ニュース

SAPジャパン社長、「日本はガラパゴスから抜け出さなければならない時期に来ている」――2023年ビジネス戦略会見にて

 SAPジャパン株式会社は14日、2023年のビジネス戦略について会見を開催し、同社 代表取締役社長の鈴木洋史氏が、日本はガラパゴスから抜け出さなければならない時期に来ていると警告した。

SAPジャパン 代表取締役社長 鈴木洋史氏

 鈴木氏のこの言葉は、日本企業の現状を受けたものだ。「SAPジャパンは今年31周年を迎え、これまで多くの日本企業に支えられてきた。ただ、日本企業でのSAP導入にあたっては、業務のグローバル化やシンプル化を目指していたはずが、残念ながら多くの企業では仕事のやり方を変えられず、自らの業務に合わせてSAPを導入、多くのアドオンを追加し自社仕様の仕組みで運用しているのが実情だ。その結果、競争力が高まり世界と戦えるようになればいいのだが、そうなってはいないと感じている。こうした状況を打開するには、本当の意味で世界標準に合わせ、仕事のやり方を変えなくてはならない。日本はいい加減ガラパゴスから抜け出さなければならない時期に来ているという危機感を持って、SAPのグローバル製品を推進していきたい」(鈴木氏)。

 その上で、SAPジャパンの2023年の戦略として鈴木氏は、「ビジネスの俊敏性やサプライチェーンの堅牢性、そしてサステナビリティといった企業の課題に対し、SAPは幅広いクラウドポートフォリオを提供することで、業務効率や生産性を向上させていく」と述べた。

企業の課題に対するSAPの戦略

 ポートフォリオの中でも、今年はSaaS型クラウドERPの「SAP S/4HANA Cloud, Public Edition」に最も注力するという。これは、「業務をERPに合わせるという『Fit to Standard』の手法を徹底的に取り入れ、よりシンプルにERPを導入してもらうための製品だ」と鈴木氏。「オンプレミスシステムの運用による多額のコストが、このクラウドERPによって削減可能となり、新規投資にフォーカスする余力を生み出す。イノベーションを推進するためにも、短期間で導入できるパブリッククラウド版ERPは非常に重要だ」(鈴木氏)。

 このパブリッククラウド版は、2022年10月に最新版をリリースし、特に製造業向けの機能を拡充した。以来、日本の顧客からの引き合いや採用も急増しているという。

 「2023年はクラウド化実践の年となる。SAPは顧客の変革のジャーニーに寄り添い、経営価値を実現するところまで支援をしていく」という鈴木氏は、その支援の担い手として昨年新たにカスタマーサクセスサービス部門を立ち上げたことにも触れ、同部門で提供するサービスの内容もさらに拡充するとした。

SAPのポートフォリオ

パートナーへの施策は?

 鈴木氏は、パートナーエコシステムの重要度も増してくると語る。2022年は、パートナーとのクラウドビジネスが前年比76%増となり、国内のパートナー企業数が44社増加し合計465社にまで拡大したという。また、日本におけるSAP認定コンサルタント数も19%増となり、特に今後注力するSAP S/4HANA Cloud, Public Editionの認定コンサルタント数は50%増となった。

 2023年のパートナー施策は主に3点だ。まず1点目は、パートナーエコシステムを強化することだ。鈴木氏は、「パートナー主導モデルが重要になる」として、昨年より中堅中小企業の顧客には100%間接販売とする方針を打ち出していたが、その方針を今年も継続する。また、SAP技術者の増強やスキルの拡充も重要になることから、「新たなパートナーのSAPエコシステムへの参画に再注力するほか、ERPのみならず、あらゆるソリューションのトレーニングを強化し、既存技術者のリスキリングに向けたトレーニングを拡充する」としている。

 2点目は、パートナー各社の強みを生かし、エンド・ツー・エンドで顧客の成功に貢献する伴走モデルを確立することだ。伴走するには、「SAPはもちろんパートナー側でも、導入済みのSAP製品の定着化や支援を続ける専任担当者の育成が重要だ」として、その体制づくりの支援や活動を支えるプログラムを拡充する。これにより、「顧客はSAPの製品やサービスだけでなく、パートナーの持つナレッジや知見、独自のアセットなどの価値も享受できる」と鈴木氏は述べている。

 3点目は、顧客の投資対効果を最大化するため、パートナーアセットの開発を促進することだ。「SAP StoreというSAPのパートナーソリューションサイトには、現在日本のパートナーが30社登録しており、去年の売上は対前年比84%増と大幅に成長している。これをさらに拡充したい」と鈴木氏。昨年発表したローコード・ノーコード開発ツールの「SAP Build」を浸透させることで、「今後ますます迅速にパートナーの知見を生かしたアプリが開発できるようになるだろう」と鈴木氏は述べ、「今年は新たなソリューション開発に向けたハッカソンの実施や、開発および販路拡大に向けた支援をさらに加速させる」とした。

ますます重要になるパートナーエコシステム

サステナビリティ経営に向けて

 SAPでは、提供するソリューションと、自社での実践の両面において、サステナビリティに向けた活動を進めている。その中で、「気候変動への対応として、二酸化炭素(CO2)の排出量をゼロにすること、循環型経済への対応として、廃棄物をゼロにすること、そして社会的責任への対応として、不平等をゼロにするという、3つのゼロを推進している」と鈴木氏は説明する。

 2022年は、CO2ゼロに向けた取り組みとして、製品単位でCO2の排出を管理する「SAP Product Footprint Management」をリリースした。同製品と、CO2排出量の可視化を支援する「SAP Analytics Cloud」の組み合わせが、顧客からの関心が高いという。

 また、廃棄物ゼロに向けては、日本の化学メーカーDICグループと連携し、ブロックチェーン技術を活用した「GreenToken by SAP」を試験導入。これにより、プラスチック素材のサプライチェーンを透明化し、ライフサイクル全般を追跡することが可能になるという。

 不平等ゼロに向けた取り組みとしては、女性が自立するための精神的・経済的な支援や、多様な働き方の推進などに取り組んでおり、「今後も自治体と連携し、特に地方の女性の活躍や地方再生などを支援していきたい」と鈴木氏は述べた。

企業のサステナビリティ経営を支援