ニュース
リコー、自然言語処理AIで企業データを分析し業務効率化などを支援する「仕事のAI」サービス
2021年6月18日 06:00
株式会社リコーは17日、顧客企業から許諾を得て預かった文書や映像、画像、音声などの固有情報資産を自然言語処理AIで分析し、業務の効率化や価値創造を支援する新サービス「仕事のAI」を提供すると発表した。
リコーの山下良則社長兼CEOは、「リコーは、OAメーカーからデジタルサービスの会社に変わる姿勢を打ち出している。今回の『仕事のAI』は、デジタルサービスへの進化の第1歩になる」と位置づけた。
「仕事のAI」は、リコージャパンが提供するソリューション商品群「RICOH Digital Processing Service」のラインアップに位置づけ、第1弾として、食品業界の大手中堅企業向けを対象に、「RICOH 品質分析サービス Standard for 食品業」を7月15日に発売する。
今後はさまざまな業種、業務に対応したサービスを追加。大手・中堅企業だけでなく、中小企業向けにもラインアップを拡充するという。「製造業や小売業への業種展開のほか、訪問販売業での営業日報分析サービス、与信分析サービスなどの営業支援、出版業における校正校閲支援サービス、製造業での使用説明書作成支援サービスといった文書作成支援などを提供していく」(リコージャパンの坂主智弘社長)と述べた。
2025年までに100億円の売上高を目指し、2021年度中には複合機との連携を行うほか、将来的には海外展開も視野に入れている。
自然言語処理AI技術を用いて「仕事のAI」を提供へ
リコーは2017年6月にAI応用研究センターを設立。自然言語処理技術にフォーカスし、理解と分析に成功した。2021年4月からは、新設したデジタル戦略部の中にデジタル技術開発センターを設け、約200人のデータサイエンティストやAI開発者が在籍。これまでにも自然言語処理AI技術を活用したサービスとして、与信スコアAI、振動の見える化、AI-OCR、法務支援クラウドを提供してきた経緯がある。
法務支援クラウドでは、RICOH Contract Workflow Serviceとして、AIにより複数の契約書の条項、条文の照合作業を効率化する「AI条項チェックツール」を提供している。
「仕事のAI」で活用する自然言語処理AI技術は、これらの実績を生かしたものであり、企業が事業活動を通じて得た文書、映像、画像、音声などのさまざまな形式の情報をリコーが預かり、それを独自の自然言語処理AI技術を用いて分析することで、さまざまな事象の動向や傾向の把握、将来の予測などを効率的、高精度に行うことを支援する。
これにより、これまで業務に精通した人が行ってきた「問題の発見」や「課題解決策の策定」、「新たな価値の創出」といった付加価値の高い業務を、デジタルの力を活用してよりスムーズに、また人手を掛けずに、人の判断によるばらつきを抑えて実行できるようになる。
リコーの山下社長兼CEOは、「リコーは、1936年に創業して以来、ドキュメントを必要な人に正確に伝えること、また情報を安全に保管したり上手に加工したりすることで、顧客の『はたらく』に貢献してきた。そして、1977年にはOAのコンセプトを提唱した。現在、国内ではビジネスパソコンの10%の販売シェアを持ち、ネットワーク構築でも実績がある。顧客からの絶大な信頼を得ていること企業である」と前置き。
「今回のサービスは、リコーが培ってきたAI技術力と、顧客からの信頼力の掛け算によって実現できるものである。企業内の情報は、担当した人の勘や経験など属人化された暗黙知として活用されていることが多い。リコーのAI技術は、素早く正確に分類および分析を行い、新たな価値を提供できる。この価値はデータを提供した企業だけに提供するものになる」とした。
また、リコージャパンの坂主社長は、「リコーが持つ自然言語処理AI技術を有効に使いながら、埋もれてしまっている貴重な情報を見つけ出し、組み立て、提供するサービスになる。ビジネスコンテンツは知を生む資産であるが、その大部分は未活用の状況にある。このサービスにおいて重要なことは信頼をもとに、リコーにビジネスコンテンツを預けてもらうことである。リコーは、全国津々浦々の企業に対して、担当営業マンや、サービス担当者が訪問し、顔の見えるビジネスを80年以上続けてきた。複合機の実績だけでなく、ICTやデジタル向かっていくための基礎能力を持った企業でもある。データを安心して預けてもらえる企業である」と話す。
そして、「顧客の了解のもと、情報資産であるドキュメントを利活用し、リコー独自の自然言語処理AI技術に学習させることで、業務を代替させるとともに、顧客と一緒に価値創造を実現するサービスである」と、「仕事のAI」を紹介した。
食品メーカー向けに“お客さまの声”活用を支援する新サービス
「仕事のAI」の第1弾として提供を開始する「RICOH 品質分析サービス Standard for 食品業」は、食品メーカーのコールセンターやヘルプデスクに集まる膨大な問い合わせ情報を、自然言語処理AIで分析。重要度順に表示することで、迅速な顧客対応や品質改善によるリスク低減などが可能になる。
従来は、人手やテキストマイニングツールによって分析してきた工程を、AIによって自動化や省力化することで、業務効率の大幅な向上が図れるほか、抽出漏れ・分類ミスによる重大な事案や予兆の見落としリスクを低減し、属人性の解消にも貢献する。
例えば、食品メーカーのコールセンターに届く情報をもとに、経営に大きなインパクトを与える健康被害に関する問い合わせを抽出。ダッシュボード上には、消化器や皮膚、頭痛や発熱などの症状別に分類して表示できる。消化器系の情報を抽出する場合も、下痢や腹痛、胃もたれなどと項目が広く、さらに言い方もさまざまであるため、これらの文例をAIに学習させて抽出するという。また、重要度についても抽出。腹痛の場合に、「病院に駆け込んだ」「医者に相談した」といった表現を事前に学習し、高い重要度でスコア化して表示する。
顧客のデータを用いた実証実験では、毎月数万件のデータを、AIが文脈を認識し、意味を理解することで、VOC(Voice of Customer)を分類し重要度を判断するなど、熟練した人材が行う品質と同等以上の高精度を発揮したという。
価格は初期費用が1契約10万円、コールセンターへのVOCの分類を月3000件まで利用できる月額基本料金が20万円、月3000件を超えた場合の月額従量課金は1件5円となる。
先行導入事例を紹介
また、「仕事のAI」を先行導入した事例も紹介した。
アサヒビール 品質保証部お客様相談室の坂田昌子室長は、「18人体制で問い合わせに対応している。リコーのAIを活用したVOC支援によって、効率面での期待に加えて、1対1で顧客の真意を理解し、寄り添うという顧客対応の本質をより高めたいという期待がある。人とAIが共生することで、顧客と社内に提供する価値や領域を広げていけると考えている。リコーであれば安心してデータを任せられる」とした。
また、アラームボックスの武田浩和代表取締役CEOは、「取引先のリスクや状況変化を自動で知らせる与信管理サービスを提供している。これまでは審査業務において、独自のAIにより企業調査業務や決算情報などの定量情報の判定を自動化していたが、全体の7割を占めるSNSや口コミなどの定性情報の判定には人手がかかっていた。リコーのAIが定性情報を解析し、判定する実証実験を行った。結果は信頼できる水準の判定精度であり、審査業務に人が関わる作業の50%の削減が可能になった。実運用に向けて検討中である。ウェブ上で請求書発行から入金保証まで一元管理ができるようなサービスをリコーと共同開発したい」と述べた。
さらに、リコージャパンの大阪支社および神奈川支社での事例についても紹介。業務日報をインプットすると日報中のキーワードをAIが読み取り、全国社内データベースのなかから、提案書やセールス実績など、関連情報を網羅的に収集でき、スピード感のある顧客への提案が可能になるという。また、関連するキーワードをAIが類推して抽出する機能も実装予定であるほか、地域によって異なる補助金制度などについてもカバーするため、社外の情報にもアクセスしたAIがフォローする仕組みが構築できるという。