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NEC、5つの注力領域で行政のデジタル化に向けた取り組みを支援

新たに「官公庁向けDXソリューション」も提供

 日本電気株式会社(以下、NEC)は19日、行政のデジタル化に向けた取り組みについて説明し、「業務標準化」「デジタル基盤クラウドシフト」「職員の業務効率化」「国民の利便性向上」「マイナンバーカード民間活用」の、5つの注力領域への取り組みを示した。

 また、行政のデジタル化を支援する「官公庁向けDXソリューション」も提供を開始する。

 NEC 執行役員常務の中俣力氏は、「国民の利便性向上、行政の高度化や効率化、データ駆動型社会への貢献という観点から、行政デジタル化の支援を行う。デンマークKMDでの知見、先進の研究技術、日本の行政システム経験を生かしたDX推進を通じて、誰一人取り残されない人に優しいデジタル化を目指す」としている。

NEC 執行役員常務の中俣力氏

行政デジタル化に向けたNECの注力領域

 現在、行政デジタル化の分野は約2000億円の事業規模を持つが、2025年度には、ハードウェアビジネスが縮小する一方、自治体向けや中央官庁向けの各種サービスなどが拡大。これらが相殺され、現状の約2000億円を維持すると予測されている。そしてここに、教育、医療、防災といった準公共分野におけるDXビジネスなどを加えていくことになるという。

 「標準化により開発デリバリーコストが減少する一方で、NECの提供価値を高めていく必要がある。社会公共ビジネスユニット、社会基盤ビジネスユニットは、それぞれに2025年度に営業利益率10%を目標に掲げており、それを上回るものにしていかなくてはならない」と述べた。

 NECは、行政デジタル化に向けて、地方自治体などを担当する社会公共ビジネスユニットのデジタル・ガバメント推進本部に加え、2021年4月には、中央官庁を担当する社会基盤ビジネスユニットに、ガバメント・クラウド推進本部を約50人体制で新設。さらにNEC傘下のKMDが、デジタル先進国であるデンマークにおいて、官民連携データ基盤のData Distributorを構築。この知見をもとに、日本のデジタル化に活用する取り組みを開始しているという。

行政デジタル化に向けたNECの体制

 また、官公庁や自治体業務で利用する、機密性の高い情報の保護と可用性を確保するための「秘密分散」技術、ガバメントクラウドに機密性の高い情報を暗号化して保管し、統計処理結果を民間企業に提供する「秘密計算(MPC)」、ハイブリッドクラウド間を流れる機密性の高い情報に対して、高度な安全性の確保する「量子暗号技術」といった研究技術を、行政デジタル化に活用する考えを示している。

 「業務標準化」では、自治体ごとのソフトウェア開発、ハードウェアを調達する体制を改善するために、法制度主管府省が、住民基本台帳や税務、福祉など、自治体向け基幹系システムの17事務に関する標準仕様書を策定したり、自治体向けガバメントクラウドを整備したりしている動きをとらえ、NECでは、それに合わせた自治体向けクラウドサービスを提供。業務標準化に移行する際の移行負荷などのマイナス面の軽減と、自治体DXへの加速などのプラス面の両面をサポートするという。

 「2025年度末までに各自治体が標準化対応を完了する予定となっており、NECでは、業務標準化に対応したパッケージシステムを整備するとともに、ガバメントクラウドへの移行を支援する。同時に標準化によって変化するビジネスプロセスに対応するためのツールの整備、RPAやBIのテンプレートの提供、AIによる効率化や高度化の支援を行い、これらを横展開していくことも考えている」とした。

自治体「業務標準化」統一の方法(当社想定)
業務標準化に対応した自治体向けクラウドサービスの提供

 「デジタル基盤クラウドシフト」においては、個人情報と行政データを効果的に扱えるプライベートクラウドとパブリッククラウドのハイブリッド化の提案に加えて、高い安全性を兼ね備えた基盤を実現するDigital Integration Hubを改質し、新たな社会的価値を創出するDX基盤として提供する。

 「NECが持つデータセンターやクラウドサービスに加えて、AWS(Amazon Web Services)やMicrosoftといったハイパースケーラーのパブリッククラウドを閉域網のなかで組み合わせた、ハイブリッドクラウド基盤を提供する。行政が持つ機密情報を扱うためのプライベートクラウドの必要性と、技術革新の速さに対応でき、スケールを持ったパブリッククラウドのメリットを重ね合わせて提供する」という。

 Digital Integration Hubについては、「パブリッククラウドとプライベートクラウドをシームレスにつなげ、データ信頼性、メンテナンス性の高さを実現するものになる。データ連携を高速かつ容易に実現するAPI連携基盤プラットフォームとして、2023年度に提供することになる。システム開発におけるコスト削減とリスク抑制、システム数削減による維持コストや運用コストの削減ができる」とした。

 また、千葉県印西にSCSKと共同でデータセンターを開設。「インターコネクテッドエコシステムによるデータ保管やセキュリティなどのサービスを拡充。SCSKが持つ民間向けサービスのノウハウも活用していく」と述べた。

Digital Integration Hub
NECが提供するハイブリッドクラウド基盤
NECのハイブリッドクラウド戦略(パートナー戦略)

 「職員の業務効率化」では、アジャイル思考に基づくローコードプラットフォームやオファリングメニューを整備。迅速な行政サービス実現するという。

 「従来の重厚長大のシステム開発では、ウォーターホール型の開発体制でもよかったが、コロナ禍で明らかになったように、市場環境の変化、ニーズの多様化、さまざまな社会課題に迅速に応えていく必要があり、システムの開発は、柔軟に適応しなくてはならない。スクラッチ開発とアジャイル開発を適材適所で使い分けることが重要であり、政府ガイドラインに準拠した安全性と品質のバランスを確保することが大切だ。だが、アジャイル開発やオファリング活用の領域が徐々に増加すると見ており、NECもそれをキャッチアップしていく必要がある。ここには、KMDの知見やノウハウが活用できる」などと述べた。

官庁で求められる新たなシステム実装方法

 なおNECでは、官公庁向けDXソリューションを新たに発表。職員の業務効率化をはじめとする行政DXの実現に向けてこれを活用する。

 同ソリューションは、政府が推進するガバメントクラウドの活用によって行政のデジタル化を支援するもので、ハイブリッドクラウドをはじめとする、クラウド環境への移行に関するソリューションメニューを体系化。4つのソリューション群と、連携するセキュリティソリューションで構成し、各省庁の目的やセキュリティ要件などに合わせて、安全性と、柔軟性を持たせながら、短期間でのクラウド移行や運用、アプリケーション開発などを支援する。

 第1弾として、既存システムをクラウド環境へ移行するための「クラウドインテグレーションソリューション」、ネットワークやプラットフォームを提供する「プラットフォームソリューション」、クラウド移行を支援する「セキュリティソリューション」をリリース。今後、アジャイル開発やシステム開発の内製化を支援する「アプリケーション開発ソリューション」、職員の新しいワークスタイルの実現に向けた「業務改革・ビジネス変革ソリューション」を追加する予定だ。

 官公庁におけるAWS、Azureなどの大規模クラウド構築や運用ノウハウなどをオファリング化して提供し、自社提案での活用のほか、ほかのSIerへの外販も実施。「メニューを拡大することで、すでにあるものを活用してもらうビジネス領域を増やす」とした。

官公庁向けオファリングのリリース計画

 「国民の利便性向上」においては、「書かない」「行かない」「ノンストップ」をコンセプトに、行政窓口ソリューションを提供。今後、政府が推進する「ぴったりサービス」や「引越しワンストップ」などに順次対応するという。

 港区では、「NECスマート行政窓口ソリューション」を活用した窓口総合支援システムを、2022年8月から運用を開始する予定であり、住民移動届や住民票などの事務手続き書類など、約40種類をデジタル化。スマホに表示される二次元バーコードを活用することで処理が可能になり、住民サービスの利便性向上や、職員の業務効率化が実現できるという。「この実績をもとに、全国の自治体にもソリューションを広げていきたい」と述べた。

行政DXを支えるワンストップサービス
港区の事例

 「マイナンバーカード民間活用」に関しては、民間企業がマイナンバーカードを利用して本人確認ができるのクラウドサービス「NECマイナンバーカード認証サービス」を提供。マイナンバーカード認証サービス、マイナポータルAPI連携など、マイナンバーカードの活用による民間の国民向けサービスの利便性向上を目指す。

 北九州市では、マイナンバーカードを使って、本人確認を行う図書館アプリの実証実験を2022年1月から開始。岩手銀行では、スマートフォンとマイナンバーカードを使ったペーパーレス手続きを行う新サービス「Myna Auth(仮称)」を、NECマイナンバーカード認証サービスにより実現し、2022年夏から運用する予定だ。

 また、ふくおかフィナンシャルグループではマイナポータルAPIを利用して、ローン商品の申し込みの際に、個人の所得証明などの書面提出を不要とし、行政が保有する所得情報などをもとに、オンライン手続きを完結させる実証実験を開始するという。「利用者の利便性向上、事務作業の削減、事務誤りの削減につなげることができる」としている。

 さらに、マイナンバー制度の活用に向けたコンサルティングサービスも提供する考えだ。すでに、「民間事業者におけるマイナンバー制度活用ホワイトペーパー」を公開している。

マイナンバーカードの民間活用
北九州市の事例

 政府は、2021年9月1日にデジタル庁を設立し、12月24日には「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を閣議決定。「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化を」の実現に向けた取り組みを推進している。また、「クラウド・バイ・デフォルト原則」を提唱し、行政システムのクラウド化を推進している。

 さらに、デジタル社会の目指すビジョンとして、「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会」を掲げ、それを実現するための要素として、「デジタル化による成長戦略」、「デジタル化による地域の活性化」、「デジタル人材の育成・確保」、「医療・教育・防災・こどもなどの準公共分野のデジタル化」、「誰一人取り残されないデジタル社会」、「DFFT(Data Free Flow with Trust)の推進を始めとする国際戦略」の6点を挙げている。

デジタル社会の目指すビジョン

 NECの中俣常務は、「NECではNEC 2030VISIONを通じて、安全、安心、公平、効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を発揮できる持続可能な社会を実現することを目指している。これは、政府が掲げている目標とシンクロしている。政府の施策と連動し、そのなかで事業を遂行していくことになる。規格の統一、万全のセキュリティ、適切な運用でデータを利活用し、リアルとサイバーが常時つながっている世界で、行政サービスを提供できるように支援していく」と述べた。