コーポレート上席執行役員リコーグラフィックコミュニケーションズビジネスユニット プレジデントの加藤茂夫氏は、「進捗通りに進んでいる。さらに、コロナ回復分の追加も見込んでいる」とした。

印刷領域のデジタル化を図る
リコー コーポレート上席執行役員リコーグラフィックコミュニケーションズビジネスユニット プレジデントの加藤茂夫氏

 印刷業向けのオフセット to デジタルでは、世界初となる自動両面水性インクジェット機の「Pro Z75」を投入。欧米での大手商用印刷顧客の獲得、ノンハードの売上成長、欧州でのコロナ影響からの回復があり、「2021年度は当初計画を上回って着地する見込みである」とした。

 また、加藤プレジデントは、「アナログと比較したメリットを評価してデジタル印刷ソリューションを導入するお客さまが増えており、印刷現場のデジタル化が進展している。さらに、印刷事業者の事業の規模拡大や、経営品質の向上を価値共創プラットフォームであるRICOH BUSINESS BOOSTER(RBB)でサポート。印刷事業者とビジネスパートナーとのナレッジ共有を通じて、お客さまのビジネス拡大を目指している。印刷事業者との連携によるソリューション開発の実践により、デジタル印刷アプリの創出と新規ビジネスモデルの創出につながっている」とした。

 また山下社長兼CEOは、「印刷事業者と連携したソリューション開発が重要である。日本にいる開発者が、お客さまともっと接することが大切である」などとした。

印刷業向けのオフセット to デジタル市場はコロナ禍から回復したという
印刷事業者の事業規模拡大や経営品質向上をRBBで支援する

“オペレーショナルエクセレンス”の現状を説明

 一方RDPでは、第20次中期経営計画において営業利益で540億円増を見込んでおり、その中心が体質強化への取り組みになる。

 山下社長兼CEOは、「コスト上昇による圧迫と、原価低減が思ったほど進んでいない。モノづくり体質強化やサービス体制の強化を前倒しで進めていく。その一方で、業界全体での積極的な協業の成果を生み出しつつある。リコーという枠を超えて、業界での最適バリューチェーンの構築を、リコーがリードしたい」と述べた。すでに沖電気とはモジュール開発協業を発表している。

 RDPが取り組むオフィス領域におけるオペレーショナルエクセレンスについて、リコー コーポレート上席執行役員リコーデジタルプロダクツビジネスユニット プレジデントの中田克典氏が説明。「2021年度には281億円のコストダウンが見込まれ、52%の進捗率となる。計画以上の成果をあげている。変動原価低減、ものづくり体質強化、サービス改革によって実現している」と述べた。

オペレーショナルエクセレンス
リコー コーポレート上席執行役員リコーデジタルプロダクツビジネスユニット プレジデントの中田克典氏

 変動原価低減では、2022年度までに130億円の削減を目指しているが、措定以上の市況影響を受けて、2021年度までの成果は12億円にとどまる見込みだ。だが、想定外の価格上昇を除くと59億円の削減効果があるという。ここでは、将来の新型機に利用するためにコストダウンしたパーツを、現行機種にも採用。重合トナーラインにおいて、AIを活用した品質予測および制御で8割の人員削減を実現した実績を、他工場に水平展開したり、材料メーカーとの共同開発により、再生樹脂を10%以上コストダウンしたりといった成果が生まれているという。

 ものづくり体質強化では、180億円の削減計画に対して、2021年度までに149億円を削減することができるという。開発では、コントローラ評価の自動化などで開発工数を30%削減したり、設計生産の連携強化により手戻り工数を50%削減したりといった成果が生まれているほか、生産においては、中国生産拠点において、製品リードタイムの27%短縮、生産間接人員の40%削減に加えて、工程画像分析による問題解析時間の50%低減、類似製品集約生産による間接業務の効率化を図ったという。

変動原価低減の現状
ものづくり体質強化の現状

 サービス改革では、2022年度までに230億円の削減を目指しているが、2021年度までに120億円を達成する見込みだ。「Smart Support対応機のMIF浸透による保守効率の向上は想定通りにはいかなかったが、製品品質やサービス性を向上させたことで、CEのMIFカバレッジを改善。保守効率を向上し、ダウンタイムも低減できている」という。また、CEのマルチスキル化に向けた教育の推進でも成果があがっているという。

 一方で、部品調達難により、製品供給不足となったことを一過性の影響とは考えず、BCPプログラムのひとつに加える考えも示した。特定のメーカーに固定していた部品の多くを複数メーカーの部品に対応可能なマルチリプレイスメント設計のほか、フレキシブル生産拠点体制、 Safety Inventory Calculation Systemの導入、エマージェンシーリユースプロセスの導入を図るという。さらに、他社との協働を広げ、プリンティング業界全体で体質強化を加速。業界他社およびサプライヤーとの共同での材料開発、重要部品やキーモジュールを含めた他社からの購入や、これまでは門外不出だった部品の他社への供給、他社と協業したモジュールやパーツの開発分担の推進、他社も交えた生産拠点の最適活用も行うという。

サービス改革の現状
外部環境変化にも強い事業継続可能なものづくり体制の構築

デジタルサービスやデジタル人材育成への取り組み

 一方、リコーが取り組むデジタルサービスについても説明した。

 山下社長兼CEOは、「お客さま価値の高まりと、ワークプレイスの広がりのなかで、オフィス、現場、社会の3つの領域において、働く人の課題を解決するのがデジタルサービスである。ワークプレイスのデジタル化を進めながら、お客さまのデータの価値化を推進することになる」とし、「お客さまの”はたらく”に寄り添ったサービスと、それに貢献するデジタル技術、デバイスがデジタルサービスの領域であり、すべてのBUがデジタルサービスの成長に取り組むことになる」とした。

 その上で、2021年度には39%だったデジタルサービスの売上比率を、2025年度には60%以上に拡大する計画を発表。RDSとRDPが担当しているオフィスのデジタルサービスは、全体の32%から、45~50%の構成比に拡大。RGCとRISによる現場のデジタル化は7%であったものを倍増以上となる15~20%に拡大するという。

 2021年度見込みでは営業利益の42%がオフィスサービス、57%がオフィスプリンティングとしているが、2022年度計画では、47%がオフィスサービス、45%がオフィスプリンティングとなり、構成比率から見た上下関係が逆転することになる。

デジタルサービス売上比率の目標

 さらに、デジタル人材の育成については、「デジタル技術とデータを使いこなし、リコーのデジタルサービスを創出、加速させる人材」を、リコーのデジタル人材と定義。顧客価値を創出し、デジタルサービスを通して事業価値を高める人材「ビジネスインテグレータ」、高度なデジタル技術を駆使し、デジタルサービスを開発・提供する人材「デジタルエキスパート」、業務プロセスをよく理解し、事実やデータの分析をもとにして、本質的で最適な課題解決を見いだし、ソリューションの構築などをリードする「プロセスDX人材」で構成され、それらを認定制度化する。

 ビジネスインテグレータは、2022年に国内3万人の社員を対象に全社DX資質適正調査を実施した結果をもとに、候補人材として3200人を抽出。2022年4月にデジタルアカデミーを設置して、2022年度には100人の認定者を創出する。デジタルエキスパートは、2022年度までに2020年度比1.5倍となる2189人以上を認定する計画だが、2021年度中にすでに1878人を認定。前倒しで進捗しているという。プロセスDX人材は、2022年度までに上位のシルバー認定者を300人以上とする予定であり、2021年度中には170人が認定される見込みだとした。

人的資本を継続して強化

 ITシステムの刷新についても言及。本社IT部門主導により、システムのクラウド化を推進。5年間で580億円を投資し、180システムのクラウド移行を含む、約7割の基幹システムを刷新。基幹システムの54%をクラウドに移行するという。また、5年間で20億円を投資し、マスターデータの定義や整備によって、データドリブン経営へと移行。「これらは計画通りに進捗している。ROIC経営を推進する情報整備と、顧客情報の一元管理化、顧客情報の活用による売り上げ成長に貢献する段階に入っていくことになる」と述べた。

 さらに、「リコーらしいジョブ型制度を2022年4月から開始。デジタルサービスの会社への変革を支える企業風土や人材への転換を図る」とも語った。

 「リコーらしいジョブ型制度」として、実力や意欲に基づく、機動的な適所適材による登用、ジョブに応じた柔軟な報酬への変化、専門職や専門性を追求するキャリアの実現の3点を挙げた。