大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ
“じゃ、BASEでやろうか”――、働き方改革を促進するNECのコワーキングスペース「BASE」レポート
2019年11月8日 06:00
日本電気株式会社(以下、NEC)が、東京・三田の本社3階にコワーキングスペース「BASE」を設置してから、約半年が経過した。
同社の社内変革プロジェクト「Project RISE」の推進において、実践の場に位置づけられる「BASE」は、グループ社員の能力を最大限に発揮し、新たな価値創造を継続的に推進することを目的に設置したもので、これまでに想定を上回る社員が利用。2019年7月に実施した「テレワーク・デイズ2019」では、約4万1000人のNECグループ社員がテレワークを実践しており、全社の働き方改革を促進する起爆剤のひとつになっている。
BASEのこれまでの成果と、今後の取り組みについて聞いた。
“じゃ、BASEでやろうか”
最近、NEC社内では、「じゃ、BASEでやろうか」という言葉が、社員の間でよく聞かれるようになってきた。そのかけ声のもと、いつもの執務エリアから離れて「BASE」に行き、打ち合わせなどをする社員が増えているという。
NECの「BASE」は、東京・三田の同社本社3階にある。
もともとはマーケティング部門などが執務エリアに利用していた場所を大幅にリニューアルし、2019年5月からコワーキングスペースとして活用を開始。それを「BASE」と呼んでいる。名前は社員からの公募で決定したが、約300件の応募があったという。
NEC社内で定められていた、執務エリアのルールの枠を超えて、使用する什器や色の基準を排除。生産性が高く効率的に仕事をするために必要な机やいす、色調を採用した。天井もむき出し構造にした設計であり、本社のなかでは異例のデザインだ。
NECは、2017年度から「働き方改革」に着手。2018年4月からは、全社員を対象に回数制限のないテレワーク制度を導入し、必要な社員全員にPCとスマートフォンを支給した。また社内ネットワークは、約6万人が社外から同時アクセス可能な仕組みを整備するとともに、同年7月から、社内変革プロジェクト「Project RISE」をスタート。社員の行動基準である「Code of Values」を策定して、働き方改革への取り組みを「ギアチェンジ」している。
そして2019年度からは、「Project RISE」を実行段階へとシフト。その実践の場としてBASEが活用されているという。
BASEの利用時間は平日午前7時~午後10時まで。NECグループの社員であれば誰でも利用でき、社員証を利用することで、BASEまで入れるようになっている。
「NEC本社の場合、これまでは、午後8時になると一度消灯され、空調も午後5時30分には止まっていた。だがBASEでは、午後10時まで照明も空調も止まることなく利用できる。時間と場所にとらわれない働き方ができる」(NEC カルチャー変革本部 エキスパートの繁田聡子氏)という。
BASEの座席数は約210席。会議などに利用できる5つの個室があるほか、ファミレス風のいすを使った会議スペースを5つ用意。さらに、オープンスペースで会議ができるエリアも用意している。
「常に100人程度の社員が利用している。木曜日や金曜日の午後はすべての席が埋まるほどに利用率が高い」とする。
取材のためにBASEを訪れたのは木曜日午前10時過ぎだったが、多くの席が埋まっていたのには正直驚いた。
ゆったりとした雰囲気の「Lounge」
BASEを入ってすぐのエリアは「Lounge」と呼ばれ、ソファなどが置かれた、ゆったりした雰囲気のなかで打ち合わせをしたり、作業を行ったりできる。コーヒーやスナック類を購入できるセルフ方式の小型店舗があり、社員証を利用してキャッシュレスで決済可能だ。
また、このエリアには個室の会議室が用意されているほか、「Phone Booth」と呼ばれる、個人で利用できる小さなブースが3つある。
会議室の利用も活発で、「BASEの会議室は社内システムを使って予約できる。人気が高いために会議室の利用時間は1時間以内と制限を設けているが、常に予約が埋まっている状況」だという。
オープンなワークスペースの「Hall」
BASEの中央部分は「Hall」と呼び、最も大きなエリアだ。オープンなワークスペースとなっており、長机を設置している場所には、ディスプレイやホワイトボードを常設しているため、いつでも会議ができる。ここでは役員が集まって会議を行うこともあるという。
その一方で、三方を壁に囲まれた1人用の集中スペースも用意されており、ここも人気席のひとつとのこと。
Hallの中心部には9面のディスプレイが配置され、これを使ってセミナーやイベントなどを開催できるほか、天井部からつるされたカメラを利用し、動画配信も可能だ。ディスプレイに近い場所にある机は移動可能なため、イベントの内容によっては机やいすを撤去し、広いスペースを作ることも可能となっている。
ディスプレイの後ろ側のエリアは、本社の吹き抜け部を見下ろしながら仕事ができるカウンター席。「BASEのなかでは最も人気のエリアで、朝から埋まってしまう場合が多い」という。
カウンター席の一部は、常設端末を設置したビジネスセンターとして利用。PCを持参していない社員でも、この端末からアクセスすることができる。ちなみに、ビジネスセンターは地下1階に設置していたものを、BASEの開設とともにここに統合した。
Hallには、本を自由に読むことができるライブラリーもある。玉川事業場でもライブラリーの運営を行ってきた経緯があるが、並べられる書籍は技術や事業に関係があるものに限定されてきた。だがBASEでは、そうしたルールを適用せず、時代のトレンドを感じることができる雑誌、アイデア創発を促すような書籍など、幅広いジャンルの本を用意。幅広いジャンルの本を毎月増やしているという。
一番奥にあるのが「Studio」である。移動可能な机やいすで構成されており、天井には複数台のプロジェクターを設置。稼働式のパーティションを利用することで、用途にあわせて部屋を区切って利用することも可能だ。柔軟性のある使い方ができるスペースだといえる。
「日常は仕事をするエリアとして開放しているが、ワークショップの開催や、定期的にヨガ教室を開催するといった使い方もしている」とした。
グループ社員の能力を最大限に発揮し、新たな価値創造を継続的に推進する拠点
NECの繁田氏は、BASEの役割について、「グループ社員の能力を最大限に発揮し、新たな価値創造を継続的に推進する拠点がBASE。社員自らが心身のコンディションを整えながら、自律的に仕事のしかたをデザインできる場、さまざまな組織間のコラボレーションを促進し、より創造的な仕事ができる場を目指す」と説明。
また、「取り巻く環境が日々変化するなか、NECグループの社員がスピーティに、高い成果を出すためには、個性豊かな社員一人ひとりが、自分らしく、持てる力を最大限に発揮できる環境が必要。オフィス空間はそうした力を引き出してくれるツールのひとつであり、BASEは、どのように仕事をすれば、自身やチームのパフォーマンスを最大化できるのかを、それぞれ自らが考えるきっかけになることを目指して設置したものだ。新たな働き方の基点として、個人とチームの底力をあげ、NECのいまと未来をはぐくむ、わたしたちの活動基点になる」と定義する。
集中したいときや移動の合間に利用する「Productive」、部門や会社を超えて偶発的な出会いをもたらす「Collaborative」、新たな気づきや着想を生み、アイデアを膨らませる「Creative」、心身のリフレッシュに活用するための「Healthy」という4つの観点から役割を果たすことになるという。
「Healthy」という観点を盛り込んだのがユニークだが、リフレッシュする環境の実現とともに、社員の健康増進に向け、Health Techをはじめとする先進ICTを用いた検証やイベントのほか、「Studio」のエリアを社員の定期健康診断のエリアに活用するといったことも含まれている。
「健康診断の前や後に、BASEで仕事をする社員の姿も見られている」という。
新たな働き方ができるオフィスづくりに挑んだ成果
なお、BASEは社内デザイナーによってデザインされた。
中心となったのは、NEC コーポレート事業開発本部デザインチーム チーフデザイナーの吉村義崇氏と、NEC コーポレートインキュベーション本部クリエイティブデザインセンター クリエイティブマネージャーの友岡由輝氏の2人だ。かつては携帯電話などのプロダクトデザインなどを担当していたが、最近では、本社の執務フロアのリニューアルなどにもかかわっている。
吉村氏は、「NECのビジョン、コンセプトをベースにしながらも、NECらしくないオフィスを作ろうと思った。『The NEC』というオフィスではなく、どこの企業にも属さない中性的で、透明性のあるオフィスづくりを目指した」と語る。
友岡氏も、「BASEのなかには、NECのロゴや、NECのイメージカラーであるブルーは使わず、どうしたら社員が生産性や効率性を追求できる環境を優先してデザインをしたり、什器の選定を行ったりした」とする。
NEC社員である2人が、NECのビジョンやコンセプトを理解しつつ、NECらしくなく、それでいて、生産性や効率性が高い新たな働き方ができるオフィスづくりに挑んだものだといえる。
「NECの既存のルールを超えて、ここまで踏み込んだエリアは初めての試み。どんな使い方がされるのかがわからない部分もあったが、Lounge、Hall、Studioの各エリアとも満遍なく利用されており、しかもそれぞれのエリアのさまざまなスペースも、それぞれの仕事にあわせた使い方をしてもらっている。改善する部分があるのは確かだが、想定通りの成果を生むことができたと考えている」(吉村氏)とする。
繁田氏も、「新たな働き方を推進する上で、働く場所を見える形で変えていくことは大切である。BASEによって、働く場所を変えて、働く意識を変えて、改革を実行につなげることができた」と、これまでの成果を総括する。
働き方改革に積極的に取り組むNEC
NECは、働き方改革に積極的に取り組んでいる。
現在NECでは、BASEの展開以外にも、社員が利用できるサテライトオフィスを、外部企業と協力して約40カ所に展開している。これにより、時間や場所にとらわれずに仕事ができる拠点を拡大してきた。
またNECでは、総務省および経済産業省が推進する「テレワーク・デイズ2019」に参加。7月22日~8月30日の期間中、2020年の東京オリンピック開催期間中の働き方を想定し、社員がテレワークを実践した。
「2017年には3000人の参加だったものが、2018年には2万6000人に拡大。2019年は、4万1000人が参加している。グループ全体でテレワークを実践する体制が整ってきた」とする。
NEC社員だけに限定すれば、約1万6000人が参加。社員全体の8割が参加したことになる。しかも、テレワークを実施した社員の50%以上が、5日連続または5日間以上のテレワークを実施したという。
「移動時間などの削減による業務の生産性向上や、通勤時間の削減によるプライベート時間の確保が可能になるといった成果が出ており、テレワークを活用する雰囲気が高まってきた」とする。
こうした実績をもとに、2019年10月からは「スーパーフレックス制度」を導入。午前8時30分から午後3時までのコアタイムを廃止し、午前5時から午後10時までの時間で、その日の予定や業務の状況に応じて、始業および終業時間を決めることができるようにした。
BASEの終了時間を当初から午後10時としていたのも、この制度の導入を見越したものだ。
また、その日の働き方に最適な服装を自ら選択する「ドレスコードフリー」を、2019年10月から実施。最先端ICTを提供する企業として、カジュアルな装いを生かして、社員の自由な発想の実現や、階層や垣根の低いオープンなコミュニケーション/コラボレーションを促進するという。
BASEという共通のフィロソフィーを各拠点に展開へ
こうした働き方改革をさらに進めるなかで、BASEの第2弾として、同じコンセプトのオフィスを2019年度中にも玉川事業場に開設する予定だという。さらにその後も、主要拠点にBASEを開設する方向で検討を開始している。
吉村氏は、「名称は、BASEで展開する。各拠点の要望にあわせて展開するのではなく、BASEというブランドを立てて、共通のフィロソフィーをそれぞれの拠点に展開していきたい」とする。
繁田氏も、「NEC社員の間には、BASEという名前を聞いただけで、どういう場所であるかということがイメージできるようになっている。それを横展開することで、社員の新たな働き方を支援したい」と語る。
現時点では、BASE開設による定量的な成果などを、まだ算出していないという。だが、多くの社員が利用していることからもわかるように、新たな働き方を実践する場としての実効性は出ているようだ。そして、BASEというブランドも社員に浸透している。
NECの働き方改革の実践の場として、また、NECの文化を変える場としての役割はますます重視されそうだ。