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富士通の時田隆仁社長、中期目標達成に向けた7つの課題の進捗を説明

2020年度連結業績の営業利益、当期純利益はともに過去最高

 富士通の時田隆仁社長は28日、2022年度に向けた同社経営戦略に関する進捗状況について説明した。同社では経営目標として、2020年度にテクノロジーソリューションにおける売上収益で3兆5000億円、営業利益率10%を掲げている。

 時田社長は、「成長投資を加速させながら各種施策を着実に実行し、売り上げ、収益の拡大、採算性の改善につながる活動をさらに強化することで、2022年度の経営目標の達成に取り組む」と述べた。

富士通 代表取締役社長の時田隆仁氏

7つの課題の進捗状況を説明

 富士通では、顧客の事業変革や成長に貢献する「For Growth」の領域において、規模の拡大と収益性の向上を目指す一方、顧客の事業の安定化に貢献する「For Stability」では効率性を高め、利益を向上させる方針を打ち出している。

 そして、これらを推進するために、「グローバルビジネス戦略の再構築」、「日本国内での課題解決力強化」、「お客様事業の一層の安定化に貢献」、「お客様のDXベストパートナーへ」、「データドリブン経営の強化」、「DX人材への進化および生産性の向上」、「全員参加型、エコシステム型のDX推進」の7つの課題を挙げている。

パーパス実現のために取り組む課題

 今回の会見では、この7つの課題における進捗状況について説明した。

 「グローバルビジネス戦略の再構築」では、2020年度は、全リージョンで効率化を進め、将来のビジネス規模拡大と利益率向上のための施策を推進。グローバル共通のポートフォリオに沿って、重点アカウントの選定やオファリングを拡充したほか、リージョン同士や、リージョンと各ビジネスグループとの連携を強化したという。

 「世界8カ国に展開しているグローバルデリバリーセンターでは、世界規模でサービスデリバリーの標準化や最適化を進めるとともに、サービスモデルの見直しにも着手。効率化によるコスト競争力の強化を図った。また、各リージョンにおける構造改革を進めた」とした。

 欧州ではプロダクト生産体制の見直しを完了し、サービスビジネスへとシフト。米国では事業全体の構造改革に着手し、オセアニアでは業種軸のフォーメーションを強化した。アジアではサービスビジネスへのシフトを進め、重点業種へのオファリングを強化したという。

グローバルビジネス戦略の再構築

 「日本国内での課題解決力強化」では、2020年10月に発足した富士通Japanが、2021年4月1日付で富士通新潟システムズ、富士通ワイエフシー、富士通山口情報、富士通エフ・オー・エムの4社を吸収して、1万1000人の体制で本格的にスタート。国内における富士通グループの顧客窓口を一本化し、コンサルティングからサポートまでをワンストップで提供する体制を整えた。

 「全国を6つのエリアに分けて、各エリアに責任本部を設置。長年、日本のマーケットにおいて、さまざまな業種、地域のICT化を担ってきた経験やノウハウ、リソース、強みを生かし、それぞれの特性に応じながら、地域の課題解決に取り組む」と述べた。

 また、世界一の性能を発揮するスーパーコンピュータ「富岳」の技術と、AI技術を組み合わせることで、日本のさまざまな課題を解決する取り組みを行っていること、ウェルビーイングを実現する未来の社会を描くデザイナーや、それを実装するエンジニアなど、350人体制で構成した「未来社会&テクノロジー本部」を、2021年4月に社長直下の組織として設置したことなどを紹介した。

日本国内での課題解決力強化

 「お客様事業の一層の安定化に貢献」への取り組みでは、日本固有の商習慣やニーズを、オフショアに適した形に整理し、グローバルデリバリーセンターを一層活用するためのジャパン・グローバルゲートウェイを、2020年11月に設立した。これについては、「富士通が付加価値の高いITサービスを持続的に提供できる企業になるために、徹底した内製化を行い、デリバリースキルの向上とともに、標準化により品質と生産性も向上させる」と述べた。

 富士通では、SI系グループ会社を再編。15社のうち11社をジャパン・グローバルゲートウェイに統合したことに触れながら、「各社に分散していた強みを集約し、グループの総合力を強化する。重複投資の抑制や費用削減も進め、コスト効果も大きく期待できる」とした。

 また、製品およびサービスの品質管理を強化するために、プロセスや制度を再点検し、抜本的な見直しを図っていることにも触れ、「社長直下で、全社リスクマネジメント室を設置し、リスク情報全体を把握。重大なインシデントに対して、迅速に対応できるような体制を整えた。お客さまのIT基盤の安定稼働を。これまで以上に確実に実行する」と述べている。

お客様事業の一層の安定化に貢献

 「お客様のDXベストパートナーへ」という取り組みでは、フロント機能の強化について説明した。顧客のDXをリードするビジネスプロデューサーの育成では、国内で3700人を対象に育成プログラムがスタート。また、2020年4月に始動したRidgelinezについては、「DXを軸にして、富士通とは異なる独自ビジネスを推進している。すでに約300社の多様な業種の企業に向けて、DX支援のコンサルティングサービスを提供している。社員のパフォーマンスの最大化を促すために、透明性があり、客観性の高いプロフェッショナル人材向けの人事制度を構築している。この成果は富士通グループにいい影響をもたらすものと期待している」とした。

 そのほか、新型コロナウイルス感染症治療薬の開発を目的としたペプチエイドの設立、製造業のDXを実現するクラウドサービスを提供するDUCNETの設立、リアル店舗におけるDXを加速するためにZippinとの協業を強化したことに触れ、「協業により、DXビジネスを創出している」とした。

お客様のDXベストパートナーへ

 「データドリブン経営の強化」では、社内で発生するあらゆるデータをリアルタイムで収集、分析し、データに基づく未来予測型の経営に移行するためにOne Fujitsuの取り組みを推進。ここでは、Palantirのデータ分析テクノロジーを活用しているという。

 「DX人材への進化および生産性の向上」では、デザイン思考の浸透によるDX人材の育成やジョブ型人材マネジメントの導入、Work Life Shiftによる新たな働き方を推進。「全員参加型、エコシステム型のDX推進」では、社内DXプロジェクト「フジトラ」を通じて、現場部門で任命したDXオフィサーを中心にDXを活性化。約300の変革テーマを推進中だという。名刺管理ソリューションの導入や、顧客や社員の声を、経営や事業施策に活用するための「VOICEプログラム」を実施していることにも紹介した。

自らの変革も進めるという

For Growthをけん引する7つの重点注力分野

 さらに時田社長は、For Growthをけん引する7つの重点注力分野を定めたことを明らかにした。

 バーチカルエリアでは、環境と人に配慮した循環型でトレーサブルなものづくりを行う「Sustainable Manufacturing」、生活者に多様な体験を届ける決済、小売、流通を実現する「Consumer Experience」、あらゆる人々のウェルビーイングな暮らしをサポートする「Healthy Living」、安心・安全でレジリエントな社会づくりを目指す「Trusted Society」の4点を挙げる。

 一方、DXを支えるためのホリゾンタルエリアでは、データを活用した経営や新たな働き方を支援する改革による「Digital Shifts」、 企業を支えるクラウドインテグレーションやアプリケーションによる「Business Applications」、企業や社会を支えるクラウドやセキュリティによる「Hybrid IT」の3点を挙げた。

7つの重点注力分野

 「これまでにも製造、流通、金融、行政などの業種ごとのビジネスを展開してきたが、それらの縦割りのソリューションを、クロスインダストリーという広い視野でとらえなおすことが大切である。個々のソリューションは強化しながら、革新的なソリューションを組み合わせて提案することが大切である」と説明。

 さらに、「2030年を想定し、誰も取り残されないサスティナブルな世界を実現するために、取り組むべき課題や求められていることについて、社会全体を、業種横断型の見方をする形で、バーチカルエリアと定義した。社会への貢献のほか、顧客と市場、富士通の観点から注力する分野を定めている。これらの分野に、中長期的に経営リソースを集中する」と宣言した。

 加えて、2021年4月1日付で富士通研究所を富士通に統合し、CTO直下の組織として設置したことについては、「DX企業、テクノロジーカンパニーとして、より全社戦略に沿った迅速な事業化につながる研究開発を行うことが狙い」と話す。

 社内に点在している調査、分析機能を集約して、全社の技術戦略立案機能を担う「技術戦略本部」と、先端技術研究を行う「研究本部」を置いたことにより、「経営と研究開発を一体化し、全社戦略と合致した研究開発をスピーディに実行する。テクノロジー企業として事業を強化し、社会課題を解決する企業になる」と述べた。

 このほか経営目標の達成に向けて、5年間で1兆円以上のフリーキャッシュフローを創出し、5000億円以上の戦略的な成長投資を継続的に実施する姿勢もあらためて強調した。
 また、環境への取り組みについては、徹底的な省エネと再エネ利活用を加速することで、2030年には、2013年度比で71.4%の温室効果ガス削減を目指すほか、製品や梱包(こんぽう)のプラスチック削減に着眼した省資源設計のさらなる推進や、同社のクラウドサービスである「FJcloud」では、2022年度までに100%再生エネルギーで運用。デジタルアニーラを活用した物流効率化による顧客のCO2削減への貢献などに取り組む。

 これまで公開していなかった非財務指標にも言及。従業員エンゲージメントでは、富士通で働くことにポジティブな社員が2020年度実績で65%に達し、これを2022年度には75%に高めるほか、経済産業省のDX推進指標では2020年度の2.4を、2022年度には3.5以上に高めるという。また、ネットプロモータースコア(NPS)は、グローバルで調査を実施しており、これをもとに本年度中に目標値を設定する予定だと説明している。

2020年度の決算概要

 なお、2020年度(2020年4月~2021年3月)連結業績は、売上収益が前年比6.9%減の3兆5897億円、営業利益が同25.9%増の2663億円、税引前利益が同27.7%増の2918億円、当期純利益が同26.7%増の2027億円となった。

2020年度の決算概要

 富士通の時田隆仁社長は、「新型コロナウイルスの影響により売り上げは減収したものの、サービスビジネスへのシフトや効率化などによって、営業利益、当期純利益ともに過去最高益になった」と総括。富士通 取締役執行役員専務/CFOの磯部武司氏は、「コロナの影響や前年のPC特需の反動もあり、減収となったが、採算性改善を着実に進めたことに加え、保有資産のリサイクルによる一時利益も影響した。営業利益は7.4%となった」と述べた。

富士通 取締役執行役員専務/CFOの磯部武司氏

 新型コロナウイルスは、売上収益では1469億円、営業利益では482億円のマイナス影響があったという。また、パソコン特需の反動は売上高で1200億円規模の影響があったとのこと。

 セグメント別業績では、テクノロジーソリューションの売上収益が前年比5.3%減の3兆0436億円、営業利益は同0.3%増の1884億円、営業利益率は6.2%となった。

 テクノロジーソリューションのうち、ソリューション・サービス事業の売上収益が前年比6.2%減の1兆7659億円、営業利益が同2.2%増の1835億円。システムプラットフォーム事業の売上収益は同2.8%増の6654億円、営業利益は同49.9%増の412億円。そのうち。システムプロダクトが同4.5%減の4203億円、ネットワークプロダクトが同18.5%増の2451億円となった。また、海外リージョンの売上収益は同5.6%減の7237億円、営業利益は同199.3%増の116億円となった。

 「ソリューション・サービスでは新型コロナの減収影響に加えて、PC展開サービスなどのハード一体型ビジネス化が減少。ネットワークプロダクトは5G基地局を中心に増収だった。システムプロダクトはグローバルでのIAサーバーの開発体制の効率化が進んだ。海外リージョンでは、ロックダウンなどによって、日本よりも新型コロナの影響を強く受けている。だが、欧州での公共系大型システム開発商談を獲得するなど明るい兆しもある」という。

 なお、2020年度のFor Growthの売上収益は前年並の9889億円となり、構成比は32%。For Stabilityは、前年比8%減の2兆0547億円となり、構成比は68%となった。「For Growthの領域では、5G基地局に対する強いデマンドがある。延伸したプロジェクトの再開、DXに対するデマンドをしっかりととらえ、2021年度以降の売り上げ拡大を実現する」(富士通の磯部CFO)と述べた。

 ユビキタスソリューションは、売上収益が前年比26.5%減の3346億円、営業利益は同79.3%増の480億円。「携帯販売代理店事業の連結除外といった事業再編による減収影響に加えて、前年のWindows7関連特需の反動が大きく影響した」という。

 デバイスソリューションは、売上収益は前年比4.7%減の2938億円、営業利益は前年の32億円の赤字から298億円の黒字に転換し、「半導体需要の高まりによる電子部品の増収効果と採算性改善が貢献した」とした。

 なお、受注状況については、エンタープライズ(産業、流通)が前年比8%減(パソコンを除くと7%減)。ファイナンス&リテール(金融・小売)が10%減(同6%減)、JAPAN(地方自治体、ヘルスケアなど)が7%減(同4%減)、公共・社会インフラ(官公庁、社会基盤)が7%増(同7%増)となっている。

2021年度通期の業績見通し

 一方、2021年度通期の業績見通しは、売上収益が前年比1.1%増の3兆6300億円、営業利益は同3.3%増の2750億円、当期純利益は同1.1%増の2050億円とした。

 富士通の時田社長は、「これまで取り組んできた施策を引き続き確実に実行し、2021年度は増収増益を目指す。営業利益率は7.6%に高める」と述べた。

2021年度の業績見通し

 セグメント別業績見通しでは、テクノロジーソリューションの売上収益が前年比5%増の3兆2000億円、営業利益は前年から515億円増の2400億円。営業利益率は7.5%を目指す。ユビキタスソリューションは、売上収益が前年比31%減の2300億円、営業利益は前年から430億円減の50億円。デバイスソリューションは、売上収益は前年比2%増の3000億円、営業利益は前年から1億円減の300億円とした。

 「ユビキタスソリューションは、前年のテレワーク、GIGAスクール商談の反動減を見込んでおり、PCのボリュームはかなり下がるだろう。だが、コア領域であるテクノロジーソリューションをしっかりと成長させることにより、全体で増益になるようにしていく。テクノロジーソリューションは、2021年度には規模の拡大、採算性の改善、成長投資をバランスよく進め、500億円の増益を見込む。そして、2022年度には1100億円の増益によって、財務目標を達成する」(富士通の磯部CFO)とした。