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将来に向けた大きな転換点――、IBMが分社化と新会社設立の狙いを説明

 米IBMおよび日本アイ・ビー・エム株式会社(日本IBM)は22日、オンラインで記者説明会を開催。2021年末までに予定している分社化および新会社設立の狙いなどについて説明した。

 IBMでは2020年10月8日(現地時間)に、グローバルテクノロジーサービス(GTS)事業のマネージドインフラストラクチャーサービス部門を、新たな公開会社として分社化することを発表しており、今後は、IBMと新会社による2社体制となる。

 同社では、「2位とは2倍以上の差を持った、業界最大手の次世代マネージドインフラストラクチャーサービス企業が誕生することになる」と位置付けた。新会社の事業規模は、190億ドル(約2兆円)が見込まれている。なお、新会社の名称は現時点では未定とのこと。

 ニューヨークからライブで参加した米IBMのジム・ホワイトハースト社長は、「分社化は、IBMが持つノウハウに対するニーズが高まっていること、インフラを選ばないアプリケーションとオンプレミスのモダナイゼーションに対するニーズが高まっているという、2つのトレンドに応えるものである。IBMは、オープンハイブリッドクラウドプラットフォームやAIに対して注力し、新会社はマネージドインフラストラクチャーサービスに特化する。これは、将来に向けた大きな転換点になる」と述べた。

米IBMのジム・ホワイトハースト社長

 IBMは、1兆ドル規模が想定されるハイブリッドクラウド市場に焦点を当て、フルスタック機能を顧客に提供。AIを活用したソフトウェアポートフォリオのほか、クラウドトランスフォーメーションサービス、グローバルビジネスサービス、システムハードウェア、セキュリティ、パブリッククラウドであるIBM Cloudなどを提供する。

 「財務的にも自由度が生まれ、ハイブリッドクラウドやAIに対する投資を強化することができ、イノベーションを加速できる。戦略的投資を増やすことができる」とした。

 一方の新会社は、幅広い業界ノウハウを持つ9万人の従業員を通じて、サービスデリバリーに注力し、フォーチュン100社の75%以上の企業をはじめ、全世界115カ国の大手企業4600社以上の顧客を対象に、次世代のマネージドインフラストラクチャーサービスを提供するという。

 「新会社は、設立初日から市場のリーダーになる。深く、証明されたノウハウを持つ優秀な人材によって、より効率的なオペレーティングモデルを構築し、利益を拡大し、高い成長を遂げる。IBMが持つほかのビジネスにひもづけられることがないため、どのようなクラウドベンダーとも手を結ぶことができる。これが新たな成長源になる」とした。

 さらに新会社は、IBMと戦略的パートナーシップを結ぶことにより、既存顧客に対するサービスも継続的に提供するという。

 「両社とも、顧客を大切にするというDNAは変わらない。そして、顧客が成功しなければ、自らが成功することはないということも理解している。今回の決断により、持続可能な成長が、顧客にも、私たち自身にも約束されることになると信じている」と述べた。

日本でも分社化、日本IBMと新会社は連結対象外に

 一方、日本IBM 代表取締役社長の山口明夫氏は、日本における分社化による影響や、分社化後の方向性などについて説明した。

 「日本IBMは、セキュリティ、AI、量子コンピュータ、ハードウェア、クラウドを市場に提供するとともに、研究開発、販売、保守を、責任を持って推進する一方で、新会社は、顧客視点で、顧客の変革にコミットする、真のオープンなインテグレータになる」とした。

 そして新会社の方向性について、「従来のインテグレータではなく、5Gやテクノロジーが加速するなかで、新たに必要とされるインテグレータの姿を実現。従来のSIとは異なり、新たな形のDXを推進し、エンドトゥエンドでのサービスを提供する。2社がそれぞれに新たな会社に生まれ変わり、必要なところは2社の強固なパートナーシップで、いままで以上の価値を提供するという方向にかじを切った。Red Hatの買収以降、業務プラットフォームはOpenShiftによりプラットフォームフリーとなったが、新会社によって、他社のプラットフォームとも連携をして、ハイクオリティなサービスを提供することが、いまの社会や顧客のニーズにあっている。それを新たな体制によって提供することになる」などと説明している。

日本IBM 代表取締役社長の山口明夫氏

 なお日本IBMでは、営業部門、管理部門以外に、製品部門として、ハードウェアを担当するシステムズ部門、ソフトウェアを担当するC&CS(クラウド&コグニティブ・ソフトウェア)部門、業務の観点からDXを推進するコンサルティングやBPOなどを行うGBS(グローバルビジネスサービス)部門、製品の保守、基幹システムのマネージドインフラストラクチャーサービスインフラなどを担うGTS(グローバルテクノロジーサービス)部門の4つの組織を持つ。

 このうち、GTSのマネージドインフラストラクチャーサービスインフラ事業を独立させるとのことで、「日本においても独立した企業を作る。新会社は、日本IBMとは連結対象外となり、ホールディングカンパニーも置かない」とした。

 また、「売上規模は精査する必要があるが、米本社では、IBMが6兆円、新会社が2兆円の売り上げ規模を想定しており、比率はそれに近いものになる」との見通しを示している。

IBMのこれまでと将来を展望

 日本IBMの山口社長は、最近の会見や講演会で、「枠を超えて、テクノロジーで実現する世界」と題した資料を使って、日本IBMの取り組みを説明することが多いが、今回の会見でもこの資料を使用して説明を行った。

山口社長が示した資料

 「これまでは、さまざまな企業に対して、ハードウェアとしての基幹システムを導入し、アプリケーションを構築し、各種サービスを提供してきた。また、スマートホームやスマートカーなどへと世界が進展するなかで、ITや5G、AIが社会のなかに浸透していくことになる。この世界のなかを、さまざまなデータが飛び交うことになる」と前置き。

 「Red Hatの買収により、OpenShiftを活用して、プラットフォームに関係なくアプリケーションが稼働するプラットフォームフリーの環境を提供してきた。そして、いたるところで稼働するAIを提供し、全体を管理するセキュリティ、サーバー、エッジコンピューティング、ブロックチェーンを提供し、量子コンピュータにも投資をしている。基盤と業務を一緒にして提供するのが、これまでのシステムインテグレータとしての役割であり、これが日本において、これまで提供してきたビジネスである」とIBMの現状を紹介した。

 その上で、これからのITに関して言及。「だが、5Gやテクノロジーの進化が予想よりも早く、新型コロナウイルスの終息が見えないなかで、デジタル変革がより加速しており、この結果、企業のなかだけでなく、社会全体に、横串でプラットフォームが広がってきた。マルチクラウド、ハイブリッドクラウド、ネットワーク、5Gの先につながるIoTデバイスが、プラットフォームとして予想を上回る速度で広がっている。顧客からは、その全体をマネージすることを支援してほしいという要望が非常に多い。これまでは、アプリケーションとインフラを垂直方向で提供してきたが、今後は、水平方向でもプラットフォームを管理し、より安定的な企業基盤や社会基盤を提供することが重要になってきた。それが、今回の分社化に至った背景である」と説明した。

 また、「顧客から見れば、新たな体制によって、別の形のインテグレータに生まれ変わることになるだろう。プラットフォームの安定稼働を顧客とともに提供することになる。垂直方向ではOpenShiftをベースにプラットフォームを構築しており、これを横方向のプラットフォームのなかに組み込んでいく形になる」との方向性を示す。

 そしてIBMと新会社、2社の関係について、「OpenShiftをベースにした業務プラットフォームと、他社と連携した安定したインフラプラットフォームを、特別な協業関係のなかで提供することができる。これが、これからの社会の要望に応えることができる体制だと考えており、これまで以上の価値を提供し、広い範囲でサービスを提供することにつながる」と述べた。

 なお、米IBMのホワイトハースト社長は、これまでのIBMの変革についても言及した。まず、「IBMは過去10年間に渡り、顧客のミッションクリティカルのニーズを満たすために変革を行ってきた。8年間に100億ドル以上を投資し、Red Hatをはじめ、65社以上を買収した。製品ポートフォリオを再構築したことで、売り上げの50%がクラウド、AI、ブロックチェーン、量子コンピュータなどの新たな領域からのものとなっている」との現状を説明。

 「今年も、セキュリティアシュアランスソフトウェアのSpanugoと、RPAのWDG Automationの2社を買収している。Red Hatの買収では、オープンで、セキュアなハイブリッドクラウドプラットフォームが構築できるようになった。Cloud PakはOpenShift上で構築されたソフトウェアであり、ハイブリッドクラウドを加速することができる。また、システムのポートフォリオを強化してモダナイズしたほか、業界別クラウドを用意し、厳しい業界のニーズにも対応できる体制が整っている」とし、現状でも多くの要望に応えている点を強調する。

 しかしながら、「IBMが100年以上続いているのは、顧客の課題を解決するという点にフォーカスしており、顧客に応えるためにIBM自身が変わってきたからである。これからも、自らを変革することで、顧客のニーズを最大限に満たしていくことになる」と述べ、変革によってさらに顧客に寄り添っていく姿勢をアピールしていた。