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パナソニック コネクトがBlue Yonderの事業戦略を説明、7つのValue Creation Planを推進

2025年度までの今後3年間で2億ドルの戦略投資を実施へ

 パナソニック コネクト株式会社は10日、Blue Yonderの事業戦略について説明。Blue Yonderを変革する7つの柱にフォーカスした「Value Creation Plan(VCP)」を推進し、2025年度までの今後3年間で2億ドル(約270億円)の戦略投資を行うことを発表した。2023年度には84億円の戦略投資を行う計画だ。Blue Yonderが投資フェーズにあることを明確に示したもので、それに向けた実行力が試される。

 パナソニック コネクトの樋口泰行CEOは、「長期目線で、投資の線引きをし直した」と語り、「SaaS事業は、投資フェーズで正しく投資を実行しなければ、どこかでビジネスモデルのボロが出て、売り上げの伸びが鈍化する。この期間にどれだけアクセルを踏んで投資を実行できるかが大切である。短期的収益よりも、長期的な戦略に沿って事業運営できるかが鍵になる。売り上げの成長を支えるスケーラブルなSaaSプラットフォームの構築、カスタマエクスペリエンスの差別化と収益性の向上に向けたリソースオペレーションの確立に投資をしていくことになる。経験豊富なチームにより、パナソニックグループの長期視点のもとでSaaSビジネスを成長に導くために投資を加速したい」と語った。

 戦略投資により、粗利率向上によるSaaS売上継続率(NRR)、SaaS年間経常収益(ARR)の良化による販売成長、営業経費削減によるEBITDA向上を目指すという。NRRやARRの具体的な目標については、パナソニックコネクトによるサプライチェーンマネジメント(SCM)事業の株式上場計画があることから明確には示さなかった。

Blue Yonderへの投資について
パナソニック コネクトの樋口泰行CEO

 7つのVCPでは、参照性の拡張や運用上の回復による「優れたCXの提供」、Luminate SaaSやインダストリーコマースクラウドによる「PURE SaaS」、組織の有効性と効率性を目指す「ビジネスの簡素化と最適化」、次世代ロードマップの加速する「近代化、標準化、差別化」、主要セグメントのカバレッジ拡大による「GTMエンジンの加速」、人材育成やエンゲージメントの構築を行う「従業員の育成」、規模の経済性とネットワーク効果の促進「市場の統合」に取り組む。

7つのValue Creation Plan(“VCP”)

 2023年度においては、販売、製品、クラウド化、カスタマエクスペリエンス(CX)、オペレーションの5つの領域に戦略投資を進めることになる。

 Blue Yonderのダンカン・アゴーブCEOは、「販売能力を40%増強するほか、販売の生産性を10%以上高めるコマーシャルエクセレンスプログラムを実行。統合したスイート製品を年末までに充実させ、既存顧客に対するアップセルやクロスセルを推進する。また、エンドトゥエンドの大型案件の獲得にも取り組む。クラウドでは、マージン最適化プロジェクトを開始し、より多くのサービスを提供して、売り上げ向上を図る。さらに、CX担当プレジデントを採用するとともに、CX専門組織を設置。顧客満足度を15%向上させるほか、ビジネス全体で生産性と効率性を高める。BYOS(Blue Yonder Operating System)をローンチし、これをマネジメントシステムとしてビジネスをドライブすることになる」と説明した。

VCPで成長基盤を構築
Blue Yonderのダンカン・アゴーブCEO

 Blue Yonderは1985年に創立後、SCMソフトウェア企業としてプレゼンスを確立。パナソニック コネクトが2021年9月に買収した。

 パナソニック コネクトの樋口CEOは、「Blue Yonderは、ここ数年、オンプレミスによる売り切り型ソフトウェア企業から、リカーリング型SaaS企業への転換を目指して、事業モデルの変革に取り組んでいる。製造、物流、小売の現場プロセスを変革するというパナソニックコネクトのビジョンや、パナソニックグループが持つテクノロジーやソリューションとの親和性が高く、相乗効果が見込める事業である。また、パナソニックのハードウェア中心の事業に、SaaS事業を組み込む戦略的意義は大きく、長期的な収益と企業価値の向上においても重要な事業になる」と前置き。

 そのうえで、「これまではファンドの傘下であり、短期的な収益性にフォーカスしてきたため、中長期的な観点からの戦略や投資が不足していた。また、買収後の暫定的なマネジメント体制による空白期間には意思決定の一時的な遅れもあった。離職率の上昇による営業力の低下、マクロ経済環境の悪化による逆風の状況があり、業績が足踏みしていた」と、移行における過渡期があったことを指摘した。

Blue Yonderの事業フェーズについて

 2022年7月には、Blue YonderのCEOにダンカン・アゴーブ氏が就任。9人で構成するマネジメントチームのうち、6人が新たなメンバーであり、本格的な長期成長に向けた基盤構築と、パナソニックグループとのシナジー創出に取り組んでいるという。

 樋口CEOは、「採用を再加速することで営業力を再構築したほか、カスタマエクスペリエンスチームによる差別化策の推進により、短期間でのリカバリーができた。今回の戦略投資は、拡張性確立のための投資プランであり、同時に、パナソニックグループのジョイントソリューションの開発も始動している」と述べた。

 また、Blue YonderのアゴーブCEOは、「SaaSビジネスは2桁成長を遂げており、ビジネスは順調である。将来に向けての展望も明るい。年間で162社の新規顧客を獲得しており、半分が製造や小売、残り半分が輸送、倉庫が占める。新規顧客が増加していることは、Blue Yonderのソフトウェア製品の魅力を示している」と述べた。

 Blue Yonder の2022年度実績は、売上高が前年比12%増の11億9300万ドル、SaaS売上成長率は20.5%増、SaaS ARR(年間経常収益)は5億7500万ドルとなっており、リカーリング売上比率は69%に達し、顧客維持率は97%に達している。また、小売業のトップ100社中76社への導入をはじめ、全世界3000社以上の顧客を持つ。

数字で見るBlue Yonder

 アゴーブCEOは、「コロナ禍を経て、サプライチェーンの重要性がさらに高まっており、投資の優先度が高まっている。そのなかで新たなテクノロジーが生まれ、新たなオポチュニティが生まれている」とする一方、「ERPでは、オラクルがアプリケーションの統合を進めたり、営業分野ではセールスフォースが統合を進めたりしたように、今後は、サプライチェーンマネジメントでもアプリケーションの統合が進む。倉庫、物流、店舗のアプリケーションが統合されなくてはいけない。ここにBlue Yonderの差別化要素がある。共通のプラットフォーム上で、エンドトゥエンドでアプリケーションを提供できる」とした。

 製品強化における具体的な取り組みとして、Snowflakeとの提携により、Blue YonderのLuminateプラットフォームが、データクラウドとして活用できる環境を構築。サプライチェーン全体の可視性や洞察、リスク軽減のための対応が行えるようになっていることを示し、5月2日(現地時間)に米ラスベガスで開催したBlue Yonderの年次イベント「ICON 2023」では、Snowflake上で初めてアプリケーションを動作させてみせたことを紹介した。

 また、約3000人が参加したICON 2023では、次世代コグニティブサプライチェーンプランニングを発表。エンドトゥエンドでの統合スイートの開発計画も明らかにしたほか、アクセンチュアとの共同イノベーションに向けたパートナーシップについても発表した。

 ここでは、Blue Yonderが、プランニングや倉庫管理、輸送、オーダー管理、コマースなどのアプリケーションを、エンドトゥエンドで提供しているSCMソフトウェア企業であることを強調。「ポイントソリューションの企業とは異なる接続性が強みである。スイート化することがBlue Yonderにとって、大きなビジネス機会を生むことになる」としたほか、ロボットとの接続性にも強みを持つことも訴えた。

 さらに、AIにおける強みについても言及。機械学習によるAIで約400件の特許を取得していたり、顧客の現場では、25億件の予測が行われたりしていることを示しながら、「生成AIの登場は、次世代サプライチェーンの実現にポジティブなインパクトをもたらすだろう。ICON 2023でも、生成AIをベースにしたAIソリューションを数多く発表した。これにより、人ができる仕事を強化することができる」と述べた。

ICON 2023の主な発表内容

 また、パナソニックコネクトとBlue Yonderのシナジーについても言及。Zetesのソリューションを活用することで、倉庫での自動化やロボティクスの活用推進などにおいて、共同での提案を行っているという。さらに、日本でのビジネスが成長していることにも触れ、「日本は世界で最も成長した地域のひとつである。新規顧客の獲得実績も生まれている」と述べた。

パナソニックコネクトとBlue Yonderのシナジーを強化

 Blue Yonderの2023年度業績見通しによると、単体では調整後営業利益が前年比78億円減のマイナス25億円と赤字の計画だが、今回発表した追加戦略投資で84億円、パナソニックグループとのシナジー創出のための戦略投資の28億円を除くと、前年比19億円増の87億円の黒字を見込んでいる。また、連結業績では調整後営業利益は前年比54億円減のマイナス236億円の赤字としているが、ここには買収に伴う無形資産償却でマイナス208億円、買収に伴う一時的な会計処理でマイナス3億円が含まれている。

Blue Yonder 2023年度見通し

 樋口CEOは、「ソフトウェアビジネスは、規模の経済性の競争である。SaaSはその競争がさらに熾烈(しれつ)化することになり、いかに標準化し、早期に立ち上げ、シェアを獲得するかが鍵になる。スピードが命のビジネスモデルであり、いかに拡張性を持ってスケールするかも重要である。そのためには、プラットフォーム投資を早い段階で行わなくてはならない。SaaSはストック型ビジネスであり、一定のビジネス規模に到達するまでは、単年度の収益性を抑えてでも、拡張性のための投資を行うことが肝要である。その間のKPIは、新規受注がどれだけ取れているか、リカーリングの売り上げがどれだけ蓄積しているか、解約率がどれぐらい少ないかといった点が重要になる」とコメント。

 「投資を行わなければ利益が出るが、いまは投資を優先するフェーズである。SCMソフトウェア分野では、クラウド比率は約20%にとどまっており、ホワイトスペースが大きい。競合も力を入れている分野であり、投資を加速していかなくてはならない」と述べた。