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AWSジャパン長崎社長が示した、クラウド移行を成功させる5つのガイド

AWS Summit Tokyo 2018 基調講演レポート

KDDIのAWS導入事例を紹介

 AWS Summit Tokyoでは毎回、AWSユーザー/パートナーが登壇し、AWSによって自社のビジネスがどう変わったかが紹介されるが、今回は5名のゲストが登壇した。

 本稿ではその中から、KDDI 理事 技術統括本部 プラットフォーム開発本部長 中島昭浩氏によるAWS導入事例を紹介したい。

KDDI 理事 技術統括本部 プラットフォーム開発本部長 中島昭浩氏

 KDDIでは最近はハイブリッドクラウド促進の一環として、顧客向けのサービスにAWSを数多く利用しており、代表的なサービスには「auでんき」「au HOME」「au助手席ナビ」などがある。アカウントの数は3年間で10倍に増えたという。

AWSを利用したKDDIのサービスの一部。50以上のサービスでAWSを活用している

 中島氏はここで、最近の同社によるAWS事例を2つ紹介している。ひとつはiPhoneの予約サイトの構築。これまでオンプレミスで構築していたが、去年からAWSにしたことで、莫大(ばくだい)なピークトラフィックのキャパシティプランニングが不要になり、処理性能は4.8倍に、工期はわずか10日に短縮されたという。

 2つめはauでんきやデジラアプリなど、各種auアプリ用のプッシュ通知基盤。この基盤は数多くのAWSサービスを組み合わせて構築しているが、プッシュ配信元から送られるキューの量は多いときと少ないときの差が激しく、「常にキューの量を見ながら必要な数のインスタンスをオートスケール」(中島氏)することを狙ったが、どうしてもコストが多くかかってしまうという悩みを抱えていた。

 だが、ここでAWSによるプロフェッショナルサポートサービスの支援を受け、サーバーレスマネージドサービスの導入をアドバイスされた結果、「限界性能は4倍に向上し、構築費用は1/4にすることができた」(中島氏)と、大幅なコスト削減効果を明らかにしている。

auアプリ用プッシュ通知基盤の概要。SQS、DynamoDB、EBSなどがメイン。各種auサービスからリクエストが配信され、ユーザーのスマホにさまざまな情報(通信データ容量、コミック最新刊、電気使用量など)をプッシュ通知する

 中島氏は最後、「KDDIからAWSへのリクエスト」として2つの項目を挙げている。

 ひとつは障害情報の共有と公開の促進で、「特にネットワークに関しては全然足りない。さらなる情報公開を望む」としている。

 2つめは「大阪ローカルリージョンの正式リージョンへの格上げ」だ。2018年1月にローンチした大阪ローカルリージョンは、現状では東京リージョンの補完的存在であるため、「やはりいろいろと制約が多い」と中島氏は言う。

 AWSは2006年のローンチから、顧客のフィードバックをもとにサービスの追加や強化を図っていく方針を崩していないが、大阪ローカルリージョンは日本のエンタープライズユーザーの強い声に押されるかたちで開設したサービスだ。中島氏のように、大阪ローカルリージョンの拡大を要望する声は少なくなく、AWSがこうした日本企業のリクエストにどう応えていくかが注目される。

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 「AWSは生まれながらのテクノロジーカンパニー。われわれ自身もベンチャーとして生まれ、誰かの小さなアイデアを具現化し、顧客の声を聞いて成長してきた。AWSとおなじようにリスクを取って成長しようとする企業を支援することはわれわれのミッション」――。

 キーノート中に長崎社長は、あらためてトップランナーとしてのAWSのミッションを強調している。クラウドに移行することで新たな成長を遂げようとする企業を支援するため、10月には東京・目黒に「AWS Loft Tokyo」をオープンすることも発表した。AWS LoftはAWSのソリューションアーキテクトが常駐する場所で、AWSユーザーであれば誰でも自由に使える広くて開放的な空間だ。北米以外では初めての展開となる。

10月に目黒にオープン予定のAWS Loft Tokyoでは、AWSユーザーのためにいくつものプログラムが用意される。コワーキングスペースとしての利用も可能

 パブリッククラウドにおける“AWS一強時代”は終わった、とよく言われる。実際、Microsoft AzureもGoogle Cloud Platformも豊富なサービスメニューを提供し、世界中にユーザー数を拡大している。

 だが、長崎社長を含むAWSのエグゼクティブは決して競合には言及しない。競合がどんなに力をつけようとも、AWSが目を向けるべきはカスタマーオンリーでなくてはならない――。 その原則を10年以上にわたり貫いてきたからこそ、いまの強さがある。そして、おそらくその姿勢は今後も変わらないだろう。

 トップランナーとしてのミッションを果たすべく、クラウド移行に取り組む企業を1社でも多く支援するため、国内でもこれからさらに多くのサービスが展開されることになるだろう。