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富士通が2020年度上期連結業績を発表、営業利益12.4%減も「コロナの影響を含めて想定通り」
2020年10月28日 00:00
富士通株式会社は27日、2020年度上期(2020年4月~9月)連結業績を発表した。売上収益が前年同期比10.8%減の1兆6318億円、営業利益が同12.4%減の622億円、税引前利益が同15.8%減の680億円、当期純利益が同26.0%減の471億円となった。
富士通 取締役執行役員専務/CFOの磯部武司氏は、「連結業績は新型コロナの影響も含めて想定通りである。テクノロジーソリューションでは、自治体、ヘルスケアにおいて、新型コロナの影響が少し強く出たことで計画を若干下回ったものの、セグメント別内訳も大きな影響は生じていない」と総括。
「前年同期にはPCの買い替え特需があり、その反動で1000億円規模の減収影響となっている。またシステムプラットフォームは、スーパーコンピューター富岳の出荷、5G基地局の増加により前年を上回っている。さらに、ソリューション・サービス、デバイスにおける採算性の改善、営業費用の圧縮により、PCの大きな減収影響をカバーし増益を確保した」と述べた。
また、「第2四半期は第1四半期よりも勢いが弱く見えるが、前年度第2四半期は消費増税の影響もあり、PC特需を中心にしたデマンドが強かったこと、システムプロダクトの大口商談のタイミングが今年度は第1四半期に集中したこと、新型コロナの減収インパクトが第2四半期に拡大したことが影響しているためである。これも想定した通りだ」と語った。
なお新型コロナウイルスの影響については、売上収益で851億円のマイナス影響、営業利益で281億円のマイナス影響があったとのことで、「プロジェクトの延伸、商談の停滞などのマイナスインパクトで1381億円、前年度からの挽回(ばんかい)、新たなデマンドによるプラス効果が529億円になった」とした。
エンタープライズは、製造、自動車を中心にプロジェクト開始時期の見直しの影響が大きかったほか、ファイナンス&リテールでは、小売分野に若干の影響はあるものの、影響範囲は狭かったという。JAPAN-BGにおいては、ヘルスケアや自治体が新型コロナへの直接的対応に追われるケースが多く、プロジェクトの凍結や新規案件の延伸など、影響が最も大きく出たとのこと。中堅・小規模企業向けの商談活動も停滞。公共・インフラでは、影響は軽微であり、上期は比較的堅調に推移したとした。
また、海外リージョンは、欧州中心に厳格なロックダウンの影響を大きく受け、商談は低調な動きになったという。「海外は下期も回復しないと見ている。厳しい状況が続くだろう。これ以上縮小できないぐらいに減っている。今後は、これをボトムとして数字を作っていくことになる。デリバリー力を強め、サービスシフトをしていく」などとした。
その一方で、新たなデマンドも発生しており、「テレワークなどのリモートに関連したPCやインフラの増設、コールセンターの効率化や自動化に向けたソリューション提供といったプラス効果もあった。だが上期への売り上げ貢献は小さく、限定的であった。今後は、デジタル化や非接触、無人化というキーワードの商談が拡大していくだろう。業種ごとにみると、厳しい事業領域もあるが、DX化の重要性やスピードアップの必要性が強く認識され始めているという感触がある。そうしたデマンドにしっかり応え、それを加速できるように取り組む」と述べた。
さらに、採算性の改善についても言及。「本業のグロスマージン率は29.5%となり、0.8%改善した。ソリューション・サービスでは、保守、運用サービスの効率化や、上流工程からのアシュアランス強化によるプロジェクト損益の改善を図ることができた。また、営業費用は237億円を圧縮した。テレワークの加速や、ニューノーマルにおける新たな働き方へのシフトを含めた一般経費の効率化で110億円、富岳や5G基地局の開発投資のピークアウト、IAサーバーのグローバルでの開発体制の見直しによる効率化など、システムプラットフォームの開発効率化などで127億円の効果があった」という。
また、海外ビジネスモデルの変革の進ちょくについては、「計画通りに進んでいる。上期では20億円程度だが、下期や来年度には、効果を本格的に刈り取れる」とし、欧州プロダクトビジネスの再編では、ドイツ・アウグスブルグ工場の閉鎖やEMSへの製造移管、日本と欧州に分散していたR&D機能の集約を完了。低採算国からの撤退では、当初計画の23カ国のうち20カ国で完了。残り3カ国についても、事業譲渡契約締結の最終段階にあると説明した。
事業ポートフォリオ見直しを行っている北米事業では、プロダクト製品の販売停止や一部事業の譲渡の交渉を推進。リテールの再編を含めて、年度内での完了に向け、予定通りに計画を進めているという。
事業別セグメント情報
一方、セグメント別業績では、テクノロジーソリューションの売上収益が前年同期比7.2%減の1兆3774億円、営業利益は同33.7%減の423億円。営業利益率は3.1%となった。
テクノロジーソリューションのうち、ソリューション・サービス事業の売上収益が前年同期比8.8%減の7955億円、営業利益が同11.9%減の542億円。そのうち、システムプラットフォーム事業の売上収益は同1.0%増の2917億円、営業利益は同25.9%減の73億円。そのうち、システムプロダクトの売上収益が同3.3%減の1920億円、ネットワークプロダクトの売上収益が同10.7%増の997億円となった。海外リージョンの売上収益は同9.2%減の3349億円、営業利益は前年同期の28億円から、8億円の赤字となった。
「ソリューション・サービスでは、前年に需要が強かったPCのセットアップ、展開支援などのハード一体型のサービスの反動減があったほか、前年のヘルスケアの大口商談の反動減があった。だが、運用保守サービスでの採算性が改善した。システムプラットフォームでは富岳のプラス効果、5G基地局の所要増加はあるものの、コロナの影響が大きい」とした。
なお、テクノロジーソリューションの「共通」の項目では、営業利益が78億円悪化の183億円の赤字となった。Work Life Shiftの加速に向けたネットワーク増強やセキュリティ対策投資に加えて、社内DXの実現に向けて「フジトラ」がスタート。経営プロセスや業務プロセス、データやITの標準化に取り組むOne ERPなどの活動が始動した影響があったという。
「現在、出社率は15~20%であり、コアタイムを完全に撤廃していること、通勤定期券を廃止し、実費精算としていること、出張が減り、出張旅費が削減されていること、500人弱の単身赴任が解消されていること、スマートワーキング手当を7月から支給していること、蒲田のソリューションスクエアや川崎工場などの一部事業所では新たな働き方ができるようにしたり、サテライトオフィスについてもかなりの数を準備している。こうしたところでの効果が出ている。費用減を原資にして、働きやすい環境に向けて投資を行っていく」と述べた。
今回の決算では、事業成長領域とする「For Growth」と、事業安定領域とする「For Stability」の業績についても明らかにした。
同社では、テクノロジーソリューションのなかで、DXやモダナイゼーションなどによるデジタルを「For Growth」、システムの保守や運用、プロダクトの提供などの従来型ITを「For Stability」と位置づけている。
発表によると、2020年度上期のFor Growthの売上収益は前年同期比4%増の4591億円となり、構成比は33%。For Stabilityは、同12%減の9183億円となり、構成比は67%となった。
「For Growthは新型コロナの影響はあったが、それをカバーする成長となった。ワークスタイル変革やスマートシティ、ローカル5GといったDX拡大に向けたデマンドが見え始めている。自らのDX化もしっかり進め、リファレンスを構築しながら、顧客の事業成長に貢献したい。また、For Stabilityも確実に収益率を改善している」などと述べた。
ユビキタスソリューションは、売上収益が前年同期比34.7%減の1576億円、営業利益は同37.2%減の87億円。「前年度のWindows7のサポート終了、消費増税による買い替え特需の反動を大きく受けた」。
デバイスソリューションは、売上収益は前年同期比17.8%減の1386億円、営業利益は前年同期の68億円の赤字から、111億円の黒字に転換した。売上収益は、半導体生産の三重工場が連結対象外となった事業再編の影響がマイナス361億円ある一方で、営業利益は電子部品の増収効果と採算性改善により、本業において111億円の増益になったことが貢献している。
通期の業績見通しは7月公表値を据え置き
2020年度通期の業績見通しは、7月公表値を据え置き、売上収益が前年比6.4%減の3兆6100億円、営業利益が同0.2%増の2120億円、当期純利益は前年並の1600億円とした。
なお、国内の上期受注状況についても発表。産業、流通によるエンタープライズは前年同期比9%減、金融、小売のファイナンス&リテールは同10%減、地方自治体やヘルスケアなどのJAPAN BGは同12%減、官公庁や社会基盤などの公共・社会インフラは同2%増。これら主要4分野の合計では同6%減となった。これらの数字は、いずれもPCを除いている。
「エンタープライズは、製造、自動車を中心にIT投資予算の縮小、プロジェクトの延伸の動きが出ている。だが感触としてはここがボトムである。無人化、ローカル5G、AIによる最適化といった新たなデマンドも見え始めている。米中摩擦などネガティブな要素もあり、第3四半期も厳しいが、第4四半期から徐々に緩やかな回復を見込んでいる。小売は前年に大きな商談があったことの反動があった。下期は回復に向かうだろう。地方自治体やヘルスケアは、コロナによる商談停滞の影響を強く受けているが、デジタル行政や遠隔診療などの新たなデマンドが見えてきており、DX化への意欲も感じられる。2021年度以降には、大きな受注につながる見込みだ。また、官公庁のデジタル化や、5Gの展開加速などのデマンドは強く、それに応えられるように取り組んでいく」とした上で、「全体をみると厳しい状況であることは事実だが、年間業績見通しを出した7月時点から想定通りの動きである」とした。
東証のシステムトラブルの業績への影響は、「不安を持っている顧客も多いと思う。信頼性を挽回すべく、しっかりと、製品、ソリューションへの保証体制を整え、品質を確保することに取り組んでいる。直接的な影響が出ないように信頼回復に努めたい」と語った。