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レッドハットの岡玄樹社長が就任後初の記者会見、2021年度はOpenShiftによるDXにフォーカス

 レッドハット株式会社は13日、新年度事業戦略についての記者説明会をオンラインで開催した。2021年1月に代表取締役社長に就任した岡玄樹氏が新体制について説明し、OpenShiftへのフォーカスや、業界別ソリューションの社内体制の再編成などを語った。

 また、株式会社NTTドコモと日本電気株式会社(NEC)との、5G無線通信における協業も紹介された。

右上から、レッドハット株式会社 代表取締役社長 岡玄樹氏、株式会社NTTドコモ 常務執行役員(CTO) R&Dイノベーション本部長 谷直樹氏、日本電気株式会社 執行役員常務 河村厚男氏、レッドハット株式会社 副社長執行役員 パートナー・アライアンス営業統括本部長 兼 事業戦略室長 金古毅氏、レッドハット株式会社 APAC Office of Technology GTMストラテジスト 岡下浩明氏

2020年度はOpenShiftが好調で18%の収益増

 岡氏はまず、2020年度の振り返りを報告した。

 グローバルでは「成長率がここ5年で2番めに高い」とのことで、通期で18%の収益増があったという。特にコンテナプラットフォームのOpenShiftが好調で、グローバルで2800社のユーザーを抱えるとした。

 その中で、日本の日本生活協同組合連合会、株式会社三井住友フィナンシャルグループ、三菱電機株式会社、株式会社三菱UFJ銀行などが新たに採用したことを岡氏は付け加えた。

 国内については、「イノベーション」「DX」「クラウドネイティブ」「組織文化の変革」の4分野での成果を岡氏は報告。「イノベーション」としては、世界最速のスーパーコンピュータ「富岳」で採用されたことを挙げたほか、世界トップ3のスーパーコンピュータですべてRHEL(Red Hat Enterprise Linux)が採用されていると氏は語った。

 「DX」では、OpenShiftがメガバンクなど金融分野において、アプリケーション開発のスピードのために採用されていることを紹介した。

 「クラウドネイティブ」では、Kubernetesの運用自動化のための拡張機能であるOperatorについて、2020年12月に「Kubernetes Operator ISVプログラム」が始動したという。「Operatorに手応えを感じている。セットアップ自動化にとどまらず、異常時の操作の自動化など、自動化というより自律化という言葉を多用している」(岡氏)。

 「組織文化の変革」では、通信や金融などの業界でコンサルティング実績が拡大していることをトピックとして挙げた。

2020年度の振り返り:グローバル
2020年度の振り返り:日本

2021年度はOpenShiftによるDXにフォーカス

 続いて、2021年度の戦略的指針として岡氏が掲げたのが「Unlock cloud potential with OpenShift/全てのアプリケーションにクラウド選択の自由を」というメッセージだ。

 それにあわせて、岡氏がレッドハット株式会社を改革したい部分も3つ語られた。1つめは「Doubling Down on OpenShift」として、新年度メッセージにもあるようにOpenShiftに集中してビジネス規模を2倍にするという。2つめは「Re-Segmentation and Resource Allocation」で、DXのスピードの速い顧客企業に対してよりリソースを強化していくとのこと。3つめの「日本版Open Organization」では、オープンカルチャーをさらに強化し、働きやすい会社・文化を加速していくという。

2021年度の戦略的指針「Unlock cloud potential with OpenShift 全てのアプリケーションにクラウド選択の自由を」
レッドハット株式会社の改革

 また2021年度の具体的な施策について、岡氏は5つの要素から説明した。

 1つめが「フォーカス:インダストリごとのユースケースを軸にOpenShiftの徹底的な展開」だ。「ここ数年の失敗から学んだ。例えばコンテナというとコンテナ船の絵で説明されてかえってわかりにくかったり、レッドハットは専門用語が多くてわかりづらいという声をいただいたりした」として、「業界ごとやお客さまごとの課題をより深く理解し、それに適した解決策を提示すること」を重視すると語った。OpenShiftの進んでいる分野としては、金融や公共分野、通信業界などがあるという。さらに、認定技術者の育成を強化し、「今年1年で何倍にもしていく」と岡氏は語った。

 2つめが「As a Service:OpenShift、ミドルウェアのAs a Service提供モデルによりDX支援の加速を促進」。すでにAmazon Web Services(AWS)、Microsoft、IBM、国内7社からのマネージドサービスが利用可能になっている。

 3つめが「自動化:自動化領域を拡大、IT・クラウドの管理プロセスの自動化」。OpenShiftに限らず、クラウドベンダーのKubernetesサービスなども一元的に管理できることを。市場に打ち出していくという。

 4つめが「コアビジネス:SAPシステム, オープン化、UNIX移行を軸にRed Hat Enterprise Linuxを拡大」。Red HatのコアビジネスであるRHELは、「ずっと2けた成長を続けている」と岡氏は言う。その追加分として、SAPシステムやメインフレーム、UNIXのオープン化や移行で拡大していくとした。

 5つめが「組織文化の変革支援:技術力にたけたコンサル部隊による差別化」。岡氏が就任して顧客と話したところ、「Red Hatのコンサルティング部隊の技術力の高さに感心する。それゆえにRed Hatのサブスクリプションを選択している」という声をもらったそうで、こうした面をより前面に出していきたいと岡氏は語った。

2021年度の施策

「DXの解決策はオープン・ハイブリッドクラウド」

 これらの背景として、岡氏は日本企業のDXへの取り組みについて語った。コロナ禍によって起こる変化について、JEITAとIDCが調査した結果よると、日本企業ではIT部門が起点となることがらが多いのに対して、米国企業ではビジネス部門が起点となることがらが多く、「日本も必ずこちら(ビジネス部門起点)になると考えている」と氏は言う。

 そのために求められる3つの要素を岡氏は挙げ、レッドハットの事例と関連づけて説明した。

 1つめがSpeedで、より早い市場への投入だ。グローバルトレンドとしては「金融業界ではオープンバンキングがあたりまえになってきていて、フィンテックが台頭している。また、すでに多くの人がモバイルバンキングを利用している」と岡氏。その中で三菱UFJ銀行がローンチしたお金を管理するスマホアプリ「Mable」は、バックエンドがOpenShift上で動いており、開発や運用をスピードアップしたという。

 2つめがStabilityで、安定性だ。この事例として、同日に成田空港で実証実験が開始された搭乗手続き「Face Express」の顔認証システム「Bio-IDiom」を岡氏は紹介し、OpenShiftを利用していると語った。

 3つめがScaleで、拡大し続ける機会への対応だ。この日本での事例として、NTTドコモで構成自動化ツールのAnsibleを採用していることを岡氏は紹介した。1万台以上のストレージ、サーバー、ネットワーク、OSのセットアップや更新に利用し、2022年までにインフラの開発・運用コストと工数を半分に削減する予定だという。

 「これらの解決策は、オープン・ハイブリッドクラウド」と岡氏は述べ、「クラウドに疑問を持つ人は皆無になり、マルチクラウドを用途により使い分けるといったマルチクラウドの要望が出てきた。また、従来のレガシーと呼ばれるオンプレミスの資産を活用しながらクラウドを活用するハイブリッドクラウドの要望も出てきた」と説明。「レッドハットはその急先鋒(せんぽう)であり続けたい」と語っている。

Speed:三菱UFJ銀行の事例
Stability:NECの事例
Scale:NTTドコモの事例

 さらに岡氏は、DXを加速させるにはオープンな企業カルチャーの変革が必須と説明。そのために、「Red Hat Open Innovation Labs」などのコンサルティングのサービスメニューを強化すると語った。

コンサルティングのサービスメニューの強化

NTTドコモとNECとの5G無線通信における協業

 記者説明会では、NTTドコモとNECとの、5G無線通信における協業についても紹介された。同日づけで、NECがOpenShift上に構築した5Gコアネットワークソリューションについて、レッドハットが発表している。

 NTTドコモは11社とともに、海外通信キャリアに最適なオープンRANを提供する「5GオープンRANエコシステム」を発表。レッドハットやNECも参加している。株式会社NTTドコモ 常務執行役員(CTO) R&Dイノベーション本部長の谷直樹氏は、「5Gはあらゆる産業の基盤になることが期待され、あらゆるユースケースに対応するネットワークが期待されている。事業者がニーズにあわせてネットワークを組み合わせることが重要であり、それを実現するネットワークのオープン化だ」と、5GオープンRANエコシステムについて説明した。

 また日本電気株式会社 執行役員常務の河村厚男氏は、5Gネットワークソリューションへの取り組みのポイントを、「オープン化とソフトウェア化をもとにした自動化」と説明。その中でも、プラットフォームのレイヤーで積極的にパートナーシップを進めているとし、。5Gコアネットワークソリューションについては、「レッドハットの基盤を組み合わせることで、さらなる価値を顧客に提供できた」と語った。

NTTドコモとNECとの、5G無線通信における協業
5GオープンRANエコシステム
NECの5Gネットワークソリューションのポートフォリオ