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SAPジャパン、製造業のインダストリー4.0化を支援する「Industry 4.Now HUB TOKYO」を設立
2020年9月17日 06:00
SAPジャパンは15日、企業のインダストリー4.0化戦略の具現化を支援するグローバル組織「Industry 4.Now HUB TOKYO」を設立したことを発表し、メディア向けの説明会を開催した。
SAPは、企業のインダストリー4.0化を推進する取り組みである「Industry 4.Now」をグローバルで展開しており、Industry 4.Now HUBは、その取り組みを支援する組織として日本、ドイツ、米国の3拠点で設立されている。各拠点のエキスパートが国を超え、PoC(概念実証)だけでなく、その先のプロジェクトも含めて、顧客のインダストリー4.0化戦略の具現化を支援するという。
常務執行役員 クラウド事業統括の宮田伸一氏は、「SAPはお客さまのデジタル変革(DX)推進になくてはならない存在であり続けたいと考えている。新たに開設したIndustry 4.Now HUB TOKYOを使いながら、グローバルな知見を生かしつつ、日本の企業と協業して日本の製造業のお客さまのDX推進をさらに推進していきたい」と述べた。
2019年8月5日、SAPはグローバルな研究開発組織である「SAP Labs Japan」および共創イノベーション施設「SAP Experience Center Tokyo」を開設しており、Industry 4.Now HUB TOKYOは、SAP Experience Center Tokyo内に開設されている。なお、SAP Experience Center Tokyoは、1年間で約5000人以上の顧客やパートナーが利用しており、コロナ禍にもかかわらず、毎日ほぼフル稼働になるほどの盛況ぶりであるという。
また、宮田氏はこれらの組織や施設について、「SAPジャパンでは、以前より日本型のDXフレームワークには『プロセス(Process)』『人・組織(People)』『場所(Place)』3つのPがあると提唱している。SAP Labs Japanは人・組織、SAP Experience Center Tokyoは場所、そしてIndustry 4.Now HUB TOKYOがプロセス」と説明した。
また、SAP Labs Japanのマネージングディレクターであり、SAPアジア太平洋・日本地域イノベーション部門の責任者であるシュネード・カイヤ氏は、世界的に大きな影響を与えている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を踏まえた現在のサプライチェーンについて、「1年前にSAP Labs JapanおよびSAP Experience Center Tokyoを開設し、デジタルサプライチェーンというテーマを掲げた。当時COVID-19による大きな影響を誰も予測していなかった。しかし、ある調査では日本企業の80%は、サプライチェーンをより透明性のあるものへと再構築しなければならないと考えているという結果が出ている」と述べた。
さらにカイヤ氏はSAPが推進するIndustry 4.Nowについて「インダストリー4.0とは、デジタルテクノロジーをサプライチェーンに適用していく取り組みで、SAPでもドイツの本社を中心にさまざまな取り組みを展開している。SAPは、モノづくりの現場から経営層をつなげることで、サプライチェーンの情報をリアルタイムで把握し、変えていくことができると考えており、『産業の自動化』を『ビジネスプロセス』につなげていく取り組みがIndustry 4.Nowだ。COVID-19は非常に大きな危機ではあるが、ビジネスにとってこれが最後の危機にはならない。"NOW"という名前が示すように、今やるべき取り組みである」と説明した。
このほか、ドイツに本社を置くSAPが日本にIndustry 4.Now HUBの拠点を設置した理由についてカイヤ氏は、「ドイツと同じく日本も製造や産業の自動化の先駆者であり、グローバルのリーダー。ビジネスプロセスとのつなげることで強力なコンビネーションとなる」と説明した。
SAP Labs Japan Head of Digital Supply Chain Managementの鈴木章二氏は、「現在7割の企業がインダストリー4.0化を重要な経営課題ととらえているものの、依然としてPoC段階でとどまっている企業が4割であり、そのうちのPoC後の展開計画が立っている企業は3割にすぎない。また、インダストリー4.0化のプロジェクトの4割は、予算超過や遅延状態にある」と、日本におけるインダストリー4.0の状況を明らかにした上で、「SAP Labs Japanの課題意識は、いかにしてこの状況を変えていけるかにある」と説明した。
鈴木氏は「企業のITの考え方は二層式になっている」と指摘する。これまでSAPが幅広く展開してきたERPを中心とした基幹システムの下には、製造現場で使われるシステムがあり、これらの間には大きな溝ができている。これらのシステムをつなぐ運用コストは、全体の約2割といわれており、システム化が進むほど運用費用も膨大になっていく。そのため、部門ごとに情報を集めてしまうようになってしまうという。
Industry 4.Now HUBについて鈴木氏は、「グローバルでインダストリー4.0の課題となっているのは、部門ごとに取り組みは行われているものの、経営効果と呼べるような事業を横ぐしにしたときのような効果につながっていないこと。SAPとしても基幹システムに情報が送られてくるのを待っているだけでは、インダストリー4.0の加速を支援することはできないと考えている。そこで、IT部門だけではなくビジネス部門でのIT活用を支援する仕組みとして、Industry 4.Now HUBをドイツ、米国、日本に開設した」と説明した。
Industry 4.Now HUBの活動について鈴木氏は、「もう絵に描いたもちはやめて、先に具体的なショーケースを見てもらう。その後ワークショップという形で会話し、自社であればどうなのかといった課題を抽出するための機会と場所を提供するのが、Industry 4.Now HUBだ」と述べている。
具体的な活動内容としては、次の3つが紹介されている。
1)ショーケースを含むワークショップを通じた企画化支援
実際にインダストリー4.0化したケースを示すとともに、ワークショップを通じて顧客ごとに具体的な課題の顕在化やアイデアの創出につなげる。
2)SAP Industry 4.0対応製品の学習機会の提供
ショーケースやワークショップだけにとどまらず、エデュケーション部門とも連携し、インダストリー4.0に取り組む人材を育成するためのナレッジを、Industry 4.Now Academyによって提供する。
3)オープンなアライアンスパートナーによる包括的なソリューションの提供
インダストリー4.0化を推進するには、業界・業種の枠を超えたオープンなエコシステムが重要であることから、SAPはインダストリー4.0の取り組みを共同推進する世界的なアライアンス「Open Industry 4.0 Alliance」の創立メンバーとして参画している。同アライアンスは、1業種1社のような制限や加盟費もなく、営利を目的としない完全にオープンなアライアンスだ。多様な業界・業種の企業が60社以上参加しており、日本企業としては富士通が参加している。
現在、日本においては、三菱電機と協力し、SAP Experience Center Tokyo内にショーケースを用意している。このショーケースでは、ダブルシートバルブを製造販売する製造業を想定し、バルブヘッドユニット組立工程における顧客注文時選定仕様の連携と製造現場における協働ロボットの活用について紹介している。
SAPでは今後もさまざまなショーケースを紹介したいと考えている。鈴木氏は「ショーケースはSAP1社だけではできない。今後も、製造機器やネットワーク機器など業種や業界を超えたベンダーと協力していきたい」と述べ、Open Industry 4.0 Allianceの参加企業をはじめ、さまざまな企業と協力していく考えを明らかにした。
また、Industry 4.Now Academyについて質問された鈴木氏は、「いまのところ、Industry 4.Now Academyでもうけようとは考えていない。人材が増えれば、多くの企業のインダストリー4.0化を推進し、結果的に自分たちも潤っていくだろう」と回答した。