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Sansan、AI時代のSaaSの変化や今後のトレンドを説明 自社開発AIの活用事例や「企業別AI契約サマリー」も紹介
2025年8月21日 11:00
Sansan株式会社は20日、AI契約データベース「Contract One(コントラクトワン)」において、取引先ごとの契約状況をAIが自動で要約する「企業別AI契約サマリー」を8月中に提供開始すると発表した。同日にオンラインで行われたメディア向け勉強会では、AI時代のSaaSの変化や今後のトレンドについて解説するとともに、自社開発AIの活用事例および新機能「企業別AI契約サマリー」の概要について紹介した。
勉強会の冒頭で、まずSansan コーポレートブランディング室 室長の小池亮介氏が、同社のAIの取り組みについて説明。「当社は、創業間もないころから、紙の情報をデータ化する領域において、AIの研究・活用に取り組んできた。今年初めには、全社方針として『AIファースト』を掲げ、『プロダクトへの実装』と『組織全体の底上げ』の2つの軸でAI活用を進めている。組織全体の底上げでは、“AIを使える組織”づくりに注力し、現在は社員の99%が日常的にAIを活用している。また、プロダクトへの実装では、『Contract One』において、2023年4月からChatGPT-4の利用研究を開始し、AIを中核とした機能の開発・実装に取り組んでいる」と述べた。
続いて、Sansan 執行役員/Contract One Unit ゼネラルマネジャーの尾花政篤氏が、AI時代におけるSaaSの変化および今後のトレンドを解説した。「テック業界では1年ほど前から、生成AIの進化によってSaaSはGUIアプリという形を終えて裏方になる“SaaS is Dead論”が話題を集めている。これまでSaaSは、さまざまな業務プロセスを効率化する役割を担ってきたが、今後はAIエージェントが業務を代替する時代になるという論説だ。一方で、各企業が業務にAIを活用する際には、個社ごとに蓄積されたビジネスナレッジが必要不可欠になる。SaaSを活用して業務を行うことで、このナレッジを自然に蓄積していくことができる」と、これからのSaaSの価値は「プロセスの効率化」ではなく、「ナレッジを蓄える基盤」へと変化していくという。
AIが使えるデータの条件として尾花氏は、「分類」と「ひも付け」の2つを挙げ、「企業は、社内にただ情報を蓄積していくだけでは意味がない。情報の意味を割り当てて分類し、関係性をひも付けることで、AIが活用できる形にすることがより重要になる」と指摘する。また、自社専用の生成AIを開発する企業が増えてきていることを背景に、「今後のAI活用は、ベンダー主導からユーザー主導へとシフトし、自社開発の生成AIとSaaSを連携して活用するニーズが拡大するとみている。その中で、注目されているのが、AIとツールを接続する共通プロトコルであるMCPサーバーだ。これによってAIとツールを個別につなぐ必要がなくなり、使い慣れたAIからあらゆる情報を取得できるようになる。こうした状況において、SaaSには、業務ごとに最適な『UIの設計』と『データ構築』という2つの役割が残されることになる」との考えを示した。
次に、Sansan 技術本部 研究開発部 研究員の山内敏嗣氏が、自社開発AIの活用事例として、「Contract One」に自社開発の生成AI「Viola」を実装した取り組みについて説明した。「Contract One」は、紙・PDF・電子など、すべての契約書を高い精度でデータ化し、その情報を全社で活用できるAI契約データベース。契約書は「非定型」かつ、膨大な文字情報があるためデータ化が難しい書類とされているが、「Contract One」では、OCR結果を基にした自動処理と人によるオペレーションを組み合わせた独自のエンジンで高い精度を実現している。
「これまでは、OCRベースの自動処理の精度を高めることで、自動化率を上げてきたが限界があった。また、自動化率向上のために外部LLMの活用も検討してきたが、ビジネス文書のデータ化ルールを学習していないため、実装は難しかった。そこで、ビジネス文書に特化した生成AI『Viola』を一から自社開発した。従来のOCRベースの自動処理では、データ化する際に契約書のレイアウトやフォントなどの視覚的な情報は失われてしまうが、『Viola』ではレイアウト情報まで扱うことができる。『Viola』を実装したことで、これまで人が担当していた工程が『Viola』に置き換わり、従来と同水準の品質を維持したまま、自動化率の大幅な向上を実現した」という。
山内氏は、「Viola」の導入成果として、「自動化率の向上によるプロダクト自体の進化」に加え、「データ納品が早まったことでのユーザビリティーの強化」と、「論文発表などを通じてノウハウを還元し、国内の生成AI開発力強化に貢献する」ことを挙げている。
そして今回、自社開発の生成AIを活用した新機能「企業別AI契約サマリー」を提供開始することを発表した。「企業別AI契約サマリー」は、Contract One内の契約データを参照し、取引先ごとの契約状況をまとめたサマリーを自動生成する機能。企業ごとの契約一覧画面で「契約サマリーを作成」ボタンをクリックするだけで、AIが契約書を解析し、「当社との関係」「直近1年以内に締結された契約の状況」「費用・契約条件の要点」などを含む要約レポートを出力する。
新機能をリリースする背景について尾花氏は、「契約書は、1つの企業と複数の契約を締結するケースが多いうえに、各案件の担当部門や担当者ごとに分散して管理されていることも多く、1つの取引先との契約状況を全社で横断的に把握するのが難しい状況だった。そこで今回、生成AIを活用し、契約先ごとにすべての契約書から相手企業との関係や契約状況をまとめてレポートする機能を実装した。判断者が自ら契約の全体像を把握できるようになることで、与信の見直しや収益最適化、ガバナンス整備など、企業の意思決定の質とスピード向上にも貢献できる」としている。
また、同機能の実現には、正確なデータの保持が必要不可欠であり、「『Contract One』では、独自の企業コードを付与することで、社名変更があった場合でも同一企業を正確に統合できる。さらに、言語理解研究所と協業し、親契約と子契約の関係を自動でひも付けしている。これによって、取引先との関係性を漏れなく把握できる仕組みを実現している」と強調した。