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オープンハイブリッドクラウドで顧客のDXに貢献――、レッドハットの新年度戦略を望月社長が解説
導入事例やパートナー企業との協業も紹介
2020年6月24日 06:00
レッドハット株式会社は23日、新年度事業戦略についての記者説明会をオンラインで開催した。
新年度のテーマとして「オープンハイブリッドクラウドでお客様DXの成功に貢献する」が掲げられた。そして、ハイブリッドクラウド基盤、アプリケーション、自動化の3つのテクノロジー分野それぞれにおける施策が語られた。さらに、導入企業事例が発表され、パートナー企業との協業も紹介された。
OpenShiftビジネスは対前年比3倍で顧客数3けたに成長
レッドハット 代表取締役社長の望月弘一氏は、まず昨年度(2019年3月~2020年2月)の事業を振り返った。
グローバルでのCY(暦年)2020年Q1(2020年1月~3月)の決算結果としては、売上高が24%増、Red Hat Enterprise Linux(RHEL)の売上高は再び2けた成長になり、アプリケーション開発/先進テクノロジー分野はOpenShiftとAnsibleがけん引して約40%増加した。大規模な契約は、IBMの深い顧客との関係を活用して、過去最大規模の契約2件を締結したこともあり、約50%増加した。
日本においても、「昨年はいろいろなことがあった」と望月氏。RHEL 8とOpenShift 4のメジャーバージョンアップ、コンテナを基盤とした数多くのDX事例、マネージドサービスのパートナーシップ、IBMとの協業も順調であること、の4点を挙げた。
そのうえで昨年の戦略「オープンハイブリッドクラウド戦略」の成果を説明した。
1つめの分野「ハイブリッドクラウド基盤」については、採用事例が出てきたことや、マネージドサービスも伸びていることを挙げた。国内のOpenShift(コンテナプラットフォーム)ビジネスは、対前年比3倍で、顧客数3けたに成長しているという。また、通信キャリアのNFVでOpenStackの実績が拡大したことも触れられた。
2つめの分野「クラウドネイティブアプリケーション開発基盤」については、アプリケーションモダナイズの事例も多数出ているとして、「日本のコンテナでは、半数がミドルウェアと組み合わせて導入されている」と説明した。
3つめの分野「オートメーションと管理」では、1万ノードを超える事例も登場。ISVとの協業による共同ソリューションも紹介した。
この3つに加えて、「DevOps人材育成・新規 Labsプロジェクト」では、Open Innovation Labsの活動が活性化してきたと説明。昨年発表した、野村総研と日立システムズと共同での人材育成プログラムの提供を紹介した。
コンテナ利用10%以上の企業が1年で25%から80%に
続いて、Red Hatのグローバルのユーザー企業調査結果を望月氏は紹介した。
まず、62%の企業が複数のクラウドを利用しているとして、「マルチクラウドの時代が本格展開した」と氏は語った。
次に、基盤の近代化や自動化について。74%の企業が課題に直面しているとして、「この分野で一番注目されている技術がコンテナ」と望月氏は語った。
そのコンテナについては、1年前とユーザー企業が大きく様変わりしたことを望月氏は報告した。昨年は、コンテナ利用10%未満の企業が75%だったのが、今年は20%となり、80%の企業が10%以上利用しているという。
コンテナの配備先別に見ると、パブリックが1年前の1億コアから2億6000万コアに成長し、それを上回る勢いでプライベートが6000コアから2億2000万コアに成長したという。「これだけのコンテナプラットフォームをいかに管理するかが重要になる。そこでオープンハイブリッドクラウドが必然になる」と望月氏は語った。
DXに必要なものとしては、技術が16%であるのに対し、組織カルチャーの変革が55%という。望月氏はOpen Innovation Labsを引き合いに出し、「レッドハットは引き続きカルチャー変革を支援していく」と語った。
ハイブリッドクラウド基盤:マネージドサービスの選択肢を増やす
それをふまえて新年度(2020年3月~2020年2月)の事業方針と戦略を望月氏は語った。
新年度のテーマは「オープンハイブリッドクラウドでお客様DXの成功に貢献する」。それを実現するために、ハイブリッドクラウド基盤、クラウドネイティブ開発、自動化と管理の3つのテクノロジーと、人材育成・組織文化・プロセスの変革という要素は、昨年度と変わらない。「変わったのは、『実践から融合へ』ということで、3つを融合して真のハイブリッドの実現を目指すこと」(望月氏)。
1つめのハイブリッドクラウド基盤では、エッジからクラウドコア、プライベートまで、一貫性を追求する。「今年は、日本において、コンテナ導入企業を倍にする。1企業におけるユーザー数も増やす」と望月氏は宣言した。
また、RHEL 8のハイブリッドクラウドな管理機能(Management as a Service)を強化。さらに、SAP HANA、Microsoft SQL、IBM zという新しいワークロードにも一貫性を追求する。
5GのNFVではOpenStackが導入され始めたが、OpenShiftで仮想マシンを動かすOpenShift Virtualizationなども提案していくという。
さらに、マネージドサービスの選択肢を増やし、セルフマネージド型からよりスピーディーに使いたいという声に応える。専用マネージドのRed Hat OpenShift Dedicatedをより拡大していくとともに、Microsoft/AWS/IBMのオンデマンドマネージドにも力を入れ、コンテナでRed Hatの確固たる地位を築きたいという。
アプリケーション:QuarkusをRed Hat Runtimesに
2つめのアプリケーションでは、クラウドネイティブとレガシーアプリのモダナイズの連携を加速する。「組み合わせられるのはRed Hatだけ」と望月氏。
そのために、クラウドプラットフォームのOpenShiftを機能強化し、完全な差別化を狙う。例えば、コンテナイメージをサーバーレスで動かすOpenShift Serverlessや、コンテナに最適化されたJavaフレームワークのQuarkusなどによって、マイクロサービスの本格展開につなげたいという。
このQuarkusは、ミドルウェア製品ポートフォリオのRed Hat Runtimesに完全サポート付きフレームワークとして追加されることが、米国で5月27日に発表され、日本でも6月23日に発表された。
この分野はそのほか、データ連携(Kafka on OpenShift)やレガシーアプリのモダナイゼーション取り組む。
コンテナISVパートナーの拡充にも力を入れる。すでに、AI、ビッグデータ、モニタリング、セキュリティなどの分野でパートナーと協業し、今後さらに協業を加速するという。
こうしたISVパートナー拡充の背景として、コンテナのベースになるOSイメージ「Red Hat Universal Base Image」を無償配布していることを望月氏は挙げ、「高い評価をいただいている」と語った。
自動化:Ansibleの導入が格段に広がる
3つめの自動化については、Ansibleがアプリケーションや、コンテナ基盤、ネットワーク、セキュリティの包括管理などで使われ、格段に広がったとして、「ますます多くの企業に展開したい」と望月氏は語った。
この分野では、今年に発表したRed Hat Advanced Cluster Management for Kubernetes(ACM)も紹介。パブリッククラウドからオンプレミスまでさまざまな場所にあるOpenShiftクラスターを一元的に管理する製品で、望月氏は「スケールの違う、クラウドにまたがったインスタンスを管理する」と説明した。
コンサルティングや営業を大幅増員
3つのテクノロジーに並べられている人材育成・組織文化・プロセスの変革にも注力する。「そのために、コンサルティングの大幅増員を計画している。コンサルティングサービスメニューを拡大、より多くのお客さまを支援していく」と望月氏は語った。
この分野の今年のキーワードとして「カスタマージャーニー」を望月氏は挙げた。「単発で終わるのでなく、あるべき姿を描いていっしょに歩いていくことを意味していく」(望月氏)
そのほか、営業戦略としては、各種の営業も大幅強化し、営業・SE・専門職人員を大幅することも望月氏は語った。
最後に望月氏は、「最近、弊社のオープンハイブリッドクラウドと同じようなコンセプトを各社が言っている」という話題を出した。それに対し、創業以来オープンソースソフトウェア(OSS)をもとに活動してきたRed Hatの歴史を挙げて、「これまで多くの企業が、OSSをもとに独自の機能を追加したりロックインしたりしてきた。しかしRed Hatは、アップストリームファーストで、ロックインせず追加機能をOSSに反映してきた。それがRed Hatのユニークなところだ」と主張した。
コープ共済連とみずほ情報総研の事例を発表
また、同日付で2件の導入事例が発表され、記者説明会でも紹介された。
日本コープ共済生活協同組合連合会(コープ共済連)は、契約者サポートや新規契約申込窓口となるWebシステム「共済マイページ」に、Red Hat OpenShiftを採用した。共済マイページの中に複数のアプリケーションがあり、それぞれ異なるベンダーが開発していて設定や構成も複雑化していたという。そこでアプリケーションごとに実行環境を分けるためにOpenShiftを採用。CTCが導入コンサルティング・設計・開発を行い、2017年10月よりシステム刷新に着手して、2019年6月に本番稼働した。
みずほ情報総研は、みずほフィナンシャルグループの共通プライベートクラウド基盤「みずほクラウド(IA)」におけるインフラ構築の自動化のためにRed Hat Ansible Automation Platformを導入した。「みずほクラウド(IA)」では現在、約1000台の物理サーバーで約3500台の仮想サーバーが動き、銀行業務の市場系、情報系を中心とした約120システムが本番稼働している。Ansible Automation Platformによってハードウェアリソースのセットアップを自動化することで、設定に関する作業時間を6週間から最短3日間程度に短縮し、78%の工数を削減、作業も均質化したという。
アクセンチュア、NTTデータ、NRIとの協業
最新のパートナーとの協業について、アクセンチュア株式会社、株式会社エヌ・ティ・ティ・データ(NTTデータ)、株式会社野村総合研究所(NRI)の3社が紹介された。
アクセンチュアは、DXのソリューションであるAccenture Connected Technology Solution(ACTS)にOpenShiftを活用する。記者説明会ではアクセンチュアの山根圭輔氏(テクノロジー コンサルティング本部 インテリジェントソフトウェアエンジニアリングサービス グループ日本統括 マネジング・ディレクター)が説明した。
取り組みは3段階。第1段階は「ACTS on OpenShift」として、ACTSをOpenShiftに完全対応させた。第2段階では「ACTS on ARO」として、Azure Red Hat OpenShiftに対応する(今後正式に発表)。
そのうえで目指すのが第3段階の「AMO 2 DX」だ。レガシーのシステム(メインフレームのCOBOL)をJavaのシステムに変換して移行するのに、OpenShiftを利用する(今後正式に発表)。
NTTデータの本橋賢二氏(技術革新統括本部 システム技術本部 クラウド戦略室 クラウドエバンジェリスト)は、レッドハットとさまざまな分野で協業していることを説明した。
DXのコンサルティングでは、レッドハットのInnovation LabとNTTデータのデザインスタジオAQUAIRで協業している。また、自治体や金融基幹向けのクラウドであるOpenCanvasで、Red HatのOpenStackやOpenShift、Ansibleを採用している。
Infrastructure as Code(基盤自動化)でも、NTTデータのシステム開発トータルソリューションのTERASOLUNAの中で、Ansibleといっしょに取り組んでいるという。
NRIは6月23日に、レッドハットと共同で開発したDX人材育成プログラムの提供開始を発表した。
NRIの大元成和氏(執行役員 DX生産革新本部長)は、これまではビジネス部門とIT部門の役割が分かれ、サイロ化が進んだメンバーシップ型の働き方がなされていたと説明。これからあらゆる業務にITが不可欠になるにつれ、ビジネス、開発、運用などが混然一体となり、より横断的でフレキシブルな視点や思考を持つ人材が不可欠になると説明した。
そのため、コンテナ推進だけでなく、社内の人材育成プログラムを開発。レッドハットのDXナレッジとNRIの経験をもとに、アジャイル開発のノウハウや、プロダクトデザイン、エグゼクティブ向けアジャイルトレーニングなどを提供する。