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SAPジャパン、2022年はRISE with SAPを軸とした事業戦略を強化へ サステナビリティも推進

SAP Japan Customer Award 2021の結果発表も

 SAPジャパン株式会社は16日、2022年のビジネス戦略に関する説明会を開催。その中で、SAPジャパンの鈴木洋史社長は、「SAPはトップクラウドカンパニーとして、お客さまを、インテリジェントでサステナブルな企業に変革する支援を最重要の柱に掲げる」などと語った。

 日本における基本方針としては、「クラウドカンパニーへのさらなる深化によって、お客さまの成功に寄与すること」、「社会課題解決を通じて、お客さま、パートナー、社員から選ばれる会社となること」、「お客さまをサステナブルな企業へ変革する支援をすること~1億人へのインパクト」の3点を挙げた。

2022年3つの方針

 また、導入段階から導入後の利活用段階の顧客支援を強化するため、クラウドサクセスサービス部門を2022年1月に新設したこと、年商800億円未満の中堅・中小企業に対しては、パートナー企業を通じた間接販売比率を100%に高める考えを明らかにした。

 なお、SAPは2022年に、グローバルでは創業50周年、日本では創業30周年を迎える。

SAPジャパン 代表取締役社長の鈴木洋史氏

2021年の成果:グローバルと日本

 会見では、2021年における同社の成果についても振り返った。

 グローバルの総売上高は前年比3%増の278億4200万ユーロ、営業利益は前年比1%増の82億3000万ユーロ。クラウドおよびソフトウェアの売上高は前年比5%増の240億7800万ユーロ、そのうちクラウドの売上高が前年比19%増の94億1800万ユーロとなった。

 SAP S/4HANA Cloudの売上高は前年比47%増の10億9000万ユーロ、今後12カ月のカレントクラウドバッグログ(特定の基準日時点から12カ月間で見込まれる、契約で約束されたクラウド売上)は前年比26%増の94億4700万ドルとなっている。

 「SAP S/4HANA Cloudが牽引したことで、クラウドの売り上げが好調であり、SAPが今後最も注視する指標であるカレントクラウドバッグログも前年比26%増となっている。クラウドカンパニーとしての成長を裏づける結果になった」と総括した。

SAPグローバル 2021年はクラウドビジネスが大きく伸長

 一方、SAPジャパンの売上高は、前年比6%増の13億8000万ユーロ(約1770億円)となり、「グローバルの2倍となる成長率を達成した。SAPジャパンは2014年以降、順調に成長しており、2021年の総売上高は2015年の2倍となっている。日本においては、すべての指標でグローバルの伸びを大きく上回っている」という。

 また、「日本ではクラウド利用が遅れている。コロナ禍において、日本の企業経営者が、標準化、シンプル化を本気になってとらえるケースが増え、そこでクラウドを選択しはじめている。基幹システムにおいてもクラウド化の流れが進んでいる。クラウド化の成長率はグローバルのなかでも日本が高い」などと述べた。

2021年の日本における取り組み

 続いて、2021年の日本における取り組みについて説明した。

 2021年1月に提供を開始した「RISE with SAP」は、グローバルでは1300社以上が採用しているほか、日本では日本貨物航空、デサント、長瀬産業、野村総合研究所、朝日インテックなどが採用。「多様な業界や、さまざまな規模のお客さまに導入されている」とした。

 また、人事人材管理のSAP SuccessFactors、カスタマエクスペリエンス管理のSAP Customer ExperienceなどのSaaSソリューションが好調だったという。「リモートワークによって推進されたペーパーレス化によって、経費精算を管理するSAP Concurが大きくビジネスを伸長させた」という。

 業界に特化した取り組みとしては、2021年9月には金融サービス業界のDXを支援するSAP Fioneer Japanを設立し、急速に変化している銀行や保険会社に対するSAPソリューションの提供を行っていると説明。

 さらに、サステナビリティソリューションの提供を開始したほか、社会課題解決の支援に向けて、大阪府との包括連携協定、沖縄市の新型コロナワクチン支援ソリューションの提供、生活困窮者の経済的自立支援を行うソーシャル・リクルーティング・プラットフォームの提供、福島県会津地域における中小製造業向けデジタルICT共通基盤の確立、大分県のEDiSONや全国自治体向けのPREINといった防災・減災情報プラットフォームの構築なども行った。

 そのほか、ダイバーシティ&インクルージョンへの取り組みが評価され、大阪府主催の「大阪府男女いきいき事業者表彰制度」では優秀賞、「PRIDE 指標2021」ではゴールド認定を2年連続で獲得。JobRainbowのD&I アワードではベストワークプレースの認定を受けたことも報告した。

2021年の主要な取り組み

RISE with SAPを軸とした事業戦略を強化

 また、日本における基本方針として掲げた3つのうち、ひとつ目の「クラウドカンパニーへのさらなる深化によって、お客さまの成功に寄与すること」では、提供する製品をオンプレミスからクラウドへとシフトし、2021年1月から提供を開始したRISE with SAPを軸とした事業戦略を強化する考えを示した。

 鈴木社長は、「SAP S/4HANA Cloudをコアにした企業のDX支援オファリングが、RISE with SAPである。これは、インテリジェントで、サステナブルな企業へと変革するための道しるべでもある。企業のプロセスを抜本的に見直し、最新のデジタル技術が活用できるクラウドに移行し、自社内の業務だけでなく、取引先や最終顧客とのやりとりでもデジタルの恩恵を得られるように伴走する」と前置き。

 「そのために、システムの導入から利活用支援までを一貫してサポートするクラウドサクセスサービス部門を新設した。グローバル規模で設置したもので、日本では約600人の体制で構成。SAPの各種クラウドソリューションの確実な導入から、導入後のフル利活用を、よりきめ細かくサポートする」と説明した。

RISE with SAP
クラウドサクセスサービス部門の役割

 RISE with SAPでは、Cloud Platform Enterprise Agreementによる「ビジネステクノロジープラットフォーム」、SAP S/4 HANA Cloudによる「インテリジェントスイート+インダストリークラウド」、SAP Process Insights,discovery editionによる「ビジネスプロセスインテリジェンス」、調達先企業向けのSAP Aribaや物流企業向けのSAP Logistics Business Network、設備製造企業や設備保守企業向けのSAP Asset Intelligence Networkなどで構成する「ビジネスネットワーク」の4階層からアプローチする。

 「インテリジェントスイート+インダストリークラウドでは、人事人材管理、CRM、サプライチェーンなど幅広い業務領域に対応したり、業界に特化したソリューションをカバーするクラウドソリューションを用意したりしている。またビジネステクノロジープラットフォームでは、各種システムをつないで活用してもらうことが可能になる」などと述べたほか、「広範囲なデジタル化が求められるなかで、すべてを提供できるのがRISE with SAPになる。お客さまの成功を実現するために、エンドトゥエンドで伴走することを目指す」とも話している。

RISE with SAPを通じてインテリジェントでサステナブルな企業の価値を実感

COO養成塾やIndustry 4.Now塾などを提供

 2つ目の「社会課題解決を通じて、お客さま、パートナー、社員から選ばれる会社となること」への取り組みでは、「COO(最高執行責任者)養成塾」の取り組みを開始していることを挙げた。2021年から無償で開始しており、最大10人が参加して、隔週土曜日に開催。現在、3期目が行われているという。

 「COOは、日本では少ない役職だが、SAP自らの変革では、COOが大きな役割を果たしてきた。COO養成塾では変革を推進する幹部を対象にゼミ形式でCOOの役割と、COOが主導する組織、プロセス、人、データ、システムを一体化した変革、データドリブン経営への道のりを詳細に伝授する」という。

COO養成塾

 また、製造業を対象にしたIndustry 4.Now塾を2022年から無償でスタート。DX推進役を担うミドルマネジメントがIndustry 4.0を推進する際に、その取り組みを工場に限定せず、設計、計画、調達、生産、物流、販売、メンテナンスおよびサービスまで、事業横断による全体枠組みでのデジタル活用にまで視野を広げることができるという。

 少人数で学べるようにしており、「サプライチェーンの強化について学び、実践につなげていくことができるようにしている。SAPが持つ知見をもとに、変革までの具体的な道のりを伝授し、確実に変革できるように支援する」という。

Industry 4.Now塾

 さらにSAPジャパンの社員に向けて、ニューノーマル時代における新しい働き方として、「Pledge to Flex」を推進していることを紹介。働く場所や働く時間に柔軟性を持たせる取り組みを強化し、Flex Location(勤務地の柔軟性)、Flex Time(働く時間の柔軟性)、Flex Workspace(働く場所の柔軟性)の3つを軸とした取り組みを進めているという。

 2022年1月1日からは新たな人事制度に改訂し、1月6日にはリノベーションを終えた大阪オフィスをグランドオープン。8月には、新たな東京オフィスをオープンする予定だ。

SAPジャパンのサステナビリティ推進戦略

 3つ目の「お客さまをサステナブルな企業へ変革する支援をすること~1億人へのインパクト」においては、SAPジャパンのサステナビリティ推進戦略について説明した。

 すでに、カーボンフットプリントを把握するためのSAP Product Footprint Management、非財務情報を一元的に管理するSAP Sustainability Control Tower、拡大生産者責任(EPR)を支えるSAP Responsible Design and Productionの提供を開始。これらを含めたSAP Cloud for Sustainable Enterprisesを提供することで、企業のサステナビリティ経営を包括的に支えられるという。また、スタートアップとの協業プログラム SAP.iO においても、サステナビリティ関連スタートアップ企業と連携を強化していることを示した。

 「サステナブルに関しては、お客さまを支援するイネーブラーであるとともに、自社での実践するエグザンプラーとしての役割を両輪にとらえている。2023年までのカーボンニュートラルの実現、2030年までに販売した製品の使用を含むバリューチェーン全体でのネットゼロの実現を目指す。SAPジャパンの新オフィスでも、再生可能エネルギーを活用したり、シングルユースのプラスチックの使用を禁止するなどの取り組みを行う。CO2ゼロ、ごみゼロ、不平等ゼロを目指していく」と述べた。

SAPジャパンのサステナビリティ推進戦略

 またSAPジャパンでは、長期経営ビジョン「SAPジャパン ビジョン2032」の実現に向けて、3カ年のSAPジャパン中期変革プログラム「SAP Japan 2023 Beyond」を推進している。この取り組みは2年目を迎えており、現在、組織横断で160人以上が、人、顧客、認知、社会、製品・サービス、サステナビリティの6つのカテゴリーに分かれ、「自分ゴト化」をテーマに、未来に向けたSAPジャパンの姿を問い直しているという。

 ここでは、社員にとって働きやすい環境を維持する「従業員エンゲージメント指標」、クラウドビジネスを大きく成長させる「カレントクラウドバックログ成長率」、1億人の生活をより良くする「インパクトを享受する人数」の3つの観点から数値目標を新たに設定したことも明らかにした。「従業員エンゲージメント指標はグローバルで86%であったが、日本でもそれと同等、あるいはそれ以上にしたい。カレントクラウドバックログ成長率でもグローバル平均以上を目指す」と述べた。

SAP Japan 2023 Beyond

企業が直面する課題に対して3つのアクションに取り組む

 このほかSAPジャパンの鈴木社長は、2022年に企業が直面する課題に対して、3つのアクションで取り組むとし、「ビジネス変革」、「サプライチェーン強化」、「サステナビリティ実現」の3つを挙げた。

 「急速に変化している社会状況のなかで、従業員がより付加価値が高い業務に注力し、その結果、企業がそれぞれの競争領域でビジネスを成長できるように、継続的なビジネス変革が不可欠である。また、多くの企業がサプライチェーンの危機に直面するなかで、リアルタイムに全体を可視化することが求められている。さらに、温室効果ガスの削減は企業にとっては避けられない課題であり、CO2排出量や非財務情報をビジネスプロセスに組み込むことが重要になる。企業がこれらに対応していくために、SAPが大きな役割を果たせる」とした。

企業が直面する課題に対する3つのアクション

 パートナー向けの新たな戦略についても明らかにした。

 企業のビジネスゴールの達成に向け、継続的に伴走できるビジネスモデルへと進化する「Customer Success」、RISE with SAPをはじめとするクラウド製品と、重要なプラットフォームとなるBusiness Technology Platformの浸透を強化する「Cloud Elevation」、パートナーのソリューションにより、企業へのSAPクラウドへの投資価値をさらに高めるとともに、販路拡大の支援などを行う「Partner Innovation」、海外からの情報や直販営業が持つ知見などを提供する日本市場向けのパートナーポータルの新設をはじめとして、クラウドビジネスのパートナーとしてSAPを選択し、ともに成長していくための仕組みを拡大する「Partner Success」などの支援策を展開。同社が持つ「Franchise for Success」の手法も活用する。

 SAPジャパンの鈴木社長は、「クラウドカンパニーとしてお客さまの成功を支えるためには、パートナーとの協業拡大は不可欠である。現在、日本におけるパートナーによるクラウドビジネスは、オンプレミスビジネスと同等規模に成長し、クラウドシフトが着実に進んでいる」と、現状を説明。

 日本においては、この1年間で52社がSAPビジネスに新規参画し、現在、424社のパートナーエコシステムを構築していること、RISE with SAPの再販およびサービスの認定企業が37社に達していること、SAP認定コンサルタント数が前年比23%増となっていること、Business Technology Platformのコンサルタント育成に注力したパートナー数が1.8倍に拡大していることなどを示し、「新規パートナーは、SAPの製品ポートフォリオの拡大や、親会社のSAP導入プロジェクトの経験を通じて外販への展開を開始したり、顧客からの相談の増加などをきっかけに増えている」とした。

パートナーとクラウドビジネスをさらに深化

 加えて、年商800億円未満の中堅・中小企業に対しては、パートナー企業による間接販売比率を100%とする方針を新たに打ち出した。また、パートナーへの支援体制を強化拡充し、SAPが持つグローバルの知見をパートナーと共有していくという。

 「中堅・中小企業は国内企業数の99.7%を占めており、生産年齢人口の減少による人手不足に直面している。また、コロナ禍ではデジタル化の優先度が大きく向上している。これは、中堅・中小企業が人手不足の問題をデジタル化で解決しようと考えていることの表れであり、そこに向けて、SAPジャパンは支援を大きく拡充し、日本の社会課題を解決したい。中堅・中小企業に、よりよい製品を、よりお得に提供していく。2022年中には、100%の間接販売比率にしたい」と述べた。

中堅・中小企業への販売体制を拡充

SAP Japan Customer Award 2021の結果を発表

 一方、今年で2年目となる「SAP Japan Customer Award 2021」の結果も発表した。

 同Awardは、成功を実現するために、DXに取り組んでいる企業を表彰し、内外におけるDXの取り組みの認知度を高め、さらなる促進を図ると同時に、ほかの企業のDXも促進することを目的としている。今年は「SAP Concur」、「Mid-Market」、「Transformation」の3部門を新設し、8部門で企業および団体を表彰した。

SAP Japan Customer Award 2021

 Japan Society部門を受賞した沖縄市は、約11万人の沖縄市民に対するワクチン接種の仕組みを構築するため、「ワクチン・コラボレーション・ハブ(VCH)」を国内で初めて導入し、Qualtricsのソリューションを中心としたIT活用により、接種を推進したという。

 Innovation部門の会津産業ネットワークフォーラムは、地域の中小製造業が共通で利用可能な業務プラットフォーム「コネクテッド マニファクチャリング エンタープライゼス(CMEs)」を、SAP S/4HANAにより整備。標準化やデジタル化により、生産性を25%以上向上させた。

 Japan Industry 4.0部門の三菱電機は、製造現場からサプライチェーン全体の最適化を実現できるように、SAPと協業。FAロボット、シーケンサー、産業用PCからMES(製造実行システム)、ERP、Eコマースが連携するショーケースを、SAPジャパンの「Industry 4.Now HUB TOKYO」に設置した。

 Cloud Adoption部門で受賞した資生堂では、SAP SuccessFactorsにより、標準化した人事プロセスにグローバルで適応。グループ全従業員データの集約と、一元管理によるガバナンス統制の強化や、グローバルレポート実現とレポート作成の省人化などに貢献したという。

 SAP Concur部門は、西武グループが受賞。従業員の利便性向上、業務改革と効率化、ペーパーレスの推進をゴールに、SAP Concurにより、国内グループ企業45社のうち33社を対象に、わずか 2年で抜本的な間接業務改革を推進した。

 Experience Management部門を受賞した富士通は、同社のDXプロジェクト「フジトラ」において、顧客や従業員の声を収集、分析する「VOICEプログラム」を、Qualtricsの活用により実現。グローバルで不統一だった指標や設問を約1カ月という短期間で統一させ、 30カ国を超える地域において、NPS調査を実現したという。

 Mid-Market部門はSOLIZE。基幹会計システムの刷新や、競争力を持った管理プロセスの継続運用を、SAP S/4HANA Cloudによって実現。業務統合や標準化、情報一元化、内部統制機能の向上だけでなく、新収益認識基準をはじめとする法改正や新ビジネスへの対応も実現した。

 Transformation部門を受賞した伊藤忠商事は、約50社の海外現地法人に、SAP S/4HANA Cloudを導入。これが、総合商社の2ティアモデルとして初めての採用になったという。既存モディフィケーションを全廃し、アドオン機能を90%削減し、極めて標準に近いプラットフォームを実現したとのことだ。