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Red Hat Summit 2022基調講演レポート、RHEL 9やOpenShift関連の機能をデモ
GMとの協業も発表
2022年5月16日 11:55
米Red Hatの年次イベント「Red Hat Summit 2022」が、5月10日から11日(米国時間)にオンラインで開催された。
本記事では、Red HatのPresident and Chief Executive OfficerであるPaul Cormier氏らが登壇した5月10日の基調講演「IT's new normal: Fueling the sparks of innovation」の模様をレポートする。
Red Hatは企業の“ニューノーマル”対応を助ける
Cormier氏は、タイトルにもある「ニューノーマル」という言葉を軸に、新型コロナ禍による社会の変化にあわせ、デジタル化やオープンソースソフトウェア(OSS)の役割について語った。
氏は世界中でリモートワークが行われるようになったことに触れ、OSSはもともとリモートワークで作られていて、パンデミックで直接会えなくても次の時代を推進していると語った。
同様に、パンデミックを経て企業もニューノーマルに変わり、デジタルファーストで顧客により近づいているとCormier氏。その例として、店頭販売からデジタル化に舵を切った自動車アフターマーケットパーツメーカーのAdvance Auto Partsや、OpenShiftでデプロイ時間を大幅削減したカナダの銀行CIBC、OpenShiftでカスタマーポータルをスケールさせたTelefonicaの例を紹介した。
Cormier氏は、これから企業はハイブリッドクラウドを選ぶようになるだろうと語った。アプリケーションやワークロード、インフラは、パブリッククラウドにあるものもあり、データセンター、エッジにあるものもある。「どれかというのではなく、アプリケーションやインフラなどは、あなたの望むように動くべき。それがRed Hatがこの8年以上フォーカスし、これからも追求していくことだ」と氏は言う。
さらにCormier氏は、「この数年で、ハイブリッドクラウドはエッジのハードウェアのイノベーションによって特徴づけられるようになるだろう」と予想した。
そのうえで、Cormier氏は「イノベーションを作り取り入れる唯一の方法はオープンソース技術だ。Red Hatは破壊的(disruptive)なニューノーマルをあなたが受け入れるのを助ける」と語った。
RHEL 9はデータセンターからエッジまでで動く
本誌で既報のとおり、Red Hat Summit 2022にあわせて、商用ディストリビューション「Red Hat Enterprise Linux 9(RHEL 9)」のリリースが発表された。
基調講演でRHEL 9関連について、Red HatのMatt Hicks氏(Executive Vice President, Products and Technologies)が紹介した。
Hicks氏は、RHELはこれまで安定した基盤として技術と事業アイデアをつないできたとして、RHEL 9でもこの使命を継続するとした。そのうえで、現在ではコンピュータが、データセンターから手の中のデバイスまで広がり、データドリブンな意思決定にも用いられると指摘。RHEL 9は、データセンターからエッジまで、物理マシンでも仮想マシンでもコンテナでも組み込みデバイスでも動くと語った。
また、現在はソフトウェアのサプライチェーンや、攻撃コードやランサムウェアなど、セキュリティが危機的な状況にあると説明。RHEL 9は、オープンソースのイノベーションと、セキュリティや信頼とを結びつけるプラットフォームだと語った。
さらに企業のイノベーションは、Red Hatが提供するものを利用するだけにとどまらず、共創によってももたらされると語った。そして、CentOS StreamやOpenShift Originなどのアップストリーム(上流、開発元)コミュニティに参加することで、いっしょにイノベーションのポテンシャルを探っていこうと呼び掛けた。
RHEL 9やOpenShift関連の機能をデモ
実際にRed HatのMike McGrath氏(Vice President, Linux Engineering)、Erin Boyd氏(Director of Emerging Technologies, Distinguished Engineer - OCTO)、Tony Campbell氏(Directory of Software Engineering, Global Ecosystem Engineering)の3人が、RHEL 9やOpenShift関連の機能をデモした。
RHEL 9が動くAWS Gravitonインスタンスやエッジデバイス
McGrath氏はまず、RHEL 9がCentOS Stream 9を開発版として作られており、GitLabで公開されているCentOS Streamのプロジェクトを追いかけることで、どのようなアップデートが入るかがわかると説明した。
次に、例としてAWSのマーケットプレイスにさまざまなバージョンのRHELが用意されているところを見せ、「RHEL 9も来週登場する」と語った。これにはARMアーキテクチャのGravitonインスタンスも含まれるという。実際にAWSのGravitonインスタンスのRHEL 9(β版)でPostgreSQLのコンテナを動かす様子をデモした。
またMcGrath氏は、RHEL 9でのセキュリティ改善として、暗号化ポリシーの変更や、Webコンソールでのスマートカード対応を紹介した。
次にMcGrath氏は、エッジコンピューティング用の小型デバイスを取り出し、RHEL 9と同時に正式サービスが発表されたRHEL image builder services(本誌既報)で作成したカスタムシステムイメージで、USBドライブからRHELをインストールするところもデモした。
また、すでに動いている同種のマシンの動作状況をWebコンソールで表示。過去の動作状況から、RHEL 9へのアップグレードで負荷が少し減少しているところを見せた。そして、オンプレミスからクラウド、エッジまで、同様に統合的に管理できると語った。
ACMによるOpenShiftクラスター管理
Boyd氏は、Red Hat Advanced Cluster Management(ACM)によるOpenShiftクラスター管理をデモした。
オンプレミスの物理サーバーや、AWS、Google Cloud、Azure、IBM、Microsoft Azure、オンプレミスのvSphereが並んでいるところを表示し、さらにOpenShift 10ではAlibaba Cloudにも対応したと説明した。
そこから新しいクラスターの作成に進んでみせ、定義されている企業のポリシーを自動で適用できるため手動での作業を省けると語った。さらにAnsible Automation Platformとの統合による自動構成も呼び出せることも紹介した。
続いてアプリケーションもACMは手動でも自動でもデプロイできることをデモした。アプリケーションのデプロイ先の条件を「env=prod」と指定し、特定のクラスターで「env=prod」のラベルを付けることで、アプリケーションが自動的にデプロイされる。
そしてさまざまなクラスターの状況をGrafanaベースの画面で確認できるところも紹介した。
Red Hat Hybrid Cloud Consoleによるマルチクラウド管理
Campbell氏は、マルチクラウドの管理を任せてコアビジネスに集中したい企業向けとして、Red Hat Hybrid Cloud Consoleを紹介した。
Red Hat Hybrid Cloud Consoleでは、Red Hatが用意するアプリケーションやサービスを利用できる。Campbell氏は、Red Hatやパートナーが用意したAnsible Automation Platformのコンテンツや、セキュリティ脆弱性の管理、コンプライアンス、パッチなどの一連の機能を紹介した。
さらに、RHEL image builder servicesのカスタムイメージや、エッジデバイスを一元管理する機能を紹介し、これによりエッジデバイスを健全でセキュアに保てると語った。また、OpenShiftクラスターをさまざまなパブリッククラウドに作れるとことも紹介した。
そのほか、Red Hat Summit 2022に合わせて、「Red Hat OpenShift Streams for Apache Kafka」と「Red Hat OpenShift Registry」のGA(一般提供)開始をCampbell氏はアナウンスした。クラウドネイティブなアプリ開発や、ストリーミングデータ分離、AI/ML、エッジアプリケーションなどの基礎になるという。
Red Hat Summit 2021で発表された、OpenShiftのアドオンのRed Hat OpenShift Data Scienceも紹介した。データサイエンティスト向けのセルフサービス環境を用意するもので、すでに多数の顧客がいるという。
GMがRed Hatの車載OSを採用
Red Hat Summit 2022にあわせて、General Motors(GM)との協業も発表された。Red Hatの車載OS「Red Hat In-Vehicle Operating System」をGMが採用する
基調講演にはGMのScott Miller氏(Vice President, Software Defined Vehicle and Operating System)が登場。Red HatのFrancis Chow氏(Vice President and General Manager, In-Vehicle Operating System and Edge)とHicks氏との対談形式で語った。
Miller氏は、自動車業界は電気自動車や安全性、デジタル化など最大の変革期にあると説明。そして自動車はよりSoftware Enabled(ソフトウェアで動く)でSoftware Defined(ソフトウェアで構成される)に変わる必要があると述べた。そして新しい価値を届けるための時間を短くすることがキーになると語った。
そしてRed Hatとの協業により、自動車の機能安全とオープンソースのイノベーションを両立できると話した。
American ExpressとAccentureがゲストで登場
基調講演には顧客企業やパートナーも登場した。
American ExpressのEvan Kotsovinos氏(Senior Vice President, Global Infrastructure)は、Red HatのAshesh Badani氏(Senior Vice President of Products)との対談形式で、オープンソース技術の採用について「われわれのビジョンは、顧客のエンゲージメントを高めて成長を推進するために、技術でレバレッジさせる」と語った。
現在61%のアプリケーションがプライベート上で動いており、大きな割合でKubernetes、Envoy、Jenkins、PrometheusといったOSSのコンポーネントが使われているという。そして、新しい決済ネットワークをクラウドネイティブで開発し、同じコストで2倍の能力で実現すると語った。
AccentureのRaj Wickramasinghe氏(Lead, Hybrid and Emerging Platforms)は、Red HatのStefanie Chiras氏(Senior Vice President, Partner Ecosystem Success)との対談形式で、Red Hatのパートナーとしての事業について語った。
まずChiras氏がAccentureが25年以上オープンソースに取り組んでおり、75%のフォーチュン100企業に2万以上のクラウドのプロジェクトを実施してきたと紹介した。
それを受けてWickramasinghe氏は、Accentureは最近では企業のクラウド移行に賭けており、事業をクラウドファーストと位置づけており、クラウド移行からクラウドでの運用に進んでいると紹介。次の段階として、プライベートからエッジまでのマルチクラウドのガバナンスが複雑になるのを、統合管理画面などでシンプル化しようとしており、そこにRed Hatが重要な役割を持っていると語った。