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2分割後の東芝はどこを目指すのか? ソリューションビジネスの観点から今後の事業方針を追う

ストレージ事業のターゲットも説明

 株式会社東芝は、アナリストを対象にした「東芝 IR Day」を、2月7日・8日の2日間に渡って開催。2021年11月12日に公表した企業を3分割する提案を見直し、新たに2分割にすることを発表した。

 そのなかでは、東芝/インフラサービス Co.におけるデジタルソリューション事業の方針に関する説明なども行われた。本稿ではソリューションビジネスの観点から、今後の事業方針を追ってみる。

3分割から2分割へ変更
2つの新会社のビジョン

東芝/インフラサービス Co.とデバイス Co.の2つに分割へ

 東芝が新たに示した東芝/インフラサービス Co.とデバイス Co.の2分割について、東芝の綱川智社長CEOは、「2021年11月の発表以降、3分割では当初計画よりも大きなコストが発生することがわかった。数多くの株主の意見を聞き、スピンオフ計画をどのように改良できるかを検討してきた。当初の目的を維持し、会社分割を確実に実現し、スピンオフの安定性を高めるために、たどり着いた決定が2分割である。さまざまな面から2分割のスキームが最適と判断した」と説明。

 「分割を契機に、事業に精通した経営体制の構築や、事業特性に応じた俊敏な経営が可能になる。それぞれの事業の競争力を高め、持続的で利益ある成長を実現するためのステップであり、ステークホルダーにとっての価値を最大化できると確信している」とした。

東芝 代表執行役社長CEOの綱川智氏

 2023年度下期までにスピンオフおよび上場を完了する予定であり、さらに、2022年中に産業競争力強化法の申請を行うことも明らかにした。また、空調事業、昇降機事業、照明事業、東芝テックを非注力事業と位置づけ、売却プロセスの開始などを進める。

 東芝/インフラサービスCo.は、エネルギーシステムソリューションやインフラシステムソリューション、デジタルソリューション、電池事業を担当。2021年度に売上高1兆5200億円だったものを、年平均成長率5.3%を見込み、2025年度の売上高は1兆8700億円を目指す。また、営業利益は2021年度の540億円を、2025年度には1200億円に拡大させる。

 「デジタル技術を最大限活用した『×(かける)デジタル』で、カーボンニュートラルとインフラレジリエンスといった大きく変化する新たな時代の社会課題の解決に取り組む」(東芝の綱川社長CEO)とした。

デジタルソリューション事業

 デジタルソリューション事業では、基盤領域にシステムインテグレーション事業および組込事業を位置付けるとともに、成長領域として、マネージドサービス事業や量子暗号通信事業、スマートファクトリーなどのソリューションビジネスを挙げている。

 東芝によると、デジタルソリューションの売上高は2021年度の2300億円から、2025年度には2730億円に拡大するとしており、年平均成長率は4.4%を見込んでいる。さらに2030年度には3950億円を目指し、この間の年平均成長率は7.7%を想定している。

 営業利益は2021年度の230億円から2025年度には284億円へ成長させる計画で、営業利益率は10.4%を想定。2030年度には590億円を目指す。

デジタルソリューション事業の目標

 東芝の畠澤守副社長は、「データサービス事業に注力し、スマートファクトリーやHRデータ活用事業を立ち上げていく。営業キャッシュフローをプログラマティックM&Aによる投資に振り向けるため、2022年度以降のフリーキャッシュフローは下がるが、2025年度までに営業利益率10%を確保する。また、2030年度以降に拡大が期待される量子暗号通信事業も確実に実証を進め、先駆けていく」と、基本姿勢を示した。

東芝 代表執行役副社長 畠澤守氏

 デジタルソリューション事業では、業界知見を生かしたソリューションサービスと、マネージドサービスの拡大が、成長戦略の軸になる。

 「DXへの取り組みが進展し、拡大する投資を機会にとらえ、成長を実現していく。重点施策として、長年に渡り培ってきた業界知見を生かした、インフラサービス領域におけるソリューションサービスの展開に加え、運用までを確実に取り込むことでマネージドサービスを強化。また、蓄積したデータを活用するデータサービス化を推進する」と述べる。さらに、自動車業界を中心とした組込開発ニーズの取り込みも図るという。

デジタルソリューション事業の重点施策と売上高目標

 成長領域として新たに立ち上げるスマートマニュファクチャリングでは、2021年度の売上高24億円を、2025年度には60億円、2030年度には200億円に拡大する。

 「東芝グループ内のスマートファクトリー化の実績と、生産技術センターの知見を生かして、産業領域の顧客の工場において、制御からクラウド化までを丸ごとデジタル化する。具体的には、東芝グループで実績があるIoTツールをカタログ化して、パートナー経由で販売。設備メーカーと構築したエコシステム上でAIサービスやデータサービスを展開する」という。すでに約40ソリューションを、85社のパートナーに展開しているという。

 東芝では自社工場や協力会社工場を含めた複数拠点のデジタル基盤をオンラインで連携し、つながる工場を実現する機能を「Meister Factoryシリーズ」に追加。インダストリー4.0が推奨するオープンな情報モデルである「アセット管理シェル」にもいち早く対応し、東芝製の機器に限らず、さまざまな機器からデータを収集し、利活用できるようにすることで、O&M(運用およびメンテナンス)の効率化に貢献できる例も示した。

スマートマニュファクチャリング

 量子暗号通信(QKD)では、2021年度に1億円の事業規模を、2025年度には30億円、2030年度には150億円に成長させる。

 東芝が開発した理論上、盗聴不可能となる量子鍵提供サービスを、サービスプラットフォームとして構築し、グローバルに展開する。「2021年度に実用化した製品では、世界最高の鍵配送速度となる300kb/sと、世界最長となる120kmの鍵配送距離を実現している。また、より使いやすいシステムの実現を目指して、600㎞以上の通信距離の実現や、小型化を可能にする、世界初のチップベースの量子暗号通信システム開発にも取り組んでいる。産官学の連携による『量子技術による新産業創出協議会(Q-STAR)』にも参加し、商品化に向けた活動も進めている。サイバーセキュリティ意識の高まりにより、量子暗号ネットワークは急速に普及すると考えている」と述べた。

量子暗号通信(QKD)

公共インフラ事業

 一方、インフラシステムソリューション事業においては、物流ソリューションや鉄道交通ソリューション、工場自動化ソリューションなどを成長領域に掲げた。

 このなかで公共インフラにおいては、サービスビジネスの強化、既存領域での新規セキュリティソリューションの展開、物流ソリューションの拡大、上下水道ソリューションでのパートナーシップ強化などに取り組む姿勢を示した。

公共インフラ事業

 物流ソリューションでは、倉庫内における人とロボットの運用最適化によって、ECの拡大と商品の多種多様化に対応。フレキシブルで、スケーラブルな物流倉庫の自動化ソリューションを国内外に展開していくという。

 事前形状登録なしでも、世界トップレベルとなる75%のピッキング対応率を誇るピッキングロボットを活用し、多様な荷物に自動対応するほか、WES(Warehouse Execution System)では、数理最適化技術とAIを組み合わせて、オーダー処理の最適化と棚搬送ロボットの運行計画立案を行い、人とロボットの運用を最適化する倉庫運用管理システムを実現するという。

 「新型コロナウイルスの影響による生活様式の変化により、物流機能はますます重要になる。少子化による労働力不足に対応するには、物流の自動化、省人化が社会課題の解決につながる。これまで郵便区分機や物流機器事業で培ったSI、メカトロ技術を強みに物流倉庫の自動化、省人化するソリューションを国内外に展開していく」とした。

物流ソリューション

 工場自動化ソリューションでは、ソフトコントローラのクラウド化により、計装プラットフォームを提供。機器の制御管理からデータ活用まで、ワンストップでのソリューションサービスを提供するという。「高度なデータ処理を実行するユニファイドコントローラにより、生産現場の機器制御と、高度なデータ利活用を推進できる」。

 上下水道ソリューションでは、IoTを活用したソリューションを開発し、上下水道の運転自動化、維持効率化などに貢献するとした。その中では、物理化学モデルとAIを活用した仮想プラントによって浄水水質を推定したり、制御の最適化を行ったりする自動化最適化ソリューションを提供し、デジタルツインを実現。高効率でのプラント運転の実現と、技術継承を実現するとしている。

工場自動化ソリューション
上下水道ソリューション

ニアラインHDDをストレージ事業の中核に

 一方で、デバイス Co.は、東芝デバイス&ストレージを母体に半導体事業とストレージ事業で構成され、東芝からスピンオフさせる。2021年度の売上高は8600億円だが、年平均4.1%の成長率を見込み、2025年度の売上高は1兆100億円を見込んでいる。営業利益は2021年度の550億円を、2025年度には800億円に拡大することを目指す。

 「IoTの発達に伴い、進化するデータ社会において、HDDをはじめとするストレージデバイスに求められる要求も今後はますます高まる。デバイス Co.は、社会インフラや情報インフラに不可欠な半導体、ストレージ、先端半導体製造装置に注力し、持続可能な社会の実現に貢献していく」(東芝の綱川社長CEO)としている。

 東芝 IR Dayでは、デバイス Co.の事業方針についても説明されたが、その中ではストレージ事業についても時間を割き、データセンターやCSP(クラウド・サービス・プロバイダー)が使用するニアラインHDDを、ストレージ事業の中核に据える考えが示された。

 発表では、ストレージ事業の2021年度の売上高は4100億円であり、2025年度にはこれを5100億円に拡大させる。また、営業利益率は2021年度の4%から、2025年度には7%にまで拡大させるという。

HDD事業計画

 東芝デバイス&ストレージの佐藤裕之社長は、「ニアラインHDDは、容量と速度のバランスとともに、経済性にも優れており、大量のデータを保存する上で必要不可欠となっている。全世界のニアラインHDDの出荷容量は、2030年までに年平均成長率22%と高い伸びが続き、大容量データセンターのストレージ構成のなかで大きな比重を占めると予測されている。またHDDのビットコストは、SSDの7分の1を継続的に維持していくと予測されている」と前置き。

 「2019年度には大手CSPの上位10社のうち、4社の導入だったものが、現在では8社に導入しており、東芝のニアラインHDDが評価されている。現在のニアラインHDD市場において、東芝は17%のシェアを獲得しているが、2025年度には最低でも24%以上のシェア獲得を目指す」と述べた。

データセンター・CSP向けニアラインHDD
ニアラインHDD顧客の情報記録ニーズ

 この実現に向けて、多層化やアシスト技術による「大容量化技術」、営業体制強化によって、顧客基盤の拡大を目指す「顧客リレーション」、主力生産拠点であるフィリピンの工場への継続投資や、ニアラインHDDを生産する中国での新工場の設置といった「生産能力拡大」の3点に取り組む。

ニアラインHDD事業戦略

 積層技術では、2021年度に10枚機の開発を完了し、2022年度には量産化。現在、11枚機の技術開発に着手しているほか、大容量化に向けては、2021年12月に発表したMAS-MAMRでは、すでに30TBの実現にめどをつけ、2023年度の商品化、2024年度からの量産を目指している。さらに、半導体レーザーを用いたHAMRの基礎技術の開発を進めており、2024年度にはプロトタイプの完成を目標にしているという。

大容量化技術

 東芝デバイス&ストレージの佐藤社長は、「2020年代は、データの10年である」と指摘しながら、「サイバー空間での大規模なデータ蓄積、データ保管コストの低減、環境負荷の極小化、暗号化による情報セキュリティを担保することが求められる。データ生成量は、2025年までの4年間で2.2倍になり、稼働するストレージ容量は2.0倍、そのうちHDDが占める容量は1.9倍に増加する。データセンターの中核部品であるニアラインHDDは今後もストレージの主役であることに変わりはない。データセンターをはじめとしたストレージ用途に、新たな製品を継続して提供していく」と事業拡大に意欲をみせた。

東芝デバイス&ストレージ 社長の佐藤裕之氏