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長崎社長が語る、AWSが選ばれ続ける理由とは―― AWS Summit Tokyo 2019 基調講演レポート

 アマゾンウェブサービスジャパン株式会社(以下、AWSジャパン)は、国内最大級のクラウドコンピューティングカンファレンス「AWS Summit Tokyo 2019」を6月12日から14日の3日間、千葉市の幕張メッセで開催している。

 初日に行われた基調講演では、AWSジャパン 代表取締役社長の長崎忠雄氏が登壇し、AWSのビジネス状況やデジタル変革の最前線で選ばれ続けている理由、カスタマーサクセスを起こすためのポイントなどを語った。

アマゾンウェブサービスジャパン 代表取締役社長の長崎忠雄氏

 またゲストスピーカーとして、三菱電機株式会社 リビング・デジタルメディア事業本部 リビング・デジタルメディア技術部長の朝日宣雄氏、ニフティ株式会社 取締役 兼 執行役員 兼 CIO 兼 ITシステム統括部長の前島一就氏、株式会社シナモン CEOの平野未来氏が登壇し、各社のAWS活用事例を紹介した。

2019年第1四半期は前年同期比で41%の成長を達成

 基調講演の冒頭で、AWSジャパン 代表取締役社長の長崎氏は、グローバルにおけるAWSのビジネス概況について説明。「AWSの2019年第1四半期の年間想定収益は308億ドル(約3.3兆円)となり、前年同期比で41%の成長を達成した。グローバルインフラストラクチャは、現在21リージョン、66アベイラビリティゾーンを運用しており、新たに4つのリージョンを建設中だ。また、165を超えるサービスを提供しており、このイノベーションはさらに加速している」と述べた。

 AWSを利用している顧客はグローバルで数百万を超え、企業規模はスタートアップからエンタープライズまで、業種についても金融業、製造業、ヘルスケア、メディア、旅行業など幅広い企業が、さまざまなワークロードをAWS上で稼働しているという。また、公共機関でも4000以上、教育機関でも9000以上の採用実績があるとした。

 日本市場での取り組みについては、「日本では、数十万の顧客がAWSを活用しており、国内のAPNパートナー数は、2017年の521社から2018年には750社まで拡大した。また、国内でのさらなるクラウド利用拡大のため、スタートアップ支援の『AWS Loft Tokyo』、開発者向けの『DEV DAY』、パートナーと共同で全国展開する『Cloud Express Roadshow』、オンラインカンファレンス『AWS Innovate』など、さまざまな形で学びの場を提供している。さらに、将来のITを支える人材育成として学生向けの教育プログラム『AWS Educate』も展開している」と説明した。

 また、デジタライゼーション時代でカスタマーサクセスを起こすポイントとして、「ハードウェアからソフトウェアにビジネスの主体をシフトすることが重要になる。これによって、カスタマーエンゲージメントを大幅に強化することができる。このデジタル変革を推進するテクノロジーがクラウドであり、その最前線でAWSが選ばれ続けている」と述べた。

 AWSでは、カスタマーサクセスを支援する取り組みとして、これまでに72回の値下げを実施。また、顧客からの意見や要望を取り入れ、柔軟かつスピーディーにサービスに反映しており、2018年には1957回の機能拡張を行ったという。

クラウド移行の障壁は「データベース」と「Windows」?

 一方で、既存のレガシーシステムからクラウドへの移行を進める際の課題として、「データベース」が大きな障壁になっていると指摘。「当社は、顧客システムのクラウド移行を支援する取り組みにも力を注いでおり、サービス系システムと基幹系システムの2つのクラウドジャーニーをサポートしている。しかし、ここで課題になるのがデータベースだ。特に従来の商用データベースでは、膨大な量のデータを扱うのは難しい状況になりつつある。これに対して、AWSではワークロードに適したさまざまなデータベースを用意しており、顧客はリレーショナル、キーバリュー、ドキュメント、インメモリ、グラフなどから最適なデータベースを選択することができる」とした。

ワークロードに適したAWSのデータベース選択

 また、クラウド移行のもう1つの障壁として「Windows」を挙げ、「当社では、10年以上にわたってWindowsのイノベーションに対応してきた実績があり、AWS上でWindowsを利用する顧客は増え続けている。今年3月からは、Windowsファイルベースストレージを実現するマネージドサービス『Amazon FSx for Windows File Server』を東京リージョンでもリリースしている」と説明した。

 そして、さらなるカスタマーエンゲージメントへの挑戦として、機械学習やIoT、エッジコンピューティング、ブロックチェーンなどの最新テクノロジーを、AWS上でいつでもすぐに使えるようにしていると強調。「特に、機械学習については、『すべての開発者に機械学習を』というミッションのもと、『インフラとフレームワーク』、『機械学習サービス』、『AIサービス』の3つレイヤーで、目的に応じて選べるサービス群を提供している。その中で、機械学習のフルマネージドサービス『Amazon SageMaker』は、すでにグローバルで1万を超える顧客に利用されている」と語った。

 最後に長崎氏は、強化学習によって駆動する完全自走型レーシングカー「AWS DeepRacer」の取り組みについて紹介。「『AWS DeepRacer』は、すべての開発者が、機械学習を楽しみながら学ぶことができる教育キットになっている。当社では、実際にこのキットを使ったレース『AWS DeepRacerリーグ』を世界20以上のAWS Summitで開催している。今回のAWS Summit TokyoのExpo会場でもレースを開催しており、優勝者はre:Invent 2019のチャンピオンカップに招待する。ぜひ注目してほしい」とアピールした。

AWS DeepRacerの概要

3名のゲストスピーカーが登壇

 なお、基調講演のゲストスピーカーとしては、三菱電機の朝日技術部長、ニフティの前島取締役、シナモンの平野CEOの3名が登壇した。

 三菱電機の朝日氏は、AWSを活用して「グローバルIoT基盤」を構築した事例について紹介した。「世界各国で展開しているIoTサービスを一元管理する基盤構築にあたっては、『グローバル拠点で共通的に利用できる環境』、『サーバーレスアーキテクチャにより各拠点のアプリケーションを統合可能』、『協業するための多くのサービスパートナーとの連携』という3つの要件があった。これらの要件をすべて満たすのがAWSのクラウドであり、各国のIoTに関する知恵・実績を集め、『暮らし空間イノベーション』を実現するために最適なソリューションであると判断した」と、AWSを採用した経緯を語った。

三菱電機 リビング・デジタルメディア事業本部 リビング・デジタルメディア技術部長の朝日宣雄氏

 「当初、『グローバルIoT基盤』の構築には約1年はかかると考えていたが、AWSの採用によって約4か月で完成させることができた。今後、この基盤が、使う『モノ』から、したい『コト』を実現するためのプラットフォームを担っていくと期待している」とした。

 ニフティの前島氏は、AWSを活用して、レガシーシステムを新たなクラウド環境にマイグレーションした事例を紹介。「当社が長年利用していたレガシーシステムは、コスト、運用負荷、開発生産性の面で課題を抱えていた。具体的には、『ネットワークとサーバー稼働環境のコスト圧縮』、『既存データセンターからの撤収、新クラウドへ移行』、『社内技術力の向上、外部委託依存からの脱却』、『レガシーシステムのリプレース』の4つの課題があり、これらを解決するソリューションとしてAWSを選択した」という。

ニフティ 取締役(兼)執行役員(兼)CIO(兼)ITシステム統括部長の前島一就氏

 AWSを採用したポイントについて前島氏は、「AWSの高い互換性と信頼性により、最大の懸念点であったデータベースマイグレーションの不安が払拭された。また、豊富なサービスから最適なものを選択して段階的に実施できる点や、固定額から従量課金への変更で莫大(ばくだい)なライセンス購入費用から解放される点もポイントになった」としている。

 このほかに、サポートやトレーニング、技術情報が豊富で、不安や課題を即解決できることもAWSの採用ポイントに挙げている。AWSの導入効果としては、「全社共通のAWS検証環境を整備し、全社AWS推進チームを結成した。これにより、AWSを使いこなすエンジニアが続々現れ、クラウド人材の育成につながっている」と述べた。

 シナモンの平野氏は、機械学習を用いたサービス開発に「Amazon SageMaker」を導入した事例を紹介。「当社は、AIラボをベトナム・台湾に持っており、100人のAIリサーチャーがAIモデルを開発している。しかし、顧客からのフィードバックさらに加速し、継続的にAIモデルを改善していくためには3つの課題があった。1つ目は、100人のAIリサーチャーが別々の開発環境を使っていること。2つ目は、GPUインスタンスを人力で管理していること。3つ目は、グローバルコラボレーションが非常に難しいことだ。これらの課題を解決するべく、『Amazon SageMaker』を導入した」という。

シナモン CEOの平野未来氏

 「具体的には、AIリサーチャーに統一化された開発環境を用意し、好みのディープラーニングフレームワークを選択できるようにした。また、マネージドサービスで、学習時のみGPUインスタンスを起動させることが可能になった。さらに、日本のデリバリ環境との統一により、モデル開発サイクルの高速化を実現した」と、「Amazon SageMaker」の導入効果を説明した。「今後のチャレンジとしては、当社と顧客の間でVPCをつないだセキュアな環境で、AWSアカウントをまたいで『Amazon SageMaker』を活用することを検討している」と、今後の展開についても語っていた。