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リコー、2022年度までの第20次中計を発表 売上高2兆円、営業利益1000億円を目指す
「デジタルサービスの会社」への変革を掲げる
2021年3月4日 11:48
株式会社リコーは3日、第20次中期経営計画を発表し、2022年度に売上高2兆円、営業利益1000億円、営業利益率5%、ROIC6.5%以上、ROE9%以上を目指す計画を明らかにした。「“はたらく”の生産性を革新する『デジタルサービスの会社』への変革」を目指すという。
イレギュラーな2年間の中期経営計画を打ち出す
同社では、2019年度で第19次中期経営計画を完了。2020年度からは、2022年度を最終年度とする3カ年の第20次中期経営計画を開始する予定だったが、新型コロナウイルス感染症流行の影響により、計画の策定および実行を保留していた。
それでも四半期業績発表時には、山下良則社長自らが出席し、計画の方向性を示しながら現状報告を行っていたが、今回、2022年度までの期間は変えず、2年間の中期経営計画を打ち出した。
山下社長は、「事業成長と資本収益性向上の両輪によって、ROE9%以上を目指す。そして、重要な指標は営業利益1000億円」と述べ、2020年度の営業損失見通しである、490億円の赤字を、2021年度には500億円の利益に回復させ、さらに2022年度には1000億円を目指すとしている。
なお同社では、2021年4月から、5つのビジネスユニットによる社内カンパニー制に移行する(後述)が、営業利益1000億円の達成に向けて、リコーデジタルサービス(RDS)およびリコーデジタルプロダクツ(RDP)におけるオフィスプリンティング事業のコスト削減で540億円、RDSのオフィスサービス事業の成長で270億円、RDPのMFPと新規デバイスの外販加速で60億円、リコーグラフィックコミュニケーションズ(RGC)の機種絞り込みや原価低減、サービス体制再編で60億円、リコーインダストリアルソリューションズ(RIS)でのパートナーとの共同原価低減、組織再編で50億円、RGCの印刷現場のワークフローソリューションや、オフセットからデジタルへの移行加速で80億円、RISでのリライタブルレーザーシステムや産業用ステレオカメラの拡大、生産設備ソリューションの拡大で60億円の利益貢献をそれぞれ見込んでいる。
2021年4月からリコーデジタルサービスユニットのプレジデントに就任する、現ワークプレイスソリューション事業本部長の大山晃氏は、オフィスサービス事業での270億円の営業利益成長について説明。
「アップセル、クロスセルを行い、新たなサービスを提供し、ストック収益を拡大することで110億円、既存ユーザーへのサービス提供と新規ユーザーの獲得で160億円の利益増を狙っている。国内市場では、スクラムパッケージを提供している顧客数は取引先全体の10%であり、90%の伸びしろがある。海外では、既存ユーザーへのサービス提供余地は取引顧客の95%もある。自社ソフトウェアによって、収益力の高いストックビジネスを積み上げていくことができる。また、DocuWareがドアオープナーとなって新たな顧客を獲得できる。地域別では日本と欧州での利益成長を目指す」とした。
日本では、スクラムパッケージの2020年度の販売本数が6万5000本となり、2018年度比で275%となっていることに加えて、2022年度には2020年度比200%となる13万本の販売を目指す。「スクラムパッケージ顧客比率を取引先の20%に拡大するほか、スクラムパッケージを利用している顧客に、関連するパッケージを追加利用してもらう提案により、拡大は可能である」とした。なお、請求管理クラウドサービスの「MakeLeaps」については、「シナジーを生むためにリコージャパン傘下にあり、買収以降、着実に伸びている」(大山氏)とし、「ITリテラシーが厳しい中堅中小企業において、使いやすいアプリケーションとして使われている。コロナ禍で引き合いが増えている」(山下社長)とした。
欧州市場ではオフィスサービスの売上高を拡大。積極的な成長投資や買収を通じて戦力を増強し、事業拡大を継続させるという。
また、リコーデジタルプロダクトユニットプレジデントに就任する現オフィスプリンティング事業本部長の中田克典氏は、RDPなどによるオフィスプリンティング事業のコスト削減で見込んでいる540億円の増益計画について説明した。
「プリンティングの減少はこれからも続く。これは、利益率の高いアフタービジネスの減少にもつながる。20次中計で強い体質を手に入れる必要がある」と語り、ものづくり体質強化で180億円、変動原価低減で130億円、サービス改革で230億円を、それぞれ削減する計画を示した。
さらに、Interactive Whiteboard(IWB)やプロジェクター、在宅用個人用プリンターなどの新たなインターフェイスデバイスの投入、A3カラー領域も含め、「聖域なき他社協業」による新たな顧客基盤の獲得にも取り組む考えを示した。2025年度には新たなインターフェイスデバイスで売上高500億円、他社協業によるOEM事業では売上高1000億円を目指す。
なお、第20次中期経営計画では、ESGによる非財務目標を「将来財務目標」と定義し、顧客評価でのトップスコア率30%などのほか、使用電力の再生可能エネルギー比率、製品の新規資源使用率、従業員エンゲージメントスコア、各パートナーからの評価スコアなどの具体的な指標も掲げた。
2025年までの中長期目標
今回の中期経営計画は、2カ年というイレギュラーな計画となったことから、リコーの山下社長は、「将来の展望を含めて、2025年の目線で説明したい」と述べ、2025年の中長期目標に触れた。
ここでは、「はたらく場をつなぎ、はたらく人の創造力を支えるデジタルサービスの会社」を目標に掲げ、営業利益1500億円以上、ROE 10%超を継続し、「企業価値を最大化するとともに、オフィスサービス事業が、売り上げ、利益ともに、グループ業績を牽引し、デジタルサービスの会社と認知されていることを目指す」とした。
日本では2019年度に、オフィスサービス事業の売上高がオフィスプリンティング事業を抜いた。それにあわせて、2020年3月にデジタルサービスの会社になることを宣言した経緯がある。
山下社長は、「2022年度には、オフィスサービス事業が連結営業利益で逆転し、2023年度には連結売上高も逆転する。2025年度には、オフィスサービス事業の営業利益が全体の過半となる54%を占める」とした。
また、「デジタルサービスの会社になるためには、企業風土や人材、インフラや仕組み、技術やR&Dといった経営の基盤そのものも転換しなくてはならない」とし、2017年度から実施してきた「自律型人材の活躍を支える風土づくり・制度改革」を加速。近いうちには「リコー式ジョブ型人事制度」を導入する。
また、2017年から全世界で導入しているMicrosoft 365の活用や、2018年からRPAを導入して800テーマの業務プロセス改革を行っており、グループ社員3000人がRPAを活用していることにも触れ、「RPAによって社員自らが業務改善をしており、たくましく思っている。2021年4月からは、国内3万人の社員を対象に、デジタル資質の可視化とリテラシー強化を実施し、全員が顧客接点で働けるようにする」と述べた。
また今後3~4年をかけて、社内180システムのクラウド移行を含んだ、約7割を対象とした基幹システムの刷新を行い、「マスターデータ定義や整備により、データドリブン経営をしっかりとやっていきたい」とした。
リコーが、2021年4月から導入する新たな体制では、本社はグループ経営に特化し、社内カンパニー制では、顧客ごとにビジネスをくくり直し、5つのビジネスユニットに再編。「お客さま最適の経営を徹底する」と述べた。
具体的なビジネスユニットは以下の通りだ。
・オフィスサービスと一部オフィスプリンティング事業を担当し、オフィス+リモートによる働く人の課題解決や、現場で働く人たちつないで課題を解決する「リコーデジタルサービス(RDS)」
・オフィスプリンティングにより、働く人をつなぐエッジデバイスやデジタルサービスを支えるモノづくりをする「リコーデジタルプロダクツ(RDP)」
・商用印刷や産業印刷により、印刷の現場で、働く人の課題を解決する「リコーグラフィックコミュニケーションズ(RGC)」
・サーマル、産業プロダクツにより、製造・物流・産業の現場で働く人の課題解決を行う「リコーインダストリアルソリューションズ(RIS)」
・SVやヘルスケア、IJ電池、社会インフラ、新素材、エナジーハーベストなどにより、社会課題解決の新規事業創出する「リコーフューチャーズ(RFS)」
山下社長は、「リコーの基盤事業であるプリンティング事業に頼らず、各事業に適したプロセスに作り直さなくてはならない。そのためには、ビジネスユニットのリーダーに徹底的に権限委譲し、迅速な意思決定で、事業成長を加速させる。経営資源を最適に配分し、各ビジネスユニットが資本効率経営を追求することになる。成長と資本効率の2軸で事業ポートフォリオを管理し、経営資源配分を最適化する」と述べた。
オフィスサービスでは日欧市場に対して積極的な投資を行い、米国ではマネージドサービスの強化により、顧客への価値向上に集中するなど、地域ごとにメリハリをつけた投資で事業拡大。
オフィスプリンティングでは、品質向上と保守サービスの自動化などによるオペレーションエクセレンスの追求とともに、MFPや新規デバイスの外販を拡大する。
また、商用印刷ではコロナ禍でのデジタル化ニーズをとらえた成長を加速。産業印刷では薄膜IJヘッドの新規投入によるシェア拡大のほか、テキスタイル、サイングラフィック市場での販売チャネル強化を図る。
サーマルでは、モノづくり体質のさらなる強化により収益力を向上し、レーザーリライタブル事業のグローバル展開を進める。
産業プロダクツでは車載領域はステレオカメラ、精密加工部品で成長を拡大。新領域として産業・製造装置事業を育成するという。
こうした事業ポートフォリオ管理と、経営資源配分を最適化のなかでは、「現時点では決まったものはない」としながらも、「撤退や売却といったものも出てくる可能性がある」とも述べた。
なおSV(Smart Vision)事業は、カメラ(PENTAX、GR)をリコーイメージングに集約し、「未来に価値ある事業として残す模索を行う」とし、360°カメラおよび光学技術は、デジタルサービスに必要不可欠な技術として強化する考えを示した。
山下社長は、「カメラ事業は、量をたくさん作って売るという大量生産、大量商品の競争になっていた。だが私自身、GRとペンタックスを担当してきて感じていたのは、使っているお客さまはブランドを愛していただいているマニアともいえる人たちであり、大量に売れるモデルではないが、ファンがいる。そのため、未来に残していく方法はないかと考えている。共感をしていだたける方がいれば、連携も辞さず、出資も辞さずと考えている。だが、売却するとなると責任を持てない状態になる。この部分はよく考えていかなくてはいけない」と述べた。
また、RFSについては、「先端技術研究所で生まれる芽を、ビジネスユニットが引き取るまでの間の育成機関という意味合いがある。2021年4月時点では、8つの事業の種がある。植物由来の新素材PLAiR、リチウムイオン二次電池、社会インフラ向け点検サービスなどが含まれ、一部は実績が出ている。将来の見込みとリコーの強みを精査したうえで、ビジネスユニットに渡すか、独立事業にするかを、この2年間間に決めていく」と述べた。
一方、グループ本部は、経営資源配分とガバナンスで事業に貢献する「グローバルヘッドクォーター」と、デジタルサービスの会社の風土、人材、仕組み、インフラ、技術を先鋭化する「プラットフォーム」、各ビジネスユニットへの支援機能を持ち、社内DXの実践を徹底し、この成果を外販レベルにまで高度化する「プロフェッショナルサービス」で構成。「グループ本部は3200人規模でスタートするが、外部との連携を深めて、5年間で約半分にする予定である」とした。
さらに、2025年までに、成長投資として5000億円を実行する計画を発表。そのうち重点領域におけるM&A投資に3000億円を予定している。
「第一優先として、オフィスサービス事業のM&Aに約2000億円、印刷や製造、物流、産業の現場領域を中心としたM&Aに約1000億円を投資する。また、デジタル人材の育成および獲得、基幹システムの刷新、社内DX革命といった経営基盤の強化で約1000億円、五感のデータ化と、機能する印刷に特化した先端技術開発や、社会課題解決に向けた新規事業の創出といった新事業ドメイン創出の投資で約1000億円を計画している」という。
一方、山下社長は2020年度を振り返り、「新型コロナウイルス感染症によって、働く人が、"いつでも、どこでも働ける"ということが受け入れられるようになり、ニューノーマルが生まれた。リモートワークは、もともと技術的には可能だったが、現実的には進んでいなかった。コロナ禍で、強制的に実証実験をさせられたような形だったが、便利な部分を実感できた人も多いといえる。もう元の働き方には戻らないし、戻すべきではない。日本においても、コロナ終息後もテレワークを続けたいという人は75%に達している。リコーが長年に渡って地道にやってきたオフィスサービスの提案が、新型コロナウイルスによって急速に役に立っている」とした。
また、「“はたらく”の未来はどうなるか」と自ら問いかけながら、「業務の効率化はAI/ロボットが担い、働く人は最適な働き方を選択する時代になってくる。そして、2030年には、6GやIoTによって、オフィスや現場、社会がシームレス化し、働く人が個人化し、複数の仕事をする時代が普通になる。そうしたいまこそ、リコーがデジタルサービスの会社に変わるチャンスである」と述べた。
さらに、「リコーが、変わらずに大切にしていることが2つある」とし、「ひとつめは、リコーは徹底的にお客さまに寄り添い続けるという点」だとする。
山下社長は、「リコーは、2036年に創立100周年を迎えることになる。その時に、どんな会社になっていたいか、世の中にどのように貢献しているか、お客さまからどんな期待をされている存在になっているかということを徹底的に考えた。その結果が、『“はたらく”に歓びを』というビジョンである」としたほか、「リコーは、1977年にOA(オフィスオートメーション)を提唱した。半世紀にわたり、オフィスの効率化や生産性向上の手伝いをしてきた。ここにきて、仕事の価値は、業務の効率化から、人にしかできない創造力の発揮へと移ってきた。リコーは、そこで歓びや幸せを感じる会社でありたい。2020年11月に、はたらく歓びを研究する施設である『3L』を設立したのもそれが理由である」と述べている。
そして、もうひとつの変わらないものが、「人を愛し、国を愛し、勤めを愛す」という「三愛精神」だとする。
山下社長は、「三愛精神は、SDGsで示された『誰も取り残さない』という考え方に通じるものがある」とし、「リコーが、三愛精神をもとに設定した7つのマテリアリティは、すべての事業を通じて取り組むべきものである。これらの活動については、外部から客観的評価を得られるレベルまで高めたい」とした。
7つのマテリアリティは、「“はたらく”の変革」、「生活の質の向上」、「脱炭素社会の実現」、「循環型社会の実現」、「ステークホルダーエンゲージメント」、「共創イノベーション」、「ダイバーシティ &インクルージョン」で構成される。
今後の方向性として、「リコーは、創業から大切にしてきた三愛精神をもとに、変わりゆく“はたらく”に、変わらず寄り添いながら、お客さまのはたらく歓びのお手伝いをする会社になりたい」と述べた。