大河原克行のキーマンウォッチ

富士通・時田隆仁社長、テクノロジーソリューション事業での営業利益率10%達成に意欲

2023年度の本格展開を見据えた、事業ブランド「Fujitsu Uvance」の始動も図る

 2019年に社長に就任した富士通の時田隆仁社長が、最初の目標に掲げたのが、2022年度に、テクノロジーソリューション事業での営業利益率10%の達成だ。2022年4月の発表でもこの目標を維持。コロナ禍をはじめとする外部要因の影響を受けるなかでも、その達成に意欲をみせた。

 一方、2030年にメインフレームの販売を終息することを発表。富士通の決定に大きな注目が集まっている。そして、2021年10月に新たに策定した事業ブランド「Fujitsu Uvance」の取り組みも、2022年度を始動の年に位置づけ、2023年度には活動を本格化させる考えだ。

 富士通の時田社長に話を聞いた。

富士通の代表取締役社長、時田隆仁氏

コロナ禍で種まきが十分にできなかったのが反省点

――2021年度のテクノロジーソリューションの業績は、売上収益が前年比1.0%減の3兆563億円、営業利益は同30.2%減の1350億円となりました。また、本業での営業利益は同3.4%減の1939億円となりました。2022年度の目標達成に向けては、想定以上に距離ができたように感じます。

 確かに、2021年度の業績は厳しい結果になりました。外部環境のせいにはしたくはありませんが、さまざまな要因が業績に影響しているのは事実です。海外ビジネスの厳しさを、日本での事業拡大でカバーしようと考えましたが、結果として、日本に期待を置きすぎたという反省があります。

――時田社長は、2022年度にテクノロジーソリューション事業の営業利益率10%、売上収益3兆5000億円を目標に掲げてきました。4月の発表では、営業利益率は目標を維持したものの、売上収益は3000億円下方修正し、3兆2000億円としました。

4月に発表された、新しい経営目標

 売り上げは、「マーケットをどう作るか」といったことが大きく作用します。そこに向けて種をまかないと芽が出ませんし、刈り取ることもできません。コロナ禍で、その種まきが十分にできなかったという反省があります。

 特に、伸ばしたい領域であるDXは、まさに種まきが重要な分野です。サーバーとミドルウェアを持って行って、手作業をIT化しましょうという提案ではなく、経営層とのコミュニケーションを通じて、お互いを理解し、お客さまの課題を抽出し、それを解決する方法を探っていく必要があります。

 コロナ禍の2年間は、そうした会話がなかなかできなかったのが正直なところです。お客さま自身がコロナ対策に追われている状況をみれば、無理をして時間を取っていただくこともできないですし、一時は国内での移動制限がかかり、直接お話をする機会は大きく減少しました。私自身も、しばらくは都内から出ることがなく、新幹線にも乗りませんでしたからね(笑)。

 また、海外渡航ができない状態もずっと続きました。この2年間で、お客さまとの接点が薄くなったという実感があります。こうした状況で、2022年度にV字で業績を回復させることは困難です。3兆5000億円という数字のままではリアリティはありません。

 いま振り返れば、もう少し動くことができたのではないかと思っています。コロナ禍において、移動が制限されたり、面談を自粛する動きがあるなかでも、もっと積極的に動き、それによって、企業が持つ課題や、日本が抱える課題解決により貢献できたのではないか、あるいはそれによって業績もプラスになったのではないかと思うからです。

 実は、2022年5月下旬にダボス会議に出席したり、英国やオーストラリアなどにも出張したりしました。海外に行くと、空港に降りたときから、日本との雰囲気の違いを感じます。日本はまだマスクの生活ですが、世界はすでにコロナ前を感じさせるような経済活動が始まっており、それをヒシヒシと感じました。

 日本の感覚のままでいてはいけない、このままでは世界に置いていかれるぞ、ということを強く感じました。世界はすでにもとのように動いていますから、私たち自身も、もっと積極的に動く必要があります。いまは、国内、海外問わず、お客さまに積極的にお会いすることに力を入れています。

――売上収益は下方修正しましたが、営業利益率10%は維持する計画としています。

 営業利益率は「体質」の問題です。もちろん、売上収益を減らしたわけですから、営業利益額は落としたことになります。

――2021年度のテクノロジーソリューション事業における本業の営業利益率は6.3%です。10%には、まだ距離がありますが。

 はしにも棒にもかからないというわけではありません。ポイントとなるのは、JGG(ジャパングルーバルゲートウェイ)の成果になります。日本固有の商習慣を踏まえてデリバリーを標準化したり、集中化や自動化をしたりといったことによるコスト削減効果を見込んでいます。

 また海外事業では、北米の赤字がなくなったことに加えて、デジタル領域に注力した活動を推進し、そこでの受注が伸びていることなどがプラス要素となります。ただ、海外事業で営業利益率7%としていた目標の達成は厳しい状況です。

 富士通全体としては、利益を確保できる体質への転換が確実に進んでいることは間違いなく、そこには自信を持っています。富士通は、箱売りをして保守でもうけるといったやり方を意識的に止めようとしています。箱売りがなくなったことによる売り上げ減少はありますが、これは意識的なものですから、そこは気にしていません。

 問題は、部材不足などにより、サーバーの調達が遅れ、それによって、サービスビジネスが動かなくなるというところです。この点は危惧(きぐ)しています。

ソリューションビジネスの加速が営業利益率の鍵を握る

――営業利益率10%を達成するためにはなにがポイントになりますか。

 営業利益率の鍵を握るのは、ソリューションビジネスの加速です。15社のSI系グループ会社を統合し、富士通JapanおよびJGGを本格始動させ、これがしっかりと機能することが重要なポイントになります。

 お客さま1社ごとに、それぞれにコストをかけて、要求通りのものを作り上げるというやり方では、もはや限界があります。大手企業だけでなく、中堅企業、中小企業にも同じような仕組みを前提にして向き合うという状態も、もはや無理です。お客さまも、「一品づくりですから、価格が高くなります」ということを受け入れるケースは少なくなっています。

 むしろ、グローバルでビジネスを展開したいと考えるお客さまは、一品ものではなく、グローバルに通用するものを持ってきてほしいといいます。自分たちだけが使えるもの、あるいは日本人だけが使えるものは望んでいるお客さまは極めて少なくなっています。これは富士通のビジネスに大きなインパクトを与える流れであると同時に、富士通がお客さまとの向き合い方を変え、作り方を変えていくきっかけにもなります。

 DXに踏み出すには、フレキシビリティが高いもの、メンテナンスビリティが高いものが必要であり、一品づくりの向き合い方では対応できません。これまでの富士通にとっては、日本独特のSI事業が成長の基盤であったわけですが、いまはこの体質改善に取り組んでいるわけです。

 これに向けた「形」は、JGGによって2021年度中に確立することができました。この「形」が機能するようにしていくのが2022年度以降になります。統合したからといって、翌日から同じ方向で動けるわけではありません。同じ富士通グループの会社であっても、それぞれにアイデンティティを持ってビジネスをやってきたわけですから、統合の難しさはあります。2022年度は、少しでも統合した結果を出せるように機能させたいと思っています。

――2022年4月の2021年度決算説明会では、「DX企業の道のりは5合目」と表現しました。この意味はなんですか。

 あれは、5合目というよりは、4合目といった方がよかったかな、と思っているんです(笑)。いまは4合目で、営業利益率10%を達成して初めて、5合目に到達することになると。

 富士通のこれまでの歴史は、諸先輩たちが、メインフレームを作り、SI事業を育て、多くの顧客基盤によって支えられてきたわけです。その上で、この3年間、DX企業への変革に向け、人事制度の変更を含めてさまざまなことをやってきました。自動車で楽に登ってきたわけではありません。営業利益率で10%を達成したら、本当の意味でのDX企業への変革に向けた一歩が始まります。いままでのやり方を変え、これまでの経験をつえにして、自分の足で登っていくことになる。

 5合目を超えることで、DX企業への変革に向けて、私たちの登り方が変わることになります。

経営にグサッと刺さらないとその先がない「For Growth」

――富士通では、DXやモダナイゼーションといったデジタル領域を「For Growth」とし、顧客の事業変革や成長に貢献する事業に位置づけています。富士通にとっても、規模の拡大と収益性の向上を目指す領域に位置づけていますが、この領域の事業拡大においては、どんな課題感がありますか。

 富士通グループは、お客さまの事業の変革と成長に貢献する「For Growth」と、お客さまのIT基盤の安定稼働と安定的な事業運営に貢献する「For Stability」の2つの事業領域において、価値創造を追求しています。

「For Growth」「For Stability」による価値創造

 For Growthの事業で前提となるのは、お客さまの経営に刺さることです。経営に刺さる提案ができるかどうかが鍵になります。サーバーを持っていきますという提案では経営に刺さることはありませんし、刺さったあとに、ばんそうこうのような応急措置ではなく、しっかりと実装し、効果をともに実感し、さらに迅速に改善をしていくといったように、ともに歩くことが大切です。

 経営にグサッと刺さらないとその先がないのが、For Growthの事業です。また、For Growthで入ったとしても、いつのまにか、それを維持するFor Stabilityに落とし込まれしまうと意味がありません。DXだったはずが、結果がIT化と同じになってしまう。そうなってはいけません。次につながるアイデアが生まれ、For Growthのなかで回転させることが大切です。

 まだ、For Growthを提案する姿勢ができあがっていない部分があると感じますし、富士通には従来型ビジネスが依然として多く、For GrowthとFor Stabilityが同じ組織のなかにあり、正直なところ、これまで得意としていたFor Stabilityに引っ張られてしまうといった部分もあります。ただ、それではいけないということを、しっかり認識しようという動きが、半年ほど前から社内で顕著になってきたことを感じます。

 その意識変化を牽引しているのが、DX専門会社のRidgelinezの成果だといえます。2020年4月にスタートして以来、コロナ禍でさまざまな影響を受けながらDXビジネスを推進し、高い成長を遂げています。本来であれば、もっと高い成長を期待していましたし、コンサルティングファームとしての筋肉質な体制にはまだなっていないという課題はありますが、確実に成長し、経営に刺さる提案で実績を積んでいます。

 一方、富士通では、国内グループの全営業職約8000人を対象に、スキルアップ・スキルチェンジ研修の実施や、保有スキルの見える化を通じて、業種の枠を越えたクロスインダストリーで新たなビジネスを創出できる「ビジネスプロデューサー」の育成に取り組んでいます。全員がビジネスプロデューサーとしての役割を果たせるようになるには時間がかかりますが、すでに経営に刺さるような提案が始まっているという点ではポジティブに考えています。

「Fujitsu Uvance」とはなにかを、2022年度はしっかりと見せていく

――2021年10月に策定した事業ブランド「Fujitsu Uvance」では、2022年度を始動の年と位置づけ、2023年度から事業を本格化させる考えを示しました。本格化した際の富士通の姿とはどういうものになりますか。

 Fujitsu Uvanceについては、まだ内容については詳細を説明していませんし、コンセプトが先行している状態なのは確かです。2022年度には、Fujitsu Uvanceとはなにかというものをしっかりとみせていきたいと考えています。2022年4月1日付で、グローバルソリューションビジネスグループのなかに、専任組織として、Uvance本部とUvance Core Technology本部を新設しました。Uvance本部では、Uvanceで示した7つのKey Focus Areas(重点注力分野)のオファリングを担い、Uvance Core Technology本部では5つのKey Technologiesを担うことになります。いま、Fujitsu Uvanceに関するソリューション開発に着手しているところです。

Fujitsu Uvance

 私は発表時点から、Fujitsu Uvanceは単なる事業ブランドではなく、事業モデルであると社内に言ってきました。Fujitsu Uvanceを完成させるには、ビジネススタイルや社員一人ひとりの行動、コーポレートの機能、社内の制度など、さまざまなものを変えなくてはいけません。いままでのSIビジネスの延長線上では実現できないものであり、事業そのものが変わる必要があります。

 例えば、Fujitsu Uvanceでは、Key Focus Areasにおいて、4つのVertical Areasを設定し、社会課題を解決するためにクロスインダストリーの提案を行うとしています。ただ、クロスインダストリーといった途端に、組織がクロスインダストリーになっていないから、なにもできないという壁にぶつかります。ビジネスプロデューサーやシステムエンジニアも、従来同様、ひとつの業界、ひとつのお客さまに向き合って仕事をしているわけです。その体制では、どうやってもクロスインダストリーの提案は生まれません。

 約2年間に渡って、ファイナンス&リテールソリューションビジネスグループを設置し、ここでクロスインダストリーに挑戦してきたのですが、同化できた部分があった一方で、同化できなかった部分もありました。最も相性がいいと思われたファイナンスとリテールでも、ここまでが精いっぱいかと思うところがありましたし、ここまでならばできるという感覚もわかりました。この経験をもとに、Fujitsu Uvanceで掲げたクロスインダストリーに取り組んでいくことになります。

――Fujitsu Uvanceは、2030年度に販売を終息するメインフレームや、2029年度に販売終息を予定しているUNIXサーバーの動きとはどう関連していきますか。

 Fujitsu Uvanceは、すべてオンクラウドとなります。メインフレームやUNIXサーバーの販売終息と、Fujitsu Uvanceを完全に一体化した施策としては考えてはいませんが、Fujitsu Uvanceが目指す世界は持続可能な世界であり、メインフレーム単独のアーキテクチャのなかで実現するものではありません。

 富士通は、お客さまの持続可能な経営に向けて、あらゆるデータやサービスをつなげて、付加価値を創出することができるFujitsu UvanceによるハイブリッドITを提案し、その一環として、メインフレームやUNIXサーバーなどのクラウドシフトに取り組んでいきます。

 富士通のメインフレームは、半世紀を超える歴史のなかで、お客さまの資産の継承のため、大量高速処理、高信頼、オープンシステムとの連携など、基幹業務のあらゆる要件に応えながら発展してきました。その結果、日本国内で最も多くのお客さまに富士通製メインフレームをご利用いただいており、20年以上に渡ってトップシェアを堅持しています。

富士通が示したメインフレームのロードマップ

 そのメインフレームの販売終息を発表して以降、お客さまからはネガティブな声もいただいていますし、一方で、その判断はとてもよく理解できるといった声もいただいています。ただ、私は、この方向しかないと考えています。私が決断しなくても、私の次の社長が決断したのではないでしょうか。

 富士通は、IBMのように、メインフレームに対する投資は行ってきませんでしたし、MSP(富士通のメインフレーム向けOS)の世界で、継続的に生きていくという選択は考えにくい状態になっていました。私自身、メインフレームのシステムエンジニアをしていた経験がありますが、その立場から見ても、富士通がメインフレームを継続しつづけるということには違和感を持っていました。

 もちろん、富士通のメインフレームがなくなることに対する寂しさは人一倍ありますよ(笑)。だけど、その気持ちと事業とは別です。これから富士通がどんな会社になっていくのかといったときに、営業利益率は2%程度でいい、売上高も現状維持でいいというのであれば、メインフレームの事業を継続してもいいでしょう。しかし、富士通が目指している姿はそうではありません。ビジネス変革と持続可能な社会の実現を両立することを目指す企業になるという点から考えて判断したものなのです。