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クラウドカンパニーとしてさらなる深化を――、SAPジャパン 鈴木社長が2021年ビジネス戦略を発表
2021年2月19日 06:00
SAPジャパン株式会社は17日、同社代表取締役社長 鈴木洋史氏による記者会見を開催、2021年のビジネス戦略を明らかにした。
2020年の売上高は前年比11%増、すべての分野でグローバルを上回る成長を達成したSAPジャパンだが、鈴木社長は2021年も引き続き「2ケタ成長を目指す」としており、「コロナ禍にあってもデジタルトランスフォーメーション(DX)の加速を図る日本企業を2021年もサポートしていく」という決意を新たにしている。
オンプレミス/クラウドともにグローバルを上回る成長を達成
2020年のSAPジャパンの売上高は前年比11%増の約1650億円で、オンプレミス/クラウドともにグローバルを上回る成長を達成、特にクラウドの成長が業績全体を牽引する結果となった。鈴木社長は「新型コロナウイルスの感染拡大により、コンカーなど経費精算関連のビジネスはインパクトを受けたが、それ以外の分野は2ケタ成長を実現できた」と総括する。同社は「ナショナルアジェンダ(国家的課題)」「デジタルエコシステム」「日本型インダストリー4.0」「クラウド」「エクスペリエンスマネジメント」という5つの重点エリアに沿ってビジネスを展開、コロナ禍における国内の“DX需要”を的確にとらえたことが好業績につながったとみられる。
好調だった前年に続く2021年の経営方針として、鈴木社長は「クラウドカンパニーとしてさらに深化する」「お客さまの成功にとってなくてはならない存在となる」「お客さまそして社員から選ばれる会社となる」の3つを掲げており、これらを実現するための中心的プロジェクトとして以下を紹介している。
RISE with SAP
2021年1月にクリスチャン・クライン(Christian Klein)CEOが発表した「DXのためのコンシェルジュサービス/Business Transformation as a Service」で、「SAP S/4HANA Cloud」(ERPのクラウドアダプション)の導入/移行を支援する包括的なオファリング。SAP S/4 HANA Cloudや業務プロセスツール、組み込みツールに加え、SAPまたはハイパースケーラーがホストするIaaS基盤、クラウドコンサンプションクレジットなどが含まれる。
RISE with SAPを“DXのためのサービス”と位置づけていることについて、鈴木社長は「新型コロナウイルスの感染拡大により世界中が不安定な状態となり、その影響は企業の活動にも及んでいる。だからこそあらゆる業務のコアとなるERPを中断させないことがDXには重要」と語っており、コアERPソリューションのクラウド化がDXを支える基盤であることを強調している。
RISE with SAPは「あらゆる規模の企業をターゲットにする」(鈴木社長)と謳われているが、SAPが特に注力するのがオンプレミスのERPユーザーのクラウドシフトだ。SAP S/4HANAはグローバルで約3000社が導入しているが、その多くが新規導入であり、オンプレミスユーザーによる移行はデータ移行の困難さやコスト肥大化、ダウンタイムによる業務中断などの課題が大きいなハードルとなっている。
今回、年始にCEO自らがグローバルメッセージとしてERPのクラウドシフトによるDX加速を訴求したことで、オンプレミスユーザーを多く抱える日本法人にとっても“クラウドカンパニーとしてさらに深化する”というミッションの達成があらためて問われているといえる。鈴木社長によれば国内でもすでに数社がRISE with SAPのパイロット企業としてエントリしており、本格的な国内展開も近く開始する運びのようだ。
新型コロナウイルスワクチン予防接種支援「ワクチン・コラボレーション・ハブ(VCH)」
SAPは国家によるワクチン接種をデジタルで支援する取り組みとして、3階層のサービスから構成される「ワクチン・コラボレーション・ハブ(VCH)」の提供を2020年10月から開始しており、すでにドイツ・ザクセン州などで段階的に導入が進んでいる。日本でも2月17日から医療従事者を対象とした新型コロナウイルスワクチン予防接種がスタートしたことを受け、SAPジャパンはVCHの一部提供を日本でも開始することを明らかにしている。
VCHは、製薬メーカーから国(購買者)までの製造/配送を管理する「バリューチェーン可視化」、国(納品元)から自治体/接種会場へのワクチン配送を管理する「サプライチェーン計画」、自治体から住民への接種に至るまでを管理/可視化する「ミッションコントロール」の3階層で構成されており、今回日本で提供されるのは住民への接種プログラムをリアルタイムで把握する「ミッションコントロール」のみとなる。
サービス提供にあたってはグループ企業のクアルトリクスと共同で行い、住民にとってのエクスペリエンス(住民によるWeb予約、接種会場での本人確認、接種進捗の可視化、副作用確認含む住民へのフォローなど)に注力、またLINEとの協業を通して日本の自治体や市民のニーズに適したカスタマイズを行うとしている。
鈴木社長は「(ワクチン接種が)パンデミック下にあっても市民の信頼を獲得し、よりより政策決定へとつなげるための一助となるよう、サポートしていきたい」と語っており、SAPジャパンの重点項目のひとつであるナショナルアジェンダをカバーする施策としても注目される。
SAP Japan Customer Award
「SAPジャパンが顧客の成功にとってなくてはならない存在になるために、顧客自身の成功を実現するべくDXに取り組んでいる顧客を表彰し、ほかの顧客のDXを促進していく」(鈴木社長)ことを目的に、同社は2月17日付けで「SAP Japan Customer Award」を新設、あわせて初年度(2020年度)の受賞企業/団体を発表している。
受賞部門には日本が抱える社会問題を解決し、ビジネスとして継続している「Japan Society部門」、イノベーションや新たなアイデアを多様な企業/組織と実現している「Innovation部門」、製造業においてIoT/スマートファクトリといった新技術を取り入れ、DXを実現した「Japan Industry 4.0部門」、各種クラウドサービスを導入し、ビジネスで成果を出した「Cloud Adoption部門」、Qualtricsを活用し、顧客や従業員のエクスペリエンスを高め、エンゲージメントを深化させている「Experience Manage部門」の5つが設けられており、2020年度は一般社団法人グラミン日本、三井金属鉱業、川崎重工、日東電工、LIXILがそれぞれ受賞している。
東京本社を大手町に移転、2022年にはコンカーも
新型コロナウイルスの感染拡大は日本企業にリモートワークの浸透を促したが、SAPジャパンもリモートワークの長期化を受け、「オフィスを社員の就業スペースからコラボレーションスペースへ」(鈴木社長)と転換するべく、2014年4月に東京本社を大手町の三井物産ビルに移転する。また現在、銀座にオフィスを構えるコンカーも2022年8月には同じ三井物産ビルに移転する予定だ。
同社は2020年2月から段階的にリモートワークに移行してきたが、1年が経過した現在も約9割の社員がリモートワークを実施している。またアンケートでは全社員の4割が「コロナ収束後もフルリモートワークを希望」していることから、今後は「同僚との共同作業」「顧客やパートナー企業とのミーティング」などコミュニケーション/コラボレーションの場としてオフィスを機能させるため、現在のオフィスの約半分の面積となる大手町への本社移転を決定している。
「コロナが収束しても前と同じ働き方には戻らない。就業スペースとしてのオフィスのあり方を全面的にあらため、4月から順次、移転を進めていく。また、コンカーも同じオフィスに本社を移転することで“ワンチーム”としてさらなる連携強化を図っていく」(鈴木社長)。
中期変革プログラム「SAP Japan 2023 Beyond」
SAPジャパンは2012年に20カ年経営ビジョン「SAPジャパンビジョン 2032」を策定したが、今回、その実現に向けた3カ年の中期変革プログラムとして策定された「SAP Japan 2023 Beyond」を発表している。
同プログラムの最大の特徴は、総勢100名以上の社員が参画して策定した、社員自身の目的意識に沿ったボトムアップの取り組みである点だ。スローガンには「日本発、世界にさらなる躍動を」が掲げられており、5つのカテゴリ(社会、顧客、製品/サービス、人、認知)とさらに12のタスクフォースに分かれてそれぞれの目標達成を目指す。
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前社長の福田譲氏(現 富士通 執行役員常務 CIO兼CDXO補佐)からSAPジャパンのリーダーの座を譲り受けてから約1年が経過した鈴木社長だが、就任直後にパンデミックという大きな災厄に見舞われたものの、「DXをなんとしても加速させなくては、という日本企業の強い思いがわれわれの業績を後押しした。特に(2020年の)後半は非常に大きな伸びを見せた」(鈴木社長)という言葉通り、これまで日本企業のDXにフォーカスしてきたSAPジャパンのアプローチが、コロナ禍にあって有効にはたらいた1年だったといえる。
今回の好業績をさらに飛躍させるには、SAPがグローバルで推進する「クラウドカンパニーへのさらなる深化」がより重要な意味をもってくるだろう。単にS/4HANAへの移行を推進するだけでなく、クラウドネイティブなインフラをビジネスの基盤にすることのメリットをSAPジャパンが国内企業に向けていかに訴求できるかが大きなカギになりそうだ。