大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ

Boxは単なるファイル置き場ではない――、日本で躍進する“Boxの今”を追う

ベスト・オブ・ブリードを追究するBox

 そして、アプリケーションの統合としては、BOB(ベスト・オブ・ブリード)と呼ぶ取り組みを挙げる。

 BOBは、Boxにおける重要なキーワードのひとつである。

 Boxでは、1400以上のアプリケーションが統合されており、Microsoft Office 365やSalesforce.comのほか、Slack、Zoom、PagerDutyなどと連携。それぞれのアプリケーションと組み合わせた利用が可能だ。

 米Boxの最高製品責任者(CPO)であるジーツ・パテル氏は、「クラウド時代になり、コンテンツが細分化して配置され、複数のクラウドサービスを利用することが一般化している。その際にBoxのプラットフォームを活用して、Boxからアプリケーションやコンテンツにアクセスする環境を実現できる」とする。

米Boxのジーツ・パテルCPO

 今回のBoxWorks 2019では、アドビとの連携強化のほか、「Box for Slack」および「Box for Microsoft Teams」などを新たに発表している。

 日本でも150以上のアプリケーションが統合可能であり、そのなかには、ドキュメントをデジタル化するために複合機と連携したり、ドキュメントに印影を利用できるアプリケーションを提供したりするなど、日本ならではのソリューション連携が用意されている。

 Box Japanの古市社長は、「強いBOBパートナーがある場合には、そのアプリケーションを利用し、そうでない場合には、自分たちで開発することになる。そうした観点から、日本のアプリケーションベンダーとの連携を進めている。」とする。

 一方、「日本では、この機能がないと使えない、あるいは使いにくいという固有の要望がある。そうしたニーズに対応するために、特定の機能をBoxのなかに取り込むことがある。例えば、自宅やネットカフェなどからは使えないようにする『IPアドレス制限』は、Boxの基本機能としては提供されていないが、日本のお客さまからはどうしてもその機能が欲しいという声が多い。そこでオプションとして、この機能を提供している」とも語った。

Boxはオプションの追加でセキュリティやガバナンスを強化してきた

 なおBoxWorks 2019の会期前日に、BoxのパテルCPOは、Slack、Zoom、PagerDutyの最高製品責任者とともに、メディア関係者を対象にしたパネルディスカッションを行い、「BOB」の考え方などに言及した。

会期前日のパネルディスカッションに出席した(左から)Box チーフプロダクトオフィサーのJeetu Patel氏、PagerDuty 製品担当SVPのJonathan Rende氏、Zoom グループプロダクトマネージャーのNitasha Walia氏、Slack エンタープライズプロダクト長のIian Frank氏

 パテルCPOは、「クラウドの世界においてはBOBの考え方が重要。専門性を持った企業が協業をして、専門分野を補完することが重要だからだ。パートナーという関係でのアプローチは、お互いの製品をどう連携するかということを考えるが、BOBでは『当社のプロダクト』と『他社のプロダクト』という境界がなくなる。BoxとSlack、Zoom、PagerDutyは競合するのではなく、お互いが最高の製品を開発しながら、それらが統合されることで、シンプルさと拡張性を実現できる。これが、新たなマインドセットである」と語った。

 ここで異口同音に語られていたのが、「テクノロジーありきではなく、どうやって使ってもらうかが重要である」という点と、「開発においては、エンドユーザーがどうやって使っているのかを聞くことが大切である」という点だった。

 例えば、「オンプレミスの場合には、CIOの要望を聞くことが大切だったが、いまは、実際に利用をしているエンドユーザーの声が大切になっている。そこでは機能のことを聞くのではなく、どうやって使っているのかを聞くことが大切である。その際に、エンドユーザーからもらった声をすべて反映していては、フランケンシュタインのようになるだけ。それを回避するのが、専門性のある企業との連携によるBOBである」といった発言があった。

 加えて、「ユーザーエクスペリエンスが最重要であり、その後に技術を考えるのがいまの時代。導入してもらうことや出荷することが大切であった時代は終わり、使ってもらうことが大切な時代が訪れている。また、正しい形でサービスを提供しなくては顧客が逃げる。これはコストが高くなることに直結する。どうやってエンドユーザーに簡単に使ってもらうかを実現することが、顧客の維持につながり、企業の成長を支えることになる。そのためには、BOBを前提とした他社との連携が不可欠になる」などといった意見も聞かれている。

 スタンダードとなる製品を結びつけて利用することで、使いやすさが進化し、コストを低減することにもつながるというのが、BOBによって実現する世界となる。