ニュース

リコーが「第21次中期経営戦略」を発表、2025年度に売上高2兆3500億円を目指す

 株式会社リコーは7日、2023年4月からスタートする「第21次中期経営戦略」を発表した。2025年度に売上高2兆3500億円(2022年度見込みは2兆1000億円)、営業利益は1300億円(同850億円)、営業利益率5.5%(同4.0%)、ROEは9%超(同6%)を目指す。

 基本方針として、「地域戦略の強化とグループ経営の進化」、「現場・社会の領域における収益の柱を構築」、「グローバル人材の活躍」の3点を掲げ、顧客起点のイノベーションにより、デジタルサービスの会社としての成長を実現し、企業価値を向上させるという。

第21次中経財務目標

 また、4つの主要KPIとして、デジタルサービスの売上比率を60%超(オフィスのデジタルサービスが50%、現場のデジタルサービスが13%)とすること、ストック利益を2022年度比で18%増とすること、ノンOP(オフィスプリンティング)比率を54%にすること、社員一人あたりの稼ぐ力を2022年度比で70%増にすることも目標に掲げた。

主要KPI:収益向上に向けた主要指標

 2023年4月1日付で社長 CEOに就任する大山晃取締役コーポレート専務執行役員は、「私の役割は、たすきを継承し、それを進化させ、次に渡すことである」とし、「第21次中期経営計画では、デジタルサービスの会社として、顧客接点での価値創造力を強化し、お客さま主体で組織が自然と進化する体制にすること、各地域の成果を足した会社ではなく、グローバルでのシナジーを追求した経営の高度化を実現すること、デジタルサービスで一流の会社になるためのグローバル経営にも取り組む」と述べた。

大山晃取締役コーポレート専務執行役員

 また、「ビジネスモデル変革を加速し、ストック収益を拡大でき、収益性を高める会社になること、柔軟に生産プロセスの見直しができたり、可能な限り固定費を変動費化できたりする組織への変革、さらなる資本効率の向上、デジタルサービスの会社に必要となる商材やサービスを正しく評価するためのROIC経営の定着、成長投資にこだわること、社員のスキルやリソースを成熟分野から成長分野にシフトすることで、会社の成長と社員の自己実現を両立すること、ESGグローバルトップ企業の位置づけを堅持することが、こだわりたいポイントである」とも述べている。

 2025年度におけるセグメント別の事業目標は、リコーデジタルサービスの売上高は2022年度からの年平均成長率が3.0%増となる1兆7500億円、営業利益は2022年度比で330億円増の600億円。リコーデジタルプロダクツは、売上高が同3.0%減の4200億円、営業利益が37億円減の340億円。リコーグラフィックコミュニケーションズの売上高が同5.3%増の2800億円、営業利益が40億円増の180億円。リコーインダストリアルソリューションズの売上高が同8.4%増の1600億円、営業利益が49億円増の120億円。そして、投資分野を含むリコーフューチャーズの売上高がマイナス2600億円、営業利益ではPFUの増加を含めて60億円としている。

セグメント別売上高・営業利益目標

地域戦略の強化とグループ経営の進化

 基本方針の3点については、多くの時間をかけて説明した。

 ひとつめの「地域戦略の強化とグループ経営の進化」では、高収益なデジタルサービスストックを積み上げ、継続的に収益性の向上を図ることを目指すという。それに向けて、顧客接点の価値創造能力の向上、グループシナジーの発揮、環境変化への対応力の3点に取り組む。

 顧客接点の価値創造能力の向上では、製品に付加価値を乗せて各地域に提供するOAメーカー型から、顧客接点で付加価値を作り上げる地域戦略を軸としたデジタルサービス型の企業へと転換することを目指すと述べた。「現場でお客さまとともに進化し、それがグループ全体に波及する企業体質へと変えていきたい」と述べた。

全体像:顧客接点の価値創造能力の向上

 欧州では、これまでに買収を行った多くの企業と、既存の販売子会社のシナジーを最大化するフェーズへと進展したことを示し、2025年度のオフィスサービス事業の売上高は2022年度比で570億円増、営業利益は80億円増と、成長を目指す。

 「欧州では直販営業が3200人、フィールドエンジニアが4800人の体制を持つが、これらの人材を成長分野にリスキリングし、マルチスキル化を図っている。また、欧州市場向けに開発したRICOH Spacesが好調であり、これをグローバル展開していきたい」などとした。

 ドイツに本拠を持つJungheinrichでは、リコーの複合機のユーザーであったが、コロナ禍において、リモート会議環境が未整備であるという課題が発生。新たにMicrosoft Teams Room(MTR)をベースとした社内外コミュニケーションを導入し、オフィスと在宅勤務者が仮想空間でシームレスなコミュニケーションを実現。このように、複合機の顧客に対するデジタルサービスの商談が増加しているという。

地域戦略の強化:欧州

 北米では、金融、医療、小売などの超大手顧客にターゲットを絞り、BPS(ビジネスプロセスサービシング)領域でのデジタル化を加速。2025年度のオフィスサービス事業の売上高は460億円増、営業利益は140億円増を目指す。新たに買収したCeneroにより、AVインテグレータ能力を獲得しており、デジタルソリューションなどの新たな案件獲得にも取り組んでいくという。

 米BayCare Healthには、保険の業務処理のデジタル化を提案。データを活用した新たなワークフローの提案、サポート領域の拡大といったビジネスの獲得にもつながったという。

地域戦略の強化:北米

 日本においては、収益性の高いオフィスサービスを中心に、重点領域で顧客開拓と深耕を継続。2025年度のオフィスサービス事業の売上高は680億円増、営業利益は120億円増を目指す。

 製造、流通、建設、ヘルスケア、自治体を最重点5業種と位置づけて顧客を深耕。スクラムシリーズやサイボウズとの連携によるRICOH kintone plus、リコーが展開しているEDW(EMPOWERING DIGITAL WORKPLACES)を中心にしてストックビジネスを拡大。子会社化したPFUとの連携によるマネージドサービス事業の拡充に取り組むという。また、独自のサポートパッケージの展開により、収益率の向上にも取り組む考えを示した。

地域戦略の強化:日本

 グループシナジーの発揮では、サービス提供プラットフォームであるRSI(RICOH Smart Integration)のエコシステム構築に取り組む。「地域ごととグローバル本社とがそれぞれに価値創造を行い、MFP(複合機)とワークフローの連携だけでなく、さまざまなエッジデバイスとさまざまなワークフローをつなげて、新たなエコシステムへと進化させている。さらに、各地域で開発したマイクロサービスのモジュールをグローバルに展開し、サービス提供能力を強化できている」と述べた。

グループ経営の進化:RSIエコシステムの構築

 また、ソフトウェアによるグループシナジーでは、2019年に買収したDocuWareが、世界46社で販売が行われているほか、2022年に買収したローコード開発ソフトウェアのAxon Ivyによる新たなワークフローの提供、戦略的アライアンスを結んだサイボウズとの連携によるよるRICOH kintone plusの日米市場への展開を挙げながら、「今後は、RSIプラットフォームと自社ソフトウェアによる展開を積極的に進めていく」とした。2025年度までのグローバルソフトウェアの年平均売上成長率は30~40%増という高い成長を見込んでいる。

 さらに、デジタルサービスを支えるエッジデバイスの開発・販売によるグループシナジーの強化も目指す。「特に日本では、紙の電子化が進んでおり、複合機やスキャナーはDXを推進するための重要なエッジデバイスになっている。世界ナンバーワンシェアを持つPFUのスキャナーを活用することで、リコーのサービス領域が広がっている。また、リモート会議が増加するなかで、効果的なコミュニケーションを実現するためのエッジデバイスの開発も行っている。アナログとデジタルをつなぎ、リアルとサイバーをシームレスに行ったり来たりでき、ワークフローをカバーするエッジデバイスをワンストップで提供できるとともに、お客さまの接点でサポートできる点がリコーの強みになる」と語った。

グループ経営の進化:デジタルサービスを支えるエッジデバイス

 また、エッジデバイスの安定的な供給に向けて、外部環境の変化に対応するレジリエントな生産体制および部品調達体制を構築していることにも触れ、重点機種やキーユニットの生産拠点の分散、市場需給バランス分析に基づいた部品調達リスク分析手法の導入、消費地でのリユース機の生産体制の強化などにより、環境変化への対応力を高めていることも示した。

現場・社会の領域における収益の柱を構築

 2つめの「現場・社会の領域における収益の柱を構築」では、培った技術をベースに社会課題を解決し、オフィス以外の領域でもストック収益源を拡大することを目指すという。ここでは、現場の生産性向上や環境対応の加速、現場および社会領域での成長事業の特定、テクノロジーを用いた新たなビジネスの開発にも取り組むと述べた。

 商用・産業印刷事業では、印刷業界のデジタル化をけん引し、現場DXや環境領域でのトップブランドのポジション獲得を実現。2025年度の売上高は2022年度比で400億円増、営業利益は40億円増を目指す。

 「商用・産業印刷事業は、リコーの第2の柱に育てたいと考えている。印刷物の短納期化や高付加価値化、環境配慮などの観点からデジタル印刷の価値が認められており、自社開発のインクジェットヘッドやグローバルの販売サービス網など、リコーの強みが発揮できる分野である。ストック収益にもつながるビジネスになる」とした。

 ドイツのSattler Media Groupでは、将来に渡り、収益性を最大化するためのビジネスモデル構築を目指して、デジタル印刷への取り組みを強化。そのパートナーにリコーを選択したという。

現場のデジタル化:商用・産業印刷事業の成長戦略

 サーマル事業では、2025年度の売上高で230億円増、営業利益では50億円増を目指す。デジタルサービスの売上比率は8%から26%に拡大する考えだ。「流通業や物流業などの現場に、デジタルサービスを提供している。例えば、コンビニエンスストアで扱っている商品に直接印刷し、ラベルを不要にするといったニーズにも対応している。サーマル印刷市場は、デジタル化による市場拡大が見込まれる領域である」とした。

 さらに、独自のインクジェットヘッドを活用したJettingにより、粘土の高いインクによる印刷や、曲面への印刷などを実現。電極部分をインク化した電池材料印刷技術や、塗装効率を100%にできる自動車外板向けデジタル塗装技術も提供している。

 加えて、シングルユースプラスチックのバイオ素材化による環境負荷低減を実現するPLAiRや、iPS細胞を用いた医薬品や診断薬の創出基盤を構築して、人々の健康に貢献するバイオメディカル事業といった社会課題解決型の新規事業にも取り組んでいることも示してみせた。

現場のデジタル化:サーマル事業の成長戦略

グローバル人材の活躍

 3つめの「グローバル人材の活躍」では、成長領域への人材シフトとグローバルスケールでの人的資本の最大化を目指す。社員の成長と事業の成長を両立し、稼ぐ力を向上。グローバルでのデジタルサービスの共創も推進する考えだ。

 「デジタルサービスの会社として、顧客接点で価値創造をするには、自律型人材になることがあるべき姿となる。第21次中期経営計画でも、人的資本への投資は重要な取り組みに位置づけている」と述べた。

 ここでは、「リコー人的資本の考え方」、「デジタル人材の強化」、「事業戦略に則した人材ポートフォリオマネジメント」の3点に取り組む考えを示した。

事業成長に寄与する人的資本戦略の全体像

 リコー人的資本の考え方では、自律的なキャリア設計、個人と事業の成長、はたらく歓びを実感するという3つの柱により展開。「これを社員エクスペリエンスとし、自律、成長、はらたくに歓びへの取り組みを繰り返すことになる」とした。

リコー人的資本の考え方

 デジタル人材の強化では、スキルの底上げを図り、デジタル戦略に沿った人材配置を行うという。リコーでは、ITSS レベル3以上のデジタルエキスパートの育成に取り組み、2020年度の1459人から、2022年度には2232人へと53%増加させた実績がある。今後も、デジタルスキルを獲得した人材を拡充する考えであり、ビジネスプロデューサー/ビジネスデザイナーでは500人、クラウドアーキテクトは1000人、データサイエンティストを500人、情報セキュリティ人材を2000人に拡張する。

デジタル人材の層の拡充

 また、「グローバルでデジタルサービスを共創、連携、創出するリーダー人材のパイプラインを強化する。専門スキルとコンテンツ開発力を持った人材や、先進的なサービスを発掘し、モデル化し、グローバルに横展開できる人材も育成していく。さらに、デジタルビジネス経験を持つ経営人材のパイプラインの強化にも取り組む考えである」とも述べた。

 なお、すでに公表している2025年度までのキャッシュアロケーションによる資本政策については変更がなく、2021年度~2025年度までの成長投資は5000億円を予定している。

第20次中期経営戦略の振り返り

 一方、2022年度を最終年度とする第20次中期経営戦略についても総括した。

 リコーの大山氏は、「2022年度の売上高は目標の2兆円を上回る見通しだが、営業利益は、部品不足やIT商材不足などにより、オフィスサービスの成長が鈍化。ポストコロナでもプリンティング需要が戻らず、1000億円の目標を850億円に下方修正している。これは、反省すべき点である」としたが、「カンパニー制の導入、事業ポートフォリオマネジメントの導入、ジョブ型人事制度の導入など、経営基盤の強化については順調に進んでいる。デジタルサービスの会社に向けた変革の準備が進んできた」とした。

20次中計の振り返り:財務

 また、顧客評価のスコアや、再生可能エネルギー比率などの将来財務目標は順調に推移しており、外部からも高い評価を獲得していると自己評価した。

 その上で、第20次中期経営戦略の反省をもとに、第21次中期経営計画における改善点として、デジタルサービスの会社としての収益構造への変革とともに、ストック利益の積み上げによる安定的な収益源の確保する「収益構造の変革と収益性の向上」、部品不足などにも対応するレジリエントな生産供給体制の構築による「環境変化への対応力の向上」、次の柱の構築による収益安定性の確保を目指すために「現場のデジタル化領域での収益の柱の育成」を挙げ、「変革に向けての助走を完了させ、これらの強化により、次の3年間の成長を実現する」とした。

"はたらく"に歓びを

 会見では、リコーが目指す姿として、「"はたらく"に歓びを」を掲げていることをあらためて強調。「リコーは、1977年にOA(オフィスオートメーション)を提唱し、機械でできることは機械に任せ、人は、より創造的な仕事をすることを支援してきた。その後も、多様なお客さまの『はたらく』に、リコーは変わらずに寄り添い続けてきた。いまでは、仕事の価値は、業務の効率化から、人にしかできない創造力を発揮することに変化している。リモートワークにより働く環境の自由な選択が進む一方で、企業はオフィスを、創造性を醸成する場として見直そうとしている。また、テクノロジーを駆使した働き方が広がることで、より個人が主体となった働き方へと変わっている。そうしたなかでも、リコーは、仕事を通じて、充足感や達成感、自己実現の実感といった『歓び』の実現を支援する会社であり続ける。それが使命であり、目指す姿である」と述べた。

はたらく"に歓びを

 また、「お客さまを支えるために、リコーはデジタルサービスの会社への変革と、挑戦を続け、オフィス領域だけでなく、製造や流通の現場、社会インフラの分野で働く人たちに、ワークプレイスのサービスを提供する会社へと進化したい」と述べた。

 さらに、「リコーが大切にしたいことは、三愛精神を原点としたサステナビリティ経営である。マテリアリティを見直し、16個のESG目標を設定。このESG目標を、将来財務目標と位置づけ、ESGと事業成長の同軸化を図る。マテリアリティにひも付く事業が成長をけん引し、デジタルサービスを中心にした社会課題解決型事業で成長を加速したい」と述べた。