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リコーが「企業価値向上プロジェクト」の進捗を説明、デジタルサービスへの資源集中をさらに加速

2023年度上期連結業績も発表、営業利益は想定した水準には届かず

 株式会社リコーは8日、2023年5月から開始した「企業価値向上プロジェクト」の進捗状況について説明。デジタルサービスへの資源集中をさらに加速する考えを示した。また、売上高1800億円に相当する10事業を対象に、撤退および売却を検討していくことも明らかにした。

 中期経営計画で掲げた2025年度の営業利益1300億円、ROE 9%超の目標を堅持する一方、新たな構造改革施策を発表。本社改革施策として、R&Dの適正化による効果として300億円、事業の選択と集中により15億円の効果を見込むほか、間接機能の適正化やオフィスプリンティング事業のさらなる構造改革、オフィスサービス事業の利益成長の加速に向けた取り組みを進める。

 リコーの大山晃社長兼CEOは、「投資家やアナリスト、外部専門家の声を聞くと、リコーがデジタルサービスの会社へと変化を遂げていくことに対しては、資本市場からの賛同を得ている。だが、プリントボリュームが落ちていくスピードに対して、固定費の削減が追いついていないこと、過去の目標未達の繰り返しが経営への信頼感を押し下げていること、市場では継続的な改革が必要だととらえているが、リコーは改革が終了したと考えている印象を受ける――といった、厳しい声があった。経営陣が十分な信頼を得られていなかったことを認識し、反省している。また、自己都合や自分たちの論理で、これがベストだと判断する傾向も多々あった。リコーの現状を客観的に見ることができた点にも意味があった」としながら、「今後の方針は、当初計画を上回るスピードで、収益性が高いデジタルサービスに経営資源を集中するとともに、抜本的な収益構造変革に踏み切り、低収益性を改善することになる」と述べた。

リコー 代表取締役 社長執行役員 CEOの大山晃氏

4つの柱で変革プログラムを推進

変革プログラムの全体像

 リコーでは、変革プログラムとして、「本社改革」、「事業の選択と集中の加速」、「オフィスプリンティング事業の構造改革」、「オフィスサービス事業の利益成長の加速」の4点を進める。

 「本社改革」では、R&Dの適正化として、デジタルサービスのコアとなるワークプレイス領域のR&D費用を増加させる一方、ほかの領域では減少させ、2025年度までの全社R&D費用は800億円規模に縮小させる。これにより、約300億円の支出改善効果を想定している。また、CVCの活用や他社連携によるオープンイノベーションも加速する。

 「デジタルサービスの会社として、適正な研究開発テーマへの見直しが進んでおらず、R&D費は10年間変わらないままとなっていた。また、シーズ志向で技術に投資してきたため、事業化や収益化が難航していたという課題もあった。将来、目指す事業構造から逆算して、事業別の研究開発テーマを見直し、適正に資源配分する。投資は、リコーが目指すデジタルサービスの会社と親和性が高い、ワークプレイス領域にフォーカスすることになる」と述べた。

 また間接機能の適正化として、本社機能の見直し、業務の効率化、本社適正人員数の見直しを実施。2024年4月に、新たな本社組織を発足することを発表した。

 「デジタルサービスの会社は、顧客接点において、多くの価値を創造する必要があるが、本社機能は、OAメーカー時代の中央集約体制から完全に脱却できていない。デジタルサービスの会社としてふさわしい体制にし、本社機能のミッション、役割、求められる人材要件を見直すとともに、AIを活要したプロセスDXにより業務の効率化も進める。これにより、業務量削減を踏まえた組織体制に見直すことができる。詳細は追って説明する機会を設ける」とした。

本社改革:R&D適正化
本社改革:間接機能適正化

 「事業の選択と集中の加速」としては、低収益のノンコア事業の撤退および売却判断を行い、現時点で、売上高1800億円に相当する10事業を対象に検討する考えを示した。また、ノンコア事業のうち、3事業を出口プロセスに移行し、15億円の収益改善効果を想定。出口戦略および実行を担う専門部隊を2023年10月から始動していることも明らかにした。

 「シーズ志向の新規事業は投資が分散したり、リコーが持つ知識が低かったりして、成功確率が低いという状況にあり、全社収益に貢献する事業を生み出せていないという反省がある。こうした投資については抜本的見直しを行う。さらに、ワークプレイス領域にリソースを戦略的に配分することで、それ以外の領域は自然と優先度が下がる。デジタルサービスの会社としての将来に貢献しない事業や低収益事業は、2025年度までに適切な出口を探していくことになる」という。

事業の選択と集中の加速

 「オフィスプリンティング事業の構造改革」に関しては、市場縮小を前提とした販売およびサービス体制の実現や、間接業務の重複解消、DX化の促進に加えて、東芝テックとのジョイントベンチャーを通じた事業モデルの転換を図り、技術や設備の共有化による生産、開発体制の効率化を図る。東芝テックとのジョイントベンチャーについては、2024年度の組成に向けた取り組みを進めており、この計画に変更はないという。

 「オフィスプリンティング市場の縮小が継続することを前提にした継続的な収益改善施策が必要であり、売上高が減少しても、現状水準の収益額を確保できるコスト構造を目指す。攻めと守りで利益の確保を図る」とした。

オフィスプリンティング事業の構造改革

 「オフィスサービス事業の利益成長の加速」については、既存顧客へのオフィスサービスの導入率の向上、顧客あたりの導入商材数の増加、高収益なストック商材比率の拡大を目指すほか、収益創出の土台として、インサイドセールスなどを活用した効率的な販売モデルを構築。販売体制や間接部門の最適化にも取り組む。RSI(RICOH Smart Integration)上でエコシステムを構築し、自社商品だけでなく、他社商材との連携による価値創出にも取り組む考えだ。また、継続的にM&Aを推進したり、他社との共同開発に取り組む考えも示している。

 なお、今回の発表した変革プログラムに関する詳細な内容については、2024年3月に予定している中期経営計画の進捗説明会で発表することになる。また、その後も半期ごとに、さらなる追加施策の発表や施策の進捗について説明するという。

オフィスサービス利益成長の加速

 リコーの大山社長兼CEOは、「リコーは、OAメーカーからデジタルサービスの会社への変革を進めており、これが中長期的な企業価値向上のためのドライバーになる。デジタルサービスの売上比率は2022年度の44%を、2025年度には60%以上にする。そのためには、オフィスプリンティング事業から継続的にキャッシュを創出し、デジタルサービスに投下していかなくてはならない。オフィスプリンティングは売上高が縮小しても、効率化によって利益を創出することを目指す一方、経営資源は取捨選択しながら、デジタルサービス領域に再配分していく」とした。

デジタルサービスの会社への変革

 また、「ROE9%の達成は、PBR1倍を達成するための重要な要素になる」とし、「ROE低迷の要因は収益性の低さであり、事務機器の主要な競合会社と比較しても課題がある。デジタルサービスの会社であれば、より高い収益性が求められる。その一方で、資産効率や資本構成は業界平均よりも高いが、デジタルサービスであれば、より高見を目指す必要がある」と述べた。

ROE低迷の要因分析

 リコーでは、リモートワークなどによって変化した働く場を「ワークプレイス」として再定義。この領域に向けて、一貫したサービスを、グローバルに提供する「ワークプレイスサービスプロバイダー」を目指すことを宣言している。

 注力領域として、ワークプレイスの基盤となる情報通信インフラの構築や運用支援による「ITサービス」、顧客の業務プロセスのデジタル化によって、生産性向上を支援する「BPA(Business Process Automation)」、ミーティングルームの設計やハイブリッドな仕事環境構築を通じてコミュニケーションを強化し、顧客の創造力強化を支援する「CS(Communication Services)」を掲げている。

 また、オフィスプリンティング事業で培った世界140万社の強固な「顧客基盤」、地域密着の販売およびサポート網による「顧客接点」、課題解決に向けて提供している自社製品やサービスによる「自社IP」が、リコーの強みと位置づけ、これにより、「ワークプレイスサービスプロバイダー」としての価値を提供することになるという。

 これまでにも大胆な構造改革を進めてきたがリコーだが、大山社長兼CEO体制になって、より一層構造改革を推進していく姿勢が明確になったといえる。

デジタルサービスの目指す姿とリコーの強み

2023年度上期連結業績を発表

 一方、リコーが発表した2023年度上期(2023年4月~9月)連結業績は、売上高が前年同期比14.3%増の1兆1125億円、営業利益が同16.6%減の195億円、税引前利益は同0.1%増の246億円、当期純利益は同4.7%増の156億円となった。

連結損益計算書

 リコー 取締役 コーポレート専務執行役員 CFOの川口俊氏は、「営業利益は想定した水準には届かず、増収減益の決算となった。MFPの販売台数の回復が想定していた見立てを下回り、リコーデジタルプロダクツでの生産調整が発生。A3とA4の製品ミックスの影響も継続した。またサーマル事業が、欧州中心に景気弱含みの影響によって販売が未達となったほか、オプティカル事業の資産および事業売却の実現が、下期以降に期ずれになったことも影響している」とした。

 だが、その一方で、「オフィスサービス事業は、狙い通りに増収増益となり、ストック売上高は前年同期比21%増加し、順調に収益基盤を積み上げている。中期経営計画では、年平均成長率8%を計画しているが、かなり上振れている。日本ではスクラムシリーズが好調に推移し、販売計画を超過している。欧州では景気弱含みであり、ICT商材需要低迷の影響があるが、買収企業中心に引き続き堅調に推移している」と総括した。

リコー 取締役 コーポレート専務執行役員 CFOの川口俊氏

 セグメント別では、リコーデジタルサービスの売上高が前年同期比14.2%増の8833億円、営業利益は同81.7%増の189億円。そのうち、国内オフィスサービスは、売上高は前年同期比31%増の1845億円。内訳は、ITインフラが同37%増の802億円、ITサービスが同44%増の478億円、アプリケーションサービスは同17%増の456億円、コミュニケーションサービスは前年並の88億円となった。

 中小企業をターゲットとしたスクラムパッケージの売上高は前年同期比30%増の285億円、販売本数は同12%増の4万2353本となった。中堅企業を対象としたスクラムアセットは前年同期比93%増の363億円。スクラムシリーズ合計では前年同期比59%増の648億円となった。スクラムパッケージは、インボイス制度対応などのバックオフィス関連やセキュリティ関連が牽引。スクラムアセットは、働き方改革やセキュリティ関連の需要が強く、PCの入れ替え需要もスタート。付帯サービスも好調だという。また、RICOH kintone plusは、契約数が順調に伸長しているという。

 オフィスサービスの欧州の売上高は前年同期比26%増の1182億円、米州の売上高は17%増の782億円となった。「欧州では堅調に推移したほか、2023年6月にアイルランドのPFHを買収した成果もある。長年に渡り、ターゲットとしていた会社であり、ようやく仲間になり、今後のシナジー創出にも期待している。米州では2022年9月に買収したCeneroとのシナジー創出が成果につながっており、マネージドAVサービスを米州の既存顧客に展開し、100件以上のパイプライン創出した」と、買収による成果を示した。

リコーデジタルサービス
オフィスサービスの概況:日本

 リコーデジタルプロダクツは、売上高が前年同期比2.1%増の2344億円、営業利益は92.4%減の18億円。A3対応MFPの生産調整や、A4対応MFPの増産に伴う製品ミックスの変化により、粗利の計画が未達となったほか、米州での景気弱含みにより、スキャナーの販売が想定を下回ったという。

 リコーグラフィックコミュニケーションズは、売上高が前年同期比10.6%増の1204億円、営業利益は57.9%増の60億円。「商用印刷では、デジタル印刷への投資意欲が継続しており、高画質、用紙対応力、業務負荷低減を実現した新製品によりパイプラインが充実した」と述べたほか、「為替がプラスに影響しており、構造改革費用も抑制できている」と説明した。

リコーデジタルプロダクツ
リコーグラフィックコミュニケーションズ

 リコーインダストリアルソリューションズは、売上高が前年同期比7.6%減の526億円、営業利益は前年同期のマイナス4億円から、マイナス10億円の赤字となった。「サーマルは需要が鈍化し、厳しい結果になっている。購買や生産の効率化によるコストダウン、プライシングコントロールにより、挽回(ばんかい)したい」と述べた。

リコーインダストリアルソリューションズ

 その他は、売上高が前年同期比9.2%増の201億円、営業損失は8億円改善したもののマイナス52億円の赤字となった。

 なお、2023年度(2023年4月~2024年3月)通期業績見通しを修正し、売上高は期初計画に比べて800億円増加の前年比9.2%増の2兆3300億円とした。だが、利益目標については据え置き、営業利益は同9.3%増の700億円、税引前利益が同8.7%減の742億円、当期純利益が8.0%減の500億円とした。デジタルサービスでは、下期には、上期比で1000億円の増収を計画する一方で、欧州では一部競合との厳しい競争があるため、その対策として販促投資を強化するという。「為替の影響や市場環境、各事業の前提条件を見直したが、営業利益計画は維持し、ROEは5%を目指す」と述べた。

通期見通し