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リコー、2020年度連結業績は327億円の最終赤字 2021年度は354億円の黒字転換を目指す
2021年5月7日 21:31
株式会社リコーは7日、2020年度(2020年4月~2021年3月)連結業績を発表した。それによると、売上高が前年比16.3%減の1兆6820億円、営業損失が454億円の赤字、税引前損失が410億円の赤字、当期純損失が327億円の赤字となった。
リコーの山下良則社長は、「商業印刷事業における161億円の減損が発生したが、これらの一過性要因を除く実質営業利益は、第4四半期(2021年1月~3月)で132億円の黒字となっている。今後の成長に大きな手応えを感じている」と総括している。
また、リコーの松石秀隆取締役専務執行役員兼CFOは、「営業損失のうち346億円が特殊要因によるものである。通期では産業印刷を除いたすべてのセグメントで実質黒字であり、第4四半期ではオフィスサービスが145億円と大幅な増益になり、産業印刷が初の黒字となった。オフィスプリンティングと商用印刷も、一過性費用を除くと営業利益は前年並みに回復している。通期では、営業利益に対して約1700億円のコロナ影響が出ているが、通期見通しに対しては221億円の上振れとなっている。オフィスサービスでのスクラムパッケージの販売が好調であったこと、オフィスプリンティングで想定していたリスクが発生しなかったことなどが影響している」などとした。
特殊要因としては、人員の最適化をはじめとする体質強化費用、再配置や減損のほか、政府支援金の181億円が含まれているという。減損については、オフィス向け生産を手掛けている国内工場の一部を、商業印刷の生産拠点に転換することでの関連経費が増加したことなどを背景にしたものだという。「これは実力には関係がない減損である」(松石CFO)としている。
セグメント別の業績
セグメント別では、オフィスプリンティング分野は、売上高が前年比19.5%減の8158億円、営業利益は前年から758億円減の67億円。
「第4四半期は、ハードは日本、アジアを中心に回復しているが、欧米が低迷している。また、ノンハードは前年同期の85%まで回復しており、想定よりも3%上振れている。通期では67億円の黒字だが、一過性費用を除いた実質営業利益では296億円の黒字になる。新型コロナでは約2割のマイナス影響を受けているものの、第1四半期を底に回復している。欧米ではワクチン接種の増加により感染者が減少し、オフィスに回帰する傾向がある。それに伴い、MFPによる出力が増えてきている」とした。
オフィスサービス分野は、売上高が前年比4.5%減の5323億円、営業利益は前年から28億円増の354億円。「第4四半期は増収増益であり、売上高は四半期で過去最高になった。営業利益率で初めて8%に到達し、やっと事業になった」とコメント。「日本ではスクラムシリーズが引き続き絶好調であり、スクラムパッケージは3月だけで過去最高の1万本を販売した」という。
2020年度のスクラムパッケージの売上高は前年比54%増の452億円、スクラムアセットが2.6倍となる前年比166%増の211億円、スクラムシリーズ合計では前年比78%増の63億円になった。
またGIGAスクール案件も好調で、第4四半期には関連する売上高が335億円に達したという。「2021年度は、ネットワークやマネージドサービスなど、GIGAスクールの派生ビジネスの獲得を目指す」とした。
このほか、欧州でのパッケージ展開の加速や、DocuWareの展開拡大も業績に貢献しているとのことで、「欧州での体制強化の成果は、確実に業績に反映されており、売上高で300億円以上になり、しかも営業利益率が10%以上になっている」と説明した。
なおオフィス事業全体では、売上高が1兆3482億円(前年実績が1兆5702億円)、営業利益が421億円(同1152億円)と減収減益になったものの、「実質ベースでは650億円の黒字。オフィスサービスが売上高の39%を占め、営業利益では84%を占めている」という。
商用印刷分野は、売上高が前年比24.5%減の1346億円、営業損失は前年の216億円の黒字から、146億円の赤字となった。新型コロナ感染者の再拡大により、回復傾向が鈍化し、減収減益となった。「印刷業需要は堅調だが、コロナ影響で企業内印刷の需要が減少している」という。
産業印刷分野は、売上高が前年比7.3%増の246億円、営業損失は前年から37億円改善したが16億円の赤字。「四半期ごとに売り上げが伸びており、第4四半期は前年同期比1.5倍になっている。上期の体質強化策により黒字体質へと転換している。第4四半期は、薄膜IJヘッドの新製品投入と産業プリンタの好調によって、初めて黒字化した。今後、テキスタイル分野にも挑戦していく」と述べた。
サーマル分野は、売上高が前年比8.1%減の1568億円、営業利益は前年から4億円減の26億円。「第4四半期には、日本市場における剥離紙レスラベルのビジネスが堅調に推移した」という。
その他分野は、売上高が前年比32.8%減の1176億円、営業損失は224億円の赤字。360°カメラ市場の需要増により、THETAおよび関連クラウドサービスが好調で、第4四半期は前年同期比4割増になったという。
2021年度の通期業績見通し
一方、2021年度通期業績見通しは、売上高が前年比13.6%増の1兆9100億円、営業利益が500億円、税引前利益が543億円、当期純利益が354億円と、黒字回復を目指す。
リコーの山下社長は、「2021年度は一気に成長にかじを切る1年になる」とし、松石CFOは、「事業成長、体質強化、新型コロナの終息による世界経済の回復により、増収増益を見込む」と意気込みを語った。新型コロナの終息に向けては、欧米では7月には生活が通常に戻り、秋口には業績が急回復すると予測。日本などでは年明け以降に急回復すると見ている。
営業利益では、コロナ回復により752億円増、事業成長で411億円増のほか、オフィスプリンティング(グラフィックコミュニケーションズ)事業におけるサービス改革で120億円増、開発生産の効率化で98億円増、製品原価低減で64億円増、ハード/ノンハード減少リスクとして247億円減を見込んでいる。
デジタルサービスにおけるスクラムパッケージの顧客比率は2020年度の10%から15%に引き上げ、出荷本数を6万8000本から、10万本に増やす計画だ。
2021年度からカンパニー制を導入しており、本社費用の各セグメントへの配賦およびセグメント間の経費負担の変更などを盛り込んだセグメント別業績見通しは、デジタルサービスの売上高は1兆5420億円、営業利益が340億円。デジタルプロダクツの売上高が3780億円、営業利益が420億円、グラフィックコミュニケーションズの売上高が1960億円、営業損失が35億円の赤字。インダストリアルソリューションズの売上高は1470億円、営業利益が65億円。その他の売上高が190億円、営業損失が170億円の赤字としている。
グラフィックコミュニケーションズBUの加藤茂夫プレジデントは、「グラフィックコミュニケーションズ事業は、2021年度には本社頒布費として375億円が加わるため、赤字計画であるが、2022年度は黒字化させる。印刷業向け事業におけるオフセット印刷のデジタル化、企業内印刷事業での高PV層や低価格層への拡大と代売、新興国展開によるシェアアップといった事業成長と、開発改革やサービス改革による体質改善により、営業利益を大きく改善する。事業的な自律運営を進める」とした。
第20次中期経営計画の方向性をあらためて説明
一方、リコーの山下社長は、2021年度および2022年度に取り組んでいる第20次中期経営計画の方向性についてあらためて言及。「ひとことでいえば、リコーは、オフィスプリンティング事業頼みだった収益構造からの脱皮に向けた転換期にある」と述べる。
また、「社長に就任した2017年は、複合機の生産、販売に最適化した体制、プロセスであったが、『リコー再起動』を掲げ、事業ごとの収益構造を明確化した上で、モノづくり自前主義、直販および直サービス、マーケットシェア追求といった、リコー社内の暗黙の常識であった5大原則を見直し、収益力強化に取り組んできた。さらに、過去からのしがらみにとらわれずに、事業の選別と資産の見直しを行った。2018~2019年度の『リコー挑戦』では、オフィスサービス事業の成長と黒字化を実現し、成長戦略を推し進めながら、事業構造の転換を行ってきた。そして、新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年度は、『危機対応と変革加速』の1年と位置づけ、緊急対応と恒久的な体質強化策を、全社をあげて実行してきた」と振り返った。
その上で、「本来ならば、2023年度の導入を目指していたカンパニー制を、思い切って2年前倒しにし、2021年度から導入することを決定。猛烈なスピードで準備を進めてきた。通常の3倍速である」と説明。「2021年度からの第20次中計は、『リコー飛躍』と位置づけ、第2の創業という覚悟で、デジタルサービスの会社になることを目指す。2023年には、ビジョンとして掲げる『"はたらく"に歓びを』を実現する会社に向けた一歩を踏み出したい」と話した。
山下社長は、2022年度までに、オフィスサービス事業がリコーの利益をけん引するレベルに成長させることによって、全社営業利益の1000億円以上の達成、ROE9%超を達成といった経営指標を打ち出している。
「2020年度の業績は、これからの成長に手応えを感じるものになっている。オフィスサービスの成長が見えてきたことは自信につながり、期待感がある。だが、オフィスプリンティングのノンハードの縮小がどうなるかが気になる。その点は、2021年度は保守的に見ており、営業利益500億円の達成意欲は十分である。2022年度の営業利益1000億円については、オフィスサービスが事業成長できるように、2021年度に仕込んでおかなくてはいけない」などとした。