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日立、業務レベルの回答精度を実現する生成AI環境の構築支援サービスを提供

業務特化型LLMの構築・運用・適用をトータルにサポート

 株式会社日立製作所(以下、日立)は29日、同社の生成AIの取り組みについて説明。日立 Generative AIセンター センター長の吉田順氏は、「日立では、言語モデルをスクラッチで開発することはせず、主要なグローバル企業とのパートナーシップにより汎用モデルを活用し、個別カスタマイズを行い、お客さまの業界にあわせたアプローチを行うことが基本戦略になる。この領域においても、日立が得意とするIT×OT×プロダクトを強みにできる。さらにGlobal Logicにより、AIに関するグローバルの知見も活用できる」などと述べた。

日立 Generative AIセンター センター長の吉田順氏

 また、「生成AI活用プロフェッショナルサービス powered by Lumada」を拡充。生成AIの本格的な業務活用を支援する「業務特化型LLM構築・運用サービス」および「生成AI業務適用サービス」を、10月1日から提供開始することも発表した。2つのサービスを通じて、業務レベルの回答精度を得る上で課題となる生成AI技術者の確保や、大規模な学習環境への投資、実行環境の整備や運用といった顧客の負荷を低減することを目指す。

 日立 クラウドサービスプラットフォームビジネスユニット事業主管兼生成AIアプリケーション&共通基盤室(日本)室長の元山厚氏は、「生成AIは、本格的な業務適用の時代に入ってきた。そこに向けて適切なサービスを提供していくことになる。これからのキーワードになるのが『業務特化型LLM』になる」と位置づけた。

日立 クラウドサービスプラットフォームビジネスユニット事業主管兼生成AIアプリケーション&共通基盤室(日本)室長の元山厚氏

 日立の生成AI戦略は、日立全体でナレッジを蓄積し、それを顧客にサービスとして提供することがベースになる。

 すでに、ITやOTといった日立グループが展開する幅広い領域や、企画提案、要件定義、設計、製造、品質保証、保守作業といった幅広い業務で、生成AIを活用。吉田センター長は、「日立グループの27万人の社員が生成AIを利用し、日立社内での改革を通じて、ナレッジを蓄積。オフィスワーカーやフロントラインワーカーの人材不足といった社会課題をOne Hitachiで解決するために、蓄積したナレッジをお客さま向けにサービスとして提供していくことになる」との基本戦略を示した。

 また、日立はAI戦略の推進において、グローバルパートナー企業の技術の活用と、日立が1960年代から研究してきたAIに関する独自技術を組み合わせた提案を推進。その旗振り役として、Center of Excellence (CoE)機能を設置している。2023年5月にはGenerative AIセンターにより、社内のユースケースをワンストップで蓄積。これらの実績をもとに、顧客に対して、プラットフォームやツール、ソリューション、サービスを提供している。「日立の生成AIの全体像は、これらの仕組みを活用しながら、OT領域のドメインナレッジや現場ノウハウを生かし、フロントラインワーカーの業務を、生成AIで支援していくものになる」と説明した。

日立の生成AIの取り組み
日立全体でのナレッジ蓄積のための取り組み

 今回の説明会では、AI戦略の全体像のなかから、パートナリングとサービスの2点に触れた。

 パートナリングでは、2024年3月以降、Amazon Web ServiceやNVIDIA、Google Cloud、Microsoftとの戦略パートナーシップを相次ぎ発表。パートナーとの連携により、顧客ニーズにあわせて、さまざまな言語モデルで対応できる体制を構築した。これらのパートナーシップでは、生成AI活用による生産性向上だけでなく、AIソリューション開発、人材育成にも取り組むことになる。

パートナリング

 中でも、NVIDIAとの協業では、生成AIを活用したDXを加速するためのインフラソリューション「Hitachi iQ with NVIDIA DGX」を製品化。NVIDIA DGX H100によるGPUサーバーと、日立のオブジェクトストレージ、分散ファイルシステムとの組み合わせによって、AIの領域における最短での大量データ処理や学習を可能にしている。

Hitachi iQ with NVIDIA DGX

 一方、サービスについては、コンサルティングやPoCなどによる「戦略策定・計画」、今回新たに発表した「業務特化型LLM構築・運用サービス」による「LLM構築・改善」、同じく新たに発表した「生成AI業務適用サービス」による「環境構築」および「運用」によって全体像を構成。「生成AIでは、すでに社内外で1000件を超えるユースケースがある。コンサルティングからPoC、環境構築、本番運用までを、エンドトゥエンドでトータルに支援し、お客さまとの協創活動を推進している」と述べた。

サービスの全体像

 コンサルティングでは、2024年7月に、生成AI活用の本格導入支援を行う「DX推進支援サービス」、「ユースケース実現性検証サービス」、「生成AIアプリ開発支援サービス」のほか、生成AI活用のテクニカルサポートを行う「RAGアセスメントサービス」、「RAGチューニング支援サービス」、「データ読み取り支援サービス」、生成AI活用のための人財育成を行う「人財育成支援サービス」の7つのサービスを発表。「お客さまとの1年半に渡る取り組みのなかで必要と思われるコンサルティングサービスをそろえた。生成AIを活用した業務効率化やサービスの高度化などを推進するお客さまを伴走型で支援していく」(吉田センター長)と述べた。

コンサルティングサービス

 新たに発表した「業務特化型LLM構築・運用サービス」は、日立が、顧客の業務や生成AIを適用した際の目標アセスメントを行うとともに、企業が持つ固有のデータの選定や抽出を行い、これを業務知識として汎用LLMに学習させ、業務に適した規模や精度のLLM構築と、継続的な改善を行う。

 元山室長は、「これまでは、生産性向上や業務効率化が生成AIに求められていた効果だったが、これからは、さらに踏み込んで、人材不足の解消、技能継承の実現、競争力の強化に期待が集まっている。それにあわせて、汎用知識を広く学習した汎用型生成AIモデルではなく、事業領域や業務にあわせてカスタマイズした業務特化型LLMの構築が重要になる。企業が持つ非公開データを学習し、形式知や暗黙知を継承。同時に競争力の向上を図ることになる」と述べながらも、「だが、業務レベルの回答が得られない、学習方法やデータの作り方がわからないといった回答精度の課題がある。さらに、多くのお客さまが、膨大なコンピュートリソースへの投資が困難であり、特有な環境の構築および運用ノウハウを持っていないという学習環境整備の壁がある。『業務特化型LLM 構築・運用サービス』では、こうした課題を解決できる」とした。

回答精度の壁を超える

 日立のIT運用管理ソフトウェアであるJP1の認定コンサルタント制度は合格率は24%という難関試験になっているが、このほど、JP1のマニュアル、研修テキスト、基礎となるテクニカル情報といった複合的な知識を学ばせた業務特化型LLMを構築して、同試験に挑戦させたところ、見事に合格したという。

 また、金融システムの開発における社内実証では、汎用LLMだけでは、要件定義や設計といった上流工程における精度に問題が発生。専門知識不足や、文脈理解の限界などが原因として指摘されていたが、日立の品質管理ノウハウを学習した業務特化型LLMを構築したところ、上流工程でも作業効率化が向上したという。

 さらに、OT領域における業務特化型LLMの取り組みでは、現場エキスパートのナレッジを活用。図面データを読み込むだけでなく、形式化されていないノウハウ情報を引き出してデータ化することで、ノウハウの継承に活用できるようになったケースも紹介した。

JP1認定コンサルタントへの挑戦
金融システム開発での挑戦
OT領域における業務特化型LLMへの取り組み

 加えて、日立の横浜データセンターには、生成AI基盤を構築し、運用技術も蓄積。膨大な発生熱に対応した空調設備や、消費電力対応のための電源設備を完備しており、学習環境整備の課題解決の支援も行うという。

学習環境整備の壁の解決

 一方、「生成AI業務適用サービス」は、構築したLLMと生成AIアプリを組み込んだ実行環境を、ニーズに応じた場所で構築、運用できるようにする。特に、高い機密性が求められる場合には、顧客のオンプレミス環境で運用することができ、安心して生成AIを業務に活用できる。

 「生成AI業務適用サービスによって、お客さまは環境整備の負担を低減することができる。さらに、業務要件やセキュリティポリシーに応じた生成AI環境を、お客さま環境や日立データセンターに設置できる」(元山室長)とした。

生成AI業務適用サービス

 これらのサービスを通じて、日立は、業務特化型LLMの構築、運用、適用を支援できるようになる。元山室長は、「日立は、お客さまの自社データを受け取り、日立が持つノウハウを活用して、日立が持つデータセンターにおいて、お客さまに最適な業務特化型LLMを構築して、お客さまに返すことになる。いわばLLMファクトリーをいえる役割を担う。LLMのEMS(製造受託サービス)を目指したい」との考えを示した。

 さらに、「業務での生成AI活用には業務特化型LLMが有効であるが、回答精度や人材育成、環境構築の壁がある。日立は、お客さま用途に特化した業務特化型LLMの構築や、環境整備をエンドトゥエンドで支援。適用領域を継続して拡大することで、現場の障害対応や生産工程の高度化などを図っていく。フロントラインワーカーの業務に対しても、順次、サービスを拡大していく予定である」と語った。