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リコーの山下社長が会見、次期中計はROE9%以上が目標

1000億円の株主還元を実施へ

 株式会社リコーは27日、オンラインで記者会見を行い、代表取締役社長執行役員CEOの山下良則氏が、第19次中期経営計画の総括、および第20次中期経営計画の方向性について説明した。

 このなかで、2022年度には、ROE(株主資本利益率)で9%以上、ROIC(投下資本利益率)で7%以上とする経営目標を明らかにした。また第19次中計の総括として、1000億円の株主還元を行うことも公表した。

 なおリコーは、2017年4月から2020年3月までの第19次中期経営計画に取り組んでおり、今回の会見では、当初、その取り組みとともに、2020年4月からスタートする新たな中期経営計画についても発表する予定であった。

 しかし山下社長は、「新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、その影響が、十分に織り込めない状況で、新たな中期経営計画を発表することは失礼である。私自身、社長就任以来、資本市場の方々とのコミュニケーションを重視してきた。新型コロナウイルスの影響がもう少し見通せた段階で報告したい。できれば、2020年5月8日に予定している2019年度決算発表時に公表したい」と述べた。

リコーの山下良則 代表取締役社長執行役員CEO

再起動⇒挑戦⇒飛躍へ

 リコーは、山下良則氏が社長に就任した2017年4月から、第19次中期経営計画をスタート。2017年4月からの1年間を「リコー再起動」とし、構造改革や成長戦略の重点化、ガバナンス改革、経営管理体制の強化に取り組むとともに、2018年4月から2020年3月までの2年間を「リコー挑戦」と題して、成長戦略の本格展開や、成長戦略を支える経営基盤改革に取り組んできた。

成長戦略の3つのステップ

 そして、2021年3月期からの新たな中期経営計画の実行とともに、「リコー飛躍」を打ち出し、2023年3月期目標達成とその先の持続的な成長を実現する「成長戦略の実行」、適切な資本政策と投資の実施により、資本収益性向上と成長戦略実現を両立させる「資本収益性の向上」、適切な評価やインセンティブのもとで経営を行う「コーポレート・ガバナンス改革」を、三位一体で推進、展開する考えを示していた。

 山下社長は、これまでの3年間を振り返り、「2017年4月の社長就任時に、それまでと同じ経営を続ければ、赤字に転落するというシナリオを提示し、危機的状況であることを示した。また、構造改革が長期化すると社員が疲弊するため、トップダウンで断行してきた。また、重点化した成長領域に対し、継続的に投資することを最優先した。利益だけを追うのではなく、投資の原資となるキャッシュフローを継続して創出できる企業にすることが不可欠だと考え、そこにこだわってきた」と話す。

 また、「痛みを伴うコスト構造改革については、初年度に完了することを目指し、拠点の整理や集約などを断行し、過去の買収に伴うのれん代の減損損失処理や、聖域を設けずにグループ会社の再編を行ってきた。投資家や顧客、社員には心配をかけたが、キャッシュフローの目標は、中計の2年目に前倒しで達成できた」との成果を強調する。

 さらに、「リコーには、マーケットシェア追求、MIF(複合機の設置台数)拡大、製品のフルラインアップ、直売・直サービス、ものづくり自前主義という5大原則があった。これが常識となり、暗黙のルールになっていたが、基盤となるプリンティング事業において、これの見直しに手をつけた。従来の常識にとらわれない構造改革を断行し、規模の拡大から利益重視にかじを取り、コスト構造改革や業務プロセス改革、事業の選別を徹底し、稼ぐ力を高めることに力を注いだ」と述べた。

トップダウンによる構造改革

 特に、事業選別の徹底については、「事業検証に基づき、聖域を設けずに見直しを行った」とし、「オフィスサービスや商業印刷など、自社リソースによって成長できる事業には積極的にリソースを配分する一方、コア事業と関連があるものの、十分なリソースが割けない電子デバイスやロジスティクス、リースといった事業は、外部リソースとの連携を強化。3月9日には、リコーリースの保有株式の譲渡により、非連結化することを発表した」と説明。

 「リコーから離れた方が成長できる三愛観光、コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングスなどのノンコア事業は撤退や売却、保有株式の見直しなどを行ってきた。カメラ事業も改善に向かっている。これからも、各事業の位置づけの見直しは、常時行っていくことになる。だが、これまでの取り組みによって、子会社、関連会社を中心とした資本投下先の選択と集中はほぼ完了した」と宣言してみせた。

 さらに山下社長は、こうした取り組みを振り返りながら、「2016年度まではグローバルプロダクトの複合機を、アジアで集中生産して、全世界に届け、保守およびメンテナンスを行う事業モデルが成立していた。これにあわせて最適化してきた開発、生産、販売体制がリコーの競争力の源泉であったが、プリンティングの相対的な価値の低下とともに、この体制が重荷になると感じた。そこにくさびを打ったのが5大原則の見直しであり、過去のマネジメントからの決別であった。そして、収益率の向上に取り組み、過去の経営の反省からガバナンスの強化に取り組んだ」と述べる。

 一方、「私自身、絶対値の持つ意味を考えてきた。絶対値の目標を達成するためだけに経営資源を投入することは求められていないと考えた。経営者は地球の限りある資源を預かって事業を行っている。投下された資源に対して、いかに効率よくリターンを生むかということが経営には重要である」と、これまでの経営手法をもとにした持論を展開した。

各事業の進ちょくを説明

 一方で、各事業の進ちょくについても言及した。

 “成長戦略0”と位置づけたオフィスプリンティングでは、売価マネジメントと新世代MFPの投入、遠隔監視機能による保守活動の効率化、生産拠点の再配置による固定費の削減が功を奏し、「市場全体が縮小するなかで、限界利益の下げ幅を改善し、販売競争が激化するなかで、安売りをしない体質が定着したという実感がある」と自己評価した。

 だが、商用印刷や産業印刷などの“成長戦略1”は、アナログからデジタルへの転換による成長を推進したものの、「商用印刷、産業印刷ともに、収益性が大幅に改善したが、商用印刷では新機種の立ち上がりが遅れ、産業印刷では、M&Aが狙い通りにすすまなかったことで、成長ドライバーにはならなかった。これは反省材料である」と述べた。

 また成長戦略2では、2017年度後半にオフィスサービス事業の黒字化を達成し、その後も増収増益を継続。「海外におけるサービスサイトの集約、国内におけるスクラムパッケージの拡販が収益性改善をけん引した」と振り返った。

事業ごとの進ちょく状況

 スクラムパッケージは、急速な勢いで販売実績を伸ばしており、販売本数は4万本、売上高は300億円を視野にとらえ始めている。「Windows 10へのマイグレーション特需においても、PCの単体売りではなく、業種/業務ソフトウェアを載せて提供する比率が80%を超えている。Windows 7の時とは大きく異なっている。海外でも、中小企業に向けた顧客密着型のサービス事業モデルを展開しており、それぞれの国や地域の市場特性や顧客の傾向をとらえたビジネスを行っている。地域ごとに不足するケーパビリティについては提携や買収によって獲得をしている」と述べた。

 そして新たな可能性への挑戦として、ヘルスケアの製品開発や体制整備を実施したほか、室内光発電モジュール、DNA標準プレート、照明・空調制御システムなどの提供を開始したことも、第19次中計のなかでの成果のひとつとしてあげた。

 「各事業のポートフォリオ上の位置づけ、狙いについては、おおむね想定通りに進ちょくした。特に躍進したオフィスサービス事業は、大手ITベンダーが手を差し伸べない中小企業に寄り添ってきた歴史がモノを言っている。これがリコーグループの強みであり、他社にまねができないところである」とする。

 そして、「日本では、サービス事業に着手してから30年の歴史がある。中小企業のニーズを満たし、商品およびサービスのラインアップを行い、パッケージ型のサービスを提供してきた。かつては、サービスは無償という意識が強く、収益は長らく低迷を続けてきたが、ここ数年で顧客の意識が変わり、サービスの有償化への納得感が広がってきた。また、対価をもらうことが難しいものの、人手がかかるサービスを続けてきたことで、信頼を得てきたという点も評価されている」と、中小企業に寄り添ってきたからこその強みを強調した。

 このほか保守についても、「他社を圧倒する保守サービス網は、顧客密着型の人的インフラであり、適切なサービス対価を得られれば、固定費が回収され、収益性が健全化する。長い道のりであったが、他社が入り込むことが難しい領域で、競争力を確保できることができた」と述べた。

 なお2019年度の業績目標として、営業利益1000億円を掲げているが、第3四半期決算発表時点ではこれを達成できる見通しを発表している。今回の会見では、「1000億円は見通せている」と発言しながらも、「新型コロナウイルスの影響で、3月に入ってから、MFPにおいて、受注は決まっているが、なかなか納品ができないという状況が、欧米で発生している。このあたりを精査する必要がある」と述べた。

20次中計で目指す姿

 2022年度を最終年度とする3カ年の第20次中期経営計画の方向性についても触れた。

 山下社長は、「新たな中計では、絶対値ではなく効率指標を目標値にしたい。経営環境や競争環境の変化にあわせて、成長性と効率性のバランスを取りながら企業価値向上を目指す」として、2022年度にROE9%以上、ROIC7%以上の目標値を掲げた。2018年度のROEは5.4%であり、2019年度はこれを上回る計画だが、意欲的な目標であることは間違いない。

 また、純利益や調整後営業利益の目標については5月の計画公表値に明示したいとしたが、「利益額が多少振れたとしても、ROE9%は経営の意思として実現したい」と強調した。

 さらに、ステークホルダー別目標を設定。顧客調査での評価スコア、サプライヤーをはじめとする各パートナーからの評価スコア、社員エンゲージメントスコアなども盛り込むことで、「強靱(きょうじん)な体質を作りたい」と語った。

20次中計の主要目標
ROICに基づく事業運営

 なお、2023年度からスタートする第21次中期経営計画ではROEで10%以上を目指す姿勢も示した。

 「第20次中期経営計画では、持続的な企業価値向上に徹底的にこだわる。事業競争力の強化と、資本収益性の向上の両輪で企業活動を推進する。そのためには、グループ社員が自律的に活躍できる環境整備を図る。また、プリンティング事業とオフィスサービス事業を統合。プリンティングの顧客に対してサービスを乗せる提案を行い、安定したストックビジネス基盤を構築したい。社内のDXを強力に進め、その成果や経験を適正な価格で提供することにも取り組む」と述べた。

第20次中期経営計画の基本的な考え方

 さらに、「リコーの事業競争力の強化は、OAメーカーからのデジタルサービスの会社へと変ぼうすることで達成できると考えている」とし、「私が考えるデジタルサービス会社とは、働く人の創造力を支え、ワークプレイスを変えるサービスを提供する会社。オフィスと現場をつなぎ、デジタル技術で生産性向上を実現する会社である」と定義。「OAメーカーとしては重荷になっていたものを、デジタルサービス会社としての強みに変えていくことができる」と述べた。

OAメーカーからデジタルサービスの会社へ

 全世界140万社の直接取引を行っている顧客に対して、直接サービスを提供できること、1万1000人のフィールドエンジニアを持ち、顧客に寄り添っていること、ソフトウェア開発からフィールドでのシステムエンジニアまで、1万6000人のデジタル人材を持ち、困りごと解決に取り組んでいること、グローバルに連携する4000社のパートナーがいることの4つが、リコーがデジタルサービス会社として展開する上での強みになるとし、5GやAI、IoTなどが広がるなかで「いまこそ、リコーがOAメーカーからデジタルサービスの会社に変わる、最適なタイミングである」とした。

 そして、「モノづくりは大切な機能である。だがリコーは、世界一といえる商品しかモノづくりをしない方針を掲げることになる。顧客サービスに必要となるほかのデバイスは、仕入れによる調達を基本にしていく」と述べた。

 資本収益性の向上では、「株主資本は、未来に向けたリスクテイクとして、未来に向けた投資に活用。戦略投資は財務規律を踏まえながら、負債を積極的に活用する。M&Aでも同様に負債の活用を考える」と述べた。

 山下社長は、「新型コロナウイルスの影響で経済や金融市場の変化が促進される。それに対して、機動性の高い財務基盤の構築を目指すことが、いままで以上に重要になる。新たな中計では、投下資本に対する収益性を厳格に見ていくことになる。フロー重視の経営から、資本効率を意識した経営にシフトし、リコーに最適化したROIC経営に転換する」と語った。

 このほか山下社長は、創業100周年を迎える2036年までの長期ビジョンとして、「はたらく喜び」を打ち出した。

 「世界経済の先行きが不透明であり、変化が速いなかで、積み上げ式で事業計画を作ることはできない時代になってきた。将来像をきっちりと見つめ、バックキャスト指向で戦略策定をすることが必要である。リコーは、2020年2月に創立84年を迎えた。2036年には100周年を迎える」と前置き。

 「1977年にリコーがOA(オフィスオートメーション)を提唱し、それから半世紀近くを経過する。その間、一貫して働くお客さまに寄り添ってきた。近年ではその対象をオフィスから現場、社会へと広げている。機械にできることは機械に任せ、人はより創造的な仕事をするべきであるということが、OAを提唱した時の趣意書に書かれていた。人にしかできない創造性な仕事、生み出される付加価値の増幅によって、そこには必ず『はたらく喜び』があると確信している。業務の効率性や生産性向上から、働く人の内面、充足感、達成感、自己実現に目を向けて、働くを、喜ぶに変える手伝いができる。これが、働くことに寄り添ってきた、リコーのこれからの使命である」と語った。

新型コロナウイルスの事業への影響

 山下社長は、新型コロナウイルスの事業への影響についても説明。「生産に関しては、サプライヤーの協力によって日本および中国の製造ラインは早期に回復でき、ほぼ復旧済みだが、欧州は感熱紙生産のフランスおよびトナーのボトリングを行う英国の工場が閉鎖中。だが、顧客への影響は軽微であると考えている。中国の倉庫にあったハードウェアの在庫もすでに市場に運んである。市場の回復スピードにもよるが、供給不足は避けられる」とした

 しかし、「経済活動の停滞、購買需要の減速、プリントの減少などによって影響は避けられない。グローバル経営の危機であるととらえて、緊急体制を敷いている。急激な業績悪化を想定したプランBも用意している。特にアフター収益が大きく落ち込むことを前提として、戦略投資の抑制や、社内のDXにより、経費および固定費の大幅圧縮を検討している」とも説明。

 「今後3年で徐々に変わってくると考えていたことが、この3カ月で一気に動き出し、あぶりだされ、将来の社会課題が浮き彫りになってきた。新型コロナウイルスが終息した時の世界を考えれば、これまでとは違う世界、違う働き方に必要な商品、サービスを用意しなくてはならない。例えば、医療、教育現場でのリモート化は待ったなしである。それをデジタルの力で解決する必要がある。いまは緊急事態であり、刻一刻と状況が変化するなかで、倍速や3倍速での意思決定をする必要がある」と述べた。

新型コロナウイルス影響について

 また、「リコー社内の働き方改革を進めており、グローバルにリモートワークや在宅勤務を実施できている」とし、「リモートワークの浸透に対して、リコーは大きく貢献できると考えている。リコーの社員は在宅勤務で、顧客とのコミュニケーションを進めており、そこからも新たな案件が生まれている。新型コロナウイルス終息後の働き方についての準備も進めている。プリンティングボリュームの減少が加速することは十分意識している。その一方で電子データの活用が増加すると見ており、昨年はドイツのDocuWareを買収し、ドキュメントマネジメントソフトウェアを世界展開する準備もしている。プリンティング事業とオフィスサービス事業を統合することで、事業を加速したい」と述べた。

 このほかリコーの松石秀隆CFOは、「大手企業では、在宅勤務の環境が整っているが、突然、在宅勤務が始まったので、PCの台数が足りない、ネットワーク環境が整っていない、運用の仕方がわからないといった相談がある。また、サテライトオフィスを設置したいという要望もあり、ネットワーク環境やMFPの新設の商談もある。一方で、中堅企業では、まだリモートワークの環境が整っていないのが実態であり、VPNやWi-Fi環境の整備、PCとMFPとの連携といった商談が出ている。中小企業は環境がまったく整っていないという状況であり、いまは在宅勤務パックを提案している。案内を行った顧客の10分の1から引き合いが出ている。ピンチをチャンスととらえて、顧客課題、社会課題の解決につなげたい」と述べた。

リコーの松石秀隆CFO