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富士通が2020年度の経営方針を説明 “パーパス”実現のために4つの取り組みを実施

2020年度第1四半期連結業績は減収増益、すべてのセグメントで採算性を改善

 富士通株式会社は30日、2020年度の経営方針について説明した。

 同社の時田隆仁社長は、「ニューノーマルの時代において、レジリエントな社会づくりに貢献したい。これまでの習慣や常識とは非連続の新たな生活様式や考え方が生まれるなかで、富士通は社会やお客さまのあるべき姿を新しい視点でとらえ、テクノロジーで形にすることで、柔軟で、力強い社会づくりに貢献したい」などと述べた。

富士通 代表取締役社長の時田隆仁氏

 また中期目標として掲げている、テクノロジーソリューションの2022年度の売上収益3兆5000億円、営業利益率10%の計画を維持する一方、非財務指標として、人権・多様性、ウェルビーイング、環境、コンプライアンス、サプライチェーン、安全衛生、コミュニティの7つの課題について、NPS(Net Promoter Score)を用いて評価する仕組みを導入する準備を進めていることを明らかにした。ここでは、組織やカルチャーの変革の進捗を、経済産業省が推進するDX推進指標を用いて、客観的に測定する考えも示している。

 「財務・非財務両面の経営目標を設定することで、長期的で、安定した貢献を行い、その結果、富士通の成長につながるポジティブなループを描きたい」と述べた。

 さらに今回の会見で、時田社長は、「For Growth」と「For Stability」という、事業領域を分類する名称を新たに示した。

 「新型コロナウイルスの影響があり、2020年度のIT支出は減少すると見られているが、その後は緩やかに回復すると予想している。そうしたなかでも、DXやモダナイゼーション、クラウドといったデジタル分野は、従来のSIビジネスやオンプレミス、システム保守といった従来型ITよりも、成長すると想定され、富士通として注力する分野になる」とする。

 続けて、「DXやモダナイゼーションといったデジタル領域を、お客さまの事業の変革と成長に貢献する事業領域として、For Growthを定める一方、システム保守や運用、プロダクト提供といった従来型IT領域を、IT基盤の安定への貢献と、品質向上に取り組む領域としてFor Stabilityとし、富士通は、この2つの事業領域で展開する。For Growthでは、規模の拡大と収益規制の両方を伸ばし、For Stabilityは効率性を上げ、利益率を高める。この2つの事業領域でお客さまや社会への価値提供を最大化したい」と述べた。

 For Growth領域では、2022年度に売上収益で1兆3000億円を目指し、テクノロジーソリューションのうち、37%を占める計画だ。

価値創造のための2つの事業領域

 一方、時田社長は、「ニューノーマル時代に求められる富士通の役割は、テクノロジーを用いて、安心、安全で、利便性の高い社会づくりに貢献していくことである」と主張。

 「そのために富士通自身がリファレンスとなるべく、テレワークやウェブ会議などのテクノロジーの活用を率先して行うのに加えて、Work Life Shiftのように、新たな生活様式に適した人事制度や、オフィス、ビジネスの在り方まで見直す取り組みを進めている。すでに、ソフトウェア開発業務においては、協力会社を含めて、5000人規模でのリモート開発にシフトした。お客さまととともに、新たなビジネスの在り方を構想し、その実現に取り組むReimagine(リイマジン)キャンペーンを開始している。ここでは、働き方、ものづくり、医療といった分野で新たな時代に最適な価値を提供したい。富士通はDX企業としてデジタル社会の実現を目指しており、その視点と、これまで多様な業種での実績を生かして、大きな役割を果たせる」と述べた。

 2020年5月に発表した「パーパス(存在意義)」についてもあらためて言及。「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくというパーパスに基づいて、富士通は、すべての活動を行っていく」としながら、富士通グループ全社員の原理原則である「Fujitsu Way」を、12年ぶりに刷新したことにも触れた。

 「新たなFujitsu Wayは、社員全員がパーパス実現に向けて、自律的に意思を決定し、行動していくためのよりどころである。Fujitsu Wayは、パーパス、大切にする価値観、行動規範で構成している。富士通グループは、すべての行動をFujitsu Wayに照らし合わせて判断し、パーパスの実現に取り組むことになる」。

ニューノーマルにおける富士通の役割
Fujitsu Way

 今回の説明では、パーパス実現のために取り組む課題として、「価値創造」の観点から「グローバルビジネス戦略の再構築」、「日本国内での課題解決力強化」、「お客さま事業の一層の安定化に貢献」、「お客さまのDXベストパートナーへ」という4つの取り組みに触れたほか、「自らの変革」の観点から、「データドリブン経営強化」、「DX人材への進化・生産性の向上」、「全員参加型、エコシステム型のDX推進」の3点を説明した。

パーパス実現のために取り組む課題

 「グローバルビジネス戦略の再構築」では、日本を含む6リージョン体制に再編。「グローバルで戦略を着実に実行する体制を整えた。グローバルで共通のポートフォリオ、アカウントプラン、オファリングを実現し、リージョンごとに最適化したサービスを提供する。これらを支えるテクノロジーについては、重点領域にリソースを集中して、富士通ならではの強みの確立に取り組む」とした。

 このほか、5Gビジネスにおいて海外展開を進めていることや、ポスト5Gの技術研究に取り組んでいること、富岳のテクノロジーを、HPEを通じて、グローバルに広く展開している例なども示した。

グローバルビジネス戦略の再構築

 「日本国内での課題解決力強化」では、日本市場に根ざしたビジネスを強化するために、富士通Japanを、2020年10月1日に発足することに触れた。

 「富士通Japanは、日本特有の要素が大きい自治体や文教、ヘルスケア、中堅民需市場のビジネスを担う。日本は人口減少や少子高齢化など、世界のなかでも課題先進国であるほか、新型コロナウイルスの感染拡大でも、日本固有の課題が浮き彫りになった。富士通Japanはデジタル技術を活用して社会課題の解決に取り組むほか、豊富な業界、業務ノウハウを生かしたビジネス起点での提案を行い、クラウドファーストへのシフトも進める。また、国内グループ会社の最適化も進めるきっかけとなる。富士通フロンテック株式の公開買い付けを行うことを発表したが、同社が持つ金融、流通向けソリューションや、手のひら静脈認証などについても、富士通グループとして一体化を図る」とした。

 なお時田社長は、「富士通Japanは、もともと7月1日に設立する予定であったが、その後に、国内グループ会社の最適化を行うプロセスを想定していた。新型コロナウイルスの影響で10月1日の発足へと時期を変更したが、グループ会社の最適化の一部をこのタイミングで同時に行うことになったともいえる」とコメント。

 「今後は、富士通本体がグローバルに展開するソリューション開発をメインに行う体制になり、製造、流通、金融向けソリューションを残して、グローバルにポートフォリオを作る役割を担う。一方で、日本を含む6リージョン体制によって、各リージョンでのデリバリーやローカライズを、マネジメントの目線であわせた。富士通Japanはジャパンリージョンのなかで展開することになる。日本は、新型コロナウイルスでも日本固有の課題がある。特に、行政、医療、文教などは日本固有の習慣などがあり、本体と分けて身近な環境で対応していくことになる。国内に“ミニ富士通”がたくさんあるという課題も解決できる」とした。

日本国内での課題解決力強化

 「お客さま事業の一層の安定化に貢献」としては、ジャパン・グローバルゲートウェイの取り組みについて触れた。ジャパン・グローバルゲートウェイは、グローバル標準で開発を行う、世界8カ国のグローバルデリバリーセンターを活用するための日本の組織で、「現場とグローバルデリバリーセンターをつなげ、リモートでの対応や標準化を一層進めることで、お客さまへのサービス提供のスピードと品質向上につなげられる」とした。

お客さま事業の一層の安定化に貢献

 「お客さまのDXベストパートナーへ」では、DXパートナーとしての人員強化を挙げた。デザインを重要な経営資源と位置づけ、あらゆる事業活動にデザインシンキングを取り入れるための組織としてデザインセンターを、また、Society 5.0の実現に向けた組織としてソーシャルデザイン本部を、それぞれ7月1日に新設。

 「ヘルスケアや教育、ファイナンスなどのテーマに沿って、社会や生活者の視点で新規事業を創出し、次の時代の社会に貢献することになる」と位置づけた。

 ここでは、デジタル通貨やポイントなどの相互変換による取引・決済を行うための、トークンエコノミープラットフォームを提供する取り組みを開始したこと、データ解析のPalantirへの出資し、すでに富士通社内でこれを活用していること、4月に設立したDX具体化のための新会社Ridgelinezの活動が本格化し、共創活動が開始されていることにも触れた。

お客さまのDXベストパートナーへ

 さらに、「自らの変革」に含まれる「データドリブン経営強化」では、データに基づいたスピーディーな経営判断を行うことができるように、プロセスやシステムの刷新も進めていることを紹介。「今後、見るべき指標を決定し、全社で同じデータを参照できる仕組みを整備していく。財務/経理、購買、ロジスティクスなどが先行してグローバルでの統合を図っており、すでにOne ERPプロジェクトを始動している」とした

 「DX人材への進化・生産性の向上」では、社員13万人がDX人材となることを目指し、デザイン思考やアジャイルマインドの教育を進めていることを紹介し、「多様性を重んじた風土への転換を図るとともに、制度面でもジョブ型人事制度を開始して、これを国内1万5000人まで拡大した。高度人材の積極的な登用も進める」と述べた。

 また「全員参加型、エコシステム型のDX推進」では、CDXO(Chief Digital Transformation Officer)である時田社長と、SAPジャパンの前社長から富士通入りした福田譲執行役員常務に加えて、社内15部門にDX Officerを配置。「CDXO直下の専任チームとともに、横ぐしの体制で推進する全社プロジェクトを7月1日からスタートした。富士通自身のDXを一層加速させる」と述べた。

自らの抜本的変革と進化

 富士通では、こうした「価値創造のための投資」と「自らの変革のための投資」として、今後5年間で5000~6000億円の投資を行う考えも示した。「サービス、オファリングの開発投資のほか、M&Aや有力パートナーとのアライアンス、ベンチャー企業といった外部への投資、将来を見据えた戦略的なDXビジネスへの投資を行う。また、高度人材の獲得や社内人材の強化、システム強化のための投資も実行する」という。

 また、財務目標として「キャピタルアロケーションポリシー」を導入。「今後5年間で1兆円以上のフリーキャッシュフローを創出し、これを最適に配分する。現在の健全な財務基盤を維持しながら、成長投資にかじを切る。また、安定的な株主還元を継続的に実施する。収益性と資本効率性の観点から一株当たり当期利益(EPS)も重視する」と述べた。

成長投資を加速

2020年度第1四半期は減収増益

 一方、富士通が発表した2020年度第1四半期(2020年4月~6月)連結業績は、売上収益が前年同期比4.3%減の8027億円、営業利益が同558.0%増の222億円、税引前利益が同314.4%増の259億円、当期純利益が同156.2%増の181億円となった。

2020年度第1四半期(2020年4月~6月)連結業績概要

 富士通 取締役執行役員専務/CFOの磯部武司氏は、「新型コロナウイルスの影響としては、売上収益ではマイナス358億円の影響があった。また、営業利益ではマイナス121億円の影響があった。新型コロナウイルスの影響を除くと売上収益は前年並の実績となっている。テクノロジーソリューションは、富岳の貢献や5G基地局の所要が増加して増収。ユビキタスソリューションは、前年のWindows 7のサポート終了に伴う特需の反動を受けて、大きく減収。デバイスソリューションは事業再編の影響により減収となった。だが、すべてのセグメントで採算性を改善している」と総括した。

富士通 取締役執行役員専務/CFOの磯部武司氏

 また、新型コロナウイルスのマイナス影響の部分だけを見ると、売上収益で655億円、損益で220億円のマイナスがあるとしたほか、プラス影響としては、売上収益で296億円、損益で99億円の効果があるとし、テレワークなどのリモート関連のPCやインフラの増設、コールセンターの効率化、自動化に向けたソリューションなどの商談が増加しているという。

 セグメント別業績では、テクノロジーソリューションの売上収益が前年同期比0.3%減の6791億円、営業利益は同66.8%増の126億円。営業利益率は0.8%となった。

テクノロジーソリューション事業の概況

 そのうち、ソリューション・サービス事業の売上収益が前年同期比3.1%減の3768億円、営業利益が同1.5%減の178億円。「公共分野の増加はあるものの、製造、流通、ヘルスケアを中心にコロナ影響を大きく受け、前年実績からは減収になっている」という。

 また、システムプラットフォーム事業の売上収益は前年同期比24.0%増の1517億円、営業利益は前年同期の64億円の赤字から黒字転換し、50億円。そのうち、システムプロダクトの売上収益が前年同期比25.9%増の1059億円、ネットワークプロダクトの売上収益が同20.0%増の458億円となった。「システムプロダクトは、メインフレームの商談の増加、スーパーコンピュータの富岳の出荷により増収。ネットワークプロダクトは5G基地局の所要増加が貢献した」という。

ソリューション・サービスの概況
システムプラットフォームの概況

 海外リージョンの売上収益は前年同期比8.2%減の1710億円、営業利益は前年同期の5億円の赤字から悪化し、37億円の赤字。「欧州・アジアを中心としたコロナ影響や、ユーロ、ポンドが前年から円高に推移した影響に加えて、欧州の不採算国や北米のプロダクトビジネスからの撤退の影響により、減収になった」とした。

海外リージョンの概況

 ユビキタスソリューションは、売上収益が前年同期比28.2%減の738億円、営業利益は同18.1%増の42億円。「前年度Windows 7の買替特需の反動を受けて減収となったが、営業利益は減収影響はあるものの、ハイスペック品の割合が増加したのに加え、販売価格維持による採算性の改善により増益になった」という。

 デバイスソリューションは、売上収益は前年同期比18.1%減の683億円、営業利益は前年同期の77億円の赤字から、53億円の黒字に転換した。2019年第3四半期から、半導体生産の三重工場が連結対象外となった事業再編により、売上収益ではマイナス143億円の影響があったという。

ユビキタスソリューション事業の概況
デバイスソリューション事業の概況

 なお、国内の受注状況については、2020年度第1四半期が前年同期比9%減となっており、「前年同期のPC特需の反動が大きいが、これを除いても3%減である。過去の景気減速時を振り返ると、大規模、長期間のプロジェクトが多い富士通は、経済動向から少し遅れて業績に影響する傾向がある。業種ごとの強弱はあるが、第2四半期以降の売上が低調な水準になることが懸念される」と分析した。

2020年度の通期見直しを発表

 2020年度の通期見通しについては、売上収益が前年比6.4%減の3兆6100億円、営業利益が同0.2%増の2120億円、当期純利益は前年並の1600億円とした。同社では、2020年度見通しについては、これまで公表していなかった。

2020年度の通期見通し

 「新型コロナウイルスの影響もあり、売上収益は減少するが、営業利益率は前年度並を確保できる。特に、本業となるテクノロジーソリューションは、利益率の高いサービスにシフトすることで営業利益率は6.4%となり、前年度よりも改善する」(時田社長)という。

 新型コロナウイルスの影響として、売上収益では1100億円のマイナス、営業利益では380億円のマイナスを想定している。

 磯部CFOは、「通期見通しの前提は、新型コロナの経済活動への影響は第1四半期に底をうち、第2四半期、第3四半期と徐々に回復に向かい、第4四半期には企業活動が本格的に再開していることという状況である。現在、感染が再拡大している状況が見られているが、再び緊急事態宣言が発令され、経済活動が停滞することは織り込んでいない。だが日本では、製造、流通、小売、ヘルスケアでの収益に影響が生じることは想定している。また海外では、厳格なロックダウンにより経済活動の停滞が大きく、当社のビジネス基盤が弱いことで、業績の回復に時間を要すると考えている」とした。

 ここでは、新型コロナウイルスの影響については、マイナス影響とプラス影響について、それぞれを説明した。

 新型コロナウイルスのマイナス影響としては、売上収益で1780億円、損益で600億円のマイナスがあるとし、ICT投資予算の延期や規模の縮小、中堅および中小規模向け顧客に対する商談活動が停滞することを挙げた。

 またプラス影響としては、売上収益で680億円、損益で220億円の効果があるとし、テレワーク商談のほか、デジタル化や非接触、無人化に対応したソリューション、政府や自治体の緊急対策、行政のデジタル化の加速などを想定しているという。

 なお、セグメント別業績では、テクノロジーソリューションの売上収益が前年比3.3%減の3兆900億円、営業利益は前年並の1880億円。ユビキタスソリューションは、売上収益が前年比29.9%減の3190億円、営業利益は70.0%減の80億円。デバイスソリューションは、売上収益は前年比9.2%減の2800億円、営業利益は前年同期の32億円の赤字から、160億円への黒字転換を目指す。

連結業績予想(事業別セグメント情報)