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ローコードサービス群「SAP BTP」でDXの加速を支援――、SAPジャパンがRISE with SAPの最新状況を説明

 SAPジャパン株式会社は2日、コンシェルジュサービス「RISE with SAP」で提供する「SAP Business Technology Platform(BTP)」の最新状況について説明した。

 SAPジャパンでは2021年1月に、インテリジェントエンタープライズを実現するための、包括的な変革を推進するコンシェルジュサービスとしてRISE with SAPを発表している。

 SAPジャパン エンタープライズビジネス統括本部長 バイスプレジデントの平石和丸氏は、「国内におけるRISE with SAPの展開には手応えを感じている。クラウドに移行する際の技術的制約がなくなり、ユーザー企業が、自由にクラウド導入が検討できるため、引き合いが増えている。DXの足掛かりとして活用してもらいたい」と述べた。

RISE with SAP
SAPジャパン エンタープライズビジネス統括本部長 バイスプレジデントの平石和丸氏

 RISE with SAPで提供するSAP BTPは、先進的な技術要素を組み込みながら、ローコード/ノーコードによって、拡張や融合を可能とするサービス群だ。

 エンドトゥエンドのデータマネジメントを通して、DXに必要な構成データの準備と統合を行う「アナリティクス、データベース&データ管理」、S/4HANA Cloudを中心にシステム間にまたがるエンドトゥエンドの業務プロセスを豊富なプラグインや、定義済みアセットによってシームレスに統合する「インテグレーション」、SAP S/4HANAコアをクリーンなままに、アドオン拡張や連携アプリを、ローコード/ノーコードで効率的に開発する「拡張・開発」、AI/機械学習、RPA、チャットボット、IoT、ブロックチェーンといったインテリジェントテクノロジーの活用で、効果が高く高度なDXを実現する「インテリジェントテクノロジー」で構成。RISE with SAPに付帯する無償バウチャーにて利用でき、2021年第1四半期時点で60以上のサービスが利用可能になっている。

SAP Business Technology Platform(BTP)

 「無償で使える範囲に制限があったり、期間が決められたりしているものもあるが、PoCを行うには十分なものを用意している。ここには、AIや機械学習、RPA、IoTなども含まれている。国内では、ローコード開発のSAP Business Application Studioが最も利用されている。サービスは適宜、追加および変更されることになる」(SAPジャパン ソリューション事業推進室 シニアソリューションプリンシパルの高橋正樹氏)という。

 また「SAP BTPはS4/HANAの拡張が主眼となるが、あわせて、ビジネス成長のためのアプリケーションも開発できる。その際に、S4/HANAとデータ連携やプロセス連携を行うことができる。ここにメリットが出せる」とした。

SAPジャパン ソリューション事業推進室 シニアソリューションプリンシパルの高橋正樹氏

 一方、同社が提唱する「インテリジェントエンタープライズ」は、RISE with SAPによって、AIやIoTといった最新テクノロジーを基幹業務に埋め込み、生産性を究極に高めていくものになると定義する。

 SAPジャパン エンタープライズビジネス統括本部長 バイスプレジデントの平石和丸氏は、「インテリジェントエンタープライズを実現する上で必要になるのがERPやプラットフォームである。だが、ERPは業務をパッケージにあわせてBPRを推進していくものであり、目標が定義しやすく計画的な投資ができるのに対して、攻めのITの部分は、確立された業務ができあがっていないため、トライ&エラーを繰り返して定義をしていくというアプローチになり、投資の側面では異なる性質がある」と前置き。

 「RISE with SAPは、基幹業務システムを導入した際に、使い方を検証し、PoCを行う部分も一緒に提供する仕組みになっている。既存顧客がS/4HANA Cloudに移行した場合のメリットを明確にしたり、カスタムコードの分析なども提供したりする。RISE with SAPは、インテリジェントエンタープライズを実現する第一歩になる」とした。

 RISE with SAPは、S/4HANA CloudのPublic版およびPrivate版で提供しているという。また、Success FactorやAribaの機能拡張にも利用できる。

SAP BTPサービスによるPoC事例

 このほか、SAP BTPサービスによるPoCの事例も示した。

 ひとつめは、PDFの請求書からOCRを使ってテキストデータを抽出。S/4 HANAに自動登録を行うという用途だ。「大量の請求書を手動で処理することは、面倒で、コストがかかり、エラーが発生しやすくなる。BTPサービスでは、メールに添付して送られてきた請求書を、Intelligent RPAで共有フォルダに格納。AIによる画像認識でデータを判別し、必要な項目をS/4 HANAに自動登録できる。必要に応じて承認プロセスを間に入れるといったことも可能になる」(SAPジャパンの高橋氏)という。

請求書PDFからPCRでテキストデータを抽出し、S/4HANAに自動登録

 ふたつめは、チャットボットを介して、セルフサービスで伝票情報の照会を行う事例。取引先や社内営業担当から照会依頼を受けて、請求書と購買依頼伝票などのステータスを確認する際に、SAP Conversational AIの機能を活用することで、SAP S/4HANA Cloud の画面上からチャットボットを呼び出し、自然言語を使用して文書およびステータスの照会を迅速かつ簡単に行える。

チャットボットを介してセルフサービスで伝票情報を照会

 3つめは、IoTから収集したデータをもとに、故障や不具合を予測し、対処するプロセスを自動化するといった取り組みだ。製造現場のデバイスからのセンサーデータを、IoT Serviceで受信し、データベースに格納。Machine Learning Foundationによる機械学習アルゴリズムを用いて、故障と相関関係のある要因を分析しモデル化する。設備の故障時期の予測や故障確率を予測し、監視したり、部品の発注を行ったりできるほか、作業指示の自動化もできる。

IoTデータから故障や不具合を予測し対処プロセスを自動化

 「SAP BTPで提供される60以上のサービス群によって、多様な要望に対応でき、DXを支援できる。マルチクラウド戦略への対応、開発コストや運用コストの削減、迅速でベストな拡張および開発を行えるメリットがある」とした。

 複数のハイパースケーラーや広範なデータセンターロケーションをサポートしていることから、ユーザー企業のマルチクラウド戦略に対応することに加え、SAP S/4HANAのコアプログラムを維持でき、バージョンアップ時のテスト工数を大幅に削減可能。SAP独自の言語であるABAPだけでなく、JavaやNode.jsなど、オープンな技術ベースでの開発、運用も可能になるため、調達コストを最適化できるというメリットがある。

 また、Fioriテンプレートや、定義済みのRPAボット、インテグレーションアセットなどを、ローコード/ノーコードで効率的に開発が可能になるという。

RISE with SAPにおけるSAP BTPサービス活用のメリット

 今後のSAP BTPサービスの拡張についても触れ、「最も投資をするのがビジネスプロセスインテリジェンスの領域になる。SAP S/4HANAをコアとしたエンドトゥエンドのビジネスプロセスを可視化し、ボトルネックをあぶりだすことで、新しいプロセスを設計。インテリジェントテクノロジーを組み入れながら、アジャイルに最適なデジタルプロセスの実装や、継続的なブラッシュアップで、生産性の向上と組織内外の変化への迅速な対応を実現する」とした。

 具体的には、エンドトゥエンドのプロセスに関するテンプレートの拡充のほか、1月に発表したSignavioの買収によるプロセス管理およびプロセスマイニングのポートフォリオを年内に追加。さらに、2月に買収したAppGyverのツールを活用したローコード/ノーコードの開発機能の追加を年内に行うとしている。

RISE with SAPユーザーに向け活用領域を広げるSAP BTPサービスの今後

凸版印刷の事例

 会見では、DX推進の基盤として、SAP S/4HANAと、SAP Business Technology Platformの導入を決定した凸版印刷が、効果や狙いなどについて説明した。

 同社では、2021年5月14日に発表した中期経営計画において、「デジタル&サステナブルトランスフォーメーション」を掲げ、DX(デジタルトランスフォーメーション)とSX(サステナブルトランスフォーメーション)により、ワールドワイドで社会課題を解決するリーディングカンパニーを目指しているという。昨年、創業120周年を迎えた。

 凸版印刷 執行役員 デジタルイノベーション本部長兼DXデザイン事業部副事業部長の伊藤隆司氏は、「デジタルシフトの加速、世界的な環境意識の高まり、新型コロナウイルスの影響、グローバル市場の拡大といった環境変化がある。既存ビジネスである印刷事業に加えて、DXビジネスに注力しており、それに向けて基盤システムのモダナイゼーションを実施。それを支えるのがSAPになる。グローバルスタンダードの S/4HANAに加えて、堅牢で安定した基盤となるSAP HANA Enterprise Cloud、ほかのシステムとの連携や拡張性を持ったSAP Business Technology Platformを導入。これにより、一段上のDXを加速したい」と述べた。

凸版印刷 執行役員 デジタルイノベーション本部長兼DXデザイン事業部副事業部長の伊藤隆司氏

 また、同じ価値観を持つSAPとの連携により、SXを推進できること、SAPのグーバル基盤を活用しながら、国内外のグループへの展開が可能になるメリットも挙げた。

 「SAPの導入は、簡単に進むとは考えていない。社内の抵抗勢力もある。大きなハードルを突破していく意気込みで採用した。その点でもSAPジャパンの協力を得たい」としている。