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富士通の2021年度上期連結業績は増収増益、採算性の改善が進む

 富士通株式会社は27日、2021年度上期(2021年4月~9月)連結業績を発表した。売上収益が前年同期比1.9%増の1兆6630億円、営業利益が同30.9%増の814億円、税引前利益が同31.6%増の895億円、当期純利益が同12.3%増の529億円となった。

2021年度上期連結業績の概要

 富士通 取締役執行役員専務兼CFOの磯部武司氏は、「IT投資やDX(デジタルトランスフォーメーション)に対するデマンドは回復傾向にあるが、スピードは緩やかである。だが、採算性の改善を進めたことで増益になった。2021年度のポイントである成長投資は積極的に実施している。また、半導体や電子部品の需給のアンバランスが拡大したことで、セグメントごとにプラスとマイナスの影響が出ている。テクノロジーソリューションは部材供給不足によるマイナスのインパクトがあったが、デバイスソリューションは強いデマンドに支えられて好調に推移した」と総括している。

富士通 取締役執行役員専務兼CFOの磯部武司氏(過去の記者会見より)

 部材供給の遅延影響は、売上収益で149億円のマイナス、営業損益では71億円のマイナス影響があり、「IAサーバーや5G基地局などのネットワーク機器を中心に、売上が第3四半期以降の計上に延伸したことに加えて、部材価格の高騰、設計変更による代替部品への切り替え、航空便での出荷対応によるコストアップの影響を受けた。部品メーカーと交渉したり、代替部品への集約を進めたり、価格への転嫁を含めたリカバリーを行ったことによって、年間では損益の影響を極小化すべく対策を進めている」と述べた。

 上期の売上総利益率は30.2%となり、0.9ポイントの改善。「ソリューション・サービスは、アジャイル開発のさらなる拡大などによるシステム開発の変革、ジャパン・グローバルゲートウェイによるサービスデリバリーの変革、リモート保守拡大にサポート業務の変革などにより、生産性の改善が着実に進展。システムプラットフォームはプロダクトミックスの影響でマイナスとなったが、海外リージョンは英国において採算性が高いサービス商談を獲得するとともに、北米での構造改革の進展により改善。デバイスソリューションは電子デバイスの所要の増加による操業改善が進み、大きく好転した」という。

 営業費用は、前年同期から212億円増の4226億円、そのうち成長投資は360億円。サービスビジネスの強化による価値創造、One Fujitsuによる社内DX投資、Work Life Shiftによる働き方の変革などの投資を進めている。2021年7月には、Work Life Shiftのフラッグシップ拠点であるFujitsu Uvance Kawasaki Towerをオープンしたことにも触れた。

セグメント別業績

事業別セグメント情報(上期)

 セグメント別業績では、テクノロジーソリューションの売上収益が前年同期比1.4%増の1兆4128億円、営業利益は同7.3%減の411億円、営業利益率は2.9%となった。

 テクノロジーソリューションのうち、ソリューション・サービス事業の売上収益が前年同期比0.8%増の8454億円、営業利益が同0.2%減の566億円。システムプラットフォーム事業の売上収益は同2.2%増の2867億円、営業利益は同132.5%増の158億円。そのうち、システムプロダクトが同7.3%減の1847億円、ネットワークプロダクトが同25.4%増の1020億円となった。また、海外リージョンの売上収益は、同3.5%増の3466億円、営業利益は前年同期の8億円の赤字から51億円の黒字に転換した。

 「ソリューション・サービスは、システム開発やデリバリー、サポート業務の変革を進め、採算性を改善しているが、サービスビジネス強化に向けた成長投資を積極的に拡大したことで営業利益は前年並の水準となった。システムプラットフォームでは、システムプロダクトが部材供給遅延に加え、前年の富岳の出荷の反動を受けて減収。ネットワークプロダクトは部材供給遅延の影響はあるものの、5G基地局を中心に国内、海外ともに増収となった」という。また、海外リージョンは、すべてのリージョンで黒字を確保。事業再編の影響や為替の増収効果を除くと、売上収益は前年並になるとした。

 なお、2021年度上期のFor Growth(DXなどのデジタル領域)の売上収益は前年同期比3%減の4468億円となり、構成比は32%。For Stability(従来型IT領域)は、前年同期比3%増の9660億円、構成比は68%となった。

 「For Growthは前年の富岳の出荷の反動が影響。For Stabilityは、事業継続に不可欠な案件から商談が進んでいる傾向がある。DXの案件の本格的な立ち上がりはこれからである。下期は、For Growthをかなりがんばらなくてはいけない。下期には大型のモダナイゼーション案件もある。海外でも少しプラスになっている。For Growthで価値を出していくことが大切である」などとした。

テクノロジーソリューションの概況

 ユビキタスソリューションは、売上収益が前年同期比23.9%減の1166億円、営業利益は同24.6%減の50億円。デバイスソリューションは、売上収益は前年同期比26.4%増の366億円、営業利益は同216.7%増の352億円となった。

 「ユビキタスソリューションは、事業再編の影響と、前年のテレワーク需要の反動により減収。デバイスソリューションは半導体の強いデマンドに支えられ、大きく増収になった」という。

ユビキタスソリューションの概況
デバイスソリューションの概況

 なお、上期の受注状況は、エンタープライズ(産業、流通)が前年比4%減(パソコンを除くと4%減)。ファイナンス&リテール(金融・小売)が1%増(同5%増)、JAPANリージョン(官公庁、社会基盤など)が2%増(同3%増)、富士通Japan(自治体、ヘルスケア、文教、中堅民需など)が8%減(同4%減)となっている。

 「エンタープライズは、個社ごとにまだら模様であり、力強い回復にはなっていない。製造業は前年並、流通業は低調。ファイナンス&リテールは大口商談の影響を受け、四半期ごとに大きな増減がある。金融、小売ともに基幹システム更新の受注獲得があった。JAPANリージョンは官公庁、キャリアを中心に好調。官公庁は第4四半期に売り上げが集中する計画である。富士通Japanは、前年のGIGAスクール需要の反動減のほか、中堅民需でも新型コロナの影響を受けて低調になっている」という。

 デジタル庁が2021年9月に発足したことによる影響については、「デジタル化やDXを進めていく鍵はトランスフォーメーションであり、そこに影響を及ぼすのが行政改革になる。デジタル庁が、デジタル、行政改革、規制改革を一元的に担うことになり、日本のデジタルが加速することを期待している。富士通は官公庁のデジタル変革に対応して、ビジネスを展開する公共デジタル事業本部を設置し、デジタルガバメント構築に向けて、積極的な提案をしていく意気込みである。だが、下期の業績には大きな影響はない」と述べた。

2021年度通期の業績見通しは据え置き

 2021年度通期の業績見通しは据え置き、売上収益が前年比1.1%増の3兆6300億円、営業利益は同3.3%増の2750億円、当期純利益は同1.1%増の2050億円。

連結業績の見通し

 ただしセグメント別では世界的な半導体供給不足を考慮し、一部見直しを行った。

 テクノロジーソリューションは、7月予想値に比べて、売上収益が500億円減の3兆1500億円、営業利益が200億円減の2200億円とする一方、デバイスソリューションは売上収益が500億円増の3500億円、営業利益が200億円増の500億円とした。ユビキタスソリューションは据え置き、売上収益は2300億円、営業利益は50億円としている。

事業別セグメント情報の見通し

 富士通では、2022年度に、テクノロジーソリューション事業で営業利益率10%を目指している。「成果がまだ出ていない部分もあり、感覚としては4合目程度。部材供給遅延などのネガティブな要素も出ているが、これは根本的な障害とはとらえていない。採算性の改善は着実に進んでいる。成長に向けた投資も計画通りである。ハードルは高いが、超えるべきハードルであり、できない高さではないと考えている。営業利益率10%はなんとしてでも達成したい。達成に向けて追加でやることがあれば、投資計画を拡大してでも実行していく」と意気込みをみせた。

 なお、みずほ銀行のシステム障害については、「みずほ銀行に機器を納入しているベンダーとして、多くの関係者に多大なる迷惑をかけたことをおわびする。業績に対する直接的な大きな影響はないと考えている」としたほか、情報共有ツールであるProject WEBへの不正アクセスによる情報流出問題については、「大変なご迷惑、ご心配をおかけしており、あらためておわびする。対策は確実に進めている。検証委員会を設置しており、公表すべきことがあればしかるべきタイミングで知らせていくことになる。対策コストが増加しているが、リカバリーを含めて、業績への大きな影響はない」と説明した。