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NECがDX事業での取り組みを説明、NEC Digital Platformがビジネスモデル変革のドライバーに

 日本電気株式会社(以下、NEC)は30日、DX事業の取り組みについて説明。NEC Digital Platform(NDP)の売上収益が、前年度比40%増の成長を遂げていること、NDPが個別SIからの脱却を促し、ビジネスモデル変革のドライバーとなっていることを強調した。また、2025年度までにDX人材を1万人に増加させる目標を堅持するとともに、NEC戦略コンサルタントを、2025年度までに1000人に倍増させる計画を新たに公表している。

 NEC Corporate EVP兼CDOの吉崎敏文氏は、「NECは4年前から、DX推進に向けて売り方を変え、売り物を変え、売るケイパビリティを変えてきた。お客さまのイノベーションや業務変革を行うためのNDPを構築し、これを活用することで生産性を平均150%高めることができる。また2023年度からは、過去最大規模の組織へと再編し、デジタルをてこにアプローチ変革を行い、スピーディなビジネス展開を進めることになる。NECは、NDPを経営変革とDXの成長エンジンと位置づけ、価値を提供する会社を目指す」と、DXへの取り組みについて語った。

 コアDX事業のうち、NDPが占める割合は約7割に達しており、すでに130のオファーを用意。クラウドおよびオンプレミスで提供しているという。

NEC Corporate EVP兼CDOの吉崎敏文氏

ビジネスモデル:NEC戦略コンサルタントを2025年度までに1000人に倍増

 今回の説明では、同社がコアDX事業の推進において打ち出している「ビジネスモデル」、「テクノロジー」、「組織・人材」の3点から進捗状況を示した。

 「ビジネスモデル」では、2023年度見込みで500人規模を見込んでいるNEC戦略コンサルタントを、2025年度までに1000人に倍増させる計画を明らかにした。2022年度の300人の陣容からは3倍以上の拡大となる。

 「SAPを中心に、強いコンサルティング力を持つアビームコンサルティングがグループ内にあるため、NECには戦略コンサルタントがいなかった。だが、2019年度に外部採用した10人からスタートし、ITやネットワークの実装経験を持つNECの社員をコンバートすることで増員してきた。すでに200社の上流コンサルタントプロジェクトを推進している。デバイス、アプリケーション、インフラのロードマップを理解した上で、コンサルティングが可能な点が、コンサルティングファームにはない、NECならではのアプローチになる」と述べた。

 NEC戦略コンサルタントの1000人体制は、金融、製造、流通、公共、クロスインダストリーの5業種において、200人ずつの体制を前提としており、「製造、流通はNECが強い分野であり、この分野を優先的に強化していく。金融や公共は、順次強化していくことになる」という。

コンサルティング起点で、戦略構想策定から実装・運用までEnd to Endでお客さまのDXを強力に推進

 また、プロセスマイニングのCelonisとの戦略的協業を発表。2023年度からはコンサルティングサービスの提供およびNDPへの強化策のひとつとして、これを採用する。すでにNEC社内の基幹システム刷新にCelonisを全面的に採用し、2億円規模の工数削減を達成した実績がある。

Celonis社と戦略的協業締結

 さらに、SI・デリバリー共通化・自動化ソリューションとして、NDP上のExastroを活用し、共通テンプレート化することでSIを自動化し、個別SIを極小化しているとのこと。このほか、NDP提供サービスの運用自動化として、生体認証サービスのBio IDiom Serviceの導入において、手配やデプロイの時間を20時間から1時間に大幅短縮し、SaaS型による迅速で柔軟な機能追加を可能にしていることについても触れ、「NECのITやネットワークの実装経験者が、プロセス改善とアセットの生産性向上をセットにして提案している点が強みになっている」と述べた。

NDPのビジネスモデルにおけるSI・デリバリーの共通化・自動化により個別SIを極小化

テクノロジー:技術の価値、サービスの価値、人の価値の3点に強み

 2つめの「テクノロジー」では、NECが独自に開発した軽量大規模言語モデルに触れ、AI研究用スーパーコンピュータによるLLM開発などが示す「技術の価値」、生成AI利用に必要な機能を業界ごとに集約し、業界別のテンプレートをNDPに整備する「サービスの価値」、CDO直下に100人規模の専門家組織を設立し、生成AIを活用したビジネスをサポートする「人の価値」に3点に強みがあることを強調した。

生成AIでビジネスのイノベーションを創る3つの価値

 「NEC社内では、社員2万5000人が1日1万回の規模で生成AIを利用しており、資料作成時間を50%削減し、議事録作成時間を30分から5分に短縮している。またコンタクトセンターでは、マニュアルやガイドなどの資料をもとにFAQを作成する工数を最大75%削減し、リアルタイムでのオペレーターの回答時間を35%削減する見込みである。さらに、社内セキュリティ業務に生成AIを活用し、CSIRT業務工数を80%削減。生成AIを活用したサイバー攻撃に対する防御に向けて、次世代サイバーセキュリティを検討している」と語った。

社員2.5万人が社内業務に生成AIを活用、デジタルトラスト推進統括部にてAI活用ルール策定

 大規模言語モデルについては、JR東日本や三井住友銀行、ダイワハウスなど、異なる業種の10社を対象に提供し、用途別や業種別での活用を模索している段階。「グローバルの生成AIを超えるようなパフォーマンスを出したいと考えており、もうしばらくすると発表できる。具体的な業種での活用事例も出していきたい」と述べた。

 そのほか、米ハワイ州において、ホームレス支援のために生体認証を用いたID照合サービスを提供したり、SITAおよびスターアライアンスとの連携により、世界80空港にNDPを活用した生体認証システムを導入したり、といった事例があることも紹介した。

 「NDPのオファリングのなかには、米国で開発し、インドのオフショアを活用しているケースもある。空港やハワイで利用している生体認証などでは言語の壁がなく、海外展開しやすい。NDPの海外事業比率はまだ低いが、NDPの伸びしろは海外にある」とも述べた。

NDPを活用した生体認証システムを世界各国80空港に導入

 さらに、IT領域とOT領域の連携強化を進め、AIによるデジタルツインを通じた社会課題の解決を推進していく姿勢を強調し、フォークリフトの自律制御および遠隔操縦、ロボットアームのティーチングレス制御などの事例を示した。また、20203年3月に、Digital Twin Consortiumに参画し、この分野におけるグローバルでの存在感を高めるとともに、マーケットプレイスを通じて、NDPをグローバルに展開。世界基準の知見やリレーションを活用した先進的な提案および支援を行うという。

フォークリフトの自律制御
ロボットアームのティーチングレス制御

 日本IBMや東芝を経て、2022年9月にNEC入りしたマネージング・エグゼクティブ・チーフアーキテクトの山本宏氏は、「NECのITおよびOTは、グローバルスタンダードやベストプラクティスによって開発されている。また、デジタルツインをNECの差別化要素とし、そこで可視化や見える化、AIによるモデル化、そして最適化を行えることが強みになっている」と語った。

NEC マネージング・エグゼクティブ・チーフアーキテクトの山本宏氏

組織・人材:デジタル人材を2025年度までに1万人に拡大

 3つめの「組織・人材」では、現在、8000人を超えているデジタル人材を、2025年度までに1万人に拡大する計画をあらためて示した。

 また、デジタル人材を育成するNECアカデミー for DXは、NEC社内だけでなく、約320社でも活用されていることを報告。さらに、筑波大学、東京大学大学院情報理工学系研究科、早稲田大学データ科学センターとのパートナーシップにより、大学におけるDX人材の育成を推進し、2023年度は生成AI分野でも連携を加速する考えを明らかにした。今後は、高等専門学校(高専)との連携も強化していくという。

社内DX人材育成実績をもとに、デジタル時代に必要なDX人材育成プログラムをワンストップで提供

 一方、NECの森田隆之社長兼CEOは次のように語った。

「コアDXは、2025中期経営計画の成長ドライバーであり、計画達成に向けたキードライバーに位置づけている。DX人材は、将来、2万人にまで拡大し、グローバルアライアンスとNECの技術を縦横無尽に生かしたプラットフォームを構築し、これをベースにNECのITサービス事業をトランスフォームしていきたい。これにより、NECの成長とともに、日本のDXを推進し、日本のDXのリーダーになることを目指している」。

NEC 森田隆之社長兼CEO

 2022年度におけるコアDX事業の売上収益は2401億円となり、ITサービス全体の15%を占めるとともに、2021年度の赤字から脱却したことに触れ、「コアDX事業が、いよいよテイクオフした。今後も開発投資を続けていくが、継続投資をしながらも、利益貢献する事業に育ってきたといえる」としたほか、「ITサービス全体の半分がDX関連事業となり、社会インフラの4分の1がDXをベースにした事業となる。これが、NECの差別化になり、付加価値になる。だが、DX事業の進捗は2合目を越えたところであり、山に登れる自信が出てきたという水準である。大切なのは過去の投資のマイグレーションである。ITサービス企業として、マイグレーションに責任を持つ」と語った。

 コアDX事業は、2025年度に売上収益で5700億円を目指し、調整後営業利益率は13%を見込んでいる。

コアDXは、全社の中期経営計画達成に向けたキードライバー

 NECでは、2019年度にはDX専任組織を設置するとともに、NEC Digital Platformのコンセプトを作り、共通技術基盤とメソドロジーを含めた体系化を行ったのに続き、2020年度からグループ会社のアビームコンサルティングを含めた上流コンサルティングとの連携。2021年度以降は、MicrosoftやAmazon Web Services(AWS)、Oracleとのグローバルアライアンスの締結によってNDPを強化した。

 2023年4月には、デジタルプラットフォームビジネスユニットを新設し、同組織がNECのデジタルすべてを網羅。「3万人を超える技術者とともに、コンサルティングからハードウェア、ソフトウェア、アライアンス、デリバリー、マーケティングまでのオファリング要素を提供できるシングルユニットである。強く、目に見えるDXソリューションを提供していきたい」と語った。

ビジネスモデル・テクノロジー・組織人材を継続的に進化・拡張

 また、「NDPは、単なる技術共通基盤ではなく、人材、ナレッジ、テクノロジー、開発までを含めたプラットフォームであり、顧客の組織および人材の変革、顧客体験改革、社会とビジネスのイノベーションをつなぎ、社会と顧客のDXを支えている基盤にしていく考えである」と位置づけた。