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リコーの2021年度連結業績、増収増益も見通しに対しては未達に
デジタルサービスの強化に向けた取り組みについての説明も実施
2022年5月11日 06:15
株式会社リコーは10日、2021年度(2020年4月~2021年3月)連結業績を発表した。
それによると、売上高は前年比4.5%増の1兆7585億円。営業利益は前年度の454億円の赤字から400億円の黒字に、税引前利益は410億円の赤字から443億円の黒字に、当期純利益は327億円の赤字から303億円の黒字に、それぞれ転換している。
リコー コーポレート執行役員兼CFOの川口俊氏は、「すべてのセグメントで増収増益となったが、見通しに対しては未達となった。第4四半期の製品供給量の増加やIT商材の回復による販売拡大、欧米でのオフィス回帰によるプリントボリュームの回復を見込んだが、それらが想定を下回った。またコロナの感染拡大、品不足や調達コストの高騰、輸送費の高騰などの外部要因の影響が解消し切らないままだった」とした
また「ハードウェアについては、2月半ばから供給量は増加したが売上に結びつけることができなかった点、ノンハードについては、2月からオフィス回帰が緩やかに回復してきたが、1~2週間程度の遅れた点が想定外となった。IT商材についてもディストリビュータからの購入が思うように進まず、営業活動に影響が出た」などと、計画未達の理由を挙げた。
営業利益に対しては、コロナ影響や品不足の影響によりマイナス385億円、海上輸送費の増加でマイナス80億円、原価増加でマイナス104億円となり、これらの外部要因で合計570億円のマイナスとなったが、緊急経費削減や資産売却などのリカバリ策でプラス346億円の巻き返しを図ったという。
セグメント別では、リコーデジタルサービスは、売上高が前年比3.7%増の1兆4281億円、営業利益が前年から188億円増の162億円。リコーデジタルプロダクツは、売上高が前年比2.2%増の3649億円、営業利益は前年から252億円増の417億円。
「オフィスプリンティングの利益率が大幅に改善し、オフィスサービスの利益率も継続的に改善した。特にオフィスサービスは、第4四半期において9.9%の営業利益率となり、目標としている2桁までもう一歩となった」とした。
2021年度のスクラムパッケージの売上高は前年比7%増の484億円、スクラムアセットは前年比48%増の313億円、スクラムシリーズ合計では前年比20%増の797億円になった。「中小企業向けのスクラムパッケージは目標には若干届かなかったが、セキュリティ関連が好調。中堅企業向けのスクラムアセットは、システム導入後の運用代行、仮想化集約、セキュリティ強化が好調に進み、300億円の目標を上回る実績になった」という。
また、欧州では、「Work Together, Anywhere」パッケージが堅調であり、前年比109%増の151億円を受注。ニューノーマル対応を見据えたキャンペーンの展開を準備しているという。欧州での買収企業の業績も引き続き堅調であり、これらの企業の業績は前年比7%増になっている。
リコーグラフィックコミュニケーションズは、売上高が前年比17.0%増の1870億円、営業損失は469億円改善したが、マイナス4億円の赤字となった。「商用印刷におけるノンハードビジネスの回復、体質強化によるデジタル化やサービス改革の断行により、計画を達成して増収増益。あと一歩で黒字化のところまできている。第4四半期に次期機種の開発に向けた投資を行った影響によるもので、実力値としては黒字であったと見ており、確実に回復に向かっている」とした。
リコーインダストリアルソリューションズは、売上高が前年比3.5%増の1192億円、営業利益は29億円増の13億円となった。「第3四半期までは赤字だったが、第4四半期に一気に黒字化した。剥離紙レスラベルによる社会環境に優しい製品などが注目されている。価格転嫁を進めた成果が第4四半期の利益に貢献している」という。
その他分野は、売上高が前年比11.3%減の355億円、営業損失はマイナス155億円の赤字となった。「巣ごもり需要で、360°カメラクラウドサービスは増収となった。植物由来の新素材であるPLAiRが新たな事業としてスタートしており、2022年度には成果につなげたい」とした。
このほか、部材価格の高騰などを背景にしたMFPへの価格転嫁の考え方についても言及した。
川口CFOは、「商品の切り替え時などに価格転嫁を行っているが、MFPにおいては、価格転嫁よりも、値引きをどれだけ抑えられるかがひとつの策であることは事実」としながらも、「ハードウェアだけを販売するということが減っており、MFPとサービスを組み合わせたパッケージとして価格を提示することを行っている。5%値引きしていたのをゼロにするというのではなく、どれだけ付加価値を付けられるかが大切であり、その上で価格を提示している」とした。
また、リコーの山下良則社長は、「コロナ禍および部材価格の高騰による価格転嫁については、社内でもいろいろと話をしてきた。販売現場のお客さまとの関係や、ディーラーとの関係がベースとなって状況が変わったり、日本と欧米でも状況が違ったりしている。欧米では、サーチャージのような形で価格転嫁について理解をしてもらうということを進めている。日本では値引き率の交渉の話があるのは確かだ」と前置き。
「ただ私自身は、ハードウェアとソフトウェアによって価値を提案し、価値にプライスをつける形に変えていきたいと考えている。相応しい価格を、このタイミングで理解をしていただくという活動をやっていくことが正しいといえる時期になってきた。従来のように5%引き、10%引きにするという議論ではなく、付加価値の提案や、付加価値をベースにした交渉を行っていくことが大切だ。他社よりも高い、安いという話はあるかもしれないが、箱売りの競争の時代は終わっていることを理解してもらい、お客さまの課題解決に役に立てるかどうかが競争の場であり、その価値をお互いに共有していくことを考えるには、いい時期が訪れたと思っている。価格戦略を新たに構築しなおす時期である。できればこれまでのような値引きはやめたい。これは、違うやり方にしたいという宣言だと理解してほしい」と述べた。
2022年度の通期業績見通しを発表
一方、2022年度通期業績見通しは、売上高が前年比16.6%増の2兆500億円、営業利益が1同24.7%増の900億円、税引前利益が同111.8%増の940億円、当期純利益が同107.4%増の630億円を目指す。
2022年度は第20次中期経営計画の最終年度となり、売上高2兆円、営業利益1000億円、営業利益率5%、ROE9%以上を掲げていたが、営業利益は900億円、営業利益率は4.4%、ROEは7%とした。
山下社長は、「2022年3月3日時点で、2022年度には営業利益1000億円をやると宣言したにも関わらず、今回、900億円としたことはじくじたる思いがある。だが、状況を把握した上で、計画の精度をあげるのが経営の基本である。2~3月の動きを見て判断した。ハードで足腰が動かなくなる営業にはしたくない。コロナ禍によって追い風となっているDX需要を、サービス事業によって、もうひと押ししたい。手応えは感じている」などと述べた。
リコーの川口CFOは、「内外の事業環境リスクや、2021年度第4四半期に想定を下回った結果をもとに、慎重に再検証し、中期経営計画の目標を見直した。強気一辺倒ではいけない。国別に状況やリスク、オポチュニティを把握しなおした。体質強化や事業成長など、自らできることは中計施策として目標を維持し、しっかりと進捗させ、完遂を目指す。営業利益の900億円はなにがなんでもやっていく」とコメントした。
事業成長および体質強化の進捗率については、日本におけるスクラムシリーズの拡販などに取り組む「オフィスサービス事業の成長」では272億円増の目標に対して38%の進捗率、新機種投入やサービス工数の低減などに取り組む「印刷現場のデジタル化」では170億円増の目標に対して75%の進捗率、変動原価の低減やモノづくり体質強化、サービス改革に取り組む「オペレーショナルエクセレンスの追求」では540億円増の目標に対して61%の進捗率となっている。
セグメント別業績見通しは、リコーデジタルサービスは、売上高が1兆5720億円、営業利益は396億円。リコーデジタルプロダクツは、売上高が4200億円、営業利益は343億円。リコーグラフィックコミュニケーションズは、売上高が2340億円、営業利益は140億円。リコーインダストリアルソリューションズは、売上高が1415億円、営業利益は88億円。その他分野は、売上高が415億円、営業損失はマイナス111億円の赤字を見込んでいる。
「2022年度第2四半期以降に部品供給が改善しはじめ、生産も回復すると想定している。IT商材の購入も夏ぐらいから整ってくるだろう。第2四半期以降に徐々に良くなると期待している」(川口CFO)と予測した。
なお、子会社化を発表したPFUについては、個別の業績貢献については明らかにしなかったが、「7月頭にクロージングを予定している。そのため、2022年度の売り上げには半年分ぐらいを入れており、営業利益はまだ様子がわからないため入れていない」(リコーの山下社長)と説明した。PFUの2020年度の業績は売上高が1345億円、営業利益は45億円となっている。
デジタルサービスの強化に向けた取り組みについて説明
今回の決算会見では、リコーの山下社長が、デジタルサービスの強化に向けた取り組みについて説明した。
ここでは、2022年4月に発表したサイボウズとの業務提携、PFUの子会社化を軸に説明した。
山下社長は、2025年度までの成長投資として5000億円を計画し、それに向けて事業成長のためのM&A投資、経営基盤の強化、新事業ドメイン創出への投資を予定していることをあらためて説明。PFUの子会社化やサイボウズとの業務提携は、重点領域の強化につながることを強調した。
PFUの子会社化については、重点領域のひとつである「日本と欧州のオフィスサービス」の観点から、マルチクラウドの構築および運用、セキュリティサービスなどによる高度ITサービス提供能力の強化を実現。「デジタルサービスを支えるエッジデバイス」の観点では、業務ワークフローの入り口となる業種・業務スキャナーを獲得。「現場のデジタル化」の領域では、産業コンピュータ事業の強化により、物流、製造、医療といった現場のデジタル化を推進できるとした。
また、サイボウズとの業務提携では、リコーブランド版kintoneを共同開発することを発表したが、「これは、重点領域のひとつである『オフィスサービスのソフトウェア』の強化になる」と説明。
「2019年に買収したDocuWareは全世界で46社が販売する体制を構築し、デジタルサービスのドキュメントの領域をカバー。2022年1月に買収したAxon Ivyは、デジタルプロセスの領域をカバーすることになる。これにより、RICOH Smart Integration(RSI)を進化させることができた。だが、完成させるための宿題となっていたのが、ドキュメントに依存しない業務プロセスに改善するためのソフトウェアの強化と、デジタルワークフローの価値提供領域を広げるためのエッジデバイスの強化であった。これらの宿題を、サイボウズとの提携によるリコー版kintoneと、PFUの世界ナンバーワンのスキャナーをポートフォリオに加えることで解決できる」などとした。
リコーブランド版kintoneにより、デジタルプロセス領域において、プログラミングの専門知識がなくても容易にシステムを構築できる開発ツールを獲得。顧客自身が業務改革に取り組むことができるツールとして、リコーブランド版kintoneを提供し、RSIを業務改革プラットフォームに進化させるという。
「リコーブランド版kintoneとDocuWare、Axon Ivyを連携させ、エンド・トゥ・エンドの業務フローを実現。将来は、RSI上に蓄積したデータを分析して、AIを活用して顧客価値向上に貢献したい」と述べた。
また、「業種、業務の現場で使われているPFUのスキャナーは魅力的であり、リコーのMFPに比べて、通紙の性能、OCRの精度では高い技術を持つ。さまざまなサイズの紙を正確に読み取ることができる。MFPでは扱い切れなかった業務ドキュメントにも対応でき、現場のデジタル化の入り口になる。ここで読み込んだデータを活用して、クラウド上でワークフローを構築する際に、リコーブランド版kintoneが活躍する。また、PFUのマルチクラウド、マネージドセキュリティサービスを加えることもでき、PFUの900人以上の技術サポート体制と、リコーのMFPの保守サービス網と組み合わせることで、補完しながら、お客さまのラストワンマイルをカバーできる」と述べた。
今回の業績発表にあわせて、リコーの山下社長は、デジタルサービスの売上構成比が42%に達したことも明らかにした。これは、2022年3月の発表した際の、39%の見込みを大きく上回っている。2022年度には46%へと拡大し、さらに、2025年度には60%に高める計画だ。
「新型コロナウイルス感染症の拡大は長期化しているが、見方を変えると、デジタル化によってワークフローをつなぐことや、仕事のやり方を変えるといったDXに対する気運が高まっている。そうしたなかで、リコーは、デジタルサービスの会社への変革を一気に進め、体質強化と事業成長の同時実現に取り組む。今後も積極的な投資を進める」と述べた。
さらに、資本政策についても説明した。「2021年度は、欧州を中心にM&Aを実施したほか、自己株式を取得し、消却を完了した。円安の影響により、純資産が大きく増加している。2022年度も積極的なM&Aや業務提携を進め、早期の利益貢献につなげ、資本収益性の改善を進めて、ROEを向上させていく。2025年度の最適純資産1兆円を目指し、企業価値の最大化するという考えには変更はない」などとした。