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両備システムズ、2040年度に売上高1000億円を目指す長期計画を打ち出す
2025年8月21日 06:15
株式会社両備システムズは20日、2040年度に売上高1000億円を目指す長期計画を打ち出した。2025年6月に創業60周年を迎えた同社が、新たに打ち出した指針だ。同社では、2030年度に売上高500億円を目指す「長期ビジョン」を掲げ、「真の西日本ナンバーワンのICT企業を目指す」(両備システムズ 代表取締役副社長兼COOの小野田吉孝氏)としている。
売上高1000億円を柱とした次期長期ビジョンの詳細は今後決定することになるが、成長戦略をさらに加速する姿勢を示した格好だ。また、2025年度の売上高は前年比23.3%増の456億円を見込んでおり、得意としている公共系ビジネスに加え、民需系ビジネスの伸長やクラウド事業の拡大を推進する考えだ。さらに、2050年までにカーボンニュートラルを目指す「GREEN COMPASS 2050」を新たに発表した。
両備システムズは、1965年に岡山電子計算センターとして創業し、60周年の節目を迎えている。「ともに挑む、ともに創る」を事業コンセプトに、岡山県に本社を置きながら、国内に幅広く展開しているのが特徴だ。1973年の両備システムズへの社名変更時には、経済学者のピーター・ドラッカー氏からアドバイスを受け、当時としては珍しかった「システム」を社名に採用したというエピソードが残る。2020年にグループ6社を統合し、現在の体制へと移行。その後、積極的なM&Aを進めている。
独自開発の市区町村向け健康管理システム「健康かるて」は、全国780団体が採用し、国内シェアでは約45%を占めるほか、固定資産税課税支援システム「マルコポーロfor Web」や、子会社であるシンクが展開している債権一元管理型滞納整理システム「THINK CreMaS Cloud」でも、国内トップシェアを誇る。
パッケージソフトウェアを活用したサービス型ビジネスに先行して取り組んでおり、人月ビジネスによるSI事業比率は全体の約15%にとどまっている点も特徴だ。
また、岡山県内に、自社データセンターである「Ryobi-IDC」を設置し、クラウドサービス「R-Cloudサービス」を展開。中四国地域に本社を置く企業が提供するクラウドサービスとしては、唯一、ISMAPに登録されている。
中期経営計画今後の展開
2025年度は売上高で456億円を計画。そのうち、公共系ビジネスで353億円、民需系ビジネスで103億円を見込んでいる。公共ソリューションに加えて、ヘルスケアソリューションや、子会社のシンクの大幅伸長により、前年比23.3%増という高い成長を計画する。
両備システムズの小野田副社長兼COOは、「2026年度までの3カ年を、中期経営計画フェーズ2とし、浸透・推進期に位置づけている。既存ビジネスと新規ビジネスによる2階建てビジネスの伸長、M&Aによる事業拡充を目指している。2025年度は、今後の公共系ビジネスの縮小を見据え、民需系ビジネスの拡大を本格化させる1年になる」とした。
自治体システム標準化については、「売り上げのピークは、当初想定していた2026年度から2025年度へと早まったものの、基幹システムベンダーでの開発の遅れ、自治体の準備遅れなどがあり、今年に入ってからは、それらの遅れが顕在化している。また、導入後の保守・運用による収益確保が見込まれ、それが2026年度以降に加わる。結果として、当初想定していたよりも平準化が図れることになる」とする。
自治体システム標準化に関しては、2025年度の売上計画として、2024年1月時点では80億円の見通しとし、同9月時点で93億円へと修正。今回新たに95億円へと上方修正した。また、2026年度の見通しについても、2024年9月時点では77億円としていたが、これを94億円に上方修正した。
「2026年度の売上計画の94億円のうち、約2割が保守・運用となる。2027年度以降は、導入が減少することを想定。売上高の約3割が減少するが、売上高の7割以上を保守・運用で占めることができると見ている。2026年度以降の保守・運用の売り上げへの貢献は大きい。また、AIの活用などによる次のステップの導入も見込まれる。2027年度以降も、年間70億円~90億円の売上規模で推移できるだろう」と語った。
自治体システム標準化では、「健康かるて」が、2026年までに約900団体への導入が見込まれており、50%以上のシェアを獲得できるほか、「THINK CreMaS Cloud」が、2026年度までに約700団体への導入が予定されているという。
また、公共系ビジネスでは、自治体向けグループウェアシステム「公開羅針盤」で、新たに人事給与システムの提供を開始するとともに、GMOグローバルサインとの連携、地方自治体の業務に特化した専門性の高い生成AIの活用、Microsoft 365のアドオン提供によるパブリッククラウドサービスとの連携強化などを推進するという。
健診機関向けソリューション「WELLSHIPシリーズ」では、予約から問診、健診実施、結果配信、集計報告までをトータルでサポートするシステムへと進化。自治体システム標準化では対応できない自治体ごとの評価要領を組み込んだ固定資産税課税支援システム「マルコポーロ」では、中核市以上への展開を積極化していくという。
また、保育園や幼稚園、児童相談所などと連携し、こどもに関するデータを一元管理する連携プラットフォーム「こどもの杜」の実証実験を進めていることも示した。
成長分野である民需系ビジネスでは、物流拠点を対象にしたソリューション展開を強化する。R-TeamsやIT-Parkingによるバース管理・監視のほか、ロジスティードソリューションズと協業したOEM製品である「倉庫管理システム(WMS)」、出荷バース向けAIソリューション「CountShot」などにより事業拡大を図る。
「対象規模が大きくなるトラックのバース管理では、新たにIT-Parking for Truckを2025年7月にリリースした。手書きで行われていたバース管理をAIによる管理に置き換え、物流の仕組みを大きく変えることができる。2026年度までに2倍となる45施設への導入を目指す。また、CountShotは、2024年の導入実績をもとに提案活動を進めており、2026年度までに25施設への導入を図る」と自信を見せた。
ファッション/アパレル向けソリューション「Sunny-Side」は、2024年度に、生産、販売、物流、小売業務を網羅した総合基幹ソリューションに進化。生産管理では2.5倍となる10社に導入、小売販売では2026年度までに27ユーザー、200ブランドへの導入が見込めるという。「今後、倉庫管理との連携を進めることで、他社にはない一気通貫のファッション/アパレル向けソリューションとして提案活動を積極化していく」と述べた。
メディカルAIの領域では、2024年3月に、早期胃がん深達度AI診断支援システムを開発し、オージー技研が医療機器製造販売承認を取得。岡山大学をはじめとして4病院でトライアルを開始したほか、胆道がんや大腸がんに対応したAI診断支援システムも開発しており、2025年7月には、岡山大学と共同研究している「人工知能による胆道内視鏡画像診断システム」が、AMEDの研究開発課題に決定したという。さらに、2025年度内には、早期胃がん深達度AI診断支援システムを市場投入する計画も明らかにした。
「胆道がんや大腸がんのシステムについても、医療機器製造販売承認の取得に力を注ぐ。医療分野のAIサービスの研究開発を拡大するとともに、将来的にはグローバル展開も視野に入れたい」と述べた。
クラウドビジネスについては、2026年度に売上高133億円を計画。これを2030年度には250億円に引き上げる。
2025年6月30日に、中四国地域で唯一となるISMAPを取得。R-Cloudを中核に、省庁システムや自治体システムとのVPNおよびLGWANによる接続、ガバメントクラウドとの接続、パブリッククラウドとの接続、BPOサービスの提供などを行っているのが特徴だ。
「ISMAPの取得により、セキュリティが担保され、より付加価値の高いクラウドサービスの提案が可能になる。AWSやSalesforce、Kintone、Google Cloud、Azureに関する技術者の育成にも力を入れていく」と述べた。
第3棟となる新たなデータセンターの建設についても、「状況を見ながら進めていきたい」と述べた。
2030年度の売上高500億円の計画に対しては、公共系ビジネスが297億円、民需系ビジネスが143億円、新規ビジネスが20億円、M&Aによる事業拡大で40億円を想定。さらに、現在100億円規模のクラウドビジネスを、2030年度には全体の半分を占める250億円にまで拡大させる。人月モデルによるビジネス構成比は10%程度にまで縮小させることになる。
「公共と民需の構成比は、現在の8対2から、6対4にする。さらに、クラウドビジネスを大きく伸長させる。また、受託開発ビジネスについては、大手企業の案件などを通じて、新たな開発に参加することで、新たな技術を獲得し、自らのサービスに展開できるといったメリットがある。現時点では約15%が受託開発(人月モデル)であり、これを引き下げることにはなるが、10%程度は残していくことになる」と語った。また、「お客さまへの価値を高め、社会貢献ができるソリューションを提供していくことで、成長を継続させたい」と意欲を見せた。
今回の説明会では、次期長期ビジョンの策定を視野に入れ、2040年度の売上目標として、1000億円を目指すことを公表した。
小野田副社長兼COOは、「自治体システム標準化の特需が終わった後には、売上高が大きく減少すると見込んでいたが、社員やパートナー企業の努力により、それが回避できることが見えてきた。そこに民需系ビジネス、クラウドビジネスやBPOの成長が加わることになる。2030年度の売上高500億円にめどがついてきたことから、次の目標を新たに置いた。具体的な話はこれからになるが、700億円や800億円という中途半端な数字ではなく、目指すのであれば1000億円企業であると考えた」と、高い目標を設定した背景を説明した。
また、中長期的にグローバル展開を強化する姿勢も明らかにした。
小野田副社長兼COOは、「岡山から全国へ、全国からグローバルへと進んでいきたい」と述べながら、「2030年度時点では、海外売上比率は数%の水準となるが、売上高1000億円を目指す2040年度には、約3割が海外比率になると想定している。バングラデシュやインドへの投資による新たなソリューション展開や、両備システムズが持つソリューションの海外展開、オフショアを含めた海外での事業展開、海外におけるデータセンターの新設なども視野に入れている」と述べた。
カーボンニュートラルへの取り組み、CVCによる投資状況
新たに、カーボンニュートラルへの取り組みについても発表した。
「GREEAN COMPASS 2050」とし、2030年度までに、スコープ1および2のCO2排出量を、2020年度比で51.2%削減。さらに、2050年度にはカーボンニュートラルの達成を目指す。両備グループのICT部門を構成する両備システムズ、シンク、ドリームゲート、Ryobi AlgoTech Capitalの4社が対象となり、ICTインフラの環境配慮をはじめとした社内外でのGX実践を土台に、脱炭素社会に向けた道のりを段階的に整理。社員教育や資格取得支援、再エネの活用および導入、設備の省エネ化といった取り組みを積み重ね、カーボンニュートラルの達成を目指す。
「環境への取り組みにおいては、両備グループの経営理念である『忠恕(ちゅうじょ)』の姿勢を取り入れている。思いやりを意味する『忠恕』の心で、地球にやさしい未来を実現する。両備システムズグループが開発するソリューション、展開するサービスを含めて、カーボンニュートラルを目指す」と語った。
カーボンニュートラルの取り組みのひとつとして、バングラデシュにおいて、農業データプラットフォームを活用した農業DXおよびカーボンクレジット創出に向けた実証事業を行っていることにも触れた。経済産業省のグローバルサウス未来志向型共創等事業における小規模実証として、2025年2月~12月の期間で行っている。対象となる3900haのうち、8月までに2346ha、農家3656人に対して実施。AWD農法を採用し、収穫量を32%向上させながら、CO2排出量を36%削減することができている。
「農業プラットフォームを構築し、データ入力用スマホアプリを開発。営農指導員などがデータ入力を行い、カーボンクレジットとして転換し、流通させることになる。農家、営農指導員、大学、専門機関と連携しながら進めており、成果にもめどがついてきた。参加した農家の98%から、引き続きこの仕組みを導入したいという声が出ている。2025年度末を目標に、大規模実証に向けた調整を進めている」と進捗状況を報告した。
CVCによる投資状況についても説明した。2023年3月に設立した第1号ファンドは、20億円のファンド規模としており、すでに13億2000万円を実行。2025年度末までに累計17億円の投資を実行する予定だという。2025年9月には、第2号ファンドを設立する予定であり、「ASEAN、北米、イスラエル、インドなどでの投資が活発になっている。第2号ファンドでは海外への投資比率をさらに高め、約70%が海外になる。シンガポールを拠点に進めていく」と語った。
なお、同社では、同社の年次イベント「両備共創DX2025」を、2025年9月2日、3日の2日間、東京・京橋のTODA HALL&CONFERENCE TOKYOで開催する。製造、物流、倉庫、医療、公共/自治体など、同社が持つ各種ソリューションを展示するほか、基調講演やトークセッションなどが行われる。