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CoreOSの統合、Azureでのマネージドサービス――、OpenShiftにフォーカスするRed Hatのオープンハイブリッド戦略
Red Hat Summit 2018レポート
2018年5月29日 06:00
「7年前、私は“未来はもっとオープンな世界になる”と断言した。そして現在、その世界はどうやら現実となりつつあるようだ」――。
5月8日(米国時間)、米国サンフランシスコで開催された米Red Hatの年次プライベートカンファレンス「Red Hat Summit 2018」(5/8~5/10)のオープニングキーノートにおいて、同社の製品および技術部門を統括するエグゼクティブバイスプレジデント兼プレジデントのポール・コーミア(Paul Cormier)氏は、7000名を超える参加者に向かってこう語りかけた。
1993年の創業から25年にわたり、エンタープライズをターゲットとするオープンソースビジネスを展開してきたRed Hatだが、コーミア氏は「オープンソースへの注目度はかつてないほど大きくなっている。7年前に私が予測したオープンな未来がここにある」とオープンソースの存在感がここ最近、急激に高まっているとあらためて強調する。
では、高まりつつあるというオープンソースへのトレンドにおいて、世界でもっとも成功したオープンソース企業として、そしてテクノロジーカンパニーのひとつとして、Red Hatはどんな技術と戦略でもって次なる”オープンな未来”を描こうとしているのか。
現地でのカンファレンス取材をもとにレポートする。
「ハイブリッドクラウド+OpenShift」の理由
今回のRed Hat Summitで同社がもっとも訴求していたキーワードは「OpenShift」だ。Red Hatは現在、同社のビジネスを支える戦略として
・Linuxベースの基盤とハイブリッドクラウド環境を支えるインフラストラクチャ
・エンタープライズレディなKubernetesベースのコンテナプラットフォーム
・全ポートフォリオの容易な利用を可能にする自動化および統合化された管理プラットフォーム
という3つの柱を掲げているが、コンテナアプリケーションプラットフォームであるOpenShiftは、このいずれにも深くかかわっている。
Red Hatが、OpenStackやAnsibleではなく、あえてOpenShiftをビジネスのコアとして位置づけてきた背景には、コンテナ、特にKubernetesの本番環境でのアダプションがここ1年で急増している影響が大きい。
Amazon Web Services(AWS)一択の雰囲気が強かった数年前とは異なり、現在、エンタープライズ企業の多くはマルチクラウド、もしくはパブリッククラウドとオンプレミス/ベアメタルの共存を図るハイブリッド環境でのインフラ運用を前提にしている。
ヘテロジニアスな環境下でのアプリケーションのビルド/デプロイ、さらに運用の自動化を実現するKubernetesは、いまやコンテナプラットフォームのデファクトスタンダードと言っても過言ではない。
一方で、Kubernetesはオペレーションの難易度が高いため、エキスパートがいない現場ではスムーズな運用が困難になる。これをサポートする目的で複数のベンダーが商用のKubernetesサービスを提供しているが、「Red Hat OpenShift」は、Red Hat Enterprise Linux(RHEL)が実装された環境であれば、アプリケーションのアーキテクチャにかかわらず、ほとんどのメジャーなITインフラ(AWS、Azure、GCP、VMware、OpenStackなど)の上で動かすことが可能となっている点が、大きな強みだ。
加えて、現在はCNCF(Cloud Native Computing Foundation)の下でオープンソースとして開発されているKubernetesに、Red Hat自身が深くコミットしているという点も大きい。
KubernetesはもともとGoogleによって開発されたプロダクトだが、現在はCNCF傘下のプロジェクトとして多くの企業が開発に参加しており、Red HatはAWSやAzure、GCPと並んで最上位のプラチナメンバーとしてKubernetesへの投資を拡大している。
エンタープライズのインフラがKubernetesへとシフトする流れにある現在、Red HatがOpenShiftにもっとも注力するのも自然な流れといえる。
競合のKubernetesサービスと差別化するCoreOSの存在
Red Hatは今回のカンファレンスにあわせ、OpenShift関連の大きなアップデートをいくつか発表している。
・OpenShiftとCoreOSの統合
・OpenShiftとOpenStackの統合
・オンライン開発環境「OpenShift.io」へのオープンアクセス
・Apache OpenWhiskベースのサーバーレスオファリング「OpenShift Cloud Functions」
・Azure上でのマネージドサービス「OpenShift on Microsoft Azure」
ここで注目されるのは、2018年1月に2億5000万ドルで買収を発表し、現在は組織的にもマージが進んでいるCoreOSの各プロダクトと、OpenShiftの機能的な統合だ。
CoreOSはコンテナに最適化された軽量OS「CoreOS」のほかに、ハイブリッドクラウドでの実装を前提にしたKubernetesプラットフォーム「Tectonic」、Kubernetes上で動作するアプリケーションレジストリ「Quay」を開発しており、いずれもエンタープライズ向けにサポートを行っている。
Red HatはCoreOSの買収により、コンテナとKubernetesに特化したプラットフォームと関連ソフトウェア、そしてエンジニアをまとめて手に入れることとなり、競合に対しても大きな優位性を得ている。
CoreOSに対してはRed Hat以外にも多数の企業から買収の打診があったが、最終的にRed Hatを選んだ理由としてCoreOSのCTOであるブランドン・フィリップス(Brandon Phillips)氏は「われわれのプロダクトとの親和性、そしてオープンソース企業としての実績と文化、さらにエンジニア重視の姿勢を高く評価した」と語っている。
Red Hatは2018年中には、OpenShiftへTectonicおよびQuayを完全に統合すると発表している。Tectonicにおいては、オペレーションの自動化、インストール/アップグレード/モニタリング/計測/チャージバックといったいわゆる“Day 2マネジメント”のサポートを図り、「CaaS(Container-as-a-Service)、KaaS(Kubernetes-as-a-Service)、PaaS(Platform-as-a-Service)におけるベストインクラスなサポートを実現する」(コーミア氏)ことを目指している。
またQuayに関しては「エンタープライズの利用に最適化されたセルフマネージドなコンテナレジストリ」と位置づけ、ジオレプリケーション、脆弱性スキャニング、ビルド自動化などを実装し、Tectonicの上で動く“as-a-Service”なオファリングとして提供する予定だ。
「ハイブリッドクラウドにおけるコンテナ運用で、もっとも重要なポイントは自動化。TectonicおよびQuayをOpenShiftにマージすることで、ユーザーはオンプレミス、ベアメタル、パブリッククラウドを問わず、フットプリントのないアプリケーション稼働環境を手にすることができる。既存のTectonicユーザーはそのままOpenShiftユーザーとなる。ユーザー側で何かを変更する必要はない」(コーミア氏)。
OpenShiftをAzureで:かつての競合とのパートナーシップ強化
OpenShift関連で注目されたもうひとつのアップデートが「OpenShift on Microsoft Azure」である。ここ1、2年、Red HatとMicrosoftは積極的にパートナーシップを拡大してきたが、今回はOpenShiftをマネージドサービスとしてAzure上から提供、さらにOpenShiftが“オンプレミス版のAzure”と呼ばれるAzureの拡張機能「Microsoft Azure Stack」をサポートすることを発表している。なお、パブリッククラウドベンダーがOpenShiftをマネージドサービスとして提供するのは、今回が初めてのケースだ。
OpenShift on Microsoft Azureでは、WindowsコンテナとRHELコンテナの両方がサポートされ、シングルプラットフォーム上でのヘテロジニアスなコンテナ管理が実現することになる。
また開発者向けのエンハンスとして、OpenShiftにデプロイ済みのRHELコンテナ上でMicrosoft SQL Serverの動作を可能にしたほか、Visual Studioのサブスクリプションユーザーは追加料金なしでRHELを利用できる。すでに、ドイツ銀行など数社がOpenShift on Microsoft Azureを採用しているという。
今回の共同発表のために、Microsoftからは同社のクラウド/AIグループ担当シニアバイスプレジデントであるスコット・ガスリー(Scott Guthrie)氏が、2日目(5/9)のキーノートに登壇、「OpenShift on Microsoft Azureは誰もがオープンソースのパワーを実感できるサービス。オープンソースを中心に両者の関係をさらに強固にしていく」と語り、コーミア氏と並んで両者のパートナーシップをアピールしていたが、10年前には考えられなかったシーンとコメントだといえる。
BBVAとAmadeus:グローバル企業によるOpenShiftの最先端事例
OpenShiftの導入事例は全世界に広がっているが、今回のRed Hat Summitで目立ったのは、金融機関によるユースケースが非常に増えていた点だ。先に名前を挙げたドイツ銀行をはじめ、Citi、ビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行(BBVA: Banco Bilbao Vizcaya Argentaria S.A.)、カナダロイヤル銀行などがOpenShift導入企業として名を連ねている。
オンプレミスと複数のパブリッククラウドを組み合わせたハイブリッドクラウド化が急速に進む金融の世界では、環境を問わずにアプリケーションをデプロイし、柔軟にスケールできるインフラとしてOpenShiftが選ばれていることがうかがえる。
2日目のキーノートに登壇したBBVA インフラストラクチャ/サービス/オープンシステム部門 グローバルヘッド ホセ・マリア・ルエスタ(Jose Maria Ruesta)氏は、BBVAのオープンシステム化/ハイブリッドクラウド化について「データやクラウドインフラに対する規制がきびしい欧州の場合、“オープン”であることが高いセキュリティと信頼性を獲得する最善のアプローチ」と語っている。
同行は5年前からローカルシステム(データセンター)のオープン化に取り組んでいるが、OpenShiftを採用したことで「コストは1/3に、開発者の生産性は5倍に、ITデリバリのスピードは3倍に改善した」(ルエスタ氏)という。現在は“100%オープンソース”なデータセンターの構築を進めており、Red Hat製品を中心に、数多くのオープンソースを組み合わせたインフラ環境を構築中だ。
オープンソースへのシフトが進んでいるのは金融だけではない。今回のRed Hat SummitではNike、Cathay Pacific、Genesys、Kohl'sなどの事例が紹介されていたが、その中にあって圧巻のスケールパワーを見せつけたのがAmadeusのOpenShift事例だ。
周知のとおり、Amadeusは世界中の航空会社や旅行会社が利用する予約管理システムを提供しているが、初日のキーノートで紹介されたその規模は、
・年間の搭乗乗客数は16億人以上
・旅行会社が扱う年間の予約数は5億6800万
・全世界の航空会社の予約座席の95%
・1日あたりに扱うリクエスト数は1兆以上
となっており、24時間365日にわたって休むことなく稼働するIT基盤が求められていることは言うまでもない。
Amadeusはかなり早い段階からDockerやKubernetesといったコンテナ関連プロダクトをアプリケーションデリバリに活用していたが、2016年からOpenShiftのアダプションを本格化、トラディショナルなデータセンターと複数のパブリッククラウドを組み合わせ、システムや地域のニーズに応じてアプリケーションプラットフォームの構成を変更して提供している。以下にその例を示す。
ホテルアプリケーションプラットフォーム
米国西海岸ではOpenStack + VMwareのIaaS上にCouchbaseとOracleでデータベースを構築、東海岸では同じくOpenStack + VMware上にOpenShiftでPaaSを構築する。アプリケーションの運用/管理には、Ansible Tower、Terraform、Puppetなどを活用
ショッピングアプリケーションプラットフォーム(航空券などの購入システム)
地域やサービスによって複数のプラットフォームを使い分ける。例えばドイツの同社データセンターはクラウド基盤をOpenStackで構築し、データベースとしてCouchbaseを利用、またPaaSとしてはGoogle Compute Engine+OpenShiftを、ストリーミング環境にはAWS+Apache Kafkaをそれぞれ活用。運用/管理にはホテルアプリケーションと同様にAnsible Tower、Terraform、Puppetを活用
旅行業界はピークシーズンとオフシーズンのトランザクションの差が激しいが、全体のトランザクション量は年々増加傾向にあり、アプリケーションのデプロイ/デリバリのスピードへの要求も高くなっている。
コンテナ、そしてOpenShiftを導入したことでAmadeusのアプリケーションデプロイのスピードは大幅に向上したが、地域やシステムに応じたプラットフォームの選択、そしてプラットフォームをまたがった自動化の徹底が、その効率性をさらに高めていることは疑いない。
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「かつてSun Microsystemsというオープンソースの会社があった。すばらしい技術を数多く世の中に送り出したにもかかわらず、会社としては消滅してしまった。Sunの教訓からいえること、それはシングルカンパニーの技術だけではスケールできないということだ。それはクラウドに関しても同じである。だからわれわれは7年前からハイブリッドクラウドが主流になると主張してきた」――。
コーミア氏はキーノート、そしてインタビューの席上であらためてRed Hatのハイブリッド戦略の正当性を強調していた。エンタープライズITの世界ではよく「シンプル」「オープン」というキーワードが使われるが、これらの言葉の使われ方はベンダーによって大きく異なる。
Red Hatの場合はオープンソースをベースにすることで、パートナーやユーザーとエコシステムを構築しつつ、どんな環境下であっても変わらないユーザーエクスペリエンスを届けられることにフォーカスしているように見える。
そしてそのコアとなるテクノロジーがコンテナとKubernetesであり、ソリューションとしてのOpenShiftになるのだろう。CoreOSの買収やかつての競合だったMicrosoftとのパートナーシップ強化もこの戦略にのっとっている。
「エンタープライズITの世界はいま大きく変わろうとしている。重要なのはスケーリングであり自動化であって、旧来のプランニングはもはや死んだといっていい。だからこそ時代のメインストリームはコンテナでありKubernetesである。われわれは自分たちのハイブリッドクラウド戦略が理にかなっているものと信じている」――。
Red Hatのジム・ホワイトハースト(Jim Whitehurst)CEOは、カンファレンス期間中のインタビューにおいてこう語っている。BBVAやAmadeusのような先進的なコンテナ事例、ビジネスのあり方を根本的から変えたオープンソース導入事例がどれほど増えていくのか、引き続き注目していきたい。